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第八話
しおりを挟む城に軟禁され、シンシアはこの2日間、ビッチリと竜王妃になると言う心構えを学ばされていた。
「 私がいなかったら大変な事になるって事は分かったよ。
竜が如何に大事だと言う事も理解したよ。
でもさ、私、この前まではごく普通の庶民だったのに•••
いきなり、責任とか、義務とか言われてもねぇ~
訳わかめぇぇぇーーーー!!!」
オリビエ夫人率いる教育係がいない室内でシンシアはブー垂れた。
「 地位とか、名誉とか、私達番にはそんなものは必要ないというのに•••
人間とは階級社会です。竜に対する敬意を表す為にも、王族の起源を神格化する為にも、それが必要なのでしょうね。」
エマは宥めるように笑って言った。
「 なーにが『高貴なものの義務』ですか!?
私、昨日まで税金払ってたんですよ!!!
なんの恩恵も受けた事が無いのに、いきなり貴族としての義務とか言われても困ります!」
「 ドミトリアン様は竜の王であって、貴族ではありませんのにね。
本当に困ったものですわね」
エマもウンウンと頷きながら答えてくれた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
本日はドミトリアンとの初面会日である。
気合いの入ったオリビア夫人は、侍女を引き連れ、沢山のドレスをクローゼットに納め、宝石をテーブルの上に並べた。
「さあ、シンシア様 お支度を致しましょうね。」
オリビア夫人は、「あーでもない、こーでもない」と侍女達に指示を出している。
「シンシア様、さあ、これを、」
下着姿にひん剥かれたシンシアのウエストに、白いコルセットが当てがわれた。
(へー、コルセットか!
ビビアン•リーが風と共に去りぬの時、コルセット締めてウエスト19インチにしたんだっけ!
センチに直すと48.28cm ほっそ、子供か!
スカーレットオハラの設定は、たしか•••
ウエスト17インチで43.18cm!!!無理でしょ、スカーレット内臓あるのかよ?)
シンシアは余裕をこいていた。
彼女は知らなかったのだ、コルセットの本当の恐怖を•••••
そして、それは大人2人の手を借り、グイグイとシンシアのウエストを締め上げていく。
「イタッ、イタタッ、痛いです、」
「シンシア様、我慢ですよ。まだ5cm位は絞めれますね。
さあ、息を吐いて、、いきますよ!」
侍女達は I、2の3で、グイーーと紐を引っ張っる。
「ギャーー、痛い、痛いです、、、
ほ、骨が折れる、やめて下さい。やめてぇーーー」
シンシアは生まれこのかた、コルセットなど絞めた事などない。
この、淑女のコルセットはシンシアには拷問に等しい。
「わたくしがお側に居ながら、美しいボディを作れないなどと、、、
人族の名折れになります。どうか、ご辛抱を。」
オリビア夫人は容赦無くコルセットの紐を締めるよう侍女に言い渡している。
(なんで、私、こんな目に遭うの、、、
痛いよ、死んじゃう、息が出来ない、内臓が出るぅ、、、
痛い、痛い、痛い、痛い•••••)
プツンとシンシアの何かが切れた
<<ガタン>>
シンシアは侍女を振り解き、側にあった裁縫箱からハサミを強奪し、自分の喉元に突きつけた。
「コルセット解いて下さい!
解かないと自殺します。早く、早くしなさい!!!!」
シンシアとオリビア夫人は睨み合いお互いの目から火花が散っていた。
「私の身体が傷付いたら、、、
きっと、ドミトリアン様はお怒りになりますよね。
貴女のせいですよね、オリビア夫人。
さあ、解きなさい」
そう、脅しを掛けた。
先に目線を下げたのはオリビア夫人であった。
明らかにオリビア夫人の負けである。
侍女達はスルスルと紐を緩め、コルセットを外した。
「オリビア夫人、私は庶民です。ただドミトリアン様の番になっただけです。
貴族になった訳ではありません。貴族の都合を私に押し付けないで下さい。」
その時だった。
「オホホホホ!」エマの笑い声が高らかに響いた。
「バウワー伯爵夫人、貴女の負けですわ!
いきなりドレスでは、市井育ちのシンシア様には敷居が高うごさいますでしょう。
わたくしもお洋服を用意して参りましたのよ。
さあ、シンシア様、当ててご覧下さい 」
それは、薄緑色のシンプルなストンとしたシルエットのワンピースであった。
しかし、生地は光沢がありキラキラと光っている。
「綺麗ですね、シルクですか?」
「そうよ、フリルも無くして、レースで大人っぽい雰囲気にしてみたの。
ドレープがあるからウエストも気にならないでしょう。
これなら、着ていてそう辛くないわ!着付けしてみましょうか。」
エマはテキパキと侍女達に指示を出した。
「貴族令嬢がお忍びで市井でデートをするようなイメージでお願いしますわ!」
侍女達のスーパーテクニックで、地味なシンシアは見事お金持ちの商家の娘風に仕上がった。
シンシアは自分のビフォーアフターにビックリとし、うっとりと鏡を見つめた。
( 伯爵夫人、シンシア様は庶民として生きてこられたのです。
いきなり貴族令嬢の振る舞いは少しハードルが高いかと、、、
少しづつ慣らしていけば良いかと存じます)
(エマ様、わたくし焦り過ぎておりました。そうですわね、少しづつ、少しづつですわね)
背後で2人のレディは、なにやら不穏かヒソヒソ話しをしていたのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「えー、本日はお日柄も良く•••、目出たく晴れのこの日を迎え•••• 」
司会のベーレンス部長はなにやらカンベをみながらぶつぶつと呟いていた。
今日は初の公式面会日
いわゆる”お見合い”というヤツである。
ドカンと上座に座っているドミトリアンにカレントがよく言い聞かせている。
「番ではなく、シンシア様とお名前を呼びましょう。
それでぐっと距離が縮まりますからね。
後、マーキングはしてはなりませんよ!人族の女性は過度の接触は好みませんからね。」
「分かった、分かった、鼻は擦り付けない」
ドミトリアンが、今まで、シンシアに鼻を擦り付けていたのはマーキングの習性であったのだ。
シンシアにしてみたら、ただの変態行為である。
「後は、強引に引っ張らない事。シンシア様は人族なのですからね!」
「分かった、分かった!」
「後は、、、入室されたらエスコートをする。優しくですよ、優しく、」
「分かった、分かった!」
傍目から見ても、ドミトリアンは浮かれポンチで、まるで遠足前の幼稚園児にしか見えない。
「シンシア様を、お連れしました」
オリビア夫人と共にシンシアが入室して来た。
ドミトリアンはエスコートする為に立ち上がり、シンシアに向かって手を差し出した。
そして、、、
その手をシンシアの腰に回して持ち上げ、すかさず膝の上に乗せた。
「ドミトリアン様、ダメですよ!」カレントは宥めた。
「何故だ?エスコートしただろう」
「過度の接触はいけません」
「過度ではない。膝に乗せただけではないか。」
シンシアはいきなりドミトリアンという人間椅子に座らされ赤面していた。
(江戸川乱歩に人間椅子っていう話しあったけど••••
実際、座ってみると気持ち悪いなぁ、
座り心地悪いし、、、何より設定がキモい )
ドミトリアンはシンシアの腰を両手で拘束し、耳の裏の匂いを嗅いでいた。
「あのぉ、離してもらいたいんですけど•••」
「どうしてだ?お前は私の番ではないか!」
「だっで、気持ち悪いです。」
「そうか?俺はいいぞ!」
「でも、私は嫌なのです。」
「お前は私が嫌なのか?」
「はい、嫌です、こういうのは嫌いです。」
「そうか、俺を嫌いなのか•••••• 」
ドミトリアンは、その強い拒絶に言葉を失い、身体を固まらせた。
そして、どんどんと顔色は白くなり、表情は悲痛な面持ちに変わっていった
暫く広間に沈黙が走る。
ギャラリーのメンバーは、緊迫した面持ちで固唾を飲んで2人を見守っていた。
ドミトリアンは言った
「しかし、俺はお前を離してやる事は出来んのだ。」
そうして一本の小汚いナイフを取り出した
「何ですか、コレ」
「ナイフだ!」
(それは見ればわかるよ)
シンシアは心の中でツッコミを入れた
そして、鞘に手を掛けカタカタと刀身を抜いた。
刃は全く尖ってはおらす、これでは紙すら切れない。
何に使うのだろうと不思議に思い自分の指先に当ててみた。
刃先はツルツルしていた。
「それはお前を刺す為の物ではない。
お前が俺を刺すのだ。そうすればお前は俺から離れる事が出来る。」
ドミトリアンはそう言うと手のひらをテーブルに乗せた
「刺せばいいんですか?」
「そうだ、、、」
(こんなんじゃ、刺せる訳ないじゃん!何かの儀式かな?
刺せば番解消出来るって訳ですかね?
こっちで言う処の縁切りの儀式なのかな?)
シンシアはナイフを持ってドミトリアンの指の先を刺そうとした。
その時だった
「やめろーーーー!!!!」
周りの男共が一斉にシンシアの腕を押さえた
王様も、宰相も、所長も、騎士団長も、、
皆ががっしりとシンシアの腕にしがみついた
「何するんですかぁ!!」
「お前は王配伝説を知らんのかーーー」
ベーレンス所長が絶叫した
「へっ!王配伝説くらい知ってますよ。
女王様を見染めた竜王配様がやって来る話しでしょ!国民なら誰でも知っていますよ。
失礼だなぁ、、、」
「そっ、それは、、それは竜殺しのナイフだ!!!
王配伝説で竜王配様が『拒むのならコレで殺してくれ 』と、ナイフを女王陛下に差し出すシーンがあっただろう」
フィリップ王は、シンシアの二の腕を押さえながら説明した。
「えっ、、、じゃあ、刺すと死ぬの?」
シンシアは上を見上げドミトリアンの顔を見た。
「そうだ、、、」
その時、ドミトリアンの目からホロっと涙が落ちた。
「そんな、、、なんで、何で死ぬのよぉ」
「番に拒絶されたら、俺は、、生きてはいけない。」
ドミトリアンはボロボロと涙を流した。
キラキラとした真珠のような涙をボロボロと流した。
絶世の美男子が、シンシアを思い子供の様に涙を流す。
余りの麗しい様子にシンシアは心臓をDQNと撃ち抜かれてしまった
(何て綺麗な涙なんだろう。まるで宝石のよう。
この人は竜の王、天上天下唯我独尊、それがドミトリアン様なんだ )
シンシアは流れ落ちる涙を手で受け止めた。
シンシアの手の平に落ちた涙はコロコロした真珠玉のような丸い物に変化した。
周りからゴクッと唾を飲む音がした。
カレントがさっとハンカチを出し、その丸玉を乗せるよう促した
そして、それを隠すようにさっと胸にしまったのであった。
シンシアは思った
殺してくれなんて、本当、殺し文句だよ。
あんな顔して泣いて、反則だよ。
嫌いじゃないんだよ、私だって•••
ただ、意地になっていただけなんだよ
だって、あれだけの超絶美男子!
言い寄られて悪い気はしないし•••
放って置いてくれれば、静かに見守ってくれれば好きになっていたのに•••
あんなに一途に訴えられたら絆されてしまうよ••••
エマ様が「主導権はこちらにある」と言ってたけど•••
私、どうしたらいいんだろう
シンシアはドミトリアンの涙をハンカチで拭いた。
(何だかウチの弟のみたい)
「男の子が、そうメソメソと泣かないの!」
優しく涙を拭き取り、ボソっと呟いた。
「嫌いではないですよ。」
「、、、えっ」
「ドミトリアン様の事は嫌いでは無いです。」
「、、、えっ!!!」
ドミトリアンは目をこれでもかと大きく見開きシンシアを見た。
「もう少し私の言う事を聞いてくれたら好きになります。」
「えっ!好きになってくれるのか!!!」
ドミトリアンの顔に笑顔が戻った。
「お前は何をして欲しい、金塊が欲しいのか?牛が食べたいのか?何でも言ってくれ。
ああ!どうしたらもっと好きになってくれるのか???」
まるでご機嫌になったワンコのようである。
ブンブンと千切れるように振った尻尾があるかのごとくドミトリアンはハイテンションになっていた。
(竜じゃなくて、犬を飼ったみたいな気分だわ)
シンシアはドミトリアンを『可愛いなぁ』と思った。
「ドミトリアン様、あれからまだ、2か月経ってません。まずはお付き合いから始めましょう。」
「俺と一緒にいてくれるのか?」
「ええ、一緒にいますよ。だって私がいないとドミトリアン様死んじゃうんでしょ!
仕方ないじゃありませんか。」
シンシアはフッと溜息を吐き、ドミトリアンを見つめた。
「でも、人前で抱きつくのはダメですからね!」
満遍の笑みを浮かべた超絶絶世美男子ドミトリアン。
興奮してシンシアに抱き付き、ペシッと叩かれたのは言うまでもない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
明日が最終回です。よろしくね!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今日の映画は 風と共に去りぬ
スカーレットの緑のドレス素敵でしたよね
コルセット締めるシーン印象的でした。
後半のウエストを測るシーンでは
「出産するとウエストが太くなるからもう子供は産みたくない」
そんなセリフを吐くスカーレットのウエストは20インチだった(確か、、、)
センチに換算すると、何と50.8cm
ありえねーーー
(間違ってたらごめん、映画だいぶ前に見たっきりでうる覚えです。誰かチェックして下さい)
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