上 下
8 / 30

翠鳳さまの娘

しおりを挟む
「りんちゃんおいでよ」
子どもたちに手招きされ一歩だけ前には進んだけど、穏やかに流れる川面を見た瞬間、春休みにキャンプ場で弟に……迅《じん》に押されて川に落ちたことを思い出して足がガタガタと震え出した。
「ごめん、手が滑ったんだ。わざとじゃないから」と口ではそう言っていたけど迅は笑っていた。
「あら、まだかなづちなんだ」
母も大きなお腹を擦り、僕を馬鹿にするように笑っていた。
かなづちじゃない。水が怖いだけ。
母はすっかり忘れていた。風呂場で僕を二度殺そうとしたことがある、ということに。
たまたま偶然川遊びをしていた大学生のグループがいて、その人たちに助けてもらった。もしその人たちがいなかったどうなっていたんだろう。溺れて死んでいたかも知れない。
「りん、無理すんな。俺が行くから大人しく座って待ってろ」
白鬼丸が犬の姿から人型へと変化すると川に勢いよく飛び込んでいった。
バジャーンと大きな水しぶきがあがり子どもたちが大喜びしていた。
「もしかしてきみがりんか?」
静かな低音の品位のある声が背後から聞こえてきて、ドキッとしながら振り向くと子どもくらいの大きな烏が目の前にいたからびっくりした。
しおりを挟む

処理中です...