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38.再び、満月
リャオ、観念する~満月を眺めて
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トモはやがて、顔を上げて言った。
「リャオ、お願いがあります」
「何?」
「サーコが沖縄へ戻ったら、サーコを支えてあげてください」
「無論、そのつもりよ」
「リャオ」
突然トモが私の手を両手で握りしめた。
「友達としてでなく、一人の男性として、サーコを支えてください」
……え? 何だって? 思いがけない言葉に頭が真っ白になる。
「だって、私、その、いつもこんな格好だし」
「じゃあ、以前どうしてサーコにキスした? あのとき私はリャオを問い詰めた。覚えてないとは言わせない」
ああ。覚えている。君は私に、演技じゃないよね? と聞いてきた。トモが口を開く。
"You told me 'YES'. I guess that answer is from the male side of you. "
私は頷いた。トモは微笑み、質問してくる。
"Why don't you behave like a man?"
"Because Asako doesn't think of me as a man. We often go out to together. Shopping, cooking, eating, and we sleep in the same bed while talking about girl things. She and I are good friends. I would lose everything if she knew I had a male mind. "
そして私は息を継ぐ。
“You know my secret, Tomo. ”
そうだよトモ、君には伝えてある、私の秘密を。だから私はうまく動けない。君は理解しているはずだ。
"Liao, think carefully. I will go to Africa, so Asako can be with other guys. Can you put up with that? "
その言葉は鋭いナイフのように私の心に突き刺さった。トモは冷静な声で続ける。
"You don't care about her being with guys, if you feel she is a good friend. Moreover, you can be happy for her. Liao, can you be happy for her?"
「I can't! そいつ、ぶっ殺す!」
即座に言葉を荒げる。と同時に、トモの手を振りほどき、右手で握り拳を作ってた。
そう、できない。祝福なんて、とんでもない。怒りで呼吸が乱れる。サーコがトモと一緒になることには、まだ耐えることができる。だけど、ほかの男だって?
そんな光景を見たら、間違いなく私は怒り狂ってそいつを殴りに行くだろう。
なぜって? かけがえのないものを奪われたかのように感じるから。サーコはもうすでに私の一部で、それを取り去ろうとするやつはみんな、私の敵だから。
トモはまた微笑んだ。まだ荒々しく呼吸する私の握り拳を手にとって元のポジションに戻すと、自分の両手で包んだ。そして日本語で言った。
「リャオ。君は、男性です。誰が何と言っても」
まっすぐな瞳で射すくめられ、私は黙るしかなかった。彼は続けた。
「クロスドレッサーではあるけど、女性にはなり得ない。そうでしょ? ならば、男性としての自分にきちんと向き合う必要が、あるんじゃないかな」
今、気がついた。トモはカウンセラーの卵だった。彼はわざと私の心を揺さぶるような質問をぶつけ、問題点をあらわにしたのだ。観念しなきゃいけない。わかってる。でも、自信がない。
「リャオは、物事を難しく考えようとしますね」
トモが笑いかける。
「そうかな」
つぶやく私に、彼はなおも、こちらを見たまま言った。
"You should think on an easier and simpler level. You have less problems than I have. You have Japanese citizenship."
息をのんだ。私は苦しみながら反論する。
"Tomo, it's true. I have Japanese citizenship. It was my parents' decision. I didn't have the right to choose my nationality when I was twelve."
"But, you might have an easier life because you have a Japanese citizenship, right?"
"You got a point, Tomo. However, it took a long time to became Japanese. Even now, I still can’t behave like a Japanese."
"I see. That's why you are cross-dresser. It's an easy way for you to act like a woman. You can see everyone while you hide yourself. "
全部、見透かされている。私にもう反論の余地は残されてなかった。
"Nevertheless, Liao, you don't need to hide yourself from Asako. You already have a great hand."
"You have the best hand, Tomo. You have a college degree. I'm a high school graduate."
"I have only one pair. You have a straight flush. Liao, you win."
ええっ? 私がストレートフラッシュの役を持っているって? どういうこと?
トモはニッコリ頷いた。
"Asako loves you."
「うそ!」
私は叫んだ。トモは笑っている。
「ホント!」
「なんで? なんで? え?」
口元を両手で塞ぐ。想定外すぎて身動きが取れない。するとトモはポケットから財布を取り出し、私に何やら示した。ムエットだ。香水売り場で試香のため置いてある、しおりのような紙。
「嗅いでみて」
言われた通り鼻を近づけ振ってみて、驚いた。
ジョルジオ・アルマーニ コード プールオム!
その場に固まった私にトモはニッコリした。
「サーコ、私に隠れて香水買っちゃったんですよ。毎日、香水をハンカチに染み込ませ持ち歩いてます」
……信じられない!
なおもトモは私に畳み掛けるように言った。
「良かったらリャオ、どうしてそんなことするのか、彼女に直接聞いてみたら?」
「嫌! 無理! 絶対、無理!」
私はとっさにビールを一缶全部飲みきり、トイレへ逃げた。トモは爆笑している。
トイレで用を足し、手を洗いながら考える。よし、話題を変えよう。
私はテーブルへ戻ると次の缶ビールを開け、トモが用意したおつまみに手を伸ばした。トモは既にペットボトルのミネラルウォーターを飲んでいる。
「来月、アフリカ行くって行ってたね?」
私は話を振った。
「はい。今のアパートを引き払って、東京で一度ミーティングに出ます。来月20日に日本出発予定です」
そうか。クリスマスにはアフリカか。
「サーコには私の代わりに退去手続きをお願いしなくてはなりません。それまでサーコを借ります」
了解。私も年末は予定が立て込んでいる。片付けれる仕事は片付けておくよ。
トモは左腕の腕時計を見た。私とサーコが大阪へ行くトモへにプレゼントした赤いフェイスの時計だ。光で充電するタイプなので電池交換がいらない。
「向こうでもこの腕時計が役に立ちそうです。本当にありがとう」
「トモ、休んでいくでしょう? ベッド使いなよ」
私は傍らの大きなベッドを指し示した。
「いいですよ、ここのソファーで寝ます。ベッドはリャオが使ってください。朝になったら沖縄まで飛行機で2時間もかかるんだし」
では、ありがたく言葉に甘えましょう。私は立ち上がりベッドへ移動した。持参したホームウェアに着替える。トモが声を掛けた。
「私がリャオを"あけみさん"のまま放っておけば、こうはならなかったでしょうね」
「よく言うよ。ちょうど4年前の今日だよ、いや昨日か。イーアスでキスしたいって言ったら、トモ逃げたでしょ」
トモはまたケタケタ笑った。私も微笑んだ。
「リャオ、あれは本気だったんですか?」
「何なら、あの頃の気持ちに戻ってもいいわよ? 私、今、あけみだよ」
「ええっ、やめてくださいよ!」
「あら、あけみをラブホテルに誘ったの、誰よ?」
私が目を向けると、トモが身構えた。
「じゃあ、ティミョパンデトルリョチャギを」
「ちょっと、それはナシ!」
私達は顔を見合わせ、吹き出した。二人で腹をよじらせ笑った。
3時間ほど仮眠をとった。時刻は4時前。
私が起きた時、ちょうどトモがシャワーを終えたところだった。彼は左耳に補聴器をつけると、窓のカーテンを開けた。
「リャオ、見てください。満月です。三人が初めて出会った日も、満月でしたね?」
私も窓の側へ歩み寄った。
本当だ。西の空に満月が見える。4年前のあの日、私の事務所から3人で満月を見た後、私は傷ついたサーコを家へ連れ帰った。その際、私は守礼門の近くに車を止め、サーコと2人で満月を眺めた。トモは知らないはずだ。
「私は、沖縄で、リャオやサーコに出会えて幸せでした。もう思い残すことはありません」
ちょっと、待て。私はトモの正面に回り、彼の両肩を掴んだ。
「トモ、ひょっとして、君は、死ぬつもりか?」
トモは、淋しげに笑った。
「私が派遣される西アフリカのその地域は、キリスト教の布教そのものが禁止されています。現地の宗教団体が、何度か銃撃してきているとも聞いてます」
「トモ!」
私は彼の肩を揺さぶった。
「何故、何故そんな危険な場所へ行く?」
君はまだ若い。日本では治療が難しくても、たとえば韓国に戻って何年間か専門病院へきちんと通えば、精神状態だってきっと良くなるだろうに。
だが、トモは弱々しく笑って首を振った。そして、はっきり言った。
「もう、決めました。あとは主なる神の御手に委ねるだけです」
トモの毅然とした態度に、私はもう何も返せなかった。
“再見、一路平安”
私は一つ一つ音を区切って言った。
「トモ、分かるよね? どうか無事に帰ってきて。また3人で会おうよ。そして、沖縄のあの場所で月を眺めて、積もり積もった馬鹿話でもしようよ」
トモはしばらく黙っていたが、にっこり微笑んで言った。
" Thank you. Have a great trip."
トモは自分のナップザックを肩に掛ける。
「これから始発に乗って大阪へ帰ります。リャオも沖縄行き、一便だったね? 寝過ごして遅れないようにしてください。じゃ」
私はドアを開けて出ようとする彼の手を掴んだ。
「ねえ、祝福してくれる?」
トモは私を見て頷く。
「わかりました」
“Blessing!”
彼は右手を挙げた。私はうつむき、胸の前で手を組んだ。
“The Lord bless you and keep you;
the Lord make his face shine on you
and be gracious to you;
the Lord turn his face toward you
and give you peace.”
そしてトモがこちらへ大きく十字を切りながら唱える。
“in the name of the Father, and of the Son, and of the Holy Spirit,”
“Amen!”
私は右手で十字を切った。トモが私を見て言う。
「教会、行ってください」
私は即答した。
「嫌です。教会には私の座る席がない」
トモはため息をついた。
「そうかもしれませんね。でも、うまくいくようにアフリカから祈っています。それから」
トモは右手を出す。私も右手を出し、2人は固い握手をする。手を握りしめながら彼は私をしっかり見つめて言った。
「大丈夫。サーコはちゃんと、リャオを受け入れます。だからリャオ、自分を信じて。じゃ!」
そう言って手を離すと、こちらを振り向きもせず部屋のドアを開けて走り去った。
私はドアの前に立ち尽くした。そして祈った。
もし、もし神様が本当にいるのなら、どうかトモを守って。いつかサーコと3人でまた笑いあえるように、と。
「リャオ、お願いがあります」
「何?」
「サーコが沖縄へ戻ったら、サーコを支えてあげてください」
「無論、そのつもりよ」
「リャオ」
突然トモが私の手を両手で握りしめた。
「友達としてでなく、一人の男性として、サーコを支えてください」
……え? 何だって? 思いがけない言葉に頭が真っ白になる。
「だって、私、その、いつもこんな格好だし」
「じゃあ、以前どうしてサーコにキスした? あのとき私はリャオを問い詰めた。覚えてないとは言わせない」
ああ。覚えている。君は私に、演技じゃないよね? と聞いてきた。トモが口を開く。
"You told me 'YES'. I guess that answer is from the male side of you. "
私は頷いた。トモは微笑み、質問してくる。
"Why don't you behave like a man?"
"Because Asako doesn't think of me as a man. We often go out to together. Shopping, cooking, eating, and we sleep in the same bed while talking about girl things. She and I are good friends. I would lose everything if she knew I had a male mind. "
そして私は息を継ぐ。
“You know my secret, Tomo. ”
そうだよトモ、君には伝えてある、私の秘密を。だから私はうまく動けない。君は理解しているはずだ。
"Liao, think carefully. I will go to Africa, so Asako can be with other guys. Can you put up with that? "
その言葉は鋭いナイフのように私の心に突き刺さった。トモは冷静な声で続ける。
"You don't care about her being with guys, if you feel she is a good friend. Moreover, you can be happy for her. Liao, can you be happy for her?"
「I can't! そいつ、ぶっ殺す!」
即座に言葉を荒げる。と同時に、トモの手を振りほどき、右手で握り拳を作ってた。
そう、できない。祝福なんて、とんでもない。怒りで呼吸が乱れる。サーコがトモと一緒になることには、まだ耐えることができる。だけど、ほかの男だって?
そんな光景を見たら、間違いなく私は怒り狂ってそいつを殴りに行くだろう。
なぜって? かけがえのないものを奪われたかのように感じるから。サーコはもうすでに私の一部で、それを取り去ろうとするやつはみんな、私の敵だから。
トモはまた微笑んだ。まだ荒々しく呼吸する私の握り拳を手にとって元のポジションに戻すと、自分の両手で包んだ。そして日本語で言った。
「リャオ。君は、男性です。誰が何と言っても」
まっすぐな瞳で射すくめられ、私は黙るしかなかった。彼は続けた。
「クロスドレッサーではあるけど、女性にはなり得ない。そうでしょ? ならば、男性としての自分にきちんと向き合う必要が、あるんじゃないかな」
今、気がついた。トモはカウンセラーの卵だった。彼はわざと私の心を揺さぶるような質問をぶつけ、問題点をあらわにしたのだ。観念しなきゃいけない。わかってる。でも、自信がない。
「リャオは、物事を難しく考えようとしますね」
トモが笑いかける。
「そうかな」
つぶやく私に、彼はなおも、こちらを見たまま言った。
"You should think on an easier and simpler level. You have less problems than I have. You have Japanese citizenship."
息をのんだ。私は苦しみながら反論する。
"Tomo, it's true. I have Japanese citizenship. It was my parents' decision. I didn't have the right to choose my nationality when I was twelve."
"But, you might have an easier life because you have a Japanese citizenship, right?"
"You got a point, Tomo. However, it took a long time to became Japanese. Even now, I still can’t behave like a Japanese."
"I see. That's why you are cross-dresser. It's an easy way for you to act like a woman. You can see everyone while you hide yourself. "
全部、見透かされている。私にもう反論の余地は残されてなかった。
"Nevertheless, Liao, you don't need to hide yourself from Asako. You already have a great hand."
"You have the best hand, Tomo. You have a college degree. I'm a high school graduate."
"I have only one pair. You have a straight flush. Liao, you win."
ええっ? 私がストレートフラッシュの役を持っているって? どういうこと?
トモはニッコリ頷いた。
"Asako loves you."
「うそ!」
私は叫んだ。トモは笑っている。
「ホント!」
「なんで? なんで? え?」
口元を両手で塞ぐ。想定外すぎて身動きが取れない。するとトモはポケットから財布を取り出し、私に何やら示した。ムエットだ。香水売り場で試香のため置いてある、しおりのような紙。
「嗅いでみて」
言われた通り鼻を近づけ振ってみて、驚いた。
ジョルジオ・アルマーニ コード プールオム!
その場に固まった私にトモはニッコリした。
「サーコ、私に隠れて香水買っちゃったんですよ。毎日、香水をハンカチに染み込ませ持ち歩いてます」
……信じられない!
なおもトモは私に畳み掛けるように言った。
「良かったらリャオ、どうしてそんなことするのか、彼女に直接聞いてみたら?」
「嫌! 無理! 絶対、無理!」
私はとっさにビールを一缶全部飲みきり、トイレへ逃げた。トモは爆笑している。
トイレで用を足し、手を洗いながら考える。よし、話題を変えよう。
私はテーブルへ戻ると次の缶ビールを開け、トモが用意したおつまみに手を伸ばした。トモは既にペットボトルのミネラルウォーターを飲んでいる。
「来月、アフリカ行くって行ってたね?」
私は話を振った。
「はい。今のアパートを引き払って、東京で一度ミーティングに出ます。来月20日に日本出発予定です」
そうか。クリスマスにはアフリカか。
「サーコには私の代わりに退去手続きをお願いしなくてはなりません。それまでサーコを借ります」
了解。私も年末は予定が立て込んでいる。片付けれる仕事は片付けておくよ。
トモは左腕の腕時計を見た。私とサーコが大阪へ行くトモへにプレゼントした赤いフェイスの時計だ。光で充電するタイプなので電池交換がいらない。
「向こうでもこの腕時計が役に立ちそうです。本当にありがとう」
「トモ、休んでいくでしょう? ベッド使いなよ」
私は傍らの大きなベッドを指し示した。
「いいですよ、ここのソファーで寝ます。ベッドはリャオが使ってください。朝になったら沖縄まで飛行機で2時間もかかるんだし」
では、ありがたく言葉に甘えましょう。私は立ち上がりベッドへ移動した。持参したホームウェアに着替える。トモが声を掛けた。
「私がリャオを"あけみさん"のまま放っておけば、こうはならなかったでしょうね」
「よく言うよ。ちょうど4年前の今日だよ、いや昨日か。イーアスでキスしたいって言ったら、トモ逃げたでしょ」
トモはまたケタケタ笑った。私も微笑んだ。
「リャオ、あれは本気だったんですか?」
「何なら、あの頃の気持ちに戻ってもいいわよ? 私、今、あけみだよ」
「ええっ、やめてくださいよ!」
「あら、あけみをラブホテルに誘ったの、誰よ?」
私が目を向けると、トモが身構えた。
「じゃあ、ティミョパンデトルリョチャギを」
「ちょっと、それはナシ!」
私達は顔を見合わせ、吹き出した。二人で腹をよじらせ笑った。
3時間ほど仮眠をとった。時刻は4時前。
私が起きた時、ちょうどトモがシャワーを終えたところだった。彼は左耳に補聴器をつけると、窓のカーテンを開けた。
「リャオ、見てください。満月です。三人が初めて出会った日も、満月でしたね?」
私も窓の側へ歩み寄った。
本当だ。西の空に満月が見える。4年前のあの日、私の事務所から3人で満月を見た後、私は傷ついたサーコを家へ連れ帰った。その際、私は守礼門の近くに車を止め、サーコと2人で満月を眺めた。トモは知らないはずだ。
「私は、沖縄で、リャオやサーコに出会えて幸せでした。もう思い残すことはありません」
ちょっと、待て。私はトモの正面に回り、彼の両肩を掴んだ。
「トモ、ひょっとして、君は、死ぬつもりか?」
トモは、淋しげに笑った。
「私が派遣される西アフリカのその地域は、キリスト教の布教そのものが禁止されています。現地の宗教団体が、何度か銃撃してきているとも聞いてます」
「トモ!」
私は彼の肩を揺さぶった。
「何故、何故そんな危険な場所へ行く?」
君はまだ若い。日本では治療が難しくても、たとえば韓国に戻って何年間か専門病院へきちんと通えば、精神状態だってきっと良くなるだろうに。
だが、トモは弱々しく笑って首を振った。そして、はっきり言った。
「もう、決めました。あとは主なる神の御手に委ねるだけです」
トモの毅然とした態度に、私はもう何も返せなかった。
“再見、一路平安”
私は一つ一つ音を区切って言った。
「トモ、分かるよね? どうか無事に帰ってきて。また3人で会おうよ。そして、沖縄のあの場所で月を眺めて、積もり積もった馬鹿話でもしようよ」
トモはしばらく黙っていたが、にっこり微笑んで言った。
" Thank you. Have a great trip."
トモは自分のナップザックを肩に掛ける。
「これから始発に乗って大阪へ帰ります。リャオも沖縄行き、一便だったね? 寝過ごして遅れないようにしてください。じゃ」
私はドアを開けて出ようとする彼の手を掴んだ。
「ねえ、祝福してくれる?」
トモは私を見て頷く。
「わかりました」
“Blessing!”
彼は右手を挙げた。私はうつむき、胸の前で手を組んだ。
“The Lord bless you and keep you;
the Lord make his face shine on you
and be gracious to you;
the Lord turn his face toward you
and give you peace.”
そしてトモがこちらへ大きく十字を切りながら唱える。
“in the name of the Father, and of the Son, and of the Holy Spirit,”
“Amen!”
私は右手で十字を切った。トモが私を見て言う。
「教会、行ってください」
私は即答した。
「嫌です。教会には私の座る席がない」
トモはため息をついた。
「そうかもしれませんね。でも、うまくいくようにアフリカから祈っています。それから」
トモは右手を出す。私も右手を出し、2人は固い握手をする。手を握りしめながら彼は私をしっかり見つめて言った。
「大丈夫。サーコはちゃんと、リャオを受け入れます。だからリャオ、自分を信じて。じゃ!」
そう言って手を離すと、こちらを振り向きもせず部屋のドアを開けて走り去った。
私はドアの前に立ち尽くした。そして祈った。
もし、もし神様が本当にいるのなら、どうかトモを守って。いつかサーコと3人でまた笑いあえるように、と。
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