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Part1 My Boyhood
Chapter_07.ゆびきりげんまん(3)二人だけの秘密
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At Nishihara Town, Okinawa; 12:45PM JST October 29, 1991 and Merch 1, 1992.
Now, the narrator returns to Tsutomu Uema.
火曜日の昼休み、教室で英語の問題集を解いていると、そばの窓ガラスがコツコツ鳴った。多恵子だった。
「勉、今、いい?」
僕は多恵子に手招きされるまま、廊下の突き当りまで歩いた。誰もいない。多恵子は窓から校庭を眺めながらぼんやりと言った。
「うちさー、昨日、病院までお見舞いに行ってきた」
「お見舞い?」
「うん、あのおじさん」
「あの、おじさん……て、あの?」
びっくりする僕に多恵子は淡々と語り始めた。
「うん。投げてケガさせたから、お見舞いしないといけないかなーって」
「汝、フラーか?」
驚き半ば怒りを交えて僕は叫んだ。だって、普通、自分を襲った男を見舞うか?
多恵子はため息交じりに答えた。
「やっぱり、おかしいよね」
「おかしいどころの話じゃないよ! 何考えてる?」
「……だよねー。でも、なんか悪い気がしてさ。悩んだけど、行って来た……行って来たけど、」
そう言うと多恵子は急に泣き出した。
「おじさんの顔見たら、とっても怖くなって、花束置いてすぐ帰った」
僕は頭を抱えた。
こいつ、なんて大馬鹿者なんだ!
「お前、ホントにフラー! 人良すぎ! これでまた何かされたら、どうするわけ?」
「うちはフラーだよ。どうせ」
多恵子はしゃくりあげている。僕は困ってしまった。
「こんなところで泣くなー。俺が泣かしてるみたいだろ? ほら、これで涙拭け」
僕はポケットからハンカチを出し、多恵子に渡した。多恵子は僕のハンカチで涙を拭った。
「あ、そうだ」
多恵子はポケットから百円玉を出した。
「これ、百円。ジュースありがとう。このハンカチは洗濯して、明日、サンシンの稽古のときに渡すから。じゃ」
多恵子はそう言って僕の左手に百円玉を置くと、さっさと駆け出した。
「おい、多恵子?」
呼び止めずにはいられなかった。でも、僕は彼女に何を言いたかったのだろう?
「あ、そうだ。勉」
多恵子は戻ってきて、僕の耳元でささやいた。
「あのさ、この話、内緒にしてもらえる?」
「いいけど」
僕は小さな声で尋ねた。
「師匠やおばさんには言ったのか?」
「お父にもお母にも言ってない。お願い、黙ってて」
多恵子はすばやく僕の右手の小指に自分の小指を絡め、早口で唱えた。
「指きりげんまん、嘘ついたら、針千本飲ーます、指切った! 絶対だよ!」
そう言うと今度は本当に自分の教室へと走り去ってしまった。
「黙っててって……」
僕は左の掌にある百円玉をじっと見詰め、考えた末に、階段下の自販機へと向かった。何を飲もうか、ちょっとだけ迷ったけど、やっぱり100%オレンジジュースのボタンを押した。
今日のオレンジは、いつもより、ほんのりすっぱい気がした。
教室に戻ると、島ちゃんが声を掛けてきた。
「おい、今、多恵子といい感じだったね?」
おっと、誤解されちゃ困るぜ。多恵子のバカが泣くからだ。本当にもう。
僕は席についた。
「なんだ、見てたのか。でも、島ちゃんが考えているような、そんなんじゃないよ」
椅子に座り頭の後ろに両手を組むと、僕は天井を仰いぎつつ言った。
「サンシンの師匠のお嬢さんだ。そんだけ」
「サンシン? 多恵子のお父さんが?」
「そういうこと。そんなんでも、やたら騒ぐ奴、いるだろ?」
ありがたいことに、彼は納得した様子だ。僕としてもこれ以上、この話題は避けたかった。心の中が、ぶくぶくと激しく泡立っていたのだ。
多恵子との約束、守らなくっちゃ。
誰にも言わない。絶対に。
半年後、卒業式がやってきた。
僕は、ある後輩の女の子に学校の正面玄関で待ち伏せされ、制服のボタンをねだられた。
……いや、悪い気分じゃなかったんですけど。ちょっと考えて、一番下のボタンをあげて、別れた。それだけ。
合格発表はまだだったけど、試験でそれなりに手ごたえはあったから、僕の頭の中は来るべき大学生活のことでいっぱいだったのだ。
まずは、サザン・ホスピタルの奨学生になろう。
そして、バイトを見つけて、お金を稼ごう。師匠から借りたお金、早く返そう。恋愛は大学に入ってからだ。
僕は祈った。早く来い、バラ色の未来!
……ということで、次章へTo be continued.
そうか、僕が漬かったの後の風呂、そんなに嫌だったのか。多恵子って意外と潔癖症だったんだな? 一緒に暮らしている今は、僕の後でも普通に湯船に入ってます。
Now, the narrator returns to Tsutomu Uema.
火曜日の昼休み、教室で英語の問題集を解いていると、そばの窓ガラスがコツコツ鳴った。多恵子だった。
「勉、今、いい?」
僕は多恵子に手招きされるまま、廊下の突き当りまで歩いた。誰もいない。多恵子は窓から校庭を眺めながらぼんやりと言った。
「うちさー、昨日、病院までお見舞いに行ってきた」
「お見舞い?」
「うん、あのおじさん」
「あの、おじさん……て、あの?」
びっくりする僕に多恵子は淡々と語り始めた。
「うん。投げてケガさせたから、お見舞いしないといけないかなーって」
「汝、フラーか?」
驚き半ば怒りを交えて僕は叫んだ。だって、普通、自分を襲った男を見舞うか?
多恵子はため息交じりに答えた。
「やっぱり、おかしいよね」
「おかしいどころの話じゃないよ! 何考えてる?」
「……だよねー。でも、なんか悪い気がしてさ。悩んだけど、行って来た……行って来たけど、」
そう言うと多恵子は急に泣き出した。
「おじさんの顔見たら、とっても怖くなって、花束置いてすぐ帰った」
僕は頭を抱えた。
こいつ、なんて大馬鹿者なんだ!
「お前、ホントにフラー! 人良すぎ! これでまた何かされたら、どうするわけ?」
「うちはフラーだよ。どうせ」
多恵子はしゃくりあげている。僕は困ってしまった。
「こんなところで泣くなー。俺が泣かしてるみたいだろ? ほら、これで涙拭け」
僕はポケットからハンカチを出し、多恵子に渡した。多恵子は僕のハンカチで涙を拭った。
「あ、そうだ」
多恵子はポケットから百円玉を出した。
「これ、百円。ジュースありがとう。このハンカチは洗濯して、明日、サンシンの稽古のときに渡すから。じゃ」
多恵子はそう言って僕の左手に百円玉を置くと、さっさと駆け出した。
「おい、多恵子?」
呼び止めずにはいられなかった。でも、僕は彼女に何を言いたかったのだろう?
「あ、そうだ。勉」
多恵子は戻ってきて、僕の耳元でささやいた。
「あのさ、この話、内緒にしてもらえる?」
「いいけど」
僕は小さな声で尋ねた。
「師匠やおばさんには言ったのか?」
「お父にもお母にも言ってない。お願い、黙ってて」
多恵子はすばやく僕の右手の小指に自分の小指を絡め、早口で唱えた。
「指きりげんまん、嘘ついたら、針千本飲ーます、指切った! 絶対だよ!」
そう言うと今度は本当に自分の教室へと走り去ってしまった。
「黙っててって……」
僕は左の掌にある百円玉をじっと見詰め、考えた末に、階段下の自販機へと向かった。何を飲もうか、ちょっとだけ迷ったけど、やっぱり100%オレンジジュースのボタンを押した。
今日のオレンジは、いつもより、ほんのりすっぱい気がした。
教室に戻ると、島ちゃんが声を掛けてきた。
「おい、今、多恵子といい感じだったね?」
おっと、誤解されちゃ困るぜ。多恵子のバカが泣くからだ。本当にもう。
僕は席についた。
「なんだ、見てたのか。でも、島ちゃんが考えているような、そんなんじゃないよ」
椅子に座り頭の後ろに両手を組むと、僕は天井を仰いぎつつ言った。
「サンシンの師匠のお嬢さんだ。そんだけ」
「サンシン? 多恵子のお父さんが?」
「そういうこと。そんなんでも、やたら騒ぐ奴、いるだろ?」
ありがたいことに、彼は納得した様子だ。僕としてもこれ以上、この話題は避けたかった。心の中が、ぶくぶくと激しく泡立っていたのだ。
多恵子との約束、守らなくっちゃ。
誰にも言わない。絶対に。
半年後、卒業式がやってきた。
僕は、ある後輩の女の子に学校の正面玄関で待ち伏せされ、制服のボタンをねだられた。
……いや、悪い気分じゃなかったんですけど。ちょっと考えて、一番下のボタンをあげて、別れた。それだけ。
合格発表はまだだったけど、試験でそれなりに手ごたえはあったから、僕の頭の中は来るべき大学生活のことでいっぱいだったのだ。
まずは、サザン・ホスピタルの奨学生になろう。
そして、バイトを見つけて、お金を稼ごう。師匠から借りたお金、早く返そう。恋愛は大学に入ってからだ。
僕は祈った。早く来い、バラ色の未来!
……ということで、次章へTo be continued.
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