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第四章 「普通」の「日本人」VS「パヨク」編

善至と文子と理沙と麗子

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「友徳くん、端末を押したのね。あなたの部屋に使いがいくから待っていなさい」

端末から舞の声が聞こえた時、友徳は心臓以外の全てに肉体が沈み込んだように感じた。その心臓すらトゲトゲに刺されたみたいに生臭い痛みを発し始める。

舞の使いが来るのは素早かった。落ち込んで座り込んだ友徳が一息つく前に、ドアをノックする音が響いた。開けるとこの間、舞の部屋まで案内した執事だった。

執事は何も言わずに向きを変えて廊下を歩き出した。察した友徳は後を追う。

廊下を越えていくつかの鍵部屋——それは秘密に部屋みたいに普通の本棚を横にどかしたら現れたドアの向こうにあった——を跨いでから、今まで使ったことのない、工事現場みたいな階段を降りていく。

嫌な予感は次第に確信に変わる。潜水艦の扉みたく丸くて密閉されたものの、鍵を執事は回転させて開ける。執事に促されて、足を踏み出すたびに鋭い痛みが襲う胸の間隔を抱えながら友徳は部屋に入る。

部屋は真っ黒だった。探るように友徳が中央に向かっていくと一気に灯火がついた。

「友徳くん。これがあなたへのご褒美。あなたの家族よ」

友徳の目の前には鉄格子が広がり、中には善至、文子が縄で拘束を受けて座り込んでいる。少し間を置いて理沙と麗子が、キレイめカジュアルでキメたコーデで慎吾と達也、亮介に押さえつけられている。

一瞬、友徳にはそれが意味することがわからず人間的な感情を回転させることすら敵わなかった。次第に不安が心臓から脳天へ噴火の如く押し寄せる。

「おばあちゃん、先生!みんなどうしたの!!!」

「友徳ぃー!」

善至が声を出すと奥から現れた黒服と仮面の男に思い切り蹴られた。理沙と麗子は息を荒くしている。

「友徳くん、この人たちを助けたいでしょう?」と舞は拷問器具のような椅子を引きずって現れた。

「おい!みんなをどうするつもり!」

舞は友徳をビンタした。

「黙りなさい!まずはこの椅子に座りなさい」

半分無理やり、友徳は舞に椅子に押し込まれた。舞は、友徳の腕や首をそのまま椅子に固定していく。

「まずは、善至先生と文子さんだけにしましょう」と舞はいう。

理沙と麗子はそれぞれ立たされると理沙は慎吾、麗子は達也に抱かれて袖に引っ込んでいった。
息は荒れ、思考の輪郭をもはや友徳は掴むことはできない。

首を回すことすらできず、ぐるぐる巻きの善至と文子を直視させられる。

「友徳くん、おばあちゃんと善至先生に助かってもらいたいでしょう?私もよ。でも条件があるの。私のいうことを聞いてくれないかしら」

友徳は今まで経験したことのない、由来不明の悪寒と震えに襲われて声を出すことができない。

「園谷家はね。戦国時代にこの地に来てから、日本を守るために働いてきたの。それこそ日本政府よりもね。日本政府はグレイの支配を受けて言いなりになってしまったから、今、実質的に日本の国益を代表しているのはね、園谷家なの。園谷家は異世界の神倭国と同盟して多くの魔術や宗法を得たわ。例えば、ハーフ・ペータ。あれは作るのに手間がかかるけどね、子供に恐ろしい教育を施して殺害した後、降霊術で元の肉体に餓鬼道に落ちた彼らを再び戻すのよ。肉体も餓鬼のものになってみっともなくなるけど、人間の時より従順で扱いやすいの。隣に西森村があるでしょう?あの村で、戦前のような教育が戦後も続いたのはこれが理由よ」

何故だか意味のある言葉を聞くと友徳は冷静さを取り戻してきた。それでも目の前のおばあちゃんの姿に涙が出て息が詰まってしまう。

「おばあちゃん」

「このように私たち園谷家は、戦前から今までずっと日本のために尽くしてきたの。ハーフ・ペータの技術は、グレイの支配下に落ちた日本国政府に渡ってしまったわ。その時はグレイの支配が国に及んでいるは露とも知らなかったの。話が逸れたわね。あなたのことも話しましょう。あなたは真樹と同じ夢見よ。真樹から聞いてるかしら?あなたたちは前世で神々の次元の住民だったの。そしてわざわざ自分から人間の世界に降りてきた。こういう存在はかなり貴重なのよ。そして……あなたたちは、私たちが作ってるエーテル・メモリに最適合を示すのよ。普通の人間は適合止まりなんだけどね」と舞は声音を変えず、同じ調子で続けていった。そして「エーテル・メモリによるエーテリアス。それはこの人類が滅亡しかねない大戦争で対NHIのために大いに役に立つわ。だから私たちは、友徳くん。あなたに協力してもらいたいの」

「わかった。協力する」

「感謝するわ。友徳くん。それではまず、あなたの両親を殺しなさい。そして仏教を棄教しなさい。本当の日本人なら親よりも国が大事なことがわかるでしょう?」

「嫌だ!」

「そうだ、友徳!このバカのいうことを聞くな!」

善至は再び黒服の男にきょうれつなローキックを浴びせられた。三発目の時、彼は口から血を吐いた。

「残念だわ。私たちの仲間にならないというならおばあちゃんと先生を殺すしかなくなる。どうする友徳くん」

過呼吸は絶頂に達し、それに意識を向けると徐々におさまっていく。そしてまた世界の創造みたいに肺の運動は高みを目指して痙攣的になり、峠を越えて収束する。

彼は口を動かしても喉を鳴らすことができない。

「例え殺されるとしてもナンダ母のように死ぬだけですが!」と文子。

「そうだビンビサーラ王のように——」

善至は再びふくろにされる。彼は気を失ったようで樽のように転がった。

友徳は歯を食いしばってから行き来する洪水時の暗渠のような喉を制御し、「僕はお父さんとお母さんを殺したくない!NHIとも戦いたくない!」と震える声で宣言した。

「よういった!あとはビンビサーラさんみたく死ぬだけですが!」

「仕方ないわね。では、先生とおばあちゃんは——」

舞はエーテリアスの姿で現れて、鉄格子を貫通して檻に入った。まず彼は善至を叩き起こして頭を掴む。

「私の力では、こうなります」

善至は頭の穴という穴から火を吹き出すと、一瞬にして地面から噴き出すマグマのような岩色になって事切れた。

「ああああああああああああああああ」

舞が文子の頭を掴んだ時、友徳の脳裏におばあちゃんの親しげな声が響いた。「どうせ死んでも帝釈天様のところに向かうだけですが!」

「おーい、起きてるかー?オラァ!」

友徳は呼びかける声と、頭にぶつかった水の塊で意識を取り戻した。

「お?起きたな!じゃじゃーん。理沙ちゃんでーす!!」と太った達也は四つん這いになる理沙の尻を叩いていった。

「友徳くんが、舞さんの言うこと聞くまで理沙ちゃんを可愛がっていいって言われたよー?」

「友徳ぃー!」

達也は理沙の髪を鷲掴みにして「こら、豚!誰が話していいっつった!」

豚の丸焼きみたいな腕が伸びて達也の拳骨が理沙の頬に直撃し首筋から顔を揺らした。

「でさ今日はとっておきの日だから、見てみ?理沙ちゃんは渾身のデートコーデできてもらったよ!パンツも勝負下着なんだけどまじ楽しみ!お前が言うこと聞くまで理沙、ヤルから」

友徳は完全な思考停止と無関心に甘えそうな意識を奮起して「おい!やめろ!バカ!デブ!」

「あ?舞さんの言うこと聞くの聞かねーの?理沙もこういってるよ」と達也はいうと理沙の髪を再び鷲掴みにしてそれを揺らしながら「とものりっちが愛国者にならないと私はエッチされるブヒ!せっかくおめかししたに悲しいブヒ!でもリサリサはエッチも大好きブヒ!」とアテレコ。

「おい!デブ!お前が豚だろ!理沙さんをいじめるな!」

「友徳ぃー。うわあああああん」

理沙は童女のように涙を流しながら鉄格子に手を伸ばした。その時は彼女はひったくられる鞄のように横から伸びてくる肉の塊に引き倒された。

達也は、せっかくのカーディガンをぐちゃぐちゃにしてから引き剥がし、水色のボウタイが現れると服の上から胸を鷲掴みにした。理沙は、達也のハリセンボンみたいな肉体の中で、扇風機のひらひらのように長い手足をばたつかせ、華奢な腰を振っている。

プリッツスカートは何度も捲れ上がり、清楚な白いパンティーが理沙の最後の砦のように床で擦れる尻を包んでいる。

「ねぇ!無理!まじ無理!ああん!」

達也は強引な接吻を理沙に擦り付けている。強く密着することで胸囲と尻以外で、理沙が体格で優っている部分がないことが明らかになっていき、それでも達也の顔を振り払い、肩を押し除けて逃げようとする理沙を友徳は勇敢に感じる。

「おい!豚!やめろ!馬鹿野郎!」

友徳はいくらいっても達也は優位を捨てる気はないようだ。彼は伸ばした舌で丁寧に理沙の顔を舐め回す。

「いやん!まじありえない!無理無理!ああん!!」理沙の泣き声とも嬌声とも取れる声は響き渡る。

抱き起こされ、鉄格子に押し付けられた理沙はブラジャーを丁寧に奪われて、達也と向き合うと、腕で覆って隠した。達也は理沙の後ろから抱き上げ、また無理やり四つん這いにすると後ろから覆い被さって胸を揉む。理沙は友徳を見据えて何かを訴えかける。

しかし、プリッツスカートを引き抜かれた理沙はあっけなく犯された。パンツを下ろされてからは抵抗をやめて、ただされるがままになった。

胸を揉まれてもキスしても挿入されても彼女は動かなかった。

「馬鹿!死ね!クソ野郎!」は友徳は理沙が犯されている間、罵詈雑言の限りを尽くす。

怒りが超えてはならない頂点を超えた時、友徳は再び意識を失った。

友徳は気がつくと学校の保健室で横たわっていた。目覚めると同時に流星する悪夢が再び彼の心臓を捉える。

何か夢を見ていたが思い出せない。思い出したらそのまま耳の穴から湯気を噴き出して死んでしまいそうだ。

お見舞いの飛鳥と愛華は、友徳が目覚めてからすぐに現れた。二人は真面目な薄皮を纏いながらも、隠せない喜びは溢れていた。

「友徳!よかった。意識戻ったね」

「もうちょっと安静にしててもいいのよ。友徳くん」

友達を久方ぶりに見て嬉しかったのは言うまでもないが、喜ぶために必要な細胞を身体中から焼き払われたかのように妙な冷静さと、ぶり返す心臓をかき混ぜられるような痛みを友徳は感じている。手短な思考をすることはできるのだが、発するべき言葉は見つからない。

飛鳥と愛華は麦茶とクッキーを差し入れし、友徳の身体を軽く拭ってから保健室を出て行った。
脳裏に理沙の姿は浮かび上がらない。

しかし、今まで罵倒しいじめてきた人々が自分を踏み躙り、蹴飛ばし、その上で嗜虐の笑みを向けてくる映像はしっかりと想起できる。その笑みによって彼は今ベッドにいる自分の体から水分という水分を引き抜かれた、熱は四散し、ただ骨ばった重みだけが増していく感覚を感じる。

しばらくしてからアウン先生とシリマヴォ先生が来た。戸を開け、こちらに向かってくる彼らを見て、今健在な先生は二人しかいないことをすぐに悟ったものの、それに対する感情を積極的に表そうとは彼は思わない。

先生が優しい言葉を投げかけているうちに、友徳は上体を倒して、布団をあげ再び眠りに落ちた。

言葉の暴力が迫ってくる夢を友徳は見る。従軍慰安婦や政治についてヘラヘラしながら彼に論戦を挑んでくる冷酷が板についた男の顔が浮かび上がる。

彼の恐ろしい言葉は夢の世界で浮かび上がるが、儚く観念的な世界で、その言葉の波紋を受け入れられるほど今の友徳には余裕がない。反日!カルト!頭おかしい!散々罵られるが、罵っている人々は実に楽しそうだ。

酒を脳内に直接注射されたかのように視界は歪んでいく。特段悪いことをしていないのにふくろ叩きにされ、ふくろ叩きにする方は実に幸福を謳歌している。

「この野郎!!!」

怒号と共に友徳は上体を起こした。視界の擦り切れから入る窓が室内の薄暗い照明を吸い込むような暗闇を示していることから、今が深夜であることを知る。

続いてぶっ殺してやる!!!という言葉を吟味する。この野郎!!!も言葉を発した後では、大したものには感じられない。

友徳はベッドを出ると廊下に出て一人で学校を徘徊した。照明は消され、非常口のランプが点滅しているだけのその道を適当に歩いていく。

低学年の階層に来た時、向かいの廊下のあまりの暗さに、空想的であった思考による感情が、暗黒を全身で吸収したことによる感覚から続く感情に移行し、恐怖と正気に打たれて職員室のある階層まで階段を下った。灯りを暗闇に漏らして、夜ふかししているみたいな部屋を友徳は目指す。

職員室の戸を開けると、アウンとシリマヴォが同時にこちらを見据えた。

「あ、友徳くん。おはよう」とアウン。

シリマヴォは手元の書類を丁寧に机に戻してから席をたった。友徳は近づいてくる彼女を見上げる。

何も言わないシリマヴォは友徳を抱きしめた。全身に愛情が注がれるのを感じ取り、彼は久方ぶりに笑顔を取り戻した。

腕が離れると喜びを表すために背伸びをしてアピール。二人の先生も満面の笑みで返した。ジュースやチョコレートを渡された友徳は再び職員室を出た。

喜びが駆け巡った身体では、幸福を感じるための細胞がメキメキと復活していくのを、全身に広がる軽快さと共に友徳は感じる。チョコレートの包みを眺めから、それを冷蔵庫に入れる。彼は再びベッドで眠りに入った。
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