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28.予想外の来客

冷やし中華は中華じゃない

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リャオ=“あけみさん” への誕生日プレゼントに悩むサーコです。の前に、トモことキム・ジング君の誕生日の話から。サーコのモノローグ。
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ジング、7月に27歳になりました。
何を贈ろうか迷ったのですが、少々考えてワイヤレスイヤホンです。Bluetoothでスマートフォンに繋ぐ奴。沖縄&アメリカのお菓子類と一緒にパッキングして送りました。
去年はミヨリさんにお願いしていたのですが、ご結婚されて新居はジングの、トモの所属地からちょっと遠くなっちゃったし、なによりご主人とのアツアツの時間を邪魔しちゃ悪いなーと思って。
そしたら。数日遅れてライン来ました。

I've got the birthday presentプレゼント受け取りました A-RI-GA-TO!ありがとう

最近ジングとのやりとりは韓国語と英語がごちゃ混ぜです、あたしが韓国語を勉強中なので。今回は英語ですね。プレゼントはお気に召した様子で、よかった。

I had survival training私は軍隊の this week for military serviceサバイバル訓練を受けました.  I was bitten by some mosquitoes and a wild rabbit何匹かの蚊と一匹の野ウサギに噛まれました.”

野ウサギ? 何で?
話を聞いたら、サバイバル訓練ってカエルとか捕って自分たちで食糧を調達するじゃないですか。草むらに野ウサギがいたらしい。ジングは、トモは、しめたと思って仲間と挟み撃ちにした。で、指を噛まれた。しかも誕生日に。ウサギって噛むと非常に痛いらしいです。かわいそうに。その場で簡単に消毒しておしまいだったそうな。
最近、あたしの周りはけが人が多い。ママは無事退院してようやく職場復帰しました。病棟でなく外来に回されて軽めのルーティンをこなしています。今回、入院費用がバカにならなかったんだよな。高額医療扱いだったけど、なんだかんだで5万は出たから。
加えて、来月はリャオさんの誕生日があるんだよ。あれから、ずーっとお世話になりっぱなし。で、結局、高校の時みたいにまた毎日お弁当作ってもらってるの。朝お弁当を受け取って、夕刻に再び寄る。あたしは合鍵を持っているから、リャオさんがいなくても入室できるし、泊まることもあるし。
「お二人、仲いいですね」
うーん、そういう変な理解のされ方が一番困る。今日みたいに歯車が合わない日は特に。誰にだってイライラがつのる日ってのはあると思います。家族とやたらぶつかる日とか、友達としっくりこない日とか。なぜか今日はリャオさんと、そんな日。
事の発端は冷やし中華だった。何かの拍子にその話題が出て、彼は、彼女は、つっけんどんに叫んだ。
「冷やし中華は中華料理じゃない!」
どこの国でもどの地域でもあることだと思うよ。たとえば、何度か沖縄ブームってのが流行ると、あちこちで沖縄料理なるものが出現する。一時期‘沖縄ドーナッツ’と称して表面にチョコレートべたべたくっつけたサーターアンダギーが軒を並べてたりしたでしょ。砂糖入りゴーヤーチャンプルーに至っては噴飯モノでしたね。え、皆さん砂糖入れてるんですか? なんで?

話を元へ戻す。つまりリャオさんにとって、それらは天津丼だったり冷やし中華だったりするんだよ。中華料理を名乗るのが許せないんだよ。
「あれはどう見ても日本食。香辛料ほとんどないじゃない」
そうだよね。日本料理はスパイシーって感じじゃないもん。ショウガくらいかな。
「日本人だってライスプディング食べないじゃないか」
それジングが同じ事言ってた。彼、大学時代に何回か教会がらみでイギリス行ってるんです。そういえばジングも、トモも韓国料理で苦情を述べた事何度かあったっけ。でも、リャオさんほどは怒ってなかったよ。

彼が、彼女が噴火したので、あたしは部屋の中で距離を取りました。あちらもまだお仕事中でしたから。

噴火の衝撃が収まったところで思い出す。そうだよ、ああ、お誕生日のプレゼントどうしよう。あたしは借金を彼に月一万ずつ返してる。だから、プレゼントは安すぎても高すぎてもいけない。困った。
ヒントを得るため、衣装部屋へ回る。こちらへはあんまり入ったことない。ドレッサーの引き出し開けます。あけみさんアクセサリ類いっぱいお持ちだから、被るのもよくないし。一昨年はラピスラズリのピアスあげたんだっけ。今年も無難にピアスかな。うーんと。
クローゼットも開けてみる。あたしは息を飲んだ。香水がある。あきおさんが使っている、あの香水。

ジョルジオ・アルマーニ コード プールオム

あたしは急いでスマートフォンを取り出して写真を撮る。誰も居ないリビングへ戻り検索を掛ける。ああ、これ高いんだ。もうすこしお手頃価格だったらプレゼントしようと思ったのに。
そうか、思い出した。魔法。何をプレゼントしたらいいのか、神様へ尋ねてみよう。あたしは祈った。

神様、リャオさんの誕生日にふさわしいプレゼントを教えて下さい。

で、思いつきました。テレワーク終了時を見計らい、リャオさんへ進言する。
「もうすぐお誕生日ですよね?」
すると、リャオさんの顔が硬直した。彼は、彼女は、三十歳になります。近頃すっごくナーバスなようです。ふくれっ面で返事があった。
「正直、あんまり嬉しくない」
ああ、また機嫌を損ねてしまった。今日はダメだなー。お泊まり予定なんだけど、空気悪いなー。
「韓国から戻ってすぐ、いとこの結婚式へ招待されてさ。いろいろ言われちゃって」
ははーん、金城社長をはじめとする親戚一同からさんざん焚きつけられたんだね。次はあなたでしょ? みたいな。
……ってことは、あたし、ヤバいじゃん。父の日のお花をお届けした時にはそういう話題にならなかったから、ちょっと安心してたんだけど。

あたしは提案口調で彼に、彼女にもちかけた。
「こちらも母の入院で財布の具合がよろしくなくて。それでですね、あの、た、例えば、プレゼント代わりにマッサージとか、いかがでしょうか」
「マッサージ?」
あ、表情が緩んだ。あたしは続ける。
「はい、お客様の首、肩、背中、なんでしたら腰から下など、本格的にゆったりもみほぐすのはいかがでしょう?」
「いいね、それ」
やった、乗ってくれた! よし! あたしは満面の笑みをリャオさんに向けた。
「お客様、では、いつお伺いいたしましょうか。グレープシードオイルでよろしければ、こちらでご用意して参ります。お好みの香りのエッセンシャルオイルとタオルなどご準備してお待ち頂けますか?」
「いいわねぇ。なんなら来週の火曜午後、どう? テレワーク、キャンセルが出てさ」
「あ、あたしその日午後から休みなんです。先週、ピンチヒッターで一日受付で仕事したのでその振替で。ただ、友達と夕ご飯食べる約束だから、4時には帰らないと」
「じゃあ、昼過ぎに来る? 1時とか大丈夫?」
よかった。交渉成立みたいだ。あたしはにっこり笑って頷いた。
「はい、是非。自分の車で来ますね」
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