溺愛親王と竜神さまの巫女

ななもりあや

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天狗の里

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「なぜその事をご存知なんですか?あなたは本当に良貴殿なのですか?なぜ文を寄越してくれなかったのですか?」
矢継ぎ早に質問する頼理さま。
「儂は正真正銘の良貴だ。生きているのが弟の崇人《たかひと》に知られたら何の罪もない里の者たちが命を落とすからだ」
おもむろに袖を捲る惣右衛門さま。
「昔の火傷の跡だ。これで信じてくれるか?」
右手首の皮膚が分厚く硬くなっていた。それを確認したのち頼理さまが静かに頷いた。
「黒緋と藤黄が一人前になるまでの代役だ。それが先代大天狗との男の約束だから、破るわけにもいかず、こうして天狗の長をしている」
黒緋さまをちらっと見る惣右衛門さま。黒緋さまはじっと外を見ていた。布で顔を覆っているから表情までは伺い知ることは出来ない。
「頼理、余計なお節介かも知れんがな、黒緋にりんを取られないようにせいぜい気張れや」
惣右衛門さまがニヤニヤしながら頼理さまの肩に手をそっと置いた。
「よ、良貴殿、わ、私は……」
恥ずかしそうに目をぱちぱちさせる頼理さま。
「図星か」
あんまり恥ずかしそうにしている頼理さまに惣右衛門さまが、
「その年まで独り身なんだ。よっぽどの理由があるとは思っていたが、そうか、なるほどな」
ニヤニヤと笑い掛けた。
「良貴さま、だからりんとはまだ何も」
「ということは、これからはあるということだろ?」
「だ、だから、何もありません」
「本当にそうか?」
惣右衛門さまに突っ込まれタジタジになる頼理さま。額には汗が吹き出していた。
「惣右衛門、其奴も手負いの身。そのくらいにしておけ」
「お前が他人を気遣うとはな。珍しいな」
「邪魔者にさっさと里を出ていってもらいたいだけだ」
むっつりした表情を浮かべ喉から唸り声をあげるとぷいっとそっぽを向いた。
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