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09.ジング氏からのプレゼント
矢上警部、息子の相談を持ち掛ける~矢上警部、店のママの事件を語る
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今回は宣教師トモ(本名:キム・ジング)がモノローグをつとめます。
本文中に「ワタナベの事件」という記述がありますが、「01.餃子の思い出」でお伝えしたサーコのストーカー・カマキリに関する事件です。こちらはダイジェスト版ですので収録しません。興味をお持ちの方はノベルアッププラスやアメーバブログで「わたまわ」で検索して読み進めてみてください。
こんにちは、キムです。そしてここは再び那覇の松山地区です、たまには別の場所でお話をしたいものですが。
本日も“ミックスバー くりーむぱふぇ”の扉を、……おっとここは自動ドアでしたね。
「いらっしゃーい」
カウンターには“あけみさん”。真夏だからでしょうか、ムームーに近いハワイアン系のワンピースですね。青空を思わせる地色にハイビスカスの花が散りばめられたデザインです。おや今日は先客がいらっしゃる。
「トモ、こっちこっち。紹介してあげる。矢上さん」
私は矢上さんとおっしゃるベージュ色のかりゆしウェアを着た男性の隣に腰かけた。軽くご挨拶します。
「どうも、初めまして。キムです」
「え? あなたが宣教師さん? Tシャツ着ていらっしゃるから全然わからなかった」
え、リャオ、私のこと話したの?すると彼女は声を落とした。
「トモ、“あけみ”でお願いってば。そんで、矢上さんは沖縄県警の刑事さんなの。内緒ね」
そうだ。ワタナベの事件の時、お世話になった担当の方だ。私は頭を下げる。
「あの時はすみませんでした。私、犯人を回し蹴りしてしまったので」
「彼女さんが被害に遭われたんですよね。お気持ちはよくわかります」
あけみさんがお通し持ってきました。イカキムチですか。
「私、あのときトモがまさか回し蹴りするって思ってなかった。でも、スッとしたわよ。立場上、私がぶっ殺すわけにもいかなかったしね」
そして、あけみさんは奥の冷蔵庫から酒瓶を2つ出してきた。
「トモは前にキープしてたチャミスルでいいよね。矢上さんオリオンもう一瓶いかが?」
私たちは互いにグラスを合わせた。一口飲んで矢上さんが切り出す。
「実は、私の息子、高校一年生で」
あけみさんが話を合わせる。
「私の後輩なの。だからセーラー服譲ってあげた」
え? 息子さんにセーラー服?
「今年から那覇市内の中学高校は男女の制服どっちを着てもいいことになったから。女の子の服が着たいって」
「そうなんです。私の息子、トランスジェンダーかもしれなくって。あけみさんの知り合いに韓国の大学で心理学科を卒業した宣教師さんがいるとお聞きしまして」
なるほど。そういうことだったんですね。
「具体的に息子さんのどういった行動でそう判断されたのですか?」
「息子が化粧をしていたんです。私、妻を十年近く前に亡くしまして、でもドレッサーをそのまま置いていたんです。そしたら、二年くらい前かな。息子がこう、化粧をしてて」
矢上さんは手酌でビールを注ごうとしたが、あけみさんが気づいて注いだ。ビールを口に運び、話を続ける。
「その後、中学校へ通うときに男子の制服を着たがらずにずっとジャージで保健室登校だったんです」
私は考える。それはちょっと重症例かもしれないな。
「あけみさんにご相談したら、商業高校なら女子生徒多くていいですよってアドバイスもらいまして。あけみさん、高校の制服も大事に取っていらっしゃったんで」
「2年の文化祭のとき仮装コンテストがあってさ。書道部の先輩から譲ってもらって。それ着たら私、クイーンになっちゃったの」
驚いた! リャオってその時から女装してたんだ?
「でも今の学生はいいよねー。普段から好きな服着れてさー」
「おかげさまで、息子もいくらか朗らかさが戻りました。ただ、今度はブラジャーが欲しいって言い出して」
私はチャミスルを飲み干した。あけみさん、注いでくれます。私は説明を始める。
「ブラジャーは普通の男性でも着ているって方、結構いらっしゃいます」
「そうなんですか?」
そうなんです。一般にはまだまだ市民権を得られていない状況ですが、自身のジェンダーに何ら違和感のない男性でも、ブラジャーはしているという方は時折見かけます。普段着として身に着けて安心感を得られるという方もいれば、セックスの時に身に着けて相手の女性とプレイで盛り上がるというケースもあります。興奮して勃起しやすいそうです。
「で、私にご相談されたんだけど、私はブラは着けないから。ママにアドバイスお願いしたのよ」
私はキョロキョロ周りを見回す。そういえば。今日、ママさんいらっしゃらないですね?
「そんでママに行きつけのランジェリーショップを教えてもらったの。私もこないだサーコと行ってきた」
え? リャオ、今何て言った?
「サーコがかわいいランジェリー欲しいって言うからプレゼントしちゃったんだー。うふふっ」
そして、“あけみさん”は意地悪そうに私の顔を覗き込んだ。
「トモ、今、何を想像したの? え? やだーエロ宣教師!」
こ、こ、こら! リャオ! この野郎!
えー、本来なら回し蹴りしたいところですが、隣に刑事さん座っていらっしゃるので。黙って飲みます。プンプン。
すると矢上さんが口を開いた。
「息子の胸囲をお伝えして、お店で二、三着選んでもらったんです。その時、ママさんはご自分のもご購入になって、翌日身に着けて深夜にベランダで陰干しをした。そしたら、朝になると消えていたんです」
……それって、泥棒?
「そうなの、トモ。事件なの。それで、矢上さんに調べてもらったの」
あけみさん、住宅地図出してきた。あれ、私の住む宜野湾のアパートの近くじゃないですか。
あけみさんが、とある一角を指さした。
「ママ、宜野湾に住んでてさ。米軍基地近くて騒音問題あるけど安い学生向けアパート並んでいるからって、それで、このあたり住んでいたのね。そんで、矢上さんが調べて、犯人は学生じゃないかって話になったのよ」
なるほど。ママさんはちょっと初老に近い印象ですが、胸は大きいので下着目当てで狙われそうですね。
「ママさん、気落ちなさってて。ちょっとした高級下着で一万円したとか。もちろん窃盗罪で量刑になりえます」
つまり、そのショックでお店を休んでいらっしゃると?
私、チャミスル全部飲んじゃいました。
「ビールでよければどうぞ」
矢上さんが注いでくれる。ありがたく頂戴します。
「そしたら、また事件があってねー」
あけみさん、今度はナッツ盛り合わせを持ってきてくれました。そして、こう言った。
「今度は使用済みの下着がベランダに落ちてたんだって」
本文中に「ワタナベの事件」という記述がありますが、「01.餃子の思い出」でお伝えしたサーコのストーカー・カマキリに関する事件です。こちらはダイジェスト版ですので収録しません。興味をお持ちの方はノベルアッププラスやアメーバブログで「わたまわ」で検索して読み進めてみてください。
こんにちは、キムです。そしてここは再び那覇の松山地区です、たまには別の場所でお話をしたいものですが。
本日も“ミックスバー くりーむぱふぇ”の扉を、……おっとここは自動ドアでしたね。
「いらっしゃーい」
カウンターには“あけみさん”。真夏だからでしょうか、ムームーに近いハワイアン系のワンピースですね。青空を思わせる地色にハイビスカスの花が散りばめられたデザインです。おや今日は先客がいらっしゃる。
「トモ、こっちこっち。紹介してあげる。矢上さん」
私は矢上さんとおっしゃるベージュ色のかりゆしウェアを着た男性の隣に腰かけた。軽くご挨拶します。
「どうも、初めまして。キムです」
「え? あなたが宣教師さん? Tシャツ着ていらっしゃるから全然わからなかった」
え、リャオ、私のこと話したの?すると彼女は声を落とした。
「トモ、“あけみ”でお願いってば。そんで、矢上さんは沖縄県警の刑事さんなの。内緒ね」
そうだ。ワタナベの事件の時、お世話になった担当の方だ。私は頭を下げる。
「あの時はすみませんでした。私、犯人を回し蹴りしてしまったので」
「彼女さんが被害に遭われたんですよね。お気持ちはよくわかります」
あけみさんがお通し持ってきました。イカキムチですか。
「私、あのときトモがまさか回し蹴りするって思ってなかった。でも、スッとしたわよ。立場上、私がぶっ殺すわけにもいかなかったしね」
そして、あけみさんは奥の冷蔵庫から酒瓶を2つ出してきた。
「トモは前にキープしてたチャミスルでいいよね。矢上さんオリオンもう一瓶いかが?」
私たちは互いにグラスを合わせた。一口飲んで矢上さんが切り出す。
「実は、私の息子、高校一年生で」
あけみさんが話を合わせる。
「私の後輩なの。だからセーラー服譲ってあげた」
え? 息子さんにセーラー服?
「今年から那覇市内の中学高校は男女の制服どっちを着てもいいことになったから。女の子の服が着たいって」
「そうなんです。私の息子、トランスジェンダーかもしれなくって。あけみさんの知り合いに韓国の大学で心理学科を卒業した宣教師さんがいるとお聞きしまして」
なるほど。そういうことだったんですね。
「具体的に息子さんのどういった行動でそう判断されたのですか?」
「息子が化粧をしていたんです。私、妻を十年近く前に亡くしまして、でもドレッサーをそのまま置いていたんです。そしたら、二年くらい前かな。息子がこう、化粧をしてて」
矢上さんは手酌でビールを注ごうとしたが、あけみさんが気づいて注いだ。ビールを口に運び、話を続ける。
「その後、中学校へ通うときに男子の制服を着たがらずにずっとジャージで保健室登校だったんです」
私は考える。それはちょっと重症例かもしれないな。
「あけみさんにご相談したら、商業高校なら女子生徒多くていいですよってアドバイスもらいまして。あけみさん、高校の制服も大事に取っていらっしゃったんで」
「2年の文化祭のとき仮装コンテストがあってさ。書道部の先輩から譲ってもらって。それ着たら私、クイーンになっちゃったの」
驚いた! リャオってその時から女装してたんだ?
「でも今の学生はいいよねー。普段から好きな服着れてさー」
「おかげさまで、息子もいくらか朗らかさが戻りました。ただ、今度はブラジャーが欲しいって言い出して」
私はチャミスルを飲み干した。あけみさん、注いでくれます。私は説明を始める。
「ブラジャーは普通の男性でも着ているって方、結構いらっしゃいます」
「そうなんですか?」
そうなんです。一般にはまだまだ市民権を得られていない状況ですが、自身のジェンダーに何ら違和感のない男性でも、ブラジャーはしているという方は時折見かけます。普段着として身に着けて安心感を得られるという方もいれば、セックスの時に身に着けて相手の女性とプレイで盛り上がるというケースもあります。興奮して勃起しやすいそうです。
「で、私にご相談されたんだけど、私はブラは着けないから。ママにアドバイスお願いしたのよ」
私はキョロキョロ周りを見回す。そういえば。今日、ママさんいらっしゃらないですね?
「そんでママに行きつけのランジェリーショップを教えてもらったの。私もこないだサーコと行ってきた」
え? リャオ、今何て言った?
「サーコがかわいいランジェリー欲しいって言うからプレゼントしちゃったんだー。うふふっ」
そして、“あけみさん”は意地悪そうに私の顔を覗き込んだ。
「トモ、今、何を想像したの? え? やだーエロ宣教師!」
こ、こ、こら! リャオ! この野郎!
えー、本来なら回し蹴りしたいところですが、隣に刑事さん座っていらっしゃるので。黙って飲みます。プンプン。
すると矢上さんが口を開いた。
「息子の胸囲をお伝えして、お店で二、三着選んでもらったんです。その時、ママさんはご自分のもご購入になって、翌日身に着けて深夜にベランダで陰干しをした。そしたら、朝になると消えていたんです」
……それって、泥棒?
「そうなの、トモ。事件なの。それで、矢上さんに調べてもらったの」
あけみさん、住宅地図出してきた。あれ、私の住む宜野湾のアパートの近くじゃないですか。
あけみさんが、とある一角を指さした。
「ママ、宜野湾に住んでてさ。米軍基地近くて騒音問題あるけど安い学生向けアパート並んでいるからって、それで、このあたり住んでいたのね。そんで、矢上さんが調べて、犯人は学生じゃないかって話になったのよ」
なるほど。ママさんはちょっと初老に近い印象ですが、胸は大きいので下着目当てで狙われそうですね。
「ママさん、気落ちなさってて。ちょっとした高級下着で一万円したとか。もちろん窃盗罪で量刑になりえます」
つまり、そのショックでお店を休んでいらっしゃると?
私、チャミスル全部飲んじゃいました。
「ビールでよければどうぞ」
矢上さんが注いでくれる。ありがたく頂戴します。
「そしたら、また事件があってねー」
あけみさん、今度はナッツ盛り合わせを持ってきてくれました。そして、こう言った。
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