17 / 47
15.生徒会体験二日目
しおりを挟む
颯真の登場によって観念したらしい城之内先輩から解放され、俺は颯真の後ろに隠れた。後輩の背中に庇われるなんてカッコ悪いとか、そんな体面なんて気にしてる場合じゃない。こっちだって貞操の危機なのだ。
颯真と先輩はしばらく無言で睨み合いをしていたが
「思ってたより敵が多いみたいだね。でも、諦めないから」
という意味深な言葉を残して先輩は部屋を出て行った。それはあれですか、俺のケツを諦めないってことですか……?
ぞっと寒気が戻ってきた俺は、思わず颯真のブレザーの裾をぎゅっと握った。それに気づいて振り返った颯真は、依然として仁王様だった。
え、なんでそんなに怒ってる……の……?
「大体、先輩に隙が多すぎるのが悪い」
説教キター。
颯真はたまにこうして突然ガチギレしてくる。
「反省してないでしょう? ここに座りなさい」
「あ、はい……すみません……」
間違いない、いつものパターンだ。ガチギレ颯真の説教は丁寧な態度が消え失せ、何時間も正座させられたまま懇々と叱られるのだ。
結局この日も、颯真の怒りは寮の夕飯時間が終わるまで鎮まらず、俺の腹の虫がうるさくなってきた辺りでやっと話を切り上げてくれた。そして溜息一つついた後に簡単な夕食を作ってくれたのだが、そういう所は本当に面倒見のいいやつだなと感心してしまう。
ほかほかの牛丼をにこにこで頬張る俺を呆れた目つきで見ながら
「明日は生徒会室直行でしょうね。くれぐれも猛獣の檻の中にいる自覚を忘れないでくださいよ。明後日まで、生き延びてください」
そう言って釘を刺してくるのを忘れない、できた後輩。それが颯真だ。
颯真の言う通り、今日ははからずも体験入会の約束を無視した形になってしまった。おかんむりの生徒会役員に、明日は朝から連行されるに違いない。せっかくうまい飯食べてるのに思い出させないでほしい……。噛み締めた牛肉から溢れる甘い肉汁を飲み込んだはずが、すっかり苦々しい気分になったのだった。
翌朝、俺は重い体を叱咤してなんとかベッドを這い出し身支度を整えた。せめて学校まで颯真に引っついて行こうと思っていたのだが、起きた時には既に颯真は朝練に出た後だった。昨日あれだけ怖がらせといて薄情すぎない?
内臓までこぼれ落ちそうな深い溜息とともに玄関のドアを開けると、そこには
「おはよう~」
朗らかな笑顔を浮かべた城之内先輩が立っていた。
……? 悪夢かな?
最悪の人物との朝イチ遭遇に早速脳がサイレンを鳴らす。だって昨日の今日だぞ。部屋の前だぞ。
「……き、昨日からそこにいたんですか?」
見るからに低血圧そうな城之内先輩がこんな時間にここにいるなんて違和感がある。もしかしたら昨日帰った振りをしてずっと待ち伏せしてたのかもしれない。なにせサイコパスだし。
どもりながら絞り出すように問いかけた俺の質問に対して、先輩はきょとんと数度瞬きをしてから盛大に笑いだした。
「あっはははは! さすがにそこまではしなかったよ。蛍くんって愛されたがりだね?」
いやいやいや! 笑えないし、愛されたがりってなに。その思考回路がサイコパスなんだって。ほんと怖いからやめて。
「昨日は結局蛍くんを生徒会室に連れて行けなかったでしょ? ホラ俺一応見張り役だったからさ、錬が第三の目が~とかなんとか荒れちゃってね」
おいノレンのペルソナぁー! ちゃんと仕事しろよ! 厨二ダダ漏れてんぞ!
「そんなわけで今日は同伴出勤。ね?」
どんなわけかは理解できないが、俺も颯真の助言を受けて腹を括っていたし、下手な抵抗をしてサイコパスの狂気を暴走させるのも危険なので大人しくついていくことにした。
隣を歩く城之内先輩は当然のように俺の腰に手を回してくる。振り払いたいのだがビビってできない。狂気もだが凶器も怖い。俺の尻を諦めず狙ってるらしい凶器が……。
これなに、セクハラ? パワハラ? モラハラ? なに。なにハラスメントなの?
二人しかいないエレベーターに乗り込んだ時、俺の恐怖と混乱はピークに達していた。そして、先輩がポケットからスマホを取り出そうとした些細な動きに過剰に反応し飛び退った結果、肩が最上階のボタンを押してしまった。寮の玄関があるのは当然一階である。しかし虚しくエレベーターは上へと昇っていく。
「あ、しまった……」
「……蛍くんって意外と積極的なんだね」
またトチ狂ったことを言い出したぞと冷や汗をかいたが、深呼吸を繰り返し冷静を努めた結果、言わんとすることがなんとなく理解できた。最上階は生徒会役員のためだけのフロアだ。当然先輩の部屋もそこにある。その階のボタンを押した俺の行動を、何かとてもポジティブに(性的な意味で)受け取ったんだと思う。
最上階は生徒会役員以外はフロアへの立ち入りすら許されておらず、その内装や仕組みについての情報は一般生徒には眉唾ものの噂話しか入ってこない。なんでも専属食堂がありそこは某三つ星レストランのシェフによるものだとか、コンシェルジュがいて、ルームサービスがあって、部屋は一流ホテルのスイートルーム並みだとか。真偽のほどを一度この目で確かめてみたいと思ってはいたが、この人とだけは遠慮したい。
「俺の部屋でいい?」
先輩は腰に回した腕に力を入れ、さらに引き寄せてきた。
よくないよくない! なんですかその朝らしからぬ卑猥さの滲む聞き方は。やることはすでに決まっていて場所だけ確認、みたいなその言い回しなんですか! 言い慣れてる感じなのもムカつくな! いやでも待て言い慣れてるとしてもこの学校にいる限りきっとみんな男相手なんだよな、それは別に羨むことではないな?
予想外の事態に脳が別のことへ逃避し始めた頃に、無情にもチン、と高い音を鳴らして扉が開いた。
颯真と先輩はしばらく無言で睨み合いをしていたが
「思ってたより敵が多いみたいだね。でも、諦めないから」
という意味深な言葉を残して先輩は部屋を出て行った。それはあれですか、俺のケツを諦めないってことですか……?
ぞっと寒気が戻ってきた俺は、思わず颯真のブレザーの裾をぎゅっと握った。それに気づいて振り返った颯真は、依然として仁王様だった。
え、なんでそんなに怒ってる……の……?
「大体、先輩に隙が多すぎるのが悪い」
説教キター。
颯真はたまにこうして突然ガチギレしてくる。
「反省してないでしょう? ここに座りなさい」
「あ、はい……すみません……」
間違いない、いつものパターンだ。ガチギレ颯真の説教は丁寧な態度が消え失せ、何時間も正座させられたまま懇々と叱られるのだ。
結局この日も、颯真の怒りは寮の夕飯時間が終わるまで鎮まらず、俺の腹の虫がうるさくなってきた辺りでやっと話を切り上げてくれた。そして溜息一つついた後に簡単な夕食を作ってくれたのだが、そういう所は本当に面倒見のいいやつだなと感心してしまう。
ほかほかの牛丼をにこにこで頬張る俺を呆れた目つきで見ながら
「明日は生徒会室直行でしょうね。くれぐれも猛獣の檻の中にいる自覚を忘れないでくださいよ。明後日まで、生き延びてください」
そう言って釘を刺してくるのを忘れない、できた後輩。それが颯真だ。
颯真の言う通り、今日ははからずも体験入会の約束を無視した形になってしまった。おかんむりの生徒会役員に、明日は朝から連行されるに違いない。せっかくうまい飯食べてるのに思い出させないでほしい……。噛み締めた牛肉から溢れる甘い肉汁を飲み込んだはずが、すっかり苦々しい気分になったのだった。
翌朝、俺は重い体を叱咤してなんとかベッドを這い出し身支度を整えた。せめて学校まで颯真に引っついて行こうと思っていたのだが、起きた時には既に颯真は朝練に出た後だった。昨日あれだけ怖がらせといて薄情すぎない?
内臓までこぼれ落ちそうな深い溜息とともに玄関のドアを開けると、そこには
「おはよう~」
朗らかな笑顔を浮かべた城之内先輩が立っていた。
……? 悪夢かな?
最悪の人物との朝イチ遭遇に早速脳がサイレンを鳴らす。だって昨日の今日だぞ。部屋の前だぞ。
「……き、昨日からそこにいたんですか?」
見るからに低血圧そうな城之内先輩がこんな時間にここにいるなんて違和感がある。もしかしたら昨日帰った振りをしてずっと待ち伏せしてたのかもしれない。なにせサイコパスだし。
どもりながら絞り出すように問いかけた俺の質問に対して、先輩はきょとんと数度瞬きをしてから盛大に笑いだした。
「あっはははは! さすがにそこまではしなかったよ。蛍くんって愛されたがりだね?」
いやいやいや! 笑えないし、愛されたがりってなに。その思考回路がサイコパスなんだって。ほんと怖いからやめて。
「昨日は結局蛍くんを生徒会室に連れて行けなかったでしょ? ホラ俺一応見張り役だったからさ、錬が第三の目が~とかなんとか荒れちゃってね」
おいノレンのペルソナぁー! ちゃんと仕事しろよ! 厨二ダダ漏れてんぞ!
「そんなわけで今日は同伴出勤。ね?」
どんなわけかは理解できないが、俺も颯真の助言を受けて腹を括っていたし、下手な抵抗をしてサイコパスの狂気を暴走させるのも危険なので大人しくついていくことにした。
隣を歩く城之内先輩は当然のように俺の腰に手を回してくる。振り払いたいのだがビビってできない。狂気もだが凶器も怖い。俺の尻を諦めず狙ってるらしい凶器が……。
これなに、セクハラ? パワハラ? モラハラ? なに。なにハラスメントなの?
二人しかいないエレベーターに乗り込んだ時、俺の恐怖と混乱はピークに達していた。そして、先輩がポケットからスマホを取り出そうとした些細な動きに過剰に反応し飛び退った結果、肩が最上階のボタンを押してしまった。寮の玄関があるのは当然一階である。しかし虚しくエレベーターは上へと昇っていく。
「あ、しまった……」
「……蛍くんって意外と積極的なんだね」
またトチ狂ったことを言い出したぞと冷や汗をかいたが、深呼吸を繰り返し冷静を努めた結果、言わんとすることがなんとなく理解できた。最上階は生徒会役員のためだけのフロアだ。当然先輩の部屋もそこにある。その階のボタンを押した俺の行動を、何かとてもポジティブに(性的な意味で)受け取ったんだと思う。
最上階は生徒会役員以外はフロアへの立ち入りすら許されておらず、その内装や仕組みについての情報は一般生徒には眉唾ものの噂話しか入ってこない。なんでも専属食堂がありそこは某三つ星レストランのシェフによるものだとか、コンシェルジュがいて、ルームサービスがあって、部屋は一流ホテルのスイートルーム並みだとか。真偽のほどを一度この目で確かめてみたいと思ってはいたが、この人とだけは遠慮したい。
「俺の部屋でいい?」
先輩は腰に回した腕に力を入れ、さらに引き寄せてきた。
よくないよくない! なんですかその朝らしからぬ卑猥さの滲む聞き方は。やることはすでに決まっていて場所だけ確認、みたいなその言い回しなんですか! 言い慣れてる感じなのもムカつくな! いやでも待て言い慣れてるとしてもこの学校にいる限りきっとみんな男相手なんだよな、それは別に羨むことではないな?
予想外の事態に脳が別のことへ逃避し始めた頃に、無情にもチン、と高い音を鳴らして扉が開いた。
30
お読みいただきありがとうございます!
ご感想等頂けると嬉しいです。マシュマロもあります。(マシュマロのお返事はログインまたはtwitterにてご確認お願いします🙇♀️)
ご感想等頂けると嬉しいです。マシュマロもあります。(マシュマロのお返事はログインまたはtwitterにてご確認お願いします🙇♀️)
お気に入りに追加
379
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

Q.親友のブラコン兄弟から敵意を向けられています。どうすれば助かりますか?
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
平々凡々な高校生、茂部正人«もぶまさと»にはひとつの悩みがある。
それは、親友である八乙女楓真«やおとめふうま»の兄と弟から、尋常でない敵意を向けられることであった。ブラコンである彼らは、大切な彼と仲良くしている茂部を警戒しているのだ──そう考える茂部は悩みつつも、楓真と仲を深めていく。
友達関係を続けるため、たまに折れそうにもなるけど圧には負けない!!頑張れ、茂部!!
なお、兄弟は三人とも好意を茂部に向けているものとする。
7/28
一度完結しました。小ネタなど書けたら追加していきたいと思います。

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール
雨宮里玖
BL
エリート高校の親衛隊プラスα×平凡無自覚総受け
《あらすじ》
4月。平凡な吉良は、楯山に告白している川上の姿を偶然目撃してしまった。遠目だが二人はイイ感じに見えて告白は成功したようだった。
そのことで、吉良は二年間ずっと学生寮の同室者だった楯山に自分が特別な感情を抱いていたのではないかと思い——。
平凡無自覚な受けの総愛され全寮制学園ライフの物語。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる