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25.最後のお弁当

厄日の翌日の話とか

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KNJ商事の副社長リャオ(本名:金城明生)=あきお君=“あけみさん”、昨日と今日で態度が違います。が、女子高生のサーコは事態をよくわかってない様子。サーコのモノローグです。
--

熱でふらつくあたしの目の前に、あきおさんがいる。突然、彼は顔を近づけておでこにおでこをくっつけた。
近距離すぎる彼の存在に息を吞む。あたしはただ、立ち尽くす。でも、彼はそのまま動こうとしない。思い切って声を掛ける。
「……あの、あきおさん?」
「ごめん!」
彼は急いで顔を離してこう言った。
「あ、あの、葛根湯飲んで、そんで、その、お菓子あるから食べて。あと、おにぎりも握ってあげる、ね?」

あれは、ひょっとして夢だったのかな?

起きたら普通に朝だった。何ともない。あれ、リャオさんはいない。いつも隣で一緒に寝ているのに。
リビングへ向かうと“あけみさん”が朝食の支度をしていた。
「おはよう。大丈夫?」
彼、いや彼女はあたしのそばへやってきて今日はおでこに手を当てた。
「うん、熱下がったね。良かった」
そして、大きな弁当箱をみせる。あ、これリャオさんからの誕生日プレゼント。
「貧血対策のヘム鉄摂取には煮干しとジャガイモの組み合わせがいいんですって。だから作ってみた」
へえ、そうなんですか。たしかにあたし、貧血気味らしいから助かる。朝ごはんにも少々いただきました。ごちそうさまです。

「サーコ、おっはー!」
学校に着くと、親友のナルミがやけにニヤついてる。
「おはようナルミ、どうしたの?」
するとナルミは目をくりくりさせて、
「うん、ちょっと、ねー」
そう言って、担任に呼ばれて走り去ってしまった。

どうもあたしの周りってハイテンションな方々が多いみたいね。新春のせいか?

話は飛びます。それから約一か月後。
朝っぱらから、韓国のトモからライン来ました。なんとバラの花束の写真。

Today is our 1000th day anniversary今日は私たちがつきあい始めて since we started dating1000日目の記念日です."

えーー! もう、そんなになる?
お知らせに感激した旨のお返事とスタンプは返しました。
それにしても韓国人男性って記念日関係はマメですな。日本人でこんなの聞いたことがないよ、あたしだけ?
けれどもトモはブルーです。来週は泣く子も黙る雪山訓練がある。バレンタインデーどころじゃない。
マイナス40度の世界でキャンプするんだそうです。
しかも、軍服で。登山服とかじゃないの、万一の時は武器持って戦うの。だから基本、薄着。
で、カチコチの地面に穴掘って、ぺらぺらの軍用毛布敷いて寝るんだって。トモには前もってヒートテックと携帯用カイロは送ったんだけどね。足とかに貼る奴。
でも、カイロが凍って発熱しないって怖ろしい話も聞いたよ。それって、何がどうなってるの? ありえない!

この話をリャオさんにしました。彼は広東人なので思いっきり南方系男子です、いや、女子かも。
「……ありえない!」
“あけみさん”はしたり顔で首を左右に振った。
「沖縄にいても寒いって思うことあるのに」
だよね? 今日なんてホント冷えたよ。制服の下からババシャツ着たもん! 沖縄の住民にとっては15度でも寒いんですから!

そして、話はまた飛ぶ。
その週の金曜日。高校生活最後のお弁当の日だ。来週から授業がなくなり自由登校になる。あたしも3月からは自動車教習所通いだから、それまでバイトに集中したい。

朝7時半、牧志の事務所を訪ねた。玄関で出迎えるあけみさんは朝から泣きはらしていた。
「今日で最後なんだよね? もっと作ってあげたかった」
今日のお弁当はズシリと重い。いつものデカい弁当箱に、果物が詰まったタッパーが別に用意されている。
「三年間、本当にありがとうございました。今日もたくさん食べますね」
あたしが丁寧にお礼を言ったら、あけみさんはたまらず号泣した。
「なんなら、サーコが就職してからもずっと作っていいんだよ? 必要ならいつでも言ってね!」
こっちまでもらい泣きしそうになりながら、あたしは事務所を後にした。

英語、漢文、世界史、化学。最後の授業たちが終わっていく。そして、お弁当の時間がやって来た。
ナルミたちと机を寄せ合ってお弁当を広げ、スマートフォンで撮影会をする。みんな個性豊かな内容だ。
ナルミのお弁当は色々なおにぎりと唐揚げとブロッコリー。
アツコちゃんのお弁当は味玉と生姜焼きに野菜炒め。
ユウカのお弁当はだし巻き卵とタコちゃんウインナーと星形に抜かれた温野菜達。
あたしもお弁当を広げた。すごい! 小さな巻寿司がぎっしり! 隣にはあたしのリクエストした揚げ春巻が2本ときゅうりスティック、カリフラワー、プチトマトが入ってました。
「サーコいいな、彩りキレイじゃん」
「それだけじゃないの、果物のタッパーが別にあって」
あたしはもう一つのタッパーを開けた。リンゴとオレンジとキウイ、なんとさくらんぼまで添えられている。リャオさん、最後まで頑張って作ってくれたんだ。
今日もおいしくいただきました。ごちそうさまでした。

手紙が入っていたけどナルミ達の前では開くことができなくて、あとでこっそりトイレで読んだ。

――いつもいつもお弁当を残さず食べてくれてありがとう。
  毎朝の楽しみはサーコの笑顔に会うことでした。
  これから会う機会が少なくなるのかと思うと、悲しくて淋しくて胸が張り裂けそうです。
  卒業おめでとう。サーコの未来に祝福を込めて。 L――

Lはリャオさんの本名 廖明生Liao Ming Shengの頭文字だ。本当に達筆。
今までの思い出が頭の中で駆け巡る。涙が溢れてきて困った。
午後の授業が始まるのに、トイレから出られないじゃない。

最後の授業はなぜか確率統計だった。ほとんど授業でなく先生と生徒のカラオケ大会みたいになってた。あたし達は流行の歌をメドレーし、「仰げば尊し」と校歌を歌って授業を終えた。
ナルミたちにお茶に誘われたけど、バイトがあるので先になる。モノレールに乗ってバイトへ向かい、きっちり4時間働く。
「比嘉さん、日曜日で退職よね?」
主任の方に声を掛けられた。このバイトもあと2週間なんだな。あたしは明るく返事した。
「はい、それまで精一杯頑張ります!」

みんなみんな、次の未来に向かって進んでいくんだ。
あたしも自分の未来を見つけないと。

家に戻る。明日早出のママは既に寝ていた。あたしはリャオさんに手紙を書いた。
よし、これからバレンタインデーのチョコを作ろう。そして、明日の朝、バイト行く前に牧志の事務所へ持って行こう。
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