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決着のとき

決着のとき

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「丸一日中飼い主を横抱きしていてもヤツは疲れない。顔を見てみ。嫌がってないだろう。むしろ喜んでいる。ごつごつした四十過ぎの身体もいいけど、たまにはぬいぐるみみたいな可愛い子を抱っこするのも悪くないってな」
「ヤスさん、もしかして言葉分かるんですか?」
「いや、分からない。当てずっぽうだ」
ヤスさんがにやっと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
熊倉さんはカウンター席に座りぼんやりと遠くを眺めていた。黒服の男にガムテープを外してもらったみたいでナイフはもう握っていない。背後に監視役の男がふたり仁王立ちしていた。熊倉さんに話し掛けたくても、近付くことすら出来なかった。


数分後、熊倉さんの夫が熊倉さんを迎えに来てくれた。卯月さんがこうなることをあらかじめ予想して、いつでも駆け付けられるように熊倉さんの夫を別の車の中で待機させてくれていた。
「四季くん、あなたと出会えたことを神様に感謝しなきゃね。ありがとう」
「これから妻と一緒に警察に行きます。色々とありがとうございました」
「高いからすみません。下ろして下さいって何度も頼んでいるんですけど……」
「それが彼の仕事だもの」
熊倉さんがクスクスと笑っていた。
「やっぱり熊倉さんは笑っていた方が素敵です」
「あら~~褒めてくれるの?ありがとう。四季くんにそう言ってもらえるなんてすごく嬉しいわ。黒田さん、樋口さん、ありがとうございました」
熊倉さんは夫と、監視役の男たちに付き添われK警察署へ向かった。
入れ違いに彼とたもくん、少し遅れてコオお兄ちゃんが駆け付けてくれた。
「黒田さん、四季は?もしかして、怪我をして救急車で運ばれたとか?」
誰も座っていない車椅子を見た彼が一瞬で青ざめた。
「四季くんは大丈夫よ」
黒田さんが上をつんつんと指差した。
「上?」
彼が不思議そうに顔を上げた。
「あ」
「和真さんこれには色々と理由があって……」
顔が合うなりどうしていいか分からなくて、男性に下ろして下さいと目で訴えるしかなかった。
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