single tear drop

命をかけた彼の一途な想い

命をかけた彼の一途な想い

ペンションに戻るまで口を真一文字に結び、腕を前で組んで黙り込んでいた彼。
原因を作ったのは僕だから、彼の機嫌が直るまで当たらず障らず待つことにした。焼きもち妬きは当たらず障らずほっとくのが一番。橘さんと惣一郎さんの口癖だ。

遡ること１時間前。

人の女房にべたべた触るな、さっき言ったことをもう忘れたのか？鳥飼さんに掴み掛かろうとした彼を颯人さんと睦さんが二人がかり何とか押さえ事なきを得た。
憮然とする彼を宥めながら、二人に見送られ病院の一階に向かうと、黒塗りのハイヤーが出入り口に横付けされていて、みんなあえて見ないように避けるように足早にその前を通り過ぎていた。
そのハイヤーを一目見るなり、彼がはぁ……とため息をついたのが分かった。

「何でお前がここにいるんだ」

「未知が心配だからに決まってるいるだろう」

車の中から颯爽と姿を現したのは鷲崎さんと同い年くらいの男性だった。やせ形ですごく背が高かった。

「コイツは信孝の兄の遼成だ」

彼の紹介が終わらないうちに車から降りてきたもう一人の男性にムギューと抱き付かれて身動きがとれなくなってしまった。

「未知、良かった無事で……」

「何でお前までいるんだ」

ますます彼の機嫌が悪くなった。
遥琉さん、僕の知ってる人？
身ぶり手振り彼に助けを求めた。

「信孝の弟の龍成だ。光希が…………光希は俺たちのカミさんだ。どうしても未知の世話がしたいっていうから。俺達も付いてきた。それにしても良かった。未知も赤ん坊も元気で」

龍成さんが嬉しそうにおなかを撫でてくれた。
それを見た瞬間、彼の表情が強張り目付きが変わった。
ただでさえ機嫌が悪いのに。火に油を注いだからそれこそ収拾がつかなくなるのに。

「お前まで人の女房にべたべた触ってんじゃあねぇ」

「別に減るもんじゃないだろ」

「あ？」

遥琉さんも、龍成さんも喧嘩は駄目。
慌てて二人の腕を掴んだ。

「そうやって未知が甘やかすから、鳥飼も龍成も付け上がるんだろう？違うか」

「そういう言い方ないだろう」

「五月蝿いな。未知、帰るぞ」

がしっと手首を掴まれそのまま駐車場へと連れていかれた。

そして今に至る訳で…………