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14.死亡フラグの次回予告は
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「あのぅ、うちに何かご用でしょうか……」
恐る恐る声をかけると、うつ向けていた顔をゆっくりともたげて城之内先輩が俺を見た。色っぽいため息を吐きながら立ち上がった先輩は前髪をかき上げて流し目をよこす。
「蛍くん草太と仲いいんだね、知らなかった」
城之内先輩の声は低かった。ふわふわとした能天気とも言えるいつもの声質と全く違って、纏う空気も重苦しい。
草太の言っていた通り、確かに二人の関係は険悪なのかもしれない。しかし俺は決意したんだ、何と脅されようと懐柔されようと生徒会には入らない。草太の味方であり続ける! 毅然とした態度で……態度で……。
いや、無理、こわい。めっちゃこわい。
一歩一歩距離を詰めてくる城之内先輩の圧がすごい。普段ニコニコペラペラ喋る人が黙り込むとこんなに迫力あるんですね、知らなかった! いつの間にか壁まで追い詰められて、再びの壁ドンを覚悟した俺の身に予想外の事態が起きた。城之内先輩が抱きついてきたのだ。しかも、
「蛍くん~! 草太にまた嫌われちゃった、どうしよう……」
と大きな声で叫びながら俺を胸元にぎゅうぎゅう抱え込む。
ちょ、ま、おま……!
生徒会役員が公衆の面前でモブに抱きつくということの重大性を理解してくれ。俺を社会的に殺す気か! これはもうあれだぞ、殺人未遂だぞ!
俺は慌てて辺りを見回した。幸い、下校時間とずれていたおかげで廊下に人影はなかったが、これだけ大騒ぎしていたらいつ誰が様子を見に来てもおかしくない。
「と、とりあえず部屋入りましょう、そうしましょう、ね!」
ひっしとしがみついてくる先輩を幼児のようにあやして、俺は急いでドアの鍵を開けた。
なだれ込むようにしてリビングのソファに二人並んで座る。
先輩はこの世の終わりだとでも言いたげに、がっくりと肩を落として自分の膝を見つめている。先輩を動物に例えるなら絶対に種馬しかありえないと思っていたが、今はあろうことか犬に見える。ペタリと耳を伏せ尻尾を力なく垂らす大型犬。初めて会った時の、自意識と自己評価が天井知らずな色欲魔人はどこに行ったのか。
自分からは一向に喋ろうとしないので、仕方なく俺が口火を切ることにした。
「えーと。草太からは城之内先輩とは兄弟仲が悪いと聞いてたんですけど。……違うんですか?」
「違うよ! 俺はいつだって草太と仲良くしたいと思ってるし!」
泣きそうな声でそう叫ぶと、また俺を胸にぎゅうと抱えた。……室内ならいいってわけじゃないからな!? 俺のパーソナルスペースにもご配慮いただきたいのだが!
一刻も早く安全な空間を手に入れたい俺の声が自然と低くなってしまうのも仕方ないだろう。
「それならなんで嫌がらせするんですか。なんでも横取りされてきたって草太は言ってましたけど」
「誤解だよ」
俺を抱きしめる腕に力がこもった。回された手のひらが俺の背中をゆっくりと撫で上げる。
「草太は不器用なトコがあるでしょ。俺の方が大体上手く扱えるから、草太が気に入ったものは俺がまず手に入れて使い方を熟知してから、草太に教えてあげれば草太が喜ぶじゃん? ずっとそうやって草太に渡してきてあげたのに」
うん、サイコパス!
性的なことに関して狂気を感じてはいたけど確信した、この人サイコパスだ!
"まず手に入れて"って、"渡してきてあげた"って、その発想がもう理解できない。された方は横取りされた挙げ句飽きたから目の前で投げ捨てられたようにしか思えない。それを好意だと信じてるのか、この人は。
異常とも言える城之内先輩にこうして体の自由を奪われているのはとても危険なのでは……?
俺は腕の中からなんとか頭だけは抜け出した。下から見上げた城之内先輩の淫靡な薫り漂う整った顔は、雰囲気は違うがやはり草太と作りは似ていて、二人の血の繋がりを否応なく感じてしまう。草太は真っ当なのにどうしてこの人こんなことになっちゃったの。
先輩は抜け出した俺の耳たぶを指先で弄びながら反対の手では変わらず背中を撫でている。その親指がたまに脇腹に触れるのがくすぐったい。
「……草太ももう子どもじゃないですし、先輩がそこまでしてあげることもないんじゃないですかね?」
「草太がそれで失敗して傷ついても構わないって蛍くんは言うわけ?」
頭を抜いた分、首に回っていた腕がぎゅうと絞まった。刺激しないよう、なるべく言葉を選んだ俺の忠告に対してのこの仕打ち。殺されるかもしれない……。俺の背中を冷や汗が伝った。
先輩は俺の耳たぶから首筋に指を移動して指先で撫で、もう片方は腹の辺りをこそこそと探っている。
「いえ、違いますけど! 草太なりの反抗期なのかもしれませんよ。愛情が大きければ大きいほど反抗期も大きいって言わないこともないこともないですし……」
「反抗期……愛情……」
適当に言った俺の出まかせの言葉を繰り返しながら、先輩はうなじをつつと撫でてくる。ぞくりと身震いすると、腹にあった手はゆっくりと這い上がってきた。
「……うん、甘やかすだけが愛情じゃないよね。俺が弟離れしないといけないか」
「それがよいかと、友人代表として思います……」
先輩はどこか寂しそうに、けれど穏やかに笑って俺を見た。
うなじにあった指は俺の襟足をくるくると巻きつけ、腹の手は胸の辺りをまさぐっている……っていうかさっきから先輩の手の動きなに! 話に全然集中できないんですけど!? 先輩の表情からして無意識っぽいのすごいな!?
しかしこれを無理に振りほどいたら、せっかくいい感じに話がまとまったのに何か不興を買ってしまうかもしれない。俺は全神経を集中させ、先輩の腕の戒めが緩んだ一瞬の隙に自然に見えるようそっと離れた。先輩の手が追って来ることも気分を害した様子もなく、脱出は成功したようだ。
話も終わったし俺も解放してもらえたことだし、これで穏便にお帰りいただけるだろうと無難な笑顔を浮かべて先輩を見つめていたけれど、同じようにつかみどころのない笑顔を返されただけだった。待てど暮らせど立ち上がる気配がない。
直接”帰れ”など怖くてとても言えない。どうしたものかと考えていると、緊張とストレスでカラカラに乾いていた俺の喉が痛みまで訴えてきた。このまま笑顔のにらみ合いを続けるわけにもいかないので、俺は一度キッチンに立ち、飲み物を用意することにした。
颯真がたまに淹れてくれる緑茶があったはず、とキャビネットの扉をいくつか開き茶葉と急須を見つけた。電気ケトルで手早くお湯を沸かしてすぐに渋めの緑茶を用意した。テーブルに湯飲みを二つ並べると、先輩は
「ありがとう」
と言って早速手に取った。作戦の滑り出しは順調である。ほっとしたので俺も緑茶に口をつける。
普段あまり飲まない分、爽やかな茶葉の香りが新鮮に感じられる。濃いめのお茶は苦味もあるがさっぱりとして後に残らない。いくら喉が渇いていても熱いから一気に流し込むことはできないが、その分喉から食道を通って胃へと温かさが優しく伝わっていくのが心地よい。一言で表すならそう、くっそうめぇ……!
緑茶を堪能しつつ横目でちらりと確認してみたが、城之内先輩は湯飲みを手にしたまま口をつける様子もなく、優雅に足を組み無言でじっとこちらを見つめていた。なんだろう、絡みつくような視線がとても怖い。
逃げるように、俺は空になった湯飲みにおかわりを注ぐべくまたキッチンに立った。急須にお湯を注いでいる時だった、耳元で急に声がしたのだ。
「蛍くん……」
「ほぐわぁつ!」
驚きのあまりお湯が指にかかってしまい、どこぞの魔法使いが出てきそうな謎の叫び声が漏れた。あっっっちぃ!
さっきまでソファに悠々と座っていたのに気配を消して一瞬にして俺の背後を取っただと……!? やっぱり城之内家は特殊な稼業なんじゃないだろうか。
先輩は俺をシンクに縫い付けるように両手をついていた。逃げられない。そしてめっちゃ近い。囁く先輩の吐息が耳に当たるほどだ。
「蛍くんは優しいね。俺の悩みをこんな風にちゃんと聞いてくれる人いなかったな」
そうでしょうね、普通は先輩のそのぶっ飛んだ思考についていけないと思います。正直俺もついていけてませんよ。なにか過大評価されているようですけども。
「でもきっとそれは、蛍くんが草太の友達だからだよね。草太が大事だから、こうして俺の話を聞いてくれるんでしょ」
先輩がシンクの縁についた両手は段々とその幅を狭めて、間にある俺の腰にぴったりと密着するまでになった。背中には先輩の胸が覆いかぶさっている。先輩が喋る声に合わせて背中が振動するほどだ。蛇に睨まれたどころか既に口に放り込まれた蛙になって、冷や汗を流しつつただ身を固くしていると、
「それは、なんか……妬ましいな」
先輩が俺のうなじに唇を押し当てて呟いた。含みのある台詞と共に温かく柔らかな感触が触れ、ぬるりとした何かが首の骨をなぞるようにくすぐった。全身の毛が逆立ったようだった。
「草太のためじゃないよ。俺が欲しくなっちゃったんだ、君を」
熱いため息混じりにそう呟いて、先輩が下半身までぴったりとくっつけてきた。そして異変を悟った。
何か……当たってます……。
尻に熱くて固い巨大な棒状の何かがですね、ぐりぐりと不穏な動きで押し付けられています。首をねっとりと舐めていた唇は今は俺の耳をはむはむとしていて、気のせいじゃなく先輩の息が荒くなっています。さらに今この部屋には先輩と俺の二人きりという状況。……詰んだのでは?
「いいよね?」
何が!? という魂の問いかけは、顎を取られ先輩の方を振り向かされて言葉にならなかった。整った先輩の顔が近づいてくる。これはもしかしなくてもあれですね、キで始まりスで終わるあれですね? 嘘だろ。こんなことならとっととファーストキッスなんぞ捨てておくんだった……っていうか捨てられなかったからいまだにファーストなわけだけどな! うるせぇ。
絶望に目の前が真っ暗になった瞬間、
「人んちのキッチンで何してんですか」
玄関に仁王立ちしていたのは、いつの間にか帰ってきていたらしい同室の颯真だった。
あなたが神か!!
なぜか途轍もなく怒りのオーラを纏っているけど、俺にはその姿すら後光射すありがたい神様仏様に見えたのだった。
恐る恐る声をかけると、うつ向けていた顔をゆっくりともたげて城之内先輩が俺を見た。色っぽいため息を吐きながら立ち上がった先輩は前髪をかき上げて流し目をよこす。
「蛍くん草太と仲いいんだね、知らなかった」
城之内先輩の声は低かった。ふわふわとした能天気とも言えるいつもの声質と全く違って、纏う空気も重苦しい。
草太の言っていた通り、確かに二人の関係は険悪なのかもしれない。しかし俺は決意したんだ、何と脅されようと懐柔されようと生徒会には入らない。草太の味方であり続ける! 毅然とした態度で……態度で……。
いや、無理、こわい。めっちゃこわい。
一歩一歩距離を詰めてくる城之内先輩の圧がすごい。普段ニコニコペラペラ喋る人が黙り込むとこんなに迫力あるんですね、知らなかった! いつの間にか壁まで追い詰められて、再びの壁ドンを覚悟した俺の身に予想外の事態が起きた。城之内先輩が抱きついてきたのだ。しかも、
「蛍くん~! 草太にまた嫌われちゃった、どうしよう……」
と大きな声で叫びながら俺を胸元にぎゅうぎゅう抱え込む。
ちょ、ま、おま……!
生徒会役員が公衆の面前でモブに抱きつくということの重大性を理解してくれ。俺を社会的に殺す気か! これはもうあれだぞ、殺人未遂だぞ!
俺は慌てて辺りを見回した。幸い、下校時間とずれていたおかげで廊下に人影はなかったが、これだけ大騒ぎしていたらいつ誰が様子を見に来てもおかしくない。
「と、とりあえず部屋入りましょう、そうしましょう、ね!」
ひっしとしがみついてくる先輩を幼児のようにあやして、俺は急いでドアの鍵を開けた。
なだれ込むようにしてリビングのソファに二人並んで座る。
先輩はこの世の終わりだとでも言いたげに、がっくりと肩を落として自分の膝を見つめている。先輩を動物に例えるなら絶対に種馬しかありえないと思っていたが、今はあろうことか犬に見える。ペタリと耳を伏せ尻尾を力なく垂らす大型犬。初めて会った時の、自意識と自己評価が天井知らずな色欲魔人はどこに行ったのか。
自分からは一向に喋ろうとしないので、仕方なく俺が口火を切ることにした。
「えーと。草太からは城之内先輩とは兄弟仲が悪いと聞いてたんですけど。……違うんですか?」
「違うよ! 俺はいつだって草太と仲良くしたいと思ってるし!」
泣きそうな声でそう叫ぶと、また俺を胸にぎゅうと抱えた。……室内ならいいってわけじゃないからな!? 俺のパーソナルスペースにもご配慮いただきたいのだが!
一刻も早く安全な空間を手に入れたい俺の声が自然と低くなってしまうのも仕方ないだろう。
「それならなんで嫌がらせするんですか。なんでも横取りされてきたって草太は言ってましたけど」
「誤解だよ」
俺を抱きしめる腕に力がこもった。回された手のひらが俺の背中をゆっくりと撫で上げる。
「草太は不器用なトコがあるでしょ。俺の方が大体上手く扱えるから、草太が気に入ったものは俺がまず手に入れて使い方を熟知してから、草太に教えてあげれば草太が喜ぶじゃん? ずっとそうやって草太に渡してきてあげたのに」
うん、サイコパス!
性的なことに関して狂気を感じてはいたけど確信した、この人サイコパスだ!
"まず手に入れて"って、"渡してきてあげた"って、その発想がもう理解できない。された方は横取りされた挙げ句飽きたから目の前で投げ捨てられたようにしか思えない。それを好意だと信じてるのか、この人は。
異常とも言える城之内先輩にこうして体の自由を奪われているのはとても危険なのでは……?
俺は腕の中からなんとか頭だけは抜け出した。下から見上げた城之内先輩の淫靡な薫り漂う整った顔は、雰囲気は違うがやはり草太と作りは似ていて、二人の血の繋がりを否応なく感じてしまう。草太は真っ当なのにどうしてこの人こんなことになっちゃったの。
先輩は抜け出した俺の耳たぶを指先で弄びながら反対の手では変わらず背中を撫でている。その親指がたまに脇腹に触れるのがくすぐったい。
「……草太ももう子どもじゃないですし、先輩がそこまでしてあげることもないんじゃないですかね?」
「草太がそれで失敗して傷ついても構わないって蛍くんは言うわけ?」
頭を抜いた分、首に回っていた腕がぎゅうと絞まった。刺激しないよう、なるべく言葉を選んだ俺の忠告に対してのこの仕打ち。殺されるかもしれない……。俺の背中を冷や汗が伝った。
先輩は俺の耳たぶから首筋に指を移動して指先で撫で、もう片方は腹の辺りをこそこそと探っている。
「いえ、違いますけど! 草太なりの反抗期なのかもしれませんよ。愛情が大きければ大きいほど反抗期も大きいって言わないこともないこともないですし……」
「反抗期……愛情……」
適当に言った俺の出まかせの言葉を繰り返しながら、先輩はうなじをつつと撫でてくる。ぞくりと身震いすると、腹にあった手はゆっくりと這い上がってきた。
「……うん、甘やかすだけが愛情じゃないよね。俺が弟離れしないといけないか」
「それがよいかと、友人代表として思います……」
先輩はどこか寂しそうに、けれど穏やかに笑って俺を見た。
うなじにあった指は俺の襟足をくるくると巻きつけ、腹の手は胸の辺りをまさぐっている……っていうかさっきから先輩の手の動きなに! 話に全然集中できないんですけど!? 先輩の表情からして無意識っぽいのすごいな!?
しかしこれを無理に振りほどいたら、せっかくいい感じに話がまとまったのに何か不興を買ってしまうかもしれない。俺は全神経を集中させ、先輩の腕の戒めが緩んだ一瞬の隙に自然に見えるようそっと離れた。先輩の手が追って来ることも気分を害した様子もなく、脱出は成功したようだ。
話も終わったし俺も解放してもらえたことだし、これで穏便にお帰りいただけるだろうと無難な笑顔を浮かべて先輩を見つめていたけれど、同じようにつかみどころのない笑顔を返されただけだった。待てど暮らせど立ち上がる気配がない。
直接”帰れ”など怖くてとても言えない。どうしたものかと考えていると、緊張とストレスでカラカラに乾いていた俺の喉が痛みまで訴えてきた。このまま笑顔のにらみ合いを続けるわけにもいかないので、俺は一度キッチンに立ち、飲み物を用意することにした。
颯真がたまに淹れてくれる緑茶があったはず、とキャビネットの扉をいくつか開き茶葉と急須を見つけた。電気ケトルで手早くお湯を沸かしてすぐに渋めの緑茶を用意した。テーブルに湯飲みを二つ並べると、先輩は
「ありがとう」
と言って早速手に取った。作戦の滑り出しは順調である。ほっとしたので俺も緑茶に口をつける。
普段あまり飲まない分、爽やかな茶葉の香りが新鮮に感じられる。濃いめのお茶は苦味もあるがさっぱりとして後に残らない。いくら喉が渇いていても熱いから一気に流し込むことはできないが、その分喉から食道を通って胃へと温かさが優しく伝わっていくのが心地よい。一言で表すならそう、くっそうめぇ……!
緑茶を堪能しつつ横目でちらりと確認してみたが、城之内先輩は湯飲みを手にしたまま口をつける様子もなく、優雅に足を組み無言でじっとこちらを見つめていた。なんだろう、絡みつくような視線がとても怖い。
逃げるように、俺は空になった湯飲みにおかわりを注ぐべくまたキッチンに立った。急須にお湯を注いでいる時だった、耳元で急に声がしたのだ。
「蛍くん……」
「ほぐわぁつ!」
驚きのあまりお湯が指にかかってしまい、どこぞの魔法使いが出てきそうな謎の叫び声が漏れた。あっっっちぃ!
さっきまでソファに悠々と座っていたのに気配を消して一瞬にして俺の背後を取っただと……!? やっぱり城之内家は特殊な稼業なんじゃないだろうか。
先輩は俺をシンクに縫い付けるように両手をついていた。逃げられない。そしてめっちゃ近い。囁く先輩の吐息が耳に当たるほどだ。
「蛍くんは優しいね。俺の悩みをこんな風にちゃんと聞いてくれる人いなかったな」
そうでしょうね、普通は先輩のそのぶっ飛んだ思考についていけないと思います。正直俺もついていけてませんよ。なにか過大評価されているようですけども。
「でもきっとそれは、蛍くんが草太の友達だからだよね。草太が大事だから、こうして俺の話を聞いてくれるんでしょ」
先輩がシンクの縁についた両手は段々とその幅を狭めて、間にある俺の腰にぴったりと密着するまでになった。背中には先輩の胸が覆いかぶさっている。先輩が喋る声に合わせて背中が振動するほどだ。蛇に睨まれたどころか既に口に放り込まれた蛙になって、冷や汗を流しつつただ身を固くしていると、
「それは、なんか……妬ましいな」
先輩が俺のうなじに唇を押し当てて呟いた。含みのある台詞と共に温かく柔らかな感触が触れ、ぬるりとした何かが首の骨をなぞるようにくすぐった。全身の毛が逆立ったようだった。
「草太のためじゃないよ。俺が欲しくなっちゃったんだ、君を」
熱いため息混じりにそう呟いて、先輩が下半身までぴったりとくっつけてきた。そして異変を悟った。
何か……当たってます……。
尻に熱くて固い巨大な棒状の何かがですね、ぐりぐりと不穏な動きで押し付けられています。首をねっとりと舐めていた唇は今は俺の耳をはむはむとしていて、気のせいじゃなく先輩の息が荒くなっています。さらに今この部屋には先輩と俺の二人きりという状況。……詰んだのでは?
「いいよね?」
何が!? という魂の問いかけは、顎を取られ先輩の方を振り向かされて言葉にならなかった。整った先輩の顔が近づいてくる。これはもしかしなくてもあれですね、キで始まりスで終わるあれですね? 嘘だろ。こんなことならとっととファーストキッスなんぞ捨てておくんだった……っていうか捨てられなかったからいまだにファーストなわけだけどな! うるせぇ。
絶望に目の前が真っ暗になった瞬間、
「人んちのキッチンで何してんですか」
玄関に仁王立ちしていたのは、いつの間にか帰ってきていたらしい同室の颯真だった。
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