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二章:肝試しなんて身から出たアレ
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「おい、アレ見てみろよ……」
呼吸を整えた優弥が前方を指差した。
それは、和輝の眼には突如として現れたように感じた。
それ程までに、異質な空気がこの場には漂っていた。
辺りにはもう墓は無い。
その代わりに生い茂る草木。
和輝達は突っ込んで走り抜けて来たのは、墓地地帯から大きく道を外れた林の中のようだった。
墓地に入った時から和輝達もそれとなく感じ続けていたもの。
空気。
色。
匂い。
音。
その全てが、数メートルも離れていない墓地とは隔離されていた。
不安感。
拒絶。
不快感。
嫌悪。
ここに存在する一切が、今まで味わってきた何段階も上の重圧を無差別に振り撒いていた。
林の中にしては開けた場所だ、と最初に和輝は思った。
何かの小さな遊具か、または子供が秘密基地を組む事が出来そうな、そんな広さだ、と。
草木は生い茂っている。
だというのに、この周辺だけはまるで『それ』を避けるように命を根ざすのを止めているようだった。
湿った土の臭いが鼻を衝く。
頭上の遥か先まで成長した木々が、闇夜に浮かんだ星の輝きさえも消している。
暗闇の中で和輝は自分のバッグから小型の懐中電灯を取り出すと、この場所の中心に向けて電源に当てた指先にそっと力を込めた。
「井戸だ……!」
直線状に放たれた光が、重圧の原因たる物を照らし出す。
原因の確証は無い。だが間違いなくそれだ。
角度こそ違って見えるものの、御堂瞬宅で見たあのビデオと写真の井戸と巨樹。
今だ遠く離れた位置に見えて尚、五人の誰もがそれ以外を視界に入らせない程の存在感を放っている。
目の前の開けた場所に堂々と存在するその井戸は、何者も寄せ付けないような威圧する空気を持ってして、孤独に鎮座していた。
「ここまで……走ってきたのね」
まひろが一歩前に踏み出た。
それを訝し気に見ながら、入れ替わりで優弥が後ろに下がる。
「あぁ、ドキドキしてきた」
声色が嬉しそうだ。
未だに彼女の感覚は理解出来そうに無い。
素直な彼女の言葉を聞いて、和輝もまた自分の感想を素直に述べた。
「俺もドキドキしてきた……」
気が進まない。
たった今あんな目に遭ったというのに、これ以上を求めるのか。
「確かに、ドキドキだな、こりゃ」
まだ息を整えきれていない瞬が続く。
瞬だけは本気中の本気の走りを見せたのだ。
今だけは、心拍数という点において彼は誰にも負けていないだろう。
「……で、だ」
背後から優弥の声がした。
落ち着いた声音だったが、その少量の言葉の中に警戒も混じっているようだった。
「さっきまで追いかけられてた訳だが、本当にまだ行くつもりか?」
まひろが振り返る。
見えた顔には、やはり和輝が思い描いていた通りの爛々とした瞳が宿っていた。
「勿論よ! その為にここまで来たんでしょ? あれを撮らなきゃ帰るに帰れないわ」
「じゃあ、あの井戸さえ撮れれば満足なんだな?」
「撮れなかったら、舞に頼んで幽霊を貴方の傍に連れ込んであげるわ。大学生活、ずっと」
「あー……じゃあ、その前にだな。その霊感持ちの本条から忠告が有るそうなんだが」
優弥が横目で隣に蹲っていた女子を見る。
和輝は急に服の裾を引っ張られる感触に襲われ、バランスを崩しそうになる。
犯人は引っ張った反動で勢い良く立ち上がると、一つ大きな息を吐いて手の甲で汗を拭った。
「あの井戸の中、かなーりヤバめだよ。アタシ達が来た時から誘われてるって感じ」
支えが必要なら隣の優弥を使ってくれ。
何とか踏み止まった和輝の裾はまだ掴まれている。
予想以上の強い反発力を感じて動けなくなった和輝の代わりに、優弥が前に進み出た。
そのまま瞬の隣まで移動すると、これまで見せた事が無いような優しい力加減で瞬の左肩を叩いた。
「という訳で、瞬。ビデオ撮影はお前の出番だ」
呼吸を整えた優弥が前方を指差した。
それは、和輝の眼には突如として現れたように感じた。
それ程までに、異質な空気がこの場には漂っていた。
辺りにはもう墓は無い。
その代わりに生い茂る草木。
和輝達は突っ込んで走り抜けて来たのは、墓地地帯から大きく道を外れた林の中のようだった。
墓地に入った時から和輝達もそれとなく感じ続けていたもの。
空気。
色。
匂い。
音。
その全てが、数メートルも離れていない墓地とは隔離されていた。
不安感。
拒絶。
不快感。
嫌悪。
ここに存在する一切が、今まで味わってきた何段階も上の重圧を無差別に振り撒いていた。
林の中にしては開けた場所だ、と最初に和輝は思った。
何かの小さな遊具か、または子供が秘密基地を組む事が出来そうな、そんな広さだ、と。
草木は生い茂っている。
だというのに、この周辺だけはまるで『それ』を避けるように命を根ざすのを止めているようだった。
湿った土の臭いが鼻を衝く。
頭上の遥か先まで成長した木々が、闇夜に浮かんだ星の輝きさえも消している。
暗闇の中で和輝は自分のバッグから小型の懐中電灯を取り出すと、この場所の中心に向けて電源に当てた指先にそっと力を込めた。
「井戸だ……!」
直線状に放たれた光が、重圧の原因たる物を照らし出す。
原因の確証は無い。だが間違いなくそれだ。
角度こそ違って見えるものの、御堂瞬宅で見たあのビデオと写真の井戸と巨樹。
今だ遠く離れた位置に見えて尚、五人の誰もがそれ以外を視界に入らせない程の存在感を放っている。
目の前の開けた場所に堂々と存在するその井戸は、何者も寄せ付けないような威圧する空気を持ってして、孤独に鎮座していた。
「ここまで……走ってきたのね」
まひろが一歩前に踏み出た。
それを訝し気に見ながら、入れ替わりで優弥が後ろに下がる。
「あぁ、ドキドキしてきた」
声色が嬉しそうだ。
未だに彼女の感覚は理解出来そうに無い。
素直な彼女の言葉を聞いて、和輝もまた自分の感想を素直に述べた。
「俺もドキドキしてきた……」
気が進まない。
たった今あんな目に遭ったというのに、これ以上を求めるのか。
「確かに、ドキドキだな、こりゃ」
まだ息を整えきれていない瞬が続く。
瞬だけは本気中の本気の走りを見せたのだ。
今だけは、心拍数という点において彼は誰にも負けていないだろう。
「……で、だ」
背後から優弥の声がした。
落ち着いた声音だったが、その少量の言葉の中に警戒も混じっているようだった。
「さっきまで追いかけられてた訳だが、本当にまだ行くつもりか?」
まひろが振り返る。
見えた顔には、やはり和輝が思い描いていた通りの爛々とした瞳が宿っていた。
「勿論よ! その為にここまで来たんでしょ? あれを撮らなきゃ帰るに帰れないわ」
「じゃあ、あの井戸さえ撮れれば満足なんだな?」
「撮れなかったら、舞に頼んで幽霊を貴方の傍に連れ込んであげるわ。大学生活、ずっと」
「あー……じゃあ、その前にだな。その霊感持ちの本条から忠告が有るそうなんだが」
優弥が横目で隣に蹲っていた女子を見る。
和輝は急に服の裾を引っ張られる感触に襲われ、バランスを崩しそうになる。
犯人は引っ張った反動で勢い良く立ち上がると、一つ大きな息を吐いて手の甲で汗を拭った。
「あの井戸の中、かなーりヤバめだよ。アタシ達が来た時から誘われてるって感じ」
支えが必要なら隣の優弥を使ってくれ。
何とか踏み止まった和輝の裾はまだ掴まれている。
予想以上の強い反発力を感じて動けなくなった和輝の代わりに、優弥が前に進み出た。
そのまま瞬の隣まで移動すると、これまで見せた事が無いような優しい力加減で瞬の左肩を叩いた。
「という訳で、瞬。ビデオ撮影はお前の出番だ」
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