single tear drop

ななもりあや

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過去に囚われたままの彼

過去に囚われたままの彼

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その日の夕方、仕事を終えた彼が迎えに来てくれた。橘さんからおおよそのことは聞いていたみたいで、茨木さんと橘さんと肩を並べ、カウンター席で何やら難しい顔をして一時間近く話し込んでいた。

「ごめんな未知。遥香もごめんな」

待ちくたびれて、胸元にしがみついたまま眠ってしまった娘の髪を指先で優しくそっと撫でてくれた。

「前に一度、遼成が同性婚していると説明したが、次男の信孝も同性と結婚し、一太くらいの養子を二人育てている」

その言葉にようやく納得した。
なぜ縣さんが、同性同士の夫婦に驚かなかったのか。偏見を持たずに自然に接してくれたのか。

「縣さんも、うちの親父と同じだ。組の連中の前では口喧しい昔気質の気難しいオヤジだが、孫たちの前ではガラリと性格が変わる。目に入れても痛くないくらい孫たちを可愛がっているから、遼成たちからは、親バカならぬ孫バカだ、そう言われている」

彼がスマホの画面を見せてくれた。

彼くらいの年齢の長身の男性と、僕と同世代くらいの青年が笑顔で写っていた。一太くらいの男の子が二人。男性の足にしがみついていた。片方の子は満面の笑みを浮かべていたけれど、もう片方の男の子は恥ずかしいのか
俯いていた。一瞬双子かなと思ったけれど。

「信孝とその妻のナオだよ。信孝は俺より二歳年上。ナオは未知と同じ二十一歳だ。笑っている方が長男の晴(はる)五才、俯いているのが次男の未来(みく)だ。推定五才。信孝たちに引き取られるまで戸籍がなかったから、本当の名前や、年齢、生年月日が全く分からない。誰が母親なのかも分からない。信孝とナオは、晴の双子の弟として愛情を注いで育てている」

血の繋がりなんて関係ない、縣さんの言葉を思いだし、スマホの画面に釘付けになった。

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