15 / 80
09.ジング氏からのプレゼント
ジング氏、ママにプレゼントをする
しおりを挟む
LGBTの方々をめぐるトラブルの一つの例を書きました。トモの韓国での大学の思い出など少々韓国語交じりで書いてます(翻訳会社チェック済みです)。
へ? 使用済みって、どういう意味? あけみさんが目くばせする。
「男性のブリーフよ。精液付いてるやつ」
ええっ? マジで? それって? あまりに想定外で私は日本語が出てきません。それに、犯罪心理学にはそこまで詳しくないんです。
矢上さんが答えた。
「もちろんごみの不法投棄ですし、つきまとい行為に当たります。この時点でママさんが軽い錯乱を起こされたので、犯人の知らない場所へ避難するようアドバイスしました」
つまり、犯人わかったんですね。
「聞き込みですぐわかりました。近所の大学生でした。年上の女性が好みだったようです。単に個人の好みの段階なら良かったのですが、下着の窃盗に加え不法投棄となると、被害者へ身体的危害を及ぼす危険性がありました」
矢上さんはビールをぐっと飲み干した。
「犯人が素直に警告に従ったので示談にして事件は解決かと思われたんですが、そうはならなかった」
すると、あけみさんが話を引き取った。
「この事件のせいでママが女装、いや、性転換したってアパートの大家さんにバレちゃったの。契約違反とかナンクセつれられちゃって」
とても不運なケースです。しかし、LGBT当事者が避けて通れない話でもあります。
契約時から異なる性へ転換したばあい、法律上の性別とともに名前が変更となるケースがあります。賃貸契約は法的行為ですから、契約書の個人情報をアップデートしなくてはなりません。それが大家さんや不動産会社の理解を得られないケースというのは残念ながら存在します。
「ママは、パパの家へ引っ越し準備をしていた。せめて賃貸契約満了まで表面上は普通の男性として過ごしたかった。でも、事件に巻き込まれたせいで、警察沙汰になったせいで、事情を知った大家さんから即日退去を命じられた」
あけみさんは、ため息をつきながら今度はチーズたらを持ってきてくれました。そして自分もグラスを持ち出すと、矢上さんからビールをお酌してもらいながら怒った声で
「なーんかさ、やってられないわよね。ママは被害者なわけじゃん。一方的な被害者。それなのにバカな学生が勝手につきまとってゴミまで投げつけて、で、被害者側が住まいから追い出されるんだからね! それでママ、一週間くらい休んでるの。戸籍の性別変更ができたら結婚式挙げるんだって、あんなにルンルンだったのに。ホント、かわいそうよ!」
私、聞いていてとても気の毒に思いました。ママさんは性転換手術を終えて、ようやく心の平安を手に入れることができるはずだった。それを、犯罪行為で台無しにされてしまった。
「結婚式、挙げるご予定で?」
「うーん、この騒ぎで、どうだろう。ちょっと、すぐにはむつかしいんじゃない?」
「そうだ」
思いついて私は、両手を後ろへ回してネックレスを手にするとそのまま上へ持ち上げ頭をくぐらせた。右手でペンダントトップのクロスをつかむ。
「これ、クロムハーツです。ママさんへプレゼントしたいので、差し上げてもらえますか」
突然のことで、あけみさんも矢上さんもあっけにとられている。あけみさん、しげしげと眺めて、叫んだ。
「トモ、これ、本物じゃないの! 10万は下らないわよ?」
私、高校の時から将来は宣教師になると決めていました。宣教師になるには神学校へ行く必要がありますが、大卒以上が入学要件とされます。そこで私は心理学科へ進学しました。同級生たちは盛んにミーティン(日本でいう合コン)をやってて彼女作るのに必死でした。数合わせで呼ばれた私が酒の並ぶテーブルに聖書持ってってみんなに配ったら、
눈치 없는 사람
そう言われました。
“너 바보 아냐?”
姉からもそう言われました。まあ、そうですよね。否定はしません。でも、当時の自分は恋愛にあまり興味がなかった。さっさと大学卒業して神学校へ行きたくてしょうがなかった。そしたら、私が沖縄へ行く前に姉が卒業祝いだと言ってクロムハーツのクロスをくれました。
“만일의 경우에는 이것을 팔아서 돈으로 바꿔. 조금은 도움이 될 거야.”
まさか10万円以上するとは思いませんでした。でも、いいです。ママさんはパパさんときちんと挙式して、神様から祝福をもらって幸せになってもらいたい。
「うちの教派、同性婚の挙式も何件か執り行ってます。ですから、うちで挙式できると伝えてください」
「わかった。沖縄にはまだ正規のクロムハーツ取扱店がないのよ。だから、ママとても喜ぶと思う! トモの言葉、必ず伝えるね?」
あけみさんは涙で大きな瞳を潤ませてうなずいた。そばで矢上さんも微笑んでいた。私は立ち上げる。
「すみません今日は早めに失礼します」
「お話しできてよかったです。また機会があれば息子のことをご相談させてください」
握手を交わし、私はその場を離れた。
前回のように松山から国道58号線を横切り、国際通りを歩く。雨がパラついてますが酒が回って火照った体にはちょうど心地いい。
ちょっとだけ考える。
ペンダント、サーコにあげた方が良かったかな。でも、そんなことしたら、彼女はきっと。
私は首をブンブン振って考えるのをやめ、いつしか牧志の事務所を目指し駆け足になっていた。
へ? 使用済みって、どういう意味? あけみさんが目くばせする。
「男性のブリーフよ。精液付いてるやつ」
ええっ? マジで? それって? あまりに想定外で私は日本語が出てきません。それに、犯罪心理学にはそこまで詳しくないんです。
矢上さんが答えた。
「もちろんごみの不法投棄ですし、つきまとい行為に当たります。この時点でママさんが軽い錯乱を起こされたので、犯人の知らない場所へ避難するようアドバイスしました」
つまり、犯人わかったんですね。
「聞き込みですぐわかりました。近所の大学生でした。年上の女性が好みだったようです。単に個人の好みの段階なら良かったのですが、下着の窃盗に加え不法投棄となると、被害者へ身体的危害を及ぼす危険性がありました」
矢上さんはビールをぐっと飲み干した。
「犯人が素直に警告に従ったので示談にして事件は解決かと思われたんですが、そうはならなかった」
すると、あけみさんが話を引き取った。
「この事件のせいでママが女装、いや、性転換したってアパートの大家さんにバレちゃったの。契約違反とかナンクセつれられちゃって」
とても不運なケースです。しかし、LGBT当事者が避けて通れない話でもあります。
契約時から異なる性へ転換したばあい、法律上の性別とともに名前が変更となるケースがあります。賃貸契約は法的行為ですから、契約書の個人情報をアップデートしなくてはなりません。それが大家さんや不動産会社の理解を得られないケースというのは残念ながら存在します。
「ママは、パパの家へ引っ越し準備をしていた。せめて賃貸契約満了まで表面上は普通の男性として過ごしたかった。でも、事件に巻き込まれたせいで、警察沙汰になったせいで、事情を知った大家さんから即日退去を命じられた」
あけみさんは、ため息をつきながら今度はチーズたらを持ってきてくれました。そして自分もグラスを持ち出すと、矢上さんからビールをお酌してもらいながら怒った声で
「なーんかさ、やってられないわよね。ママは被害者なわけじゃん。一方的な被害者。それなのにバカな学生が勝手につきまとってゴミまで投げつけて、で、被害者側が住まいから追い出されるんだからね! それでママ、一週間くらい休んでるの。戸籍の性別変更ができたら結婚式挙げるんだって、あんなにルンルンだったのに。ホント、かわいそうよ!」
私、聞いていてとても気の毒に思いました。ママさんは性転換手術を終えて、ようやく心の平安を手に入れることができるはずだった。それを、犯罪行為で台無しにされてしまった。
「結婚式、挙げるご予定で?」
「うーん、この騒ぎで、どうだろう。ちょっと、すぐにはむつかしいんじゃない?」
「そうだ」
思いついて私は、両手を後ろへ回してネックレスを手にするとそのまま上へ持ち上げ頭をくぐらせた。右手でペンダントトップのクロスをつかむ。
「これ、クロムハーツです。ママさんへプレゼントしたいので、差し上げてもらえますか」
突然のことで、あけみさんも矢上さんもあっけにとられている。あけみさん、しげしげと眺めて、叫んだ。
「トモ、これ、本物じゃないの! 10万は下らないわよ?」
私、高校の時から将来は宣教師になると決めていました。宣教師になるには神学校へ行く必要がありますが、大卒以上が入学要件とされます。そこで私は心理学科へ進学しました。同級生たちは盛んにミーティン(日本でいう合コン)をやってて彼女作るのに必死でした。数合わせで呼ばれた私が酒の並ぶテーブルに聖書持ってってみんなに配ったら、
눈치 없는 사람
そう言われました。
“너 바보 아냐?”
姉からもそう言われました。まあ、そうですよね。否定はしません。でも、当時の自分は恋愛にあまり興味がなかった。さっさと大学卒業して神学校へ行きたくてしょうがなかった。そしたら、私が沖縄へ行く前に姉が卒業祝いだと言ってクロムハーツのクロスをくれました。
“만일의 경우에는 이것을 팔아서 돈으로 바꿔. 조금은 도움이 될 거야.”
まさか10万円以上するとは思いませんでした。でも、いいです。ママさんはパパさんときちんと挙式して、神様から祝福をもらって幸せになってもらいたい。
「うちの教派、同性婚の挙式も何件か執り行ってます。ですから、うちで挙式できると伝えてください」
「わかった。沖縄にはまだ正規のクロムハーツ取扱店がないのよ。だから、ママとても喜ぶと思う! トモの言葉、必ず伝えるね?」
あけみさんは涙で大きな瞳を潤ませてうなずいた。そばで矢上さんも微笑んでいた。私は立ち上げる。
「すみません今日は早めに失礼します」
「お話しできてよかったです。また機会があれば息子のことをご相談させてください」
握手を交わし、私はその場を離れた。
前回のように松山から国道58号線を横切り、国際通りを歩く。雨がパラついてますが酒が回って火照った体にはちょうど心地いい。
ちょっとだけ考える。
ペンダント、サーコにあげた方が良かったかな。でも、そんなことしたら、彼女はきっと。
私は首をブンブン振って考えるのをやめ、いつしか牧志の事務所を目指し駆け足になっていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サザン・ホスピタル 短編集
くるみあるく
青春
2005年からしばらくWeb上で発表していた作品群。
本編は1980~2000年の沖縄を舞台に貧乏金髪少年が医者を目指す物語。アルファポリスに連載中です。
この短編は本編(長編)のスピンオフ作品で、沖縄語が時折出てきます。
主要登場人物は6名。
上間勉(うえま・つとむ 整形外科医)
東風平多恵子(こちんだ・たえこ 看護師)
島袋桂(しまぶくろ・けい 勉と多恵子の同級生 出版社勤務)
矢上明信(やがみ・あきのぶ 勉と多恵子の同級生 警察官)
粟国里香(あぐに・りか 多恵子の親友で看護師)
照喜名裕太(てるきな・ゆうた 整形外科医)
主人公カップルの子供である壮宏(たけひろ)と理那(りな)、多恵子の父母、サザン・ホスピタルの同僚たちが出たりします。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
月は夜をかき抱く ―Alkaid―
深山瀬怜
ライト文芸
地球に七つの隕石が降り注いでから半世紀。隕石の影響で生まれた特殊能力の持ち主たち《ブルーム》と、特殊能力を持たない無能力者《ノーマ》たちは衝突を繰り返しながらも日常生活を送っていた。喫茶〈アルカイド〉は表向きは喫茶店だが、能力者絡みの事件を解決する調停者《トラブルシューター》の仕事もしていた。
アルカイドに新人バイトとしてやってきた瀧口星音は、そこでさまざまな事情を抱えた人たちに出会う。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる