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第二章

マリアベルの離婚

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ガブリエルは託された手紙とノートの写しを持って王妃に面会の許可を申請した。

ザビーネ王妃は、写しをを読んで憤慨した。

 ( 何と愚かな•••)

「マリアベルはクラレンスに帰ったのですね。」

ガブリエルは「ハイ」と答える。

( しかし、ドゥラーク卿は何故マリアベルを擁護しなかったのかしら?)

「 証人はハワード侯爵とユチノフ団長ですね 」

「ハイ」

「マリアベルの言う所の、女性保護団体の設立については分かりました。
彼女に会って話しをしなければなりませんね。
時間を調整しましょう。」

そう言ってザビーネ王妃は席を離れた。


**********

悲劇のコーネリア様

あれから17年経っても、まだその様な陰口を•••

ザビーネは、サーガと言う神託の為だけに生きたコーネリア姫とアーサー王弟殿下に思いを馳せた。

金と銀の一対
秘密裏に行われた結婚の儀
まるで天から降りて来た様な2人の姿

公に出来ない事が何と口惜しい。

その尊い血統を受け継ぐ、金と銀の輝きを身に宿して生まれてきた”マリアベル” という娘

マリアベルの書状にはもう一つ、”母の汚名をそそぎたい” という望みが書いてあった。


「噂話など放っておけばよい。人はすぐ忘れる 」
コーネリア様の亡くなった頃、憶測だけの噂話が社交会の殆どを占めていた
陛下を含め五家達はそのように言ったが•••

しかし、、、人は忘れない

噂話は、娯楽に飢えている貴族達の格好の餌
今回、燻っていた火種がマリアベルの存在によってまた再燃焼してしまったのだ

今度こそ、どうにかしなければ•••

ザビーネは、固く心に誓った


*************


マリアベルは、その日の夜、エクルズ神殿長と神殿の護衛馬車3台に囲まれて、王都の修道院にしばし身柄を預けた。

エクルズ神殿長のたっての頼みであった。

「女神の降りられた尊きお方を、この様に侮辱するような俗世に置いておけません。
さあ、マリアベル様、我々と共に修道院へ参りましょう。
暫しの間だけで良いのです、サアサア、サアサア、、、」

エクルズ神殿長のノリノリ行動を見て、ノーザンコート伯は苦笑いして言った
「マリアベル、諦めてエクルズ神殿長に付いて行きなさい。
修道院は、ここにいるよりは、はるかに安全だ。」

「仕方ないですわね、では、エクルズ神殿長様 お世話になります。」

こうしてマリアベルは、エクルズにドナドナされて修道院に向かった。


***************


「 マリアベル、父も直ぐ向かうからな、安心しろ!」
ローガンはそう言って意気揚々と馬車に向かって行った。

しかし、修道院は男子禁制

ノーザンコート伯爵に説教され メソメソと自室に引きこもってしまった。


***********


そして、渦中のドゥラーク邸では•••


クレイ法務大臣がハワード侯爵とユチノフ近衛騎士団長を従え、ドゥラーク辺境伯と3人の男を見据えていた。

ウーラノス•ドゥラーク辺境伯を目の前に、
そして、脇の長椅子には 
カルバートン伯爵、
マスグレープ伯爵、
カーライト子爵、
3人並んで、小さくなり、顔を真っ青にして震えていた。

「カルバートン、お前の出世はもう無いと思え。」
ユチノフ近衛騎士団長は一瞥して言った。


カーライト子爵は、即座に床に座りオデコを床につけて平伏をした。
「申し訳ございません、酔っばらいの戯言だと、、許して下さい。」

「、、、羨ましかったのです。若くて素晴らしい女性と結婚出来るウーラノスが羨ましいかったのです•••」

「お前の妻とてノーザンコートの姪御ではないか!なのにどうして•••」

ハワード侯爵はカーライト子爵に問うた

「•••••、同じノーザンコートの血筋ですが、、、
向こうは直系、王家の血筋。おまけに女神が降りられた娘。
全く格が違います。
私の浅ましい嫉妬心が招いた結果です、、」
カーライトは事の重大さに顔を言葉を詰まらせた。



「カルバートン、お前は騎士として誓いを立てた筈だ。
それなのに、女性を訳も無く侮辱するなど•••
お前も嫉妬心からなのか?」
ユチノフ団長は問うた。

「私も、、女神の化身と言われる程の素晴らしい姫を•••、それも、うら若い••
何故、ウーラノスだけが••、私にだって•••」

「「 お待ち下さい! 」」
背後より、燃えるような真っ赤な髪を高く結い上げた女性が声を上げた。

カルバートン伯爵夫人コニー 

彼女はネイサン•ハワード侯爵の叔母の娘、つまり従兄妹にあたる。
彼女とスミスは学園の同級生で、熱烈な恋愛で結ばれた仲であった。
そして、かなりの恐妻家でもあった。

彼女は、帰りの遅い夫をドゥラーク邸に迎えに来ていたのだ。

「 ネイサン様、ユチノフ団長様、
許して下さいとは言いません。非は全面的に主人にあります。
ただ、これ以上は、主人に言わせないでいただきとうございます。
嫉妬心からの失態であったなら•••、わたくしが至らないかった為、つまり、わたくしの落ち度でもある事になってしまいます。」

「 この度の不始末、わたくしが責任を持ってお詫びしたいと思います。
クレイ法務大臣様、主人の失態はわたくしの失態。
どうぞ、如何様にもなさって下さい。

マリアベル様とクラレンス侯爵様に、その様にお伝え下さい。」

「ほら、アナタ」
コニーは頭を下げるよう、スミスを促した。

「 申し訳御座いませんでした。」
カルバートンも平に平にと頭を下げた。

「 ネイサン様、わたくしの名誉にかけて主人を躾直しますわ!」
コニーはハワード侯に約束した。


残るはマスグレープ伯爵である。

彼は格上の男3人に睨まれながら震えていた。
しかし、彼からは謝罪の言葉は出ない。
ずっと下を向いて膝の上に置いた拳をギュッと握りている。

「マスグレープ伯爵、申し開きはあるか?」

「確かに、確かに私は噂話を致しました。
それは、あくまでの噂であって••• 」

「しかし、紳士たるもの、初夜の晩、新婦の噂話、それも侮辱行為になるような噂話をすべきでは無いのではないのか?」

「でも、火のない所には煙は立たないといいます。逆に、噂が事実ではないと言う証拠がありますでしょうか?」

「私はマリアベル様を子供の頃から見て来た。
お前の言っている事は事実無根だ!」

「でも、マリアベル様はクラレンス侯の子供ではないというのは事実なのでしょう!
婚姻と産み月が全く合っていません。
マリアベル様の幸せは、1人の女性の幸せを踏みにじって成り立っているのだ!!!」

マスグレープ伯爵は、怒りで真っ赤に染まった顔をして拳て机を打ち据えた。

「お前は、誰の事を言っておるのだ???」

「 アイラ様です。マリアベル様の場所は、元々アナベル嬢の場所だっのだ!
それをマリアベル様が取った。」

「 アイラだと?あの性悪の?
彼女は勝手に家を出たのだぞ!」

「違う!マリアベル様に追われたのだ。
あんなに献身的にクラレンス侯の看病をして、あれだけ愛し合っていたアイラ様を•••
親子二代に渡りアイラ様を苦しめ•••
王家がコーネリア様を、押しつけなかったら、アイラ様はクラレンス侯と幸せな結婚が出来たのに••• クッ、」

マスグレープ伯爵な涙を流した。

(何故、ここに、アイラの話が?アイラなどスッカリ忘れていたわ!)
そう思って頭を傾げたハワード侯

「 お前はアイラとどんな関係だったのだ?」

「 アイラ様は私にとって姉のような存在でした。
いつも優しくお声掛けして下さり、子供の頃はよく頭を、撫でくださった。
あの方が恋人を王家に奪われて泣き濡れていた時、私は彼女を守る事すら出来なかった••• 」

( 恋人を王家に奪われた?なんの事だ?)
ハワード侯は社交界に疎い所がある。
言っている事が全く理解出来なかった。


マスグレープはアイラの取り巻きだったのだ

アイラの信者である彼とは話し合いは平行線で終わった。



取り敢えず”侮辱罪”の三人は、後日また聞き取りをする事でお帰り願った。


残されたウーラノスは目を閉じて俯いていた。

「 マリアベル様よりこちらに署名をと•••」
クレイ法務大臣は一通の証書をウーラノスの前に置いた。

「 マリアベル様は今、何処に、」

「 クラレンス邸に帰られました。
ああ、もうこんな時間ですか! でしたら、私共の手配で安全な所に避難しているでしょう 」

「 そうか••• 」

そう言うとウーラノスは、まだマリアベルの名前の入っていない証書にサインをしようとした。

「 ウーラノス、君はそれでいいのか?
マリアベル様ともっと話し合いをしなければならないと思うのだが、、、」

ハワード侯は暫しウーラノスを止めた

「 私は、側にいながら姫を名誉を守る事が出来なかった。
本来なら、その場で直ぐアイツらに決闘を申し込むべきであったのに••• 不甲斐ない 」

「 しかし、、、 」

「 姫に拒絶され、このまましがみついては姫にご迷惑が掛かります。
私の姫に••• 」

ウーラノスは証書を前に置き、サインをする。
そして、指を切り血判を押し「フゥ、」と息を吐いた。

その時、一粒の涙が目から流れ落ちた

涙は頬を伝わり、書面のウーラノス•ドゥラークと書かれた文字を濡らした。

それは、ウーラノス•ドゥラークの心の中を示しているかのようであった。

「 本当に良いのですか?」
クレイ法務大臣も聞いた

「 ええ、」

そう答えたウーラノスは、まるで死地に赴く将軍のような顔をしていた。














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