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第四章 「普通」の「日本人」VS「パヨク」編

紛争はコントロール不能に

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「あ、ほらやっぱり……JRLってオウムの再来みたいに書かれているよ」と友徳はJRLを糾弾するサイトを眺めながらいった。

「ふーん。確か勇魚も満定さんも尋伺小学校出身で、JRLは疎開する前にうちの学校に接触してきたしね」と智咲は、他の二人と肩を寄せながらいう。

「ねぇ、友徳たち……結構昔に見つけたサイトなんだけど……弥勒菩薩について面白いことが書いてあるよ。見る?」

「オッケ。そのスマホからパソコンにURL送って」

友徳は送られてきたリンクを開いた。

“転輪聖王獅子吼経。それは南伝仏教に伝わるお経で、転輪聖王や弥勒菩薩の出現について書かれている。

人類は道徳が堕落することになってどんどん寿命が減っていき、ついには寿命が10歳になる。その時、人類の心は堕落の極限となっており、ついには他の人間に鹿の相を見出してお互い殺しあう、最終戦争が勃発する。

善い心を持った人類は森に逃げ延びて、その最終戦争を生き延び、彼らは不殺生戒に合意して人類を再建する。すると人類の道徳がもりもりと復活してついには寿命八万年の時代がやってくる。その時に弥勒菩薩は衆生のために兜率天からやってくる。”*

「あ!おばあちゃんの言ってた村の伝説ってこれのことかも!」と友徳は話のピースがつながったことを喜び上擦った声でいった。

「それでさ、弥勒救世軍でしょ?つまり、JRLにとってこれは最終戦争なんじゃないかな」と正道は大きく後ろにのけぞりながらいった。

「でもなんで、最終戦争なんか起こすんだろ?」

「そこよね。あいつらがいい加減なことをするから、私たちへのいじめも過激化するし。いやねぇ」

「それとさ、勇魚がハイ・オークと接触した理由……これもよくわからないよね」と正道。

「うーむ、ハイ・オークは人類への報復がしたくて、弥勒救世軍は人類を壊滅させたくて……」

「弥勒救世軍については、もう今の世界はモラルが低下していくばかりだから、いっそのこと破滅を早めてみんなを殺し合わせて、自分たちは高みの見物をしながら、美味しいところとっていく……って感じかしら?」

「でも、今はグレイみたいな人類に敵対的なNHIや、異世界の勢力が介入しているんだよね?今、人類が壊滅したらそのまま絶滅しそうじゃない?ハイ・オークの報復も、人類皆殺しになる可能性があるよ。弥勒救世軍は何がしたいんだ?」と正道は言ってからベッドに腰を預けてため息。

正道たちが帰った後、友徳家は夕食なった。玄米にじゃがいも2個、そして味噌汁という貧相なメニュー。どんどん質素になりつつあった食事が、最近突然大幅なダウングレード。友徳は思わず口を開けて、晩ごはんを見下ろした。

「友徳、ごめんねー。今、スーパーマーケットでいろいろ大変なことが起きててね。村の青年団や右翼の人が、このスーパーは弥勒救世軍に物資を供給しているって言い出してね、大勢の若い人たちを引き連れて襲撃したんですって。その時、ちょうど買い物に来ていた救世軍の人たちと揉み合いになって、その流れで大掠奪が起きてねぇ。今、青年団の人たちがスーパーを占領しているの」

この前、見たお祭り騒ぎはそれだったのか!友徳は納得した。ジャガイモを齧る時は、何もつけない流儀の友徳であったが、今回はつけるものがそもそもないのだった。

味噌汁もできるだけおちょぼ口にしながらちょっとだけ啜ることで、友徳はたくさん食べてると自分を誤魔化した。ジャガイモも小さく齧り、よく噛み、玄米は我慢できずかきこんで食事は終了。

恐ろしい一方を聞いたのは、その日の深夜だった。青年団たちが完全に武装化し、親弥勒救世軍派の飲食店や日用品店を占領、シンパ狩りと称して村内の左派勢力を襲撃している!と大慌ての善至先生が玄関まで息を切らしてやってきたのだった。

「すでに村役場も陥落してるし、反日狩りが起きている。今のうちに学校に逃げるぞ!」

善至は短いサーベルを友徳に渡した。

「いいか?このサーベルに火の元素を流し込んでみろ」

玄関先で何度か試すと、サベールの刃は黄色の粒子状になった。何度も繰り返すと、それを維持するのは簡単になる。

「よし。このサーベルで傷つける目的なく斬りつければ相手の戦意だけ、一時的に麻痺させられるんだ。よし試しに先生を斬ってみろ」

サーベルの刃を善至に向けることすら失礼だと思った友徳はそれを躊躇した。しかし善至にせかされて一思いに、内側から外側に向けて薙ぎ払った。

サーベルは光子化して善至を貫通する。

「うむ。いつ切られても妙な感じだ。元々殺意や悪意のない状態の者を斬っても相手は変な感じがするだけだ。殺意にある奴を斬ると気絶するだけで外傷も心の傷も負わん。危ない時は容赦なく使え」

善至は力強く友徳の肩を揺さぶると、廊下でつっかえていた家族に合図を送り、先頭から玄関を出た。

鬨の声が響き渡る中、村の中央の道路を使って一同は学校を目指した。村の家々の電気が完全に消えており、唯一の光源の街灯は白い光子を一同に浴びせかけて、暗闇から街灯の下へ潜り込むたびに、まるでUFOに追跡されている気分を友徳は味わった。

スーパーマーケットへ向かう中央の橋付近では阿鼻叫喚の怒号と悲鳴で、時折血に濡れた日本刀を持ち、血走った目をする男が徘徊している。その男はチラリとこちらを見るだけで襲ってこない。

暗闇の中溶け込むように黒々と沈み込む生垣に挟まれた斜面を登っていく最中、友徳は再びあの怪物を見た。

平たく広い額、空な瞳、そして何より灰色の顔容……ゴークがこの村にいる。目を開いたその小人はこちらに手を投げ出してフラフラと近づいてくる。

一人のゴークが気付くと遠くのゴークも振り向いてこちらを目指す。

「おい、こいつらは大したことはない。適当に逃げるぞ」と善至はいう。

友徳も腰を引っ込める家族の手を引っ張って斜面を登って行った。次の角で日本刀で武装した青年たちが学校の門で待ち構えているのが、電灯に照らされて浮かび上がっている。

善至は気にせず近寄っていく。まだ影に隠れて蠢く善至を見つけたらしい三人の青年は立ち上がり、日本刀を構えた。彼らはお互い距離をとって善至にすり足で近づいていく。

一瞬の出来事だった。善至の上体が少し沈むと同時に、彼の脚部は踏み込んだと思った瞬間炎に包まれ、鞭のようにしなるサーベルの閃光が当たりを明るくした。

善至はその光源の中でサーベルを上に切り付けたままの状態から、ゆっくりとフェンシングの構えを回復する。彼の目の前の青年は糸の切れた人形のように倒れた。

次は全身の発火とともに前へ踏み込んで放たれた善至の突きがもう一人の青年を貫く。切り込んできた最後の一人の刀を受け流した善至は、ゴムのようにしなる光の軌道で反撃する。

最後の一人が門に頭を打ちそうになると、すかさず善至は彼を支えて穏やかに地面に寝かせた。

「よし、こいつらは一般人だ。他の連中もだいたいそうだろう。お前とご家族は早く体育館に逃げろ。そこは麗子先生が守っているし安全だ」

体育館、職員室、廊下は月光の如く周りの全てを照らし、校庭の滲んだ灰色を浮かび上がらせていた。友徳は殿を務めて時折後ろを見ながら、家族を体育館まで導いた。

体育館の階段では文子の歩幅に合わせて、友徳は少しずつ登って行った。体育館の入り口には槍を構えた麗子が逃げてくる市民たちを静かに見つめている。アイコンタクトすると、皮膚の下に親しげな熱が生まれたように友徳には思えた。

体育館ではすでに正道、飛鳥、愛華、智咲の家族が収容されていたので友徳は胸を撫で下ろした。時折、大勢の人間が学校を囲むフェンスの外を闊歩する音が響き渡り、家族たちは騒然となったが、その一行が学校を越えて寺に向かってるらしいというのが彼らの足音や時折漏らす怒号や喊声から伝わると、再び体育館は静まり返った。

突然、銃声や人間の声ではない雄叫び、馬が激走する音が体育館の天井で大いに反響した。怒声の土砂崩れが村の東側を飲み込む。

アシャンティ村での戦いを経験した子供達でもあまりにも恐ろしく、家族と抱き合って団子になった。跳弾や爆発物らしきものの破片がコンクリートを引き裂く音が鳴り響く。

薄暗い体育館から見ると青みがかっているように見える入り口に一人の女性と少年が立っているのを友徳は気づいた。麗子と話してから、女だけはゆっくりと体育館の中へ入ってくる。

振り返った麗子が顔面蒼白なのが友徳には見える……彼女は子供に手を握られて視界から見切れていく。

入ってきたスーツ姿の女は、家族で団子を作る集団を品定めするかのように優雅に見下ろしながら、体育館を横切っている。友徳は女が自分を見つけた時に、口角を大きく上げる以外に固まったように動かない表情に恐怖を感じながらも魅かれる。

彼女は友徳の目の前で立ち止まった。

「君が友徳くんね?私たちと一緒に来てもらうわ」

「え?」

「うちの友徳に何か用ですか?」と千華子。

「ええ。この子は日本を救う鍵なんです。連れて行かせてもらいます」

「ちょっと待ってください!」と友三郎。

「手荒な真似はしたくないんです」と舞は屈んで友徳に手を伸ばした。

「あなたが来れば、お父さんもお母さんも悲しい思いをしないで済むのよ?」

「僕は、行きません」

「そう?交渉決裂ね。でも連れていくわ」

舞はいつの間にかエーテル・メモリを顔の横に表していた。そして襟を摘んで首筋の刻印を見せつけてから、メモリを挿入した。

赤く光る熱気を含んだ風が舞を中心に渦巻き、一気に放たれた。

友徳は眩しい光に目を閉じた後、ゆっくりと目を開いて、煙の中の人影を見つめた。黒い影は徐々に姿を現す。

戦装束の女性……顔面には鉄の仮面で装甲されて表情は窺い知れない。

「友徳くん……これが最後よ。私と一緒に行く?」

「行かない」

「じゃあしょうがないわね」

舞は空中に浮かび上がると、手にヒラを天井に向けた。彼女の背後にボン、ボンと音とともに火の玉が浮かび上がる。

指揮者のように彼女が手を下ろすと、それは一気に放たれて、柱という柱、窓という窓に直撃し一気に炎の柱を上げた。

「あなたたちがどう対応するか見ものだわ」

舞はそのまま浮かび上がり火の柱をくぐって出て行った。火に囲まれた住民は一同騒然となった。

五人の子供達は目配せを合図に中央に集まり、高鳴る胸を押さえながら作戦会議に就いた。

「まずは愛華と飛鳥の水の術で切り抜けよう!」と智咲は提案。

愛華は一箇所に人々を集めてから彼らの前にたち、手をかざして一気に水の祝福を与えた。水の結合力を高めて水分が蒸発するのを防ぐのだ。

飛鳥は火の勢いを1ヶ所に集めるために、大きな渦巻きを最も燃えている窓の箇所に作り上げた。周囲の炎はたちまち吸い込まれ、渦巻きは真っ赤に変色する。

正道は入り口には向かってるらしい空気の玉を射出して炎を一気に消化。

「みなさん、今のうちに逃げて!」

智咲は入り口で逃げる市民を誘導した。愛華は飛鳥の消化に参戦する。

「消化は僕たちに任せて!」と正道は風の玉を手のひらに作りながらいう。

友徳は頷いて両親の顔を覗き込み、手を繋いで歩みを入り口に向けた。体育館から廊下へ足を踏み込んだ時、後ろで爆発音と吸引音が同時に轟いた。

振り向くと戦装束の舞が火焔放射を飛鳥と愛華に放ち、彼らはかざした手のひらで渦巻く渦巻きでそれを防いでいる。

「飛鳥!愛華!」

飛鳥と愛華の家族は子供たちに近づき、あまりの熱さにのけぞってる。

「お父さん、お母さん!」と友徳は荒っぽく叫んだ。

どうしよう、このままでは友達が殺される!

友三郎は自分も子供の肩を揺さぶって「友徳!友達を助けに行きなさい!私たちは自分で逃げるから!」

涙を流し始めた千華子を引っ張って友三郎は階段へ歩を進めた。千華子は乱れた息で「友徳、生きて帰ってくるのよ!」

思考よりも早く、彼は全身の空気を熱で膨らませて、一気に走り込み、高く飛び上がって、サーベルを舞に叩き込んだ。ドカ!という鈍い音とともに彼と彼女は地面に落ちた。

「みんな大丈夫?これは僕の問題だから、正道たちは家族と逃げて!」

鬼気迫る友徳の言葉に友達たちは口を動かさずに家族のもとに行く、廊下へ急いだ。友徳は横目で友達たちを確認すると叩き落とされて炎に塗れた舞に集中した。

ゆらりとゆらめく黒い影が炎の先から現れた。

「友達思いなのね」

「なんの用だよ」

舞は答えず、背後に御光のように火の玉を浮かび上がらせて一気に放出した。それは床に着弾すると一気に貫通し、体育館は大きく揺らめいた。

地響きとともに地面が抜けていき、友徳は自分の立っているフローリングが斜めに傾いたところで気を失った。


(参考 : *佐藤哲朗(nāgita) 弥勒(マイトレーヤ)を待ちわびて|仏陀再誕はあり得ない ①記事の部分2024.0825) https://note.com/naagita/n/n5d3cc8aff147
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