single tear drop

ななもりあや

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ゴメンね

ゴメンね

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「上総さんも、嫁と孫のことになると人が変わりますからね。腕が立つ若い衆を弾よけに寄越したんですよ」

(あの橘さん………)

聞いたら怒られるかな?
こんなにも厳重な警備体制を敷くということはつまり、僕や子供達の命が狙われているってことでしょう?

見えない影に怯えながら、不安げな瞳で橘さんを見上げると、

「未知さんは何も心配しなくていいんですよ」

柔らかな笑顔で見詰め返された。

(橘さん、そうじゃないの。僕の為に傷付く人を……ーー)

あれ?
この言葉、どこかで言ったような………
腕に微かに残るずしりとした重み。
いつも守られてばかりで、そんな自分が不甲斐なくて………

それ以上はなぜか思い出せなかった。
思い出そうとすればするほど胸が締め付けられるくらい苦しくなって、息をすることでさえしんどくて、頭がくらくらしてきた。

「ゆっくり深呼吸をして下さい。私が付いてますから。大丈夫ですよ」

橘さんが優しく背中を擦ってくれた。


その時、瞼にふと女性の姿が浮かんできた。
目映い光に遮られ顔まではよく見えなかったけれど、全身血塗れで、真っ赤に染まったナイフの先からは血がひたひたと床に零れ落ちていた。

「死ね、この疫病神!」

気が狂ったように髪を振り乱しながら、そのナイフを高く掲げた。

「僕はどうなっても構わないから、子供達とおなかの子だけは助けて!お願い!」

迫り来る恐怖と炎に包まれながらありったけの声で叫んだ。


「ーー………未知さん、しっかりして下さい。未知さん!」

橘さんの声がなぜか遠くに聞こえる。
こんなにも近くにいるのに何で?
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