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第五章 激突!園谷家vsカルナーランカ
避難所にシャドウが襲来
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友徳たちは学校の一室を借りて、園谷家が操る変容・シャドウやハーフ・ペータについて学んでいた。ハーフ・ペータは神倭国の技術でカルナーランカのジョンにも詳しことは分からないが、一種の餓鬼の生命を使役しているという。
また、この講習で子どもたちは武器にエンチャントする方法を学んだ。ジョンがお手本にサーベルに地の元素をエンチャントすると、煌めく銀の刃が黒光になった。
「地の元素は質量を増すんだ。刃先の質量が大きいほど、刃物の切れ味は増す」
子供達の中で成功したのは友徳だけだった。炎を纏った刃を彼はフェンシングの要領で構える。子供達は蛇の巻き付いたような刃に熱のこもった視線を向けた。
また、光弾を放って相手の気を失わせるフラッシュという技も学び、これは智咲が最も上手く扱った。悪意を持つ人間に撃つと、身体がバグりそのまま外傷や痛みも感じないで気絶するという。続いてジョンは今の村の情勢を語る。
「この前、みんな知っている通り村で内乱があったな。その影響で今、目的のない暴力がそこらじゅうで勃発しているんだ。反対党派の人間を襲ったりな。暴力そのものが目的になっている。園谷家は弥勒救世軍と調停したんだが、この前の内乱では戦うつもりはなかったと主張している。つまり、日本軍支持の市民が暴発して弥勒救世軍と戦ったので、日本人を守るために、自分たちに害が及ばないように防衛として戦ったまでだとな」
「園谷家って何が目的なんですか?」と正道。
「わからないが、村に対する弥勒救世軍の影響力を削ぎたい思惑もあるんじゃないかな。とにかく、園谷家と弥勒救世軍がまた、戦うことになったら君たちは学校に防衛に参加してくれ。学校には変容・シャドウに取り込まれたことのある子供達がいる。変容・シャドウはなぜか知らないがそういう子をもう一度取り込もうとするんだ」
「それとな、シャドウは種類に関わらず、人間のエネルギーを元にしている変容・シャドウもそうだが、さっきの光子状の技は無意味だ。奴らは人工知能で動いているからな。精神に作用して効果をもたらす技は通用しない」
村の複雑怪奇な情勢を理解する子どもたちはいないと友徳は思った。弥勒救世軍ですら何がしたいのかわからないのだ。
友徳と正道、飛鳥は机と椅子が取り除かれた部屋に入って、サーベルを光子状の無害な状態にしてから西洋剣術のモノマネでチャンバラをした。
友徳が渾身の一撃を身体の中央に放つと、正道はそれを叩き、それの軌道を華麗に逸らして逆に痛烈な反撃を横に薙ぎ払う。光子状態とはいえ友徳の身体には打ち込まない。友徳も寸止めみたいにあとちょっとというところで剣先を停める。
剣をバチっ、ガチっと鳴らすことが目的化し、より上手く相手の剣筋を逸らすことに集中する。
一通り遊び終えた友徳たちは踊り場に行って水分補給をし、家族が待つ教室に向かった。
「今日さ、暇だし夜にさ、誰も使っていない3階に教室で肝試ししない?」と飛鳥は汗をハンカチで拭いながらいった。
友徳たちは、この狭い学校内での生活に飽き飽きしていた。カルナーランカからの支援物資を教室に運び込んだり、炊き出しを装ったり、洗い物のお手伝いなどすることはあったが、それでもこの狭い学校から一歩も出られないのは楽しくなかった。
人工林前の広場や、東の原生林のブナが懐かしい。
「いいよ。でも幽霊とか出ないと思うけどね」と友徳。
そして九時、飛鳥の号令で三人は三階に向かった。確かに真っ暗な廊下と誰も使っていない教室は不気味であったが、階下から聞こえる賑やかなに生活音が怖さを大幅に低減した。
月明かりや兵隊が蠢く校庭も安心感を増させた。ちぇっ、つまんないの。友徳はそう思いながら階下への階段を踏み出した。二階の踊り場には手洗いうがいのポスターに見入っている三人の村民がいた。
「上手い絵ですね」
「最近の子はしっかりしているんだなぁ」
「ほう!手洗いも大事だからなぁ」
彼らは一心にポスターを見つめ、視線を泳がせないところが不気味だった。友徳が二階に足を踏み入れると異様な光景が目に映った。
ある三人のグループは、床の埃を見つめている。他の人たちは子どもたちの自由研究から目を離さない。
「あの」と飛鳥は大人たちに話しかけた。反応はない。
友徳には思い当たる節があった。グレイ・シャドウ。このシャドウが現れた時、杏奈は全く動けなくなり、ただただグレイに視線を向けるだけの存在になったのだ。
「絶対、おかしいよね」と友徳。
「何かあるよね」と正道。
突然、校庭からバン、バンという銃声が響き始めた。三人が教室に入ると、やはり大人たちは視野を狭めて何かを見つめている。窓から校庭を覗き込むと、兵士たちが横歩きで距離を取りながら何かに発砲している。彼らの武器はマスケット銃の形状なのに彼らは弾を連発する。
「職員室でジョン先生に会おう!」と飛鳥はいうと返事を待たずに走り出した。友徳も正道も続く。
ちょうど職員室からすぐの廊下でジョンは辺りを見渡していた。彼は他の大人たちが受けた謎の幻術のようなものの影響下になかった。
「みんな。よかった無事だね。今、校庭ではシャドウとの戦闘が始まっているよ。それともう一つ、この学校が精神攻撃を受けているね」
「精神攻撃?」
「ああ、これはグレイ族が得意とする技だが、人間の視野を狭める業だ。大気に微量の瘴気を仕込ませるんだ。それを受けた人間は精神の働かせる範囲を大幅に制限される。ただ、効かない人たちもいる。日頃から瞑想していたりな。とりあえず近くに術者はいるだろう。先生たちは校庭で防御に参加するから、学校内は君たちが探してくれ」
「はい!わかりました」と飛鳥は俄然張り切っている。
「それともう一つ……グレイにあっても怖がらないこと。恐ろしい見た目をしているが、彼らは接近線は強くはない」
三人はひとチームになり、一つ一つ教室を回った。全ての人たちは何らかの影響下で、何かを見つめ続けている。
友徳たちが話しかけても一向に見向きもしない。いくつか教室の戸を開け閉めしていると、愛華と智咲にあった。彼女たちはジェスチャーで友徳たちを三回まで案内すると小声で話し始めた。
「わたし見たんだよ。いきなりおじいさんと大人のお兄さんがね、真っ黒な瘴気を放って一気にカマキリみたいな怪人になったの。そしたらみんな各々へんな方向を見てさ、話しかけても返事しなくなったの」と愛華。
「今、ここはグレイの精神攻撃を受けているらしんだよ」
「一人だけ時計見ている人がいるんだけど……その人だけ一瞬こっち見てニヤついたんだよ。それって精神攻撃と……関係ある?」と智咲。
子どもたちは、その時計を見ている大人がいる教室に入った。智咲が指をさすメガネをした男は今、教室の文庫本をかがみ込んで見ている。友徳はその人の肩を思いっきり掴んだ。
友徳はこちらに力強く向き直る肩に振り払われた。男がニヤッと笑うと、彼の周囲から一気に瘴気が放たれ、黒の霧の中から背の高いグレイ型のヒューマノイドが現れた。
その大きな瞳に一瞬、たじろいだ友徳だったが素早くサーベルを抜いた。光子化したサーベルを異形のものに向ける。グレイは手のひらに紫のエネルギーを溜め込むや否や、友徳に向けた。すぐさま放たれた光線に彼は目を瞑る。
「友徳危ない!」
ビューという空間を引き裂く音が響いた。同時に窓が壁ごと粉砕される音が鳴り響く。目を開いた友徳が視線を動かすと、窓側の壁が一面ごと砕け散っていた。
もう一度グレイを見据えると、正道が思いっきり飛び込んで体重の乗ったら一撃をあの大きな頭に叩き込んでいた。光子状の一撃はそのまま貫通する。
「このグレイ、多分シャドウだよ。生き物だったら今のは効いているはず!」と智咲は一気に捲し立てた。
サーベルを銀色に戻した正道が大きく踏み込んだ突きを放つと、グレイはそれを重力を受け付けていないようなバックステップで避け、壁を吹き飛ばしてできた穴から外に飛び出していった。
「追いかけよう!」
「待って、下にはカルナーランカの人たちがいるから任せよう」と智咲。
「てか友徳くん!さっきは危なかったよ!飛鳥くんが渦巻きで攻撃を逸さなかったら……」
すぐに校庭から銃声が響いた。子どもたちは親の護衛のために各々の教室に留まり、友徳は校庭に急いだ。
校庭には地面に伏したグレイがいた。多くの銃弾を受けたのだろう。そのグレイは一気に瘴気を放って黒い靄に包まれると人間の姿に戻った。
その人間は確かに避難民の一人だった。しばらくすると、門の方へ一斉射撃が間断なく続き、あまりの轟音に友徳は教室に退いた。
校内に入ると、さっきまで物を見つめていた大人たちは銃声に驚いて身を縮めていた。壁がなくなった教室はせすでに無人になっている。友徳は親を守る仲間たちと合流する。
「さっきのグレイ、変容シャドウだったぽい」
「でもどうして学校内にいるんだろう?」と正道。
「うーん」
グレイに遭遇した緊張感からまだソワソワしている子どもたちは、親と何度も抱き合ったり、しきりに水筒に口をつけたりした。友徳は支給された果物の乾物を齧る。
子供達が各々、自分たちの緊張をほぐしているときに、どこからか悲鳴が響いた。友徳がサーベルの柄に手をかけて教室を出ると一人のおばさんがこちらに走ってきている。おじさんや若い男性も続く。
彼は正道と目配せすると、逃げてくる人たちの方へ走り込む。逃げる人たちに通路をあけながら、人混みを塗っていくとちょうど階段がある廊下の奥に、得体の知れない影がさしているのが見える。さっき愛華が話していたことが頭をよぎる。
いつのまにか後衛でサポートする飛鳥と共に、友徳は先鋒を正道と競った。視界の中で影が大きくなるとそれが何か確信に近づく。
廊下側から階段に視線を向けたとき、それは立っていた。カマキリのような顔、しかしカマキリの柔らかい部分はカブトムシのように装甲されていて全身灰色。足はバッタのように太い足が二本。
それが背中の羽を震わせると、踊り場にいたそれは正道の目の前に瞼を瞬く間もなく現れて稲刈りのような一撃を放った。正道は咄嗟の抜刀でそれを逸らした。
しかしそれの連続攻撃は早送りのビデオのように素早くもう片手の鎌の一撃で正道はサーベルを落とした。友徳はサーベルを触媒に火線を放つ。
それはカマキリに直撃する。全身炎に包まれたカマキリは後退した。
友徳は何度も火線を放つ。カマキリは階段側に退く。後をおった友徳はそれを見失った。
友徳は教室内でみんなにそれのことを伝えた。そして自分は校庭で戦っているジョンに伝令しに行くというと正道が名乗り出て彼が行くことになった。
彼は窓を開けると飛び降り、着地側に風の波を地面に放って衝撃を吸収してから大地を足で踏んだ。
正道に連れてこられたジョンはみんなに説明した。
「君たちが見たのはインセクタリアンの姿をしたシャドウだね。グレイの上位存在だよ。それとこの学校に入り込んだシャドウは、どうやら改造種でグレイ直属ではないようだ。わたしは校内に君たちと留まるからインセクタリアンを見たものは構わず教えてくれ」
今のジョンは肌の露出した部分に銀色の土のを重ねているようで、サイボーグのように友徳には見えた。彼がジョンに聞くと服の下もこの土で装甲しているらしい。
ジョンは一人、避難民のいる教室に面する廊下に立った。友徳たちは教室の中で家族やともだちと共に団子を作った。
夜が更けると外の銃声は止み、友徳も友三郎と千華子の温もりを受けて眠りについた。
目が覚めたのはまだ空がオレンジ色の時間で、山に日を遮られた場所にある学校はまだ薄暗かった。兵士たちは校庭に簡易の陣地を設営したらしく、土嚢でカクカクした遮蔽が大量にっくられている。
戸を開いて廊下を覗くと相変わらずジョンが見張っていて、こちらに気づいた彼は目だけで挨拶を送ってくる。
他の子どもたちは避難民の老人たちと同じ七時に起きた。子どもたちは老人の護衛をしながら歯磨きにために踊り場に向かうと、ジョンは一度呼び止めた。
子供達の様子や持っている物を持って何事か勘付いた彼は、歯磨きを許可した。
老人たちが歯を磨いたり、踊り場の横についているトイレに入ると、上下の階段を子どもたちはサーベルの柄に手をかけながら護衛した。子どもたちは護衛を後退しながら順番に歯を磨く。大人たちも朝のお手洗いやトイレに目を覚まし始め、護衛は続いていく。
様子を見にきたらしいジョンは階上から踊り場の子供達を見下ろして「まだ、護衛を続ける気かい?」
「はい、あのインセクタリアン、危ないですから」
「うむ。でも、校内の護衛をアウン先生越しにカルナーランカの兵士にさっき頼んだんだ。そろそろ休んだらどうだい?」
「いえ、まだ兵士さんはきていませんから」と飛鳥が答えた。
確かに、カルナーランカの兵士は階段をのぼってきた。南アジア風の兵士と東南アジア風の兵士は子供達を見つけると、笑顔で敬礼をしてきた。友徳は引き締まった敬礼を返す。
「君たちがみんなを守ってくれたんだね?」
「今から僕たちが変わるよ」
胸にのしかかっていた荷を下ろして、反動で弾むような身体に広がる疲労感と充実感を噛み締めながら友徳は教室に帰って行った。家族はもちろん、大人たちはぎゅうぎゅ詰めの教室内で身を寄せ合って子供達のスペースを作り、感謝を示したので、友徳は一気に弛緩して眠気に包まれた。父と母が見守る中で友徳は眠りについた。
また、この講習で子どもたちは武器にエンチャントする方法を学んだ。ジョンがお手本にサーベルに地の元素をエンチャントすると、煌めく銀の刃が黒光になった。
「地の元素は質量を増すんだ。刃先の質量が大きいほど、刃物の切れ味は増す」
子供達の中で成功したのは友徳だけだった。炎を纏った刃を彼はフェンシングの要領で構える。子供達は蛇の巻き付いたような刃に熱のこもった視線を向けた。
また、光弾を放って相手の気を失わせるフラッシュという技も学び、これは智咲が最も上手く扱った。悪意を持つ人間に撃つと、身体がバグりそのまま外傷や痛みも感じないで気絶するという。続いてジョンは今の村の情勢を語る。
「この前、みんな知っている通り村で内乱があったな。その影響で今、目的のない暴力がそこらじゅうで勃発しているんだ。反対党派の人間を襲ったりな。暴力そのものが目的になっている。園谷家は弥勒救世軍と調停したんだが、この前の内乱では戦うつもりはなかったと主張している。つまり、日本軍支持の市民が暴発して弥勒救世軍と戦ったので、日本人を守るために、自分たちに害が及ばないように防衛として戦ったまでだとな」
「園谷家って何が目的なんですか?」と正道。
「わからないが、村に対する弥勒救世軍の影響力を削ぎたい思惑もあるんじゃないかな。とにかく、園谷家と弥勒救世軍がまた、戦うことになったら君たちは学校に防衛に参加してくれ。学校には変容・シャドウに取り込まれたことのある子供達がいる。変容・シャドウはなぜか知らないがそういう子をもう一度取り込もうとするんだ」
「それとな、シャドウは種類に関わらず、人間のエネルギーを元にしている変容・シャドウもそうだが、さっきの光子状の技は無意味だ。奴らは人工知能で動いているからな。精神に作用して効果をもたらす技は通用しない」
村の複雑怪奇な情勢を理解する子どもたちはいないと友徳は思った。弥勒救世軍ですら何がしたいのかわからないのだ。
友徳と正道、飛鳥は机と椅子が取り除かれた部屋に入って、サーベルを光子状の無害な状態にしてから西洋剣術のモノマネでチャンバラをした。
友徳が渾身の一撃を身体の中央に放つと、正道はそれを叩き、それの軌道を華麗に逸らして逆に痛烈な反撃を横に薙ぎ払う。光子状態とはいえ友徳の身体には打ち込まない。友徳も寸止めみたいにあとちょっとというところで剣先を停める。
剣をバチっ、ガチっと鳴らすことが目的化し、より上手く相手の剣筋を逸らすことに集中する。
一通り遊び終えた友徳たちは踊り場に行って水分補給をし、家族が待つ教室に向かった。
「今日さ、暇だし夜にさ、誰も使っていない3階に教室で肝試ししない?」と飛鳥は汗をハンカチで拭いながらいった。
友徳たちは、この狭い学校内での生活に飽き飽きしていた。カルナーランカからの支援物資を教室に運び込んだり、炊き出しを装ったり、洗い物のお手伝いなどすることはあったが、それでもこの狭い学校から一歩も出られないのは楽しくなかった。
人工林前の広場や、東の原生林のブナが懐かしい。
「いいよ。でも幽霊とか出ないと思うけどね」と友徳。
そして九時、飛鳥の号令で三人は三階に向かった。確かに真っ暗な廊下と誰も使っていない教室は不気味であったが、階下から聞こえる賑やかなに生活音が怖さを大幅に低減した。
月明かりや兵隊が蠢く校庭も安心感を増させた。ちぇっ、つまんないの。友徳はそう思いながら階下への階段を踏み出した。二階の踊り場には手洗いうがいのポスターに見入っている三人の村民がいた。
「上手い絵ですね」
「最近の子はしっかりしているんだなぁ」
「ほう!手洗いも大事だからなぁ」
彼らは一心にポスターを見つめ、視線を泳がせないところが不気味だった。友徳が二階に足を踏み入れると異様な光景が目に映った。
ある三人のグループは、床の埃を見つめている。他の人たちは子どもたちの自由研究から目を離さない。
「あの」と飛鳥は大人たちに話しかけた。反応はない。
友徳には思い当たる節があった。グレイ・シャドウ。このシャドウが現れた時、杏奈は全く動けなくなり、ただただグレイに視線を向けるだけの存在になったのだ。
「絶対、おかしいよね」と友徳。
「何かあるよね」と正道。
突然、校庭からバン、バンという銃声が響き始めた。三人が教室に入ると、やはり大人たちは視野を狭めて何かを見つめている。窓から校庭を覗き込むと、兵士たちが横歩きで距離を取りながら何かに発砲している。彼らの武器はマスケット銃の形状なのに彼らは弾を連発する。
「職員室でジョン先生に会おう!」と飛鳥はいうと返事を待たずに走り出した。友徳も正道も続く。
ちょうど職員室からすぐの廊下でジョンは辺りを見渡していた。彼は他の大人たちが受けた謎の幻術のようなものの影響下になかった。
「みんな。よかった無事だね。今、校庭ではシャドウとの戦闘が始まっているよ。それともう一つ、この学校が精神攻撃を受けているね」
「精神攻撃?」
「ああ、これはグレイ族が得意とする技だが、人間の視野を狭める業だ。大気に微量の瘴気を仕込ませるんだ。それを受けた人間は精神の働かせる範囲を大幅に制限される。ただ、効かない人たちもいる。日頃から瞑想していたりな。とりあえず近くに術者はいるだろう。先生たちは校庭で防御に参加するから、学校内は君たちが探してくれ」
「はい!わかりました」と飛鳥は俄然張り切っている。
「それともう一つ……グレイにあっても怖がらないこと。恐ろしい見た目をしているが、彼らは接近線は強くはない」
三人はひとチームになり、一つ一つ教室を回った。全ての人たちは何らかの影響下で、何かを見つめ続けている。
友徳たちが話しかけても一向に見向きもしない。いくつか教室の戸を開け閉めしていると、愛華と智咲にあった。彼女たちはジェスチャーで友徳たちを三回まで案内すると小声で話し始めた。
「わたし見たんだよ。いきなりおじいさんと大人のお兄さんがね、真っ黒な瘴気を放って一気にカマキリみたいな怪人になったの。そしたらみんな各々へんな方向を見てさ、話しかけても返事しなくなったの」と愛華。
「今、ここはグレイの精神攻撃を受けているらしんだよ」
「一人だけ時計見ている人がいるんだけど……その人だけ一瞬こっち見てニヤついたんだよ。それって精神攻撃と……関係ある?」と智咲。
子どもたちは、その時計を見ている大人がいる教室に入った。智咲が指をさすメガネをした男は今、教室の文庫本をかがみ込んで見ている。友徳はその人の肩を思いっきり掴んだ。
友徳はこちらに力強く向き直る肩に振り払われた。男がニヤッと笑うと、彼の周囲から一気に瘴気が放たれ、黒の霧の中から背の高いグレイ型のヒューマノイドが現れた。
その大きな瞳に一瞬、たじろいだ友徳だったが素早くサーベルを抜いた。光子化したサーベルを異形のものに向ける。グレイは手のひらに紫のエネルギーを溜め込むや否や、友徳に向けた。すぐさま放たれた光線に彼は目を瞑る。
「友徳危ない!」
ビューという空間を引き裂く音が響いた。同時に窓が壁ごと粉砕される音が鳴り響く。目を開いた友徳が視線を動かすと、窓側の壁が一面ごと砕け散っていた。
もう一度グレイを見据えると、正道が思いっきり飛び込んで体重の乗ったら一撃をあの大きな頭に叩き込んでいた。光子状の一撃はそのまま貫通する。
「このグレイ、多分シャドウだよ。生き物だったら今のは効いているはず!」と智咲は一気に捲し立てた。
サーベルを銀色に戻した正道が大きく踏み込んだ突きを放つと、グレイはそれを重力を受け付けていないようなバックステップで避け、壁を吹き飛ばしてできた穴から外に飛び出していった。
「追いかけよう!」
「待って、下にはカルナーランカの人たちがいるから任せよう」と智咲。
「てか友徳くん!さっきは危なかったよ!飛鳥くんが渦巻きで攻撃を逸さなかったら……」
すぐに校庭から銃声が響いた。子どもたちは親の護衛のために各々の教室に留まり、友徳は校庭に急いだ。
校庭には地面に伏したグレイがいた。多くの銃弾を受けたのだろう。そのグレイは一気に瘴気を放って黒い靄に包まれると人間の姿に戻った。
その人間は確かに避難民の一人だった。しばらくすると、門の方へ一斉射撃が間断なく続き、あまりの轟音に友徳は教室に退いた。
校内に入ると、さっきまで物を見つめていた大人たちは銃声に驚いて身を縮めていた。壁がなくなった教室はせすでに無人になっている。友徳は親を守る仲間たちと合流する。
「さっきのグレイ、変容シャドウだったぽい」
「でもどうして学校内にいるんだろう?」と正道。
「うーん」
グレイに遭遇した緊張感からまだソワソワしている子どもたちは、親と何度も抱き合ったり、しきりに水筒に口をつけたりした。友徳は支給された果物の乾物を齧る。
子供達が各々、自分たちの緊張をほぐしているときに、どこからか悲鳴が響いた。友徳がサーベルの柄に手をかけて教室を出ると一人のおばさんがこちらに走ってきている。おじさんや若い男性も続く。
彼は正道と目配せすると、逃げてくる人たちの方へ走り込む。逃げる人たちに通路をあけながら、人混みを塗っていくとちょうど階段がある廊下の奥に、得体の知れない影がさしているのが見える。さっき愛華が話していたことが頭をよぎる。
いつのまにか後衛でサポートする飛鳥と共に、友徳は先鋒を正道と競った。視界の中で影が大きくなるとそれが何か確信に近づく。
廊下側から階段に視線を向けたとき、それは立っていた。カマキリのような顔、しかしカマキリの柔らかい部分はカブトムシのように装甲されていて全身灰色。足はバッタのように太い足が二本。
それが背中の羽を震わせると、踊り場にいたそれは正道の目の前に瞼を瞬く間もなく現れて稲刈りのような一撃を放った。正道は咄嗟の抜刀でそれを逸らした。
しかしそれの連続攻撃は早送りのビデオのように素早くもう片手の鎌の一撃で正道はサーベルを落とした。友徳はサーベルを触媒に火線を放つ。
それはカマキリに直撃する。全身炎に包まれたカマキリは後退した。
友徳は何度も火線を放つ。カマキリは階段側に退く。後をおった友徳はそれを見失った。
友徳は教室内でみんなにそれのことを伝えた。そして自分は校庭で戦っているジョンに伝令しに行くというと正道が名乗り出て彼が行くことになった。
彼は窓を開けると飛び降り、着地側に風の波を地面に放って衝撃を吸収してから大地を足で踏んだ。
正道に連れてこられたジョンはみんなに説明した。
「君たちが見たのはインセクタリアンの姿をしたシャドウだね。グレイの上位存在だよ。それとこの学校に入り込んだシャドウは、どうやら改造種でグレイ直属ではないようだ。わたしは校内に君たちと留まるからインセクタリアンを見たものは構わず教えてくれ」
今のジョンは肌の露出した部分に銀色の土のを重ねているようで、サイボーグのように友徳には見えた。彼がジョンに聞くと服の下もこの土で装甲しているらしい。
ジョンは一人、避難民のいる教室に面する廊下に立った。友徳たちは教室の中で家族やともだちと共に団子を作った。
夜が更けると外の銃声は止み、友徳も友三郎と千華子の温もりを受けて眠りについた。
目が覚めたのはまだ空がオレンジ色の時間で、山に日を遮られた場所にある学校はまだ薄暗かった。兵士たちは校庭に簡易の陣地を設営したらしく、土嚢でカクカクした遮蔽が大量にっくられている。
戸を開いて廊下を覗くと相変わらずジョンが見張っていて、こちらに気づいた彼は目だけで挨拶を送ってくる。
他の子どもたちは避難民の老人たちと同じ七時に起きた。子どもたちは老人の護衛をしながら歯磨きにために踊り場に向かうと、ジョンは一度呼び止めた。
子供達の様子や持っている物を持って何事か勘付いた彼は、歯磨きを許可した。
老人たちが歯を磨いたり、踊り場の横についているトイレに入ると、上下の階段を子どもたちはサーベルの柄に手をかけながら護衛した。子どもたちは護衛を後退しながら順番に歯を磨く。大人たちも朝のお手洗いやトイレに目を覚まし始め、護衛は続いていく。
様子を見にきたらしいジョンは階上から踊り場の子供達を見下ろして「まだ、護衛を続ける気かい?」
「はい、あのインセクタリアン、危ないですから」
「うむ。でも、校内の護衛をアウン先生越しにカルナーランカの兵士にさっき頼んだんだ。そろそろ休んだらどうだい?」
「いえ、まだ兵士さんはきていませんから」と飛鳥が答えた。
確かに、カルナーランカの兵士は階段をのぼってきた。南アジア風の兵士と東南アジア風の兵士は子供達を見つけると、笑顔で敬礼をしてきた。友徳は引き締まった敬礼を返す。
「君たちがみんなを守ってくれたんだね?」
「今から僕たちが変わるよ」
胸にのしかかっていた荷を下ろして、反動で弾むような身体に広がる疲労感と充実感を噛み締めながら友徳は教室に帰って行った。家族はもちろん、大人たちはぎゅうぎゅ詰めの教室内で身を寄せ合って子供達のスペースを作り、感謝を示したので、友徳は一気に弛緩して眠気に包まれた。父と母が見守る中で友徳は眠りについた。
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