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いのちの線引き
いのちの線引き
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「・・・・尊・・・・・」
一太のあどけない寝顔にかつてのお兄ちゃんの姿を重ね合わせたのだろうか、彩さんの目からはらはらと涙が零れ落ちた。
「何で」そう言いかけてその場に足元から崩れ落ちた。
「アンタみたいな気色悪い生き物の子供がこの世に生を受けて、アタシのお腹の子が生を受けないなんて理不尽だと思わない?何で生命《いのち》の線引きをされないといけないの!未知、アンタさえいなければ、アタシも尊もこんな惨めな思いをしなくて済んだ。アンタが憎い」
白目を剥いて吐き捨てると懐からもう一丁隠し持っていた拳銃を取り出した。
恐怖のあまり足ががくがくと震えて、その場に縫い止めされ身動きさえ出来ないでいたら、一太がすっと立ち上がり僕を守るように彩さんの前に立ち塞がった。
「一太ダメ、逃げて!」
「なんでおねえしゃんは、ままをわるくいうの?ねぇ、なんで?」
大きな瞳を真っ直ぐに向けて不思議そうに彩さんを見上げた。
「五月蝿い!五月蝿い!」
ブンブンと首を横に振りながら銃口を一太の額に向ける彩さん。一太は怖がる様子も見せず、
「いちたね、パパとやくそくしたんだ。パパがいないときはぼくがママやハルちゃん、たいくん、ここちゃんをまもるって」
そう口にし動こうとはしなかった。
そんな一太の毅然とした姿に、彩さんの心は振り子のように大きく揺らいだ。
「パパが好きなのね」
「うん!パパもママもみんなだいすきだよ。おねえしゃんもままのことすきになれるよ」
「そうだね。でももう遅い」
彩さんは銃口を自分のこめかみに押し当てた。
「アタシは真珠。彩じゃない」
フフと薄笑いを浮かべた。
「彩さん!」
引き金を引こうとした彼女を吉崎さんが身を挺して守った。
「お前は貝沼彩だ。罪を償って、また一からやり直したらいいだろう。一太の想いをちゃんと受け取ってやれ」
拳銃を取り上げて諭すように声を掛けた。
ちょうどその時だった。
庭の方からパンパンと銃声が二回鳴り響いたのは。
「橘、紗智、遥香に見せるな」
次の瞬間には広くて大きな胸にすっぽりと抱き締められた。
「未知も一太も見ちゃ駄目だ」
一太のあどけない寝顔にかつてのお兄ちゃんの姿を重ね合わせたのだろうか、彩さんの目からはらはらと涙が零れ落ちた。
「何で」そう言いかけてその場に足元から崩れ落ちた。
「アンタみたいな気色悪い生き物の子供がこの世に生を受けて、アタシのお腹の子が生を受けないなんて理不尽だと思わない?何で生命《いのち》の線引きをされないといけないの!未知、アンタさえいなければ、アタシも尊もこんな惨めな思いをしなくて済んだ。アンタが憎い」
白目を剥いて吐き捨てると懐からもう一丁隠し持っていた拳銃を取り出した。
恐怖のあまり足ががくがくと震えて、その場に縫い止めされ身動きさえ出来ないでいたら、一太がすっと立ち上がり僕を守るように彩さんの前に立ち塞がった。
「一太ダメ、逃げて!」
「なんでおねえしゃんは、ままをわるくいうの?ねぇ、なんで?」
大きな瞳を真っ直ぐに向けて不思議そうに彩さんを見上げた。
「五月蝿い!五月蝿い!」
ブンブンと首を横に振りながら銃口を一太の額に向ける彩さん。一太は怖がる様子も見せず、
「いちたね、パパとやくそくしたんだ。パパがいないときはぼくがママやハルちゃん、たいくん、ここちゃんをまもるって」
そう口にし動こうとはしなかった。
そんな一太の毅然とした姿に、彩さんの心は振り子のように大きく揺らいだ。
「パパが好きなのね」
「うん!パパもママもみんなだいすきだよ。おねえしゃんもままのことすきになれるよ」
「そうだね。でももう遅い」
彩さんは銃口を自分のこめかみに押し当てた。
「アタシは真珠。彩じゃない」
フフと薄笑いを浮かべた。
「彩さん!」
引き金を引こうとした彼女を吉崎さんが身を挺して守った。
「お前は貝沼彩だ。罪を償って、また一からやり直したらいいだろう。一太の想いをちゃんと受け取ってやれ」
拳銃を取り上げて諭すように声を掛けた。
ちょうどその時だった。
庭の方からパンパンと銃声が二回鳴り響いたのは。
「橘、紗智、遥香に見せるな」
次の瞬間には広くて大きな胸にすっぽりと抱き締められた。
「未知も一太も見ちゃ駄目だ」
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