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第三章 美女だらけのアシャンティ村
シャドウとの激戦
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奈々の件、そして監禁されている麗子の件と胸にわだかまりを抱えて友徳は過ごしていた。俊一が来て以来、卓也からそのことで連絡を受けることはなかった。
今では、尋伺小学校の児童たちは香織とともに村の警備を行ったり、暇な時はイキミタマの館で手伝いなどをしていた。そこで同じく入所者を世話する奈々とも知り合った。
彼女は丸くて可愛い顎のラインに若々しいピチピチな肌、大きくて目尻の上がった挑発的な目と、整った鼻筋など全体的に小悪魔的な印象で友徳には近寄りがたく感じていた。しかし、そんな悪女じみた彼女が献身的に入所者を世話したり、愛華と一緒に花を生けたり、丁寧に七夕の飾り付けをするのを見ると、友徳は何故だかホッとした。
それでも近寄りがたい雰囲気は変わらないけど。
友徳は、光輝や由紀夫の遊び相手をするために奈々とともに娯楽室に向かっている。「ほら、友徳くん!一緒に行くよ!」と奈々は年下の友徳に対しても愛想を振りまいて言う。
友徳は素直に可愛く思ったものの、その演技っぽさにたじたじになって肩をすくめる。
娯楽室には、腹ばいになってイラストを描く光輝と、赤ちゃん用の振るとシャンシャンと音が鳴る棒を振り続ける由紀夫がお互いに顔を背けて居る。光輝も由紀夫も奈々を見上げてニコッと嬉しそうに微笑んだが、彼らは自分の作業を疎かにはしない。
「あちゃー。光輝さん、またそんな虫になってお絵描きして!こっちにテーブルあるよ?もう!」と奈々は腹ばいになってくねくねしながら紙にクマのイラストを書き込む光輝の横にコンパクトに座る。
友徳は光輝のイラストを覗き込んだが、すぐに自分の影がお絵描きの邪魔になっているのに気づいて奈々の後ろに回る。光輝のイラストはシルヴァニアファミリーの人形みたいで、絵の上手い小学生が描く技量のものだが、それでも書いている光輝の生真面目さやおとなしさのような美徳がイラストのクマに潜んでいるように見えて、友徳はいつ見ても楽しくなるのだ。
「光輝さん。これ赤い服来て可愛い熊さんだね!この猫さんにはこの色はどう?ほらこの色鉛筆とかいいよ……うん。あ、この色混ぜるといい感じになりそうじゃない?」と奈々。
光輝はお絵描きと音楽鑑賞が好きでこだわりも強く、色鉛筆の濃淡は原色系の色の手の加減だけで表現したり、特定のヘッドフォンでしかクラシックを聞かなかったりするほどのものだったが、奈々のアドヴァイスにはよくよく従うのだった。
奈々が光輝や由紀夫に対して真剣に向き合っているのを見るのが友徳は好きだった。
奈々に指導されて光輝が描いた猫はオレンジのように水々しいチャトラ。二つの色鉛筆で茶色が表現されていて鮮やかで爽やか。
「ほら。すごく可愛いでしょ」と奈々は囁き声で一言。
「すごく可愛いでした……」と光輝も満足げ。
友徳は奈々と光輝を後ろから見守った後、由紀夫の方に向かって座った。彼が玩具箱から戦隊モノのロボを取り出すと、由紀夫は窪んだ目を宝石みたいに輝かせて、棒をシャンシャンさせた。
合体変形のロボで、一号機から五号機、全てに変形能力があり、車や新幹線から人型ロボットへ変形できる。また、特定の変形の仕方で合体すると強力なロボに変形できるのだ。
「おじいちゃん、ほら。まずはこれ」と友徳は一号機をゆっくりと変形させながらいった。
由紀夫は二号機に手を取り、動かせるパーツを順番にガツガツ可動させた。さっき動かしたパーツをまたすぐに元に戻すほど記憶力が彼にはないので、難易度はすこぶる上がる。
無事に二号機がロボに変形すると、由紀夫は手を叩いて喜ぶ。
そんなこんなで友徳は光輝や由紀夫の遊び相手を楽しんでから、彼らを個室に送り返した後、奈々とともに詰所に戻った。
そんな日常にシャドウが入り込んだのは突然だった。ちょうど人工林につながる北方面からシャドウが現れたとの報告が蔵屋敷で昼ごはんを食べていた三人の少年たちに入った。
今、愛華と智咲はイキミタマの館でボランティア中、呼ぶのは忍びないと思った彼らは、香織に連れられて棒で武装して現場に急行した。現場に近づくて悲鳴をあげながら逃げる村人たちと遭遇した。
肌は緑色で西洋鎧で腹部と脚部を装甲したヒューマノイドがゆっくりと山道を降ってきている。友徳は朧げな目を擦って焦点を合わせると、そのシャドウはワニの顔を細長くしたような面妖でこちらを睨んでいる。片手にはやはり西洋剣。
友徳を先頭に三角形の陣形を作り、その後ろを飛鳥がサポートする形で一同はゆっくりと棒を構えながら近づいていく。シャドウは浮かび上がって水路を越えると、次第に足早にこちらに近づいてくる。
すり足を素早く繰り返すような走り方でシャドウが一気に詰め寄ってきた時、友徳は咄嗟に棒を触媒にして火焔を放射して牽制した。シャドウはそれは瞬間移動のようなバックステップで避けてから左にステップして、正道に襲いかかった。
正道は一撃で持っている棒を真っ二つにされると、即座に衝撃波でシャドウを吹き飛ばして距離を取る。一同は実力の差を思い知った。香織が「逃げるよ!」と叫ぶと火焔放射で殿を務める友徳と、シャドウの左右の揺さぶりに対してステップと槍衾で対抗する香織を残して、正道も後衛に加わった。
火焔放射を終えた友徳は正道の祝福を得て、棒を思いっきりシャドウの頭に振り下げた。棒は真っ二つに折れたが、シャドウはひとかけらの苦痛すら感じていないように微動だとせず、目を見開いた後、剣を薙ぎ払う。
すんでのところで友徳はローリングして回避する。武器を持っているのは後は香織だけとなり絶体絶命。
田んぼの横道を棒を突き立てる香織を殿にじりりと後退していく。香織が渾身の突きを繰り出すとシャドウはダンスのように華麗に一回転してから回避とともに剣を横に振るった。
友徳はシャドウの背中に、以前卓也が装備していた実験器具のような箱があることを見てとった。前屈みで距離を積めていたシャドウだったが、突然動きが緩慢になった。
「よし!水の通力で足止めしたよ!」と飛鳥。
田んぼの水の上で水の通力の渦巻きが回転している。シャドウは後ろからの吸い込みにその場に踏み止まって抵抗してるが前に一歩を踏み出せない。
それを見た友徳たちは一斉に蔵屋敷の方へ走り込んだ。蔵屋敷に着くと玄関を閉め切り、台所を戸締りしてから黒い廊下を駆け抜けて自室に逃げ込んだ。
「飛鳥、どうやったの?」と正道は息を整えながら途切れ途切れの声で聞いた。
「あのね。田んぼの土と水の中にある鉄分と、シャドウの鎧の中にある鉄分に通力で結合するように働きかけたんだ。それで……一応うまくいった!」と飛鳥も途切れ途切れの声で答えた。
「でもやばいよ!このままじゃみんな殺されるって」と友徳は窓から外を見ながら絶え絶えの声でいった。
「しょうがない。あの卓也くん達に……助けてもらおうか」と香織は柱に手をかけて息を整えながらいった。
香織に説得された少年たちは正道のスマホで卓也に連絡した。彼らはすぐに蔵屋敷に来ると約束した。
窓から村長邸を友徳は搾りとられるような痛みを胸に抱えて眺め続けた。小さく卓也と裕太が邸宅の門からゆっくりと出てくるのが見える。
彼らは伸びをしたり、足や手をふらふらさせてる様子で友徳をいらただせた。
「あいつら、マジでしっかりしろよ!」
襖が開いた時、友徳は完全武装の裕太と卓也を目に入れた。あの謎の箱、磁石のような機器、そして電磁ロッド。
「お前ら、マジで役にたたねぇな!」と裕太。
全員蔵屋敷から再び表に出た。香織は倉庫から代わりの棒を友徳たちに持ってきた。六人となって再びシャドウを探す。
シャドウはゆっくりと蔵屋敷の方向へ向かってきていた。裕太と卓也が機器を頭の横に掲げるとU字の又に紫のエネルギーが火花を散らし始める。
彼らが機器でシャドウを標準すると、バンと言う破裂音ととみにまた先の紫のエネルギーは弾けた。シャドウは10メートル近く吹き飛ばされて田んぼの稲の上で転がった。
友徳が首を前に出してよくよく見るとシャドウの周囲から湯気が立っている。同時に裕太たちの背中にある箱についてるチューブがぶくぶくと泡を音立てて素早く回流する。
もう一発紫の光弾が放たれると再びシャドウは大きく宙に浮き、泥だらけになりながら吹き飛ばされていった。そして彼は立ち上がるとよろめきながら人工林の方角へ逃げていく。
ホッとした友徳を残して裕太と卓也は余裕の足取りで村長邸に帰ってった。「この程度の雑魚で俺たちを呼ぶなよ?今度はな!」と裕太は捨て台詞を残した。
「あの箱はなんなんだろう?」と正道は蔵屋敷の部屋で開かれた反省会で一番に口にした。
「何かの冷却装置?かしら」と香織何気なく一言。
「ふーん、まぁとにかく今日は完敗だったよね……」と友徳は体育座りでこじんまりとしながらいった。
「しょうがないよ。マジで強かったし今回のシャドウ。それに武器がしょうもなさすぎるって!」
「次来たらマジで俺たち殺されるよ……」
一人窓から大空を見上げていた正道が突然「ちょっと待って……香織さんはさっきあの箱を冷却装置って言ったよね?」
「うん。水を全身に運んで身体の熱を冷やしているんじゃないかしら」
「と言うと……それほどの熱の負担があのシャドウや、卓也たちにあるってことかな?」
「正道もシャドウにあの箱が付いているの見えてたんだ」と友徳は胡座に座り直して腕を組んでいった。
「これは攻略の手掛かりになるんじゃないかな?友徳がもしシャドウの身体に祝福術を使って熱の元素を強めれば——」
「あ!いいアイディア!もし本当に冷却装置なら熱暴走が起きるね!」と香織は珍しく興奮気味に言って平たい顔を輝かせた。
「そう、そう!シャドウが田んぼに落ちた時、周りから湯気が立つのが見えたよ!」と飛鳥が言うと友徳も思い出した。
そして彼らは作戦を練り直した。香織は棒ではなく日本刀で武装して先陣を切る。
正道が風の元素の祝福術、飛鳥が水の元素の祝福術でサポートして、彼女は一対一でシャドウと向き合う。友徳は後ろに回り込んでシャドウの冷却装置の水の火の元素にアクセスして熱の温度を上昇させて熱暴走に至らせる。弱ったシャドウを香織が撃破!と言うもの。
作戦を立てた友徳たちは疲れもあって実行を明日に引き延ばした。あのシャドウは逃げていったし大丈夫だろうとたかを括って。この日の夜、少年たちは熟睡した。
友徳は早朝に香織に叩き起こされた。起きた瞬間にシャドウの件を思い出した友徳は、枕元に置いていた棒をすぐさま掴んで回りを見回すと、正道も飛鳥もほぼ同時に起きて同時に棒を掴んだ様子。香織を先頭に彼らは黒い階段をドタドタ響かせながら降りていく。
三和土をを出た後、友徳が靴の調子をトントンと整えたのを合図に、四人は香織を先頭にフォーメーションを取る。
シャドウはちょうど人工林の方角から村長邸と蔵屋敷の間にある堤防をゆっくりとこちらに向かってきている。香織は鞘から日本刀を抜き、正道と飛鳥は彼女に手のひらを向けてサポート。
友徳は一人、中古住宅のベランダに忍び込んだ後、柱を伝って屋根に登り、ちょうど横川からシャドウを覗き込める場所に陣取った。シャドウがあのゴキブリじみた高速移動で香織に突撃すると同時に、シャドウの背中の装置のチューブは泡立ち始めた。
よし!これならいける!友徳はチューブの中の水の元素に向かって念じ始めた。
素早い剣戟の応酬に友徳は気が散った。いくら祝福術を受けているとはいえ、香織は女性だし、なんなら素の正道よりもか弱い程度だ。
香織は縦の一撃を繰り返したり、今度はX字の切り込みを繰り返したりと素人じみた戦いぶりだが、流石の訓練と祝福術の成果もあってか、シャドウの一撃を避ける軽快な足取りは見事だった。
突如、シャドウは剣を捨ててから頭を抱えて苦しみ出した。
湯気が出ているのも見える。よし!これならいける!と思った矢先、シャドウの身体から強烈な熱波が放たれて、香織たちは吹き飛ばされた。
熱波の中から姿を現したシャドウの姿に友徳は驚いた。胸と足を覆っていた鎧はちぎれて飛び散っているが、筋肉は以前にも増して肥大し、身長も頭一つ分大きくなっている。背中の冷却装置は無事。
そうか!変身術!友徳は以前善至に教えてもらった術を思い出した。火は変化のエネルギー、うまく使うと変身術に応用できる……シャドウは全身に広がり冷却されない熱を変身術に転換して、自身を大幅に強化したのだ。
シャドウは刀を構える香織に素手で襲いかかった。三人は刀と棒で必死に応戦する。
シャドウは一本の棒がわずかにしなるような身のこなしで刀も棒も避けていき、まずは刀を素手で掴んでから手のひらに含んで粉砕した。続いて正道が振り切った棒がシャドウに命中すると同時にゴミクズになり、飛鳥は棒を捨てて座り込み助けを求めるようにこちらを一瞥した。
絶対絶命!友徳には意思の火花がが身体中を発火させるのを感じていた。彼は棒を掴むと、火の元素の熱で盛り上がった足でカエルのように大きく跳躍した。
対空期間中、彼は棒の先を空を飛ぶスーパーマンの拳に見立ててそれをシャドウに向けて急降下する。シャドウに直撃する瞬間、友徳は棒から手を引き離され、何かにグイングインと振り回される感覚を受けた。
ものすごい速度に彼は目を回したが、回転はゆっくりになる。気がつくと河川敷の砂利道に横たわっていた。
友徳は急いで香織たちとシャドウを探したが、ちょうど香織が意識を取り戻したシャドウの中の子供を抱きしめているところだった。正道と飛鳥は友徳に気づいて手を振ってこちらに走り寄ってくる。
「友徳ー。よかったー。無事だったね!」
「一体何が起きたの?」と友徳は抱きついてくる二人に困惑しながらボケェーと一言。
「友徳がスーパーマンの飛び方でくることがわかったからさ、棒がシャドウに突き刺さるちょっと前にさ、水の通力で引っ張ったんだよ!危なかったぁー!」と飛鳥は言いながら指で川の水上を示した。川面では今でも水の通力の渦巻きのエネルギーが渦巻いている。
「友徳ぃー。飛鳥が気づいてなかったらマジでお前死んでたよ!」と正道は嬉しいのか参っているのかわからない裏返った声で、友徳の肩をきつく抱きしめながらいった。
「とりあえず、良かったのかな?」と友徳は言いながら自分の無謀に頭がボケーとしながらもフラフラ身体を揺らしながら子供の方に向かった。
シャドウに棒が突き刺さったらしいにも関わらず、今香織に抱かれている子供が無傷で友徳もホッとした。香織が子供を抱き上げて医療室に連れて行くのを見届けてから三人の少年は蔵屋敷に戻った。
今では、尋伺小学校の児童たちは香織とともに村の警備を行ったり、暇な時はイキミタマの館で手伝いなどをしていた。そこで同じく入所者を世話する奈々とも知り合った。
彼女は丸くて可愛い顎のラインに若々しいピチピチな肌、大きくて目尻の上がった挑発的な目と、整った鼻筋など全体的に小悪魔的な印象で友徳には近寄りがたく感じていた。しかし、そんな悪女じみた彼女が献身的に入所者を世話したり、愛華と一緒に花を生けたり、丁寧に七夕の飾り付けをするのを見ると、友徳は何故だかホッとした。
それでも近寄りがたい雰囲気は変わらないけど。
友徳は、光輝や由紀夫の遊び相手をするために奈々とともに娯楽室に向かっている。「ほら、友徳くん!一緒に行くよ!」と奈々は年下の友徳に対しても愛想を振りまいて言う。
友徳は素直に可愛く思ったものの、その演技っぽさにたじたじになって肩をすくめる。
娯楽室には、腹ばいになってイラストを描く光輝と、赤ちゃん用の振るとシャンシャンと音が鳴る棒を振り続ける由紀夫がお互いに顔を背けて居る。光輝も由紀夫も奈々を見上げてニコッと嬉しそうに微笑んだが、彼らは自分の作業を疎かにはしない。
「あちゃー。光輝さん、またそんな虫になってお絵描きして!こっちにテーブルあるよ?もう!」と奈々は腹ばいになってくねくねしながら紙にクマのイラストを書き込む光輝の横にコンパクトに座る。
友徳は光輝のイラストを覗き込んだが、すぐに自分の影がお絵描きの邪魔になっているのに気づいて奈々の後ろに回る。光輝のイラストはシルヴァニアファミリーの人形みたいで、絵の上手い小学生が描く技量のものだが、それでも書いている光輝の生真面目さやおとなしさのような美徳がイラストのクマに潜んでいるように見えて、友徳はいつ見ても楽しくなるのだ。
「光輝さん。これ赤い服来て可愛い熊さんだね!この猫さんにはこの色はどう?ほらこの色鉛筆とかいいよ……うん。あ、この色混ぜるといい感じになりそうじゃない?」と奈々。
光輝はお絵描きと音楽鑑賞が好きでこだわりも強く、色鉛筆の濃淡は原色系の色の手の加減だけで表現したり、特定のヘッドフォンでしかクラシックを聞かなかったりするほどのものだったが、奈々のアドヴァイスにはよくよく従うのだった。
奈々が光輝や由紀夫に対して真剣に向き合っているのを見るのが友徳は好きだった。
奈々に指導されて光輝が描いた猫はオレンジのように水々しいチャトラ。二つの色鉛筆で茶色が表現されていて鮮やかで爽やか。
「ほら。すごく可愛いでしょ」と奈々は囁き声で一言。
「すごく可愛いでした……」と光輝も満足げ。
友徳は奈々と光輝を後ろから見守った後、由紀夫の方に向かって座った。彼が玩具箱から戦隊モノのロボを取り出すと、由紀夫は窪んだ目を宝石みたいに輝かせて、棒をシャンシャンさせた。
合体変形のロボで、一号機から五号機、全てに変形能力があり、車や新幹線から人型ロボットへ変形できる。また、特定の変形の仕方で合体すると強力なロボに変形できるのだ。
「おじいちゃん、ほら。まずはこれ」と友徳は一号機をゆっくりと変形させながらいった。
由紀夫は二号機に手を取り、動かせるパーツを順番にガツガツ可動させた。さっき動かしたパーツをまたすぐに元に戻すほど記憶力が彼にはないので、難易度はすこぶる上がる。
無事に二号機がロボに変形すると、由紀夫は手を叩いて喜ぶ。
そんなこんなで友徳は光輝や由紀夫の遊び相手を楽しんでから、彼らを個室に送り返した後、奈々とともに詰所に戻った。
そんな日常にシャドウが入り込んだのは突然だった。ちょうど人工林につながる北方面からシャドウが現れたとの報告が蔵屋敷で昼ごはんを食べていた三人の少年たちに入った。
今、愛華と智咲はイキミタマの館でボランティア中、呼ぶのは忍びないと思った彼らは、香織に連れられて棒で武装して現場に急行した。現場に近づくて悲鳴をあげながら逃げる村人たちと遭遇した。
肌は緑色で西洋鎧で腹部と脚部を装甲したヒューマノイドがゆっくりと山道を降ってきている。友徳は朧げな目を擦って焦点を合わせると、そのシャドウはワニの顔を細長くしたような面妖でこちらを睨んでいる。片手にはやはり西洋剣。
友徳を先頭に三角形の陣形を作り、その後ろを飛鳥がサポートする形で一同はゆっくりと棒を構えながら近づいていく。シャドウは浮かび上がって水路を越えると、次第に足早にこちらに近づいてくる。
すり足を素早く繰り返すような走り方でシャドウが一気に詰め寄ってきた時、友徳は咄嗟に棒を触媒にして火焔を放射して牽制した。シャドウはそれは瞬間移動のようなバックステップで避けてから左にステップして、正道に襲いかかった。
正道は一撃で持っている棒を真っ二つにされると、即座に衝撃波でシャドウを吹き飛ばして距離を取る。一同は実力の差を思い知った。香織が「逃げるよ!」と叫ぶと火焔放射で殿を務める友徳と、シャドウの左右の揺さぶりに対してステップと槍衾で対抗する香織を残して、正道も後衛に加わった。
火焔放射を終えた友徳は正道の祝福を得て、棒を思いっきりシャドウの頭に振り下げた。棒は真っ二つに折れたが、シャドウはひとかけらの苦痛すら感じていないように微動だとせず、目を見開いた後、剣を薙ぎ払う。
すんでのところで友徳はローリングして回避する。武器を持っているのは後は香織だけとなり絶体絶命。
田んぼの横道を棒を突き立てる香織を殿にじりりと後退していく。香織が渾身の突きを繰り出すとシャドウはダンスのように華麗に一回転してから回避とともに剣を横に振るった。
友徳はシャドウの背中に、以前卓也が装備していた実験器具のような箱があることを見てとった。前屈みで距離を積めていたシャドウだったが、突然動きが緩慢になった。
「よし!水の通力で足止めしたよ!」と飛鳥。
田んぼの水の上で水の通力の渦巻きが回転している。シャドウは後ろからの吸い込みにその場に踏み止まって抵抗してるが前に一歩を踏み出せない。
それを見た友徳たちは一斉に蔵屋敷の方へ走り込んだ。蔵屋敷に着くと玄関を閉め切り、台所を戸締りしてから黒い廊下を駆け抜けて自室に逃げ込んだ。
「飛鳥、どうやったの?」と正道は息を整えながら途切れ途切れの声で聞いた。
「あのね。田んぼの土と水の中にある鉄分と、シャドウの鎧の中にある鉄分に通力で結合するように働きかけたんだ。それで……一応うまくいった!」と飛鳥も途切れ途切れの声で答えた。
「でもやばいよ!このままじゃみんな殺されるって」と友徳は窓から外を見ながら絶え絶えの声でいった。
「しょうがない。あの卓也くん達に……助けてもらおうか」と香織は柱に手をかけて息を整えながらいった。
香織に説得された少年たちは正道のスマホで卓也に連絡した。彼らはすぐに蔵屋敷に来ると約束した。
窓から村長邸を友徳は搾りとられるような痛みを胸に抱えて眺め続けた。小さく卓也と裕太が邸宅の門からゆっくりと出てくるのが見える。
彼らは伸びをしたり、足や手をふらふらさせてる様子で友徳をいらただせた。
「あいつら、マジでしっかりしろよ!」
襖が開いた時、友徳は完全武装の裕太と卓也を目に入れた。あの謎の箱、磁石のような機器、そして電磁ロッド。
「お前ら、マジで役にたたねぇな!」と裕太。
全員蔵屋敷から再び表に出た。香織は倉庫から代わりの棒を友徳たちに持ってきた。六人となって再びシャドウを探す。
シャドウはゆっくりと蔵屋敷の方向へ向かってきていた。裕太と卓也が機器を頭の横に掲げるとU字の又に紫のエネルギーが火花を散らし始める。
彼らが機器でシャドウを標準すると、バンと言う破裂音ととみにまた先の紫のエネルギーは弾けた。シャドウは10メートル近く吹き飛ばされて田んぼの稲の上で転がった。
友徳が首を前に出してよくよく見るとシャドウの周囲から湯気が立っている。同時に裕太たちの背中にある箱についてるチューブがぶくぶくと泡を音立てて素早く回流する。
もう一発紫の光弾が放たれると再びシャドウは大きく宙に浮き、泥だらけになりながら吹き飛ばされていった。そして彼は立ち上がるとよろめきながら人工林の方角へ逃げていく。
ホッとした友徳を残して裕太と卓也は余裕の足取りで村長邸に帰ってった。「この程度の雑魚で俺たちを呼ぶなよ?今度はな!」と裕太は捨て台詞を残した。
「あの箱はなんなんだろう?」と正道は蔵屋敷の部屋で開かれた反省会で一番に口にした。
「何かの冷却装置?かしら」と香織何気なく一言。
「ふーん、まぁとにかく今日は完敗だったよね……」と友徳は体育座りでこじんまりとしながらいった。
「しょうがないよ。マジで強かったし今回のシャドウ。それに武器がしょうもなさすぎるって!」
「次来たらマジで俺たち殺されるよ……」
一人窓から大空を見上げていた正道が突然「ちょっと待って……香織さんはさっきあの箱を冷却装置って言ったよね?」
「うん。水を全身に運んで身体の熱を冷やしているんじゃないかしら」
「と言うと……それほどの熱の負担があのシャドウや、卓也たちにあるってことかな?」
「正道もシャドウにあの箱が付いているの見えてたんだ」と友徳は胡座に座り直して腕を組んでいった。
「これは攻略の手掛かりになるんじゃないかな?友徳がもしシャドウの身体に祝福術を使って熱の元素を強めれば——」
「あ!いいアイディア!もし本当に冷却装置なら熱暴走が起きるね!」と香織は珍しく興奮気味に言って平たい顔を輝かせた。
「そう、そう!シャドウが田んぼに落ちた時、周りから湯気が立つのが見えたよ!」と飛鳥が言うと友徳も思い出した。
そして彼らは作戦を練り直した。香織は棒ではなく日本刀で武装して先陣を切る。
正道が風の元素の祝福術、飛鳥が水の元素の祝福術でサポートして、彼女は一対一でシャドウと向き合う。友徳は後ろに回り込んでシャドウの冷却装置の水の火の元素にアクセスして熱の温度を上昇させて熱暴走に至らせる。弱ったシャドウを香織が撃破!と言うもの。
作戦を立てた友徳たちは疲れもあって実行を明日に引き延ばした。あのシャドウは逃げていったし大丈夫だろうとたかを括って。この日の夜、少年たちは熟睡した。
友徳は早朝に香織に叩き起こされた。起きた瞬間にシャドウの件を思い出した友徳は、枕元に置いていた棒をすぐさま掴んで回りを見回すと、正道も飛鳥もほぼ同時に起きて同時に棒を掴んだ様子。香織を先頭に彼らは黒い階段をドタドタ響かせながら降りていく。
三和土をを出た後、友徳が靴の調子をトントンと整えたのを合図に、四人は香織を先頭にフォーメーションを取る。
シャドウはちょうど人工林の方角から村長邸と蔵屋敷の間にある堤防をゆっくりとこちらに向かってきている。香織は鞘から日本刀を抜き、正道と飛鳥は彼女に手のひらを向けてサポート。
友徳は一人、中古住宅のベランダに忍び込んだ後、柱を伝って屋根に登り、ちょうど横川からシャドウを覗き込める場所に陣取った。シャドウがあのゴキブリじみた高速移動で香織に突撃すると同時に、シャドウの背中の装置のチューブは泡立ち始めた。
よし!これならいける!友徳はチューブの中の水の元素に向かって念じ始めた。
素早い剣戟の応酬に友徳は気が散った。いくら祝福術を受けているとはいえ、香織は女性だし、なんなら素の正道よりもか弱い程度だ。
香織は縦の一撃を繰り返したり、今度はX字の切り込みを繰り返したりと素人じみた戦いぶりだが、流石の訓練と祝福術の成果もあってか、シャドウの一撃を避ける軽快な足取りは見事だった。
突如、シャドウは剣を捨ててから頭を抱えて苦しみ出した。
湯気が出ているのも見える。よし!これならいける!と思った矢先、シャドウの身体から強烈な熱波が放たれて、香織たちは吹き飛ばされた。
熱波の中から姿を現したシャドウの姿に友徳は驚いた。胸と足を覆っていた鎧はちぎれて飛び散っているが、筋肉は以前にも増して肥大し、身長も頭一つ分大きくなっている。背中の冷却装置は無事。
そうか!変身術!友徳は以前善至に教えてもらった術を思い出した。火は変化のエネルギー、うまく使うと変身術に応用できる……シャドウは全身に広がり冷却されない熱を変身術に転換して、自身を大幅に強化したのだ。
シャドウは刀を構える香織に素手で襲いかかった。三人は刀と棒で必死に応戦する。
シャドウは一本の棒がわずかにしなるような身のこなしで刀も棒も避けていき、まずは刀を素手で掴んでから手のひらに含んで粉砕した。続いて正道が振り切った棒がシャドウに命中すると同時にゴミクズになり、飛鳥は棒を捨てて座り込み助けを求めるようにこちらを一瞥した。
絶対絶命!友徳には意思の火花がが身体中を発火させるのを感じていた。彼は棒を掴むと、火の元素の熱で盛り上がった足でカエルのように大きく跳躍した。
対空期間中、彼は棒の先を空を飛ぶスーパーマンの拳に見立ててそれをシャドウに向けて急降下する。シャドウに直撃する瞬間、友徳は棒から手を引き離され、何かにグイングインと振り回される感覚を受けた。
ものすごい速度に彼は目を回したが、回転はゆっくりになる。気がつくと河川敷の砂利道に横たわっていた。
友徳は急いで香織たちとシャドウを探したが、ちょうど香織が意識を取り戻したシャドウの中の子供を抱きしめているところだった。正道と飛鳥は友徳に気づいて手を振ってこちらに走り寄ってくる。
「友徳ー。よかったー。無事だったね!」
「一体何が起きたの?」と友徳は抱きついてくる二人に困惑しながらボケェーと一言。
「友徳がスーパーマンの飛び方でくることがわかったからさ、棒がシャドウに突き刺さるちょっと前にさ、水の通力で引っ張ったんだよ!危なかったぁー!」と飛鳥は言いながら指で川の水上を示した。川面では今でも水の通力の渦巻きのエネルギーが渦巻いている。
「友徳ぃー。飛鳥が気づいてなかったらマジでお前死んでたよ!」と正道は嬉しいのか参っているのかわからない裏返った声で、友徳の肩をきつく抱きしめながらいった。
「とりあえず、良かったのかな?」と友徳は言いながら自分の無謀に頭がボケーとしながらもフラフラ身体を揺らしながら子供の方に向かった。
シャドウに棒が突き刺さったらしいにも関わらず、今香織に抱かれている子供が無傷で友徳もホッとした。香織が子供を抱き上げて医療室に連れて行くのを見届けてから三人の少年は蔵屋敷に戻った。
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カクヨムでも同内容で公開しています。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異国の地で奴隷として売られた巨乳美少女”朋美”
アダルト小説家 迎夕紀
青春
無実の罪を着せられ、性欲処理奴隷に身を落とした巨乳美少女の物語。
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人生初の海外旅行でセライビア共和国を訪れた朋美。
ところが税関で身に覚えのない覚せい剤が荷物から発見された。
執拗な拷〇に屈して罪を認めてしまい、そのまま灼熱地獄の刑務所へ送られた朋美。
灼熱の地で過酷な重労働。夜になれば汚い男達に毎日犯され続ける地獄の日々に終わりは来るのか・・・。
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主人公の女の子:朋美(ともみ)
職業:女学生
身長:167cm
スリーサイズ:B101 W:59 H:94
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*こちらは表現を抑えた少ない話数の一般公開版です。大幅に加筆し、より過激な表現を含む全編35話(プロローグ16話、本編19話)を読みたい方は以下のURLをご参照下さい。
https://note.com/adult_mukaiyuki/m/m3c9da6af445b
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
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