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1話 一緒に寝たいのっ!
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「だーかーら、何でそう断るのっ!私、私…………」
「……いや、誰だっていきなりあんなこと言われたら誰だって戸惑うし断るだろ!?」
「……私、変なことしないよ?落書きだってしない」
「逆に俺が変なことをしようとしたらどうすんだよ」
「……えっ、私に変なことするつもりなの……?」
「ああ、あんなことやこんなことをじっくり……」
「…………嘘、バレバレ。私には分かる」
「……なんで分かんだよ……」
「……そうやってハッタリをかけたらすぐに白状してくれるところとか!」
「……ハッタリだったのか……。クソッ」
「で、そろそろ私と一緒に……」
「いや、それは……それは絶対にないっ!」
こじんまりとしたよくあるアパートの一室、夜もこれからどんどん更けていくであろう頃、ピンクのパジャマ姿の少女と、全身黒色で少しボロボロのフードのある服を纏った男が何やら言い争っている。
「あーっ、埒が開かねぇ!俺はその辺の床で寝るから!何回も言ってるけど!」
「なんでよっ!別に……別に問題無いじゃん!確かに私のスペースはちょびっと少なくなるかもだけど……いいじゃん!一緒のベッドで寝ることくらい!」
「いや、それが大問題だっつーの!」
どうやら、一緒のベッドで寝るか寝ないかで揉めているらしい。少女は男と一緒に寝たいようだが、男は少女と一緒に寝ることを躊躇っているようだ。 まあ、躊躇う理由は想像に難くない。
男はどうやって少女の頼みを断ろうか悩んでいた。"寝るスペースが狭くなるだろ"と言おうにも、あいにくのダブルベッドなのでスペースに困ることはない。男の考えは浮かんでは消えていった。
「…………いいよ、そんなに一緒に寝たくないなら……。私は一人ベッドで寂しく寝てるから……」
男が考えているとき、少女はとうとう諦めた様子で言う。服は握られて少しシワになっていて、目元には涙があり一粒、二粒とほっぺを伝ってポタポタと床に涙が落ちていく。
「……あーっ、分かった、分かったよ!一緒に寝たいんだろ?その代わり、何をされても文句は言うなよ!」
……どうやら男は女の子の涙に弱いようだ。少女は泣くのをやめ、男に対して微笑みかける。
「じゃあ、早くベッド行くぞっ!」
「うん!」
男はゆっくりとベッドの方へ向かう。少女は返事をした後、男よりも早くベッドまで小走りで行き、窓側の方で横になる準備をしている。
「えへへ……早く早く!」
「……へいへい」
男がベッドに着き、寝転がる。そして、少女の向いている方とは反対側のドアの方を向いて横になる。
「……ねえ、こっちむいてよ……」
男は少女にそう言われてしまったので、渋々少女の方へ寝返る。そこには、優しそうな、でもどこか眠たそうな顔をした少女の姿があった。
「えへへ……おやすみ」
男が寝返った後、少女は今にも夢の中に落ちそうな声で男に対して言う。そして、直にすぅすぅと寝息を立てて寝てしまった。
「…………おやすみ」
男も、もう寝てしまっている少女に向かって言い、そして目を閉じた。
────────
「……ちぇっ、まだ夜かよ……。これで何回目だ?やっぱ夜に寝るっつーのは慣れねぇなあ」
男は目を閉じていたものの、この夜だけで何回も、こうやって目を開けては退屈な夜が過ぎてことを待っていた。寝ようと頑張っても寝ることが出来ない。無理もない、男はもともと夜に活動する人間であった。……今はあいにく違うようだが。
月の明かりが窓からすぅーと差し込んでいる。その光の先、男の隣には少女が隣で、すぅすぅと寝息を立てて寝ていた。男はそんな少女の頬をそっと撫でる。
「ったくよ、どうしてこんなことに……今頃俺は任務で忙しくなっていたかもしれないのにどうしてこんな……。それもこれもあの……」
男が最後まで言いかけたその時、ハッとしたような感じでギロッ、ギロッと鋭い目つきで周りを見渡す。すると、ベッドから二歩、三歩離れたところに十歳くらいだろうか。男よりもずーっと背の低い少女が一人、手を後ろに組んで立っていた。
「てめぇ……。よくも俺の前に出てきたな。このクソ野郎!」
「しっー!ほら、静かにしないとあなたの隣にいる子、起きちゃうよ?」
少女は不敵な笑みを浮かべる。男はギロッと鋭く睨みつけたままだ。また、男は少女を庇うように少し腕を横に伸ばしている。
「それに、私は"野郎"じゃないし女だし。そこんとこ間違えるとかレディに失礼じゃなーい?あっ、あと、私クソになった覚えはないんだけど?」
「うるせえ、澄ました顔で言ってんじゃねえよ!」
「あーもう!あなたって本っ当にうるさい!そんなにうるさい声で話してると隣にいるかわい子ちゃんに嫌われちゃうぞ~?ねっ、ブ、ラ、ン、君?」
「一応聞くが、俺の名前がブランじゃないってことは分かってるよな?前からブラン、ブランって言ってるが……俺の本当の名前、言ってみろよ」
「え~、本当の名前?……何だっけ。ブランシュとか?」
「俺はブランでもブランシュでもない、ブラッドだ間違えんなこのクソ女神!」
男、もといブラッドは今にも目の前にいる女神を手に掛けそうな勢いで言う。女神も女神で怯えるとか怖がるとかは一切なく、相変わらず手を後ろに組んでいるままだ。
「ウソウソ、ブラッドなのは知ってるんだけどさー、ブラッドって"血"って意味があるんだよね。しかもこれはコードネームで本当の名前は忘れたときた……」
「……何が言いたい」
「あなたの名前を呼ぶ時、ずっと血、血って言うことになるの。だから私、決めました!」
「……何を」
「これからも、あなたのことをブランって呼ぶことに!……あっ。前にも言ったけど、もしもこの子とかほかの人にブラッドって呼ばせてたらブランとかブランシュって呼ばせてあげてね。気分が悪くなるから」
「余計なお世話だ。……てか、何の用だよこのクソ女神!」
女神の方は余裕でどこか澄ましている様子だが、ブラン…………いや、ブラッドの方はイライラが募っていた。因縁の女神と話しているということもあるだろうが、初めてではない会話の内容にもイライラしていた。
「いやー、ブラン君今頃どうしてるのかなーって思ってさ……来ちゃった。……てへっ!」
「"てへっ!"じゃねえよ!」
「んー、まあでも案外いい暮らし出来てるじゃん。転生から数日で家を見つけて、さらにはこの子と……やるじゃん!」
女神は感心したように言う。まさかこんなに充実しているとは……という意外な感情も入ってそうたが、ブラッドは充実とは程遠いどこか不満げな表情であった。
「バカ野郎、俺がこいつを拾ったんじゃなくて俺が拾われたんだよ!橋の下で野宿してる所を!」
ブラッドが隣にいる少女を指差して言う。女神は心底意外だというような顔でブラッドと少女を見る。
「ひゃー、この子からねえ。ふーん。……で、そんな子とさっきまで寝ていたと。あなたもこの数日で随分と様変わりしたじゃない!最初会ったときにはあんなに乱暴者で私に殴りかかろうとしてたのに……今思い出しても寒気がするね」
「しみじみ言うんじゃねーよ!てか、お前、余裕そうな顔だったじゃねーか!ったく……俺は何一つ変わっていないぞ。このまま過ごすのは性に合わない。だから早くこんな所出て行って……」
「でも、私はこんな暮らしもいいと思うけどなあ~。前世は結っっ構ピキピキしたじゃん?このスローな人生もいいもんだと思うけど」
「うるせぇ、俺はいつもピキピキした張り詰めてんのが好きなんだよ!」
「まっ、ブランって"元"暗殺者だもんねぇ。初めて聞いたとき、ちょっと驚いちゃった」
「"元"って……そこを強調すんなよ。気持ちの上では今でも暗殺者なんだから」
「……それにさぁ、せっかくこの子が野宿してたあなたを拾ってくれたんでしょ?この子のためにもまだここにいてもいいんじゃなーい?」
「……うるせぇ」
ブラッドはすっかり大人しくなってしまった。どうやら、隣にいる少女のこととなるといつもの乱暴さも身を潜めてしまうようだ。
「……まあ、そこら辺はブランの自由だから。あと、今日は帰らせてもらうよ。ブランの様子も見れたし……」
「おう、さっさと帰れよこのクソ女神!」
「おー、最後までひどい言われようだ。まあ、私にはシエルって名前があるから今度会うときはクソ野郎とかクソ女神とかバカ野郎じゃなくてちゃんと名前で呼んでちょうだいねー?次はその子の様子も見に来るから!……じゃっ!」
ブラッドが一瞬のまばたきをした時にはもうシエルは部屋にはいなかった。あるのは隣にいる少女と夜の静寂、月の光だけである。
「くそ、あのクソ女神……!次会ったときには……」
ブラッドは右手で作った拳を自身の前に持って来て言う。その姿はまるで神、あるいは女神にでも誓っているかのようだ。
「……いや、誰だっていきなりあんなこと言われたら誰だって戸惑うし断るだろ!?」
「……私、変なことしないよ?落書きだってしない」
「逆に俺が変なことをしようとしたらどうすんだよ」
「……えっ、私に変なことするつもりなの……?」
「ああ、あんなことやこんなことをじっくり……」
「…………嘘、バレバレ。私には分かる」
「……なんで分かんだよ……」
「……そうやってハッタリをかけたらすぐに白状してくれるところとか!」
「……ハッタリだったのか……。クソッ」
「で、そろそろ私と一緒に……」
「いや、それは……それは絶対にないっ!」
こじんまりとしたよくあるアパートの一室、夜もこれからどんどん更けていくであろう頃、ピンクのパジャマ姿の少女と、全身黒色で少しボロボロのフードのある服を纏った男が何やら言い争っている。
「あーっ、埒が開かねぇ!俺はその辺の床で寝るから!何回も言ってるけど!」
「なんでよっ!別に……別に問題無いじゃん!確かに私のスペースはちょびっと少なくなるかもだけど……いいじゃん!一緒のベッドで寝ることくらい!」
「いや、それが大問題だっつーの!」
どうやら、一緒のベッドで寝るか寝ないかで揉めているらしい。少女は男と一緒に寝たいようだが、男は少女と一緒に寝ることを躊躇っているようだ。 まあ、躊躇う理由は想像に難くない。
男はどうやって少女の頼みを断ろうか悩んでいた。"寝るスペースが狭くなるだろ"と言おうにも、あいにくのダブルベッドなのでスペースに困ることはない。男の考えは浮かんでは消えていった。
「…………いいよ、そんなに一緒に寝たくないなら……。私は一人ベッドで寂しく寝てるから……」
男が考えているとき、少女はとうとう諦めた様子で言う。服は握られて少しシワになっていて、目元には涙があり一粒、二粒とほっぺを伝ってポタポタと床に涙が落ちていく。
「……あーっ、分かった、分かったよ!一緒に寝たいんだろ?その代わり、何をされても文句は言うなよ!」
……どうやら男は女の子の涙に弱いようだ。少女は泣くのをやめ、男に対して微笑みかける。
「じゃあ、早くベッド行くぞっ!」
「うん!」
男はゆっくりとベッドの方へ向かう。少女は返事をした後、男よりも早くベッドまで小走りで行き、窓側の方で横になる準備をしている。
「えへへ……早く早く!」
「……へいへい」
男がベッドに着き、寝転がる。そして、少女の向いている方とは反対側のドアの方を向いて横になる。
「……ねえ、こっちむいてよ……」
男は少女にそう言われてしまったので、渋々少女の方へ寝返る。そこには、優しそうな、でもどこか眠たそうな顔をした少女の姿があった。
「えへへ……おやすみ」
男が寝返った後、少女は今にも夢の中に落ちそうな声で男に対して言う。そして、直にすぅすぅと寝息を立てて寝てしまった。
「…………おやすみ」
男も、もう寝てしまっている少女に向かって言い、そして目を閉じた。
────────
「……ちぇっ、まだ夜かよ……。これで何回目だ?やっぱ夜に寝るっつーのは慣れねぇなあ」
男は目を閉じていたものの、この夜だけで何回も、こうやって目を開けては退屈な夜が過ぎてことを待っていた。寝ようと頑張っても寝ることが出来ない。無理もない、男はもともと夜に活動する人間であった。……今はあいにく違うようだが。
月の明かりが窓からすぅーと差し込んでいる。その光の先、男の隣には少女が隣で、すぅすぅと寝息を立てて寝ていた。男はそんな少女の頬をそっと撫でる。
「ったくよ、どうしてこんなことに……今頃俺は任務で忙しくなっていたかもしれないのにどうしてこんな……。それもこれもあの……」
男が最後まで言いかけたその時、ハッとしたような感じでギロッ、ギロッと鋭い目つきで周りを見渡す。すると、ベッドから二歩、三歩離れたところに十歳くらいだろうか。男よりもずーっと背の低い少女が一人、手を後ろに組んで立っていた。
「てめぇ……。よくも俺の前に出てきたな。このクソ野郎!」
「しっー!ほら、静かにしないとあなたの隣にいる子、起きちゃうよ?」
少女は不敵な笑みを浮かべる。男はギロッと鋭く睨みつけたままだ。また、男は少女を庇うように少し腕を横に伸ばしている。
「それに、私は"野郎"じゃないし女だし。そこんとこ間違えるとかレディに失礼じゃなーい?あっ、あと、私クソになった覚えはないんだけど?」
「うるせえ、澄ました顔で言ってんじゃねえよ!」
「あーもう!あなたって本っ当にうるさい!そんなにうるさい声で話してると隣にいるかわい子ちゃんに嫌われちゃうぞ~?ねっ、ブ、ラ、ン、君?」
「一応聞くが、俺の名前がブランじゃないってことは分かってるよな?前からブラン、ブランって言ってるが……俺の本当の名前、言ってみろよ」
「え~、本当の名前?……何だっけ。ブランシュとか?」
「俺はブランでもブランシュでもない、ブラッドだ間違えんなこのクソ女神!」
男、もといブラッドは今にも目の前にいる女神を手に掛けそうな勢いで言う。女神も女神で怯えるとか怖がるとかは一切なく、相変わらず手を後ろに組んでいるままだ。
「ウソウソ、ブラッドなのは知ってるんだけどさー、ブラッドって"血"って意味があるんだよね。しかもこれはコードネームで本当の名前は忘れたときた……」
「……何が言いたい」
「あなたの名前を呼ぶ時、ずっと血、血って言うことになるの。だから私、決めました!」
「……何を」
「これからも、あなたのことをブランって呼ぶことに!……あっ。前にも言ったけど、もしもこの子とかほかの人にブラッドって呼ばせてたらブランとかブランシュって呼ばせてあげてね。気分が悪くなるから」
「余計なお世話だ。……てか、何の用だよこのクソ女神!」
女神の方は余裕でどこか澄ましている様子だが、ブラン…………いや、ブラッドの方はイライラが募っていた。因縁の女神と話しているということもあるだろうが、初めてではない会話の内容にもイライラしていた。
「いやー、ブラン君今頃どうしてるのかなーって思ってさ……来ちゃった。……てへっ!」
「"てへっ!"じゃねえよ!」
「んー、まあでも案外いい暮らし出来てるじゃん。転生から数日で家を見つけて、さらにはこの子と……やるじゃん!」
女神は感心したように言う。まさかこんなに充実しているとは……という意外な感情も入ってそうたが、ブラッドは充実とは程遠いどこか不満げな表情であった。
「バカ野郎、俺がこいつを拾ったんじゃなくて俺が拾われたんだよ!橋の下で野宿してる所を!」
ブラッドが隣にいる少女を指差して言う。女神は心底意外だというような顔でブラッドと少女を見る。
「ひゃー、この子からねえ。ふーん。……で、そんな子とさっきまで寝ていたと。あなたもこの数日で随分と様変わりしたじゃない!最初会ったときにはあんなに乱暴者で私に殴りかかろうとしてたのに……今思い出しても寒気がするね」
「しみじみ言うんじゃねーよ!てか、お前、余裕そうな顔だったじゃねーか!ったく……俺は何一つ変わっていないぞ。このまま過ごすのは性に合わない。だから早くこんな所出て行って……」
「でも、私はこんな暮らしもいいと思うけどなあ~。前世は結っっ構ピキピキしたじゃん?このスローな人生もいいもんだと思うけど」
「うるせぇ、俺はいつもピキピキした張り詰めてんのが好きなんだよ!」
「まっ、ブランって"元"暗殺者だもんねぇ。初めて聞いたとき、ちょっと驚いちゃった」
「"元"って……そこを強調すんなよ。気持ちの上では今でも暗殺者なんだから」
「……それにさぁ、せっかくこの子が野宿してたあなたを拾ってくれたんでしょ?この子のためにもまだここにいてもいいんじゃなーい?」
「……うるせぇ」
ブラッドはすっかり大人しくなってしまった。どうやら、隣にいる少女のこととなるといつもの乱暴さも身を潜めてしまうようだ。
「……まあ、そこら辺はブランの自由だから。あと、今日は帰らせてもらうよ。ブランの様子も見れたし……」
「おう、さっさと帰れよこのクソ女神!」
「おー、最後までひどい言われようだ。まあ、私にはシエルって名前があるから今度会うときはクソ野郎とかクソ女神とかバカ野郎じゃなくてちゃんと名前で呼んでちょうだいねー?次はその子の様子も見に来るから!……じゃっ!」
ブラッドが一瞬のまばたきをした時にはもうシエルは部屋にはいなかった。あるのは隣にいる少女と夜の静寂、月の光だけである。
「くそ、あのクソ女神……!次会ったときには……」
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