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第二章

マリアベル マリッジブルーになる

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「力ずくで聖剣を使うつもりです!止めて下さいっ!!」
「分かってる!!」


珍しく余裕のないアイリィの声にレノは動き出す。彼女がここまで切羽詰った声を上げるなど、余程の事態であることはすぐに理解できた。


バチィイイイッ!!


レノは右手の聖爪(ネイルリング)を振りかぶり、甲冑の騎士に突撃する。左腕には紋様で強化させた「撃雷」を纏わせ、狙いを定められない様に左右に動き回りながら接近する。


『がああああァアアアアアアアッ!!』


理性を失ったかのように甲冑の騎士は強い苦しみを感じさせる思念を送り込んでくる。聖剣の力に耐え切れないのか、既に精神が可笑しくなり始めている。接近するのは危険だが、かと言って遠距離の攻撃が喰らう相手とは思えない。っここは自分が一番信用している技でで勝負に挑む。


ダァンッ!!


瞬脚を発動させ、高速に移動して甲冑の騎士の右側の側面に立ち、足元に目掛けて撃雷を放つ。


ズドォオオオンッ!!


「うぐっ……!?」


想像以上の硬度が左腕に広がり、見ると鎧に触れた拳に纏われた「風雷」がかき消されている。まるで最初から普通の拳で殴り込んだような形であり、古ぼけている割には頑丈な鎧には損傷を与ええていない。

あくまでも予想に過ぎないが、この鎧の材質にはミキから頂いた「短剣」と同じものが造られている可能性がある。あの短剣も魔法を無効化する能力があったはずであり、普通の魔法攻撃は通用しないのかもしれない。

すぐに左拳を下げると、甲冑の騎士が反撃に出る前に今度は肉体強化で右腕の腕力を強化させ、聖爪を甲冑のガントレットの部分に放つ。聖爪に纏わせた魔力は掻き消えるだろうが、勢いまでは殺すことは出来ない。例え魔力を消されようが、加速した拳までは止められない。


ドスゥウウウッ!!


『グゥウウウッ……!?』


先端の鍵爪が突き刺さり、ガントレットを貫く。その際に聖剣を握りしめる右腕が震えるが、掌を離す様子はない。


(……っ!?)


だが、それよりも先にレノは右腕に広がる感覚に違和感を覚える。確かに眼の前のガントレットを鋭利な鍵爪で貫いたはずだが、


(空っぽ……?)


中身に存在するはずの肉体を貫いた感触は感じられず、レノは肉体を刃物で抉る事は動物や人型の魔獣を相手に何度も体験しているが、明らかに右腕に広がる感覚は「空洞」だと知らせる。


「その鎧さんに肉体はありませんよ!離れてください!」
「それを先に……うわっ!!」


ブゥンッ!!


遂に甲冑の騎士が動き出し、鍵爪を貫かれたまま左腕を振り上げ、そのままレノの身体を浮き上げる。聖爪を引き抜こうとするが、その前に甲冑は恐るべき力で振り回し、勝手にガントレットから外れた。


「くっ……」


ドォオンッ!!


空中で体勢を整え、足裏に嵐を形成させて空中で「瞬脚」を行い、体勢を整える。元々は空中を移動するために開発した技であり、特に問題なく着地する。その後、アイリィの傍まで戻ると、彼女は右手を握りしめ、何らかの植物の種を投擲する。


「間に合うといいですけど……ほっ!」


樹の聖痕を発動させ、植物の種は甲冑の騎士の地面に触れた途端、


ブワァアアアアッ――!!


三本の巨大な蔓が地面から発生し、すぐにも甲冑の黒い鎧に絡みつく。それは拘束ではなく、明らかに押し潰す勢いだが、


『グググッ……!!』


ゴォオオオオオオッ――!!


身体を蔓に拘束されながらも、腰に差した「カラドボルグ」を引き抜こうとする甲冑にアイリィは舌打ちし、


「仕方有りません……レノさん!!あの腕ごと斬り裂いて下さい!!」
「腕ごと?」
「早く!!」


余裕のない声音にレノは頷き、今度はカラドボルグを握りしめている甲冑の両腕のガントレットを狙う。先ほどの攻撃で鉄甲を貫くことは出来たため、恐らくこの聖爪なら鎧に損傷を与えられるのは間違いない。

甲冑の騎士は明らかに暴走しており、近づくことも困難だが、このままあの危険な雰囲気を纏う聖剣を引き抜かせるわけにはいかない。


「はぁああああっ!!」
『ジャマヲ……スルナァッ!!』


接近するレノに向けて、甲冑は引き抜こうとした聖剣から一旦手を離し、左腕の掌を向けてくる。


(っ!?)


すぐにレノは直感でその場から「瞬脚」で跳躍した直後、



ドゴォオオオオンッ!!



先ほどまで彼が立っていた場所の地面が陥没し、円形型の凹みが生じる。すぐに何らかの衝撃系の魔法が送り込まれたのかと考えるが、それが何なのかまでは特定できない。


「その人は重力を操れますよ~!気を付けてくださいね~」
「そう言う事はもっと早く……ええい!!」
『オォオオオオオオオッ!!』


ドゴンッ!!ドゴォオオオンッ!!


次々とレノに重力波が放たれ、それを事前に避けながらも接近するが、その間にも聖剣は残された右腕に引き抜かれようとしている。このままでは近づく前に押し潰されてしまうが、そうなる前に何とか手を打たなければならない。
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