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34.個室の呪い
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絶対に城之内先輩と二人きりになるまいと誓っているのに、出会う場所出会う場所個室なのはなぜなのか。呪いか。
生徒会役員のフロアにいなかったから完全に油断していた。まさか別の階から乗り込んでくるとは思わないだろ!
いつも寮のエレベーターはひどくゆっくりで、遅刻しそうな時は恨んだものだが、その比じゃないくらい今猛烈に恨んでいる。早く、早く着いてくれ!
「蛍くんなんで上の階いたの? 誰といたの?」
「え、あ、悠悟さんと食事を……」
完全に蛇に睨まれたカエルだ。角の方で小さくなって震える俺の前に立ちはだかった城之内先輩は、見事に整った笑顔を微塵も崩さない。
「……ふぅん。悠悟の話、聞き取れた?」
「……はい?」
「蛍くんスペイン語わかるんだっけ?」
「いや、全く」
「だよね」
会話に脈絡がなく、俺は説明を求めて首を傾げながら先輩の次の言葉を待つ。城之内先輩の妖艶な笑みに凄味が増した。なんだろう。嫌な予感がする。
「悠悟に言っといたんだ。蛍くんスペイン語バッチリだから母国語でどうぞ~って」
「……は?」
何の意味があってそんな嘘をついたのだろう。ただの暇つぶしの気まぐれだろうか。それにしては先輩の意味深な笑顔が気になる。
「ちょっとしたイタズラだよ。熱心に口説いても全然通じてないとかウケるよね。俺と蛍くんのイチャラブ邪魔した罰」
そう言って、先輩はダブルピースを決めた。
先輩とイチャもラブもしたつもりはないが、多分この前の生徒会室でのことを言っているのだろう。俺が鍵のかかった生徒会室内で城之内先輩に捕まっている時に、ドアを破壊するという力業の密室攻略で救出してくれた悠悟さんへの意趣返しということらしい。
どうりで最近の悠悟さんはやたらとスペイン語で話しかけてくるなと思ったよ! その度にどれだけ俺が困り、居た堪れない思いにとらわれたことか。全部お前のせいだったんか!
「それにあいつ、言うに事欠いて蛍くんとは恋人って……いや、なんでもない」
先輩の笑顔に一瞬暗い影が差したように見えたがそれはすぐに消え失せ、あの腹の読めない妖しい笑顔でじりじりと距離を詰めてくる。エレベーターのランプは俺の部屋の階まであと一つのところを示している。もう少しだ。ドアが開いたらダッシュで飛び出して部屋に駆け込んで鍵をかける。あとはノックされても無視して閉じこもるしかない。そうイメージトレーニングをして俺はいつでも飛び出せるように足に力を入れ、先輩の肩越しにドアが開くのを今か今かと待っていた。だから先輩が下の方で手を動かしたのに気づくのが遅れてしまった。あっと思って横に一歩逃げようとしたが、先輩の手は俺の右手首を掴んでいた。
先ほど転んだ時に痛めた右手首だ。逃げようとしていたせいで掴まれた右手が引っ張られ、激痛が走った。俺は駆け出そうと準備していたから、その痛みに思わず足が動いて勢いよく飛び上がりエレベーターの壁に激突した。痛い。手も肩も痺れて痛い。なんだか視界まで真っ暗になったようだ。もしかして気絶してしまったのだろうかと思ったが、どうやら違うらしい。
「あ……止まった」
真っ暗な空間にぽつりと先輩の声が響いた。
大きく跳ねたエレベーターの箱は、しばらくぐらぐらと揺れて静かになった。機械音もなく、動いている気配がない。現状を把握する前に室内の非常灯が灯り、視界は暗いオレンジ色になった。俺の手を掴んだままの先輩は大して慌てた様子もなくエレベーターを見回していた。
おそらく、俺が飛び跳ねて強い衝撃を与えたせいでエレベーターが緊急停止してしまったのだろう。
「え、まずいですよね、これ!? 非常用ボタン押しましょう!」
先輩と対照的に俺は完全にパニックになっていた。エレベーターに閉じ込められる経験なんて初めてなのだ、仕方ないだろう。掴まれていない方の手を焦ってボタンに伸ばしたのだが、その手も先輩に捕まった。先輩がぐいと顔を近づけてまた笑って言った。
「どうして?」
どうして? ……ってどうして?
そんな禅問答を続けたくなる。この状況で落ち着き払っているのはさすが選ばれし生徒会役員だなと思うが、助けを呼ぶのは当然だろう。その含みのある笑いはなんですかね、いやだなぁいやだなぁ、こわいなぁ……!
「この色の照明ってなんだかムラムラするよね」
はい出たー! 色欲サイコパスが現れた。そんな予感はしてたんだ!
生徒会役員のフロアにいなかったから完全に油断していた。まさか別の階から乗り込んでくるとは思わないだろ!
いつも寮のエレベーターはひどくゆっくりで、遅刻しそうな時は恨んだものだが、その比じゃないくらい今猛烈に恨んでいる。早く、早く着いてくれ!
「蛍くんなんで上の階いたの? 誰といたの?」
「え、あ、悠悟さんと食事を……」
完全に蛇に睨まれたカエルだ。角の方で小さくなって震える俺の前に立ちはだかった城之内先輩は、見事に整った笑顔を微塵も崩さない。
「……ふぅん。悠悟の話、聞き取れた?」
「……はい?」
「蛍くんスペイン語わかるんだっけ?」
「いや、全く」
「だよね」
会話に脈絡がなく、俺は説明を求めて首を傾げながら先輩の次の言葉を待つ。城之内先輩の妖艶な笑みに凄味が増した。なんだろう。嫌な予感がする。
「悠悟に言っといたんだ。蛍くんスペイン語バッチリだから母国語でどうぞ~って」
「……は?」
何の意味があってそんな嘘をついたのだろう。ただの暇つぶしの気まぐれだろうか。それにしては先輩の意味深な笑顔が気になる。
「ちょっとしたイタズラだよ。熱心に口説いても全然通じてないとかウケるよね。俺と蛍くんのイチャラブ邪魔した罰」
そう言って、先輩はダブルピースを決めた。
先輩とイチャもラブもしたつもりはないが、多分この前の生徒会室でのことを言っているのだろう。俺が鍵のかかった生徒会室内で城之内先輩に捕まっている時に、ドアを破壊するという力業の密室攻略で救出してくれた悠悟さんへの意趣返しということらしい。
どうりで最近の悠悟さんはやたらとスペイン語で話しかけてくるなと思ったよ! その度にどれだけ俺が困り、居た堪れない思いにとらわれたことか。全部お前のせいだったんか!
「それにあいつ、言うに事欠いて蛍くんとは恋人って……いや、なんでもない」
先輩の笑顔に一瞬暗い影が差したように見えたがそれはすぐに消え失せ、あの腹の読めない妖しい笑顔でじりじりと距離を詰めてくる。エレベーターのランプは俺の部屋の階まであと一つのところを示している。もう少しだ。ドアが開いたらダッシュで飛び出して部屋に駆け込んで鍵をかける。あとはノックされても無視して閉じこもるしかない。そうイメージトレーニングをして俺はいつでも飛び出せるように足に力を入れ、先輩の肩越しにドアが開くのを今か今かと待っていた。だから先輩が下の方で手を動かしたのに気づくのが遅れてしまった。あっと思って横に一歩逃げようとしたが、先輩の手は俺の右手首を掴んでいた。
先ほど転んだ時に痛めた右手首だ。逃げようとしていたせいで掴まれた右手が引っ張られ、激痛が走った。俺は駆け出そうと準備していたから、その痛みに思わず足が動いて勢いよく飛び上がりエレベーターの壁に激突した。痛い。手も肩も痺れて痛い。なんだか視界まで真っ暗になったようだ。もしかして気絶してしまったのだろうかと思ったが、どうやら違うらしい。
「あ……止まった」
真っ暗な空間にぽつりと先輩の声が響いた。
大きく跳ねたエレベーターの箱は、しばらくぐらぐらと揺れて静かになった。機械音もなく、動いている気配がない。現状を把握する前に室内の非常灯が灯り、視界は暗いオレンジ色になった。俺の手を掴んだままの先輩は大して慌てた様子もなくエレベーターを見回していた。
おそらく、俺が飛び跳ねて強い衝撃を与えたせいでエレベーターが緊急停止してしまったのだろう。
「え、まずいですよね、これ!? 非常用ボタン押しましょう!」
先輩と対照的に俺は完全にパニックになっていた。エレベーターに閉じ込められる経験なんて初めてなのだ、仕方ないだろう。掴まれていない方の手を焦ってボタンに伸ばしたのだが、その手も先輩に捕まった。先輩がぐいと顔を近づけてまた笑って言った。
「どうして?」
どうして? ……ってどうして?
そんな禅問答を続けたくなる。この状況で落ち着き払っているのはさすが選ばれし生徒会役員だなと思うが、助けを呼ぶのは当然だろう。その含みのある笑いはなんですかね、いやだなぁいやだなぁ、こわいなぁ……!
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