single tear drop

ななもりあや

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彼のお兄さん

彼のお兄さん

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「ツァウ  ス  ラ!」
「ハウ  ツァウ!」
青筋を立てて怒鳴る男の声が車内に響いていた。日本語じゃないから何を言ってるのか、どうしてそんなに怒っているのかが全然分からない。

「何をしてる?」
前の席に座る真沙哉さんが後ろを振り返った。
すっかり冷たくなってしまった哺乳瓶を両腕で抱き締め必死に温めようとしていた遥香をじろりと冷たい目で睨み付けた。

「ここちゃんも、たいくんもおなかがすいてるの。おじちゃんわからないの?」

怖がることも、物怖じすることもなく遥香は堂々と答えた。

狭い車内に押し込まれ、男たちが回りを取り囲み睨みをきかせるこの状況で、流石に胸を出すわけにもいかなくて。お腹を空かせギャン泣きする心望と太惺に授乳すら出来ずにいた。

「そうか」

真沙哉さんは隣にいた男に何やら話し掛けた。

「5分だけ待ってやる。さっさと授乳を済ませろ」

そのまま国道沿いのコンビニの駐車場に車が滑り込み、人目のつかない一番奥に停車すると、真沙哉さんを残し男たちが一斉に車から下りていった。

「俺のことは気にしなくていい。それよりもガキ共をさっさと黙らせろ」

腕を胸の前で組み、シートに深く背もたれた。

太惺、心望あまり時間がないから、少しで我慢してね。

泣き疲れてうとうとし始めた心望を隣に寝かせ、太惺から先におっぱいをあげることにした。
遥香が、いいこにしててね、そう話し掛けながら心望の胸や頭を優しく撫でてくれた。
ママが喋れれば、大声で助けを呼ぶことも叫ぶことも出来たのにね。ごめんね遥香。また巻き込んじゃったね。

本当にほんの一瞬の出来事だった。
部屋の中に誰かいる、そう気付いたときにはすでに銃を構えた男たちに取り囲まれていた。
片言の日本語で、ダマレ!シズカニシロ!そう脅され、腕を捕まれあっという間に連れ出された。
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