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第三章 美女だらけのアシャンティ村

自称合理主義者が福祉施設を襲撃!

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友徳は次の日も、イキミタマの館でお手伝いをした。彼は食堂の台所でスポンジを押し込み泡を膨らませてから、水洗いし終えた食器を丁寧に拭いていく。

入所者は結構多いものの、今日は正道と飛鳥の援軍もありスイスイ仕事は進む。的確に仕事が進んでいく充実感とそれにさして拘らない余裕がさらに心を軽くしていく。

雑事にイラっとすることもなく友徳はフライパンを大きく回してひと洗いすると食器洗いを終えた。

白い長方形のテーブルが二つ横に並んでいる食堂に戻った友徳に恵と、村から疎開してきた知的障害者の青年、光輝が目に入った。

「今日のお味噌汁は大変美味しくありました!ありがとうございます!」

「うん、美味しかったー?よかったー」と恵。

恵がテーブルを布巾で拭くのを光輝はニヤニヤしながら追い続ける。そして何度もご飯の話。
「今日は久しぶりの白米でした。ありがとうございます!」

友徳にはそれをあしらう恵の表情が渾身の作り笑いに見えたし、光輝のすけべ心丸出しの絡み方に少しの恐怖と嫌悪感を覚えた。

「光輝さん、お昼はお散歩だよねー。誰と行きたい?」

「それは恵さんがいいです!」

「ごめんねー。うち、お昼は忙しいんだ。どうする?」

そこから幾度か要領の得ない不可解な話を光輝は話した。友徳の視界の端からニョキっと智咲の頭が現れると笑顔で恵と光輝の元に行った。

「光輝さん!恵さん!なんの話してるの?」と智咲はすんなりと人の輪を花のように広げる。

「恵さんと散歩をするんです!今日はお天気がいいです!」

「あ、いいなぁ。恵さんと散歩。恵さん可愛いもんね!」

「恵さんはすごく可愛くて、お尻が大きいです!」と光輝が胸を張りながら嬉しそうに話すと、恵は一瞬固まった。

「そっかー。恵さんはお昼はお仕事ないんですか?」

「それは実はねぇ。事務のお仕事があるの。智咲ちゃんから言っといてー」

「え、本当ですか。だったら光輝さん。今日は散歩できないね?」

「それならこの部屋で散歩しますよ!」

そんな調子で会話は続いて行った。しかし智咲はへこたれず光輝の健康管理上、散歩が必要であること、今日は恵は散歩に付き合えないことをしっかりと説明し、私と一緒に行こうと粘り強く働きかけた。その甲斐あってか、光輝は気分をそのままにそれを許可した。

「それじゃあ、一緒に行こ!あ、友徳くんもついてきて」

友徳は恐る恐る光輝の横についた。ニヤニヤ顔の青年は今でも恵から顔を逸らさない。彼は強引に引っ張って行った智咲に連れられて外に出た。

外に出るとモードチェンジしたのか、光輝は子供達をおいて素早く雑木林の方角に向かう。水路を前にすると、迷路を最適に解いていくロボットみたいな足取りで舗装された道をゆく。

クヌギの林を力強く支える褐色の土壌に足を踏み入れた時、初めて光輝は後ろを全身を使って振り向いた。そしてもといた道を戻ろうとして智咲に「ちょっと!散歩は雑木林の中だよ!」と言われると言われると「そうでした!」と応えた。

光輝は茶色い斜面を左手に、低い崖を右手に備える根っこと岩で凸凹な道でも歩みの速度を緩めなかった。そのせいか時折上半身がガクガクしている。

ちょうど雑木林の端っこ、外に出れば車道という場所の広場の休憩所で、彼はロボットじみた動きでベンチに座り「今から十五分間、休憩です!」と宣言した。智咲がどこに隠していたか小さなペットボトルを彼に渡すと「ありがとうございます!麦茶は好物です!」

麦茶を飲んだ光輝は目を閉じてそのままジーとしている。友徳は素直に怖いと思い、智咲に視線を向けると彼女は友徳に素直な笑みで応えた。

その時、何か鳥の声がした。友徳が緑に黄色を灯すクヌギの枝葉と木漏れ日のシャワーで印象的な天蓋を見上げると、もう何度か鳥は声を出した。ツーピー、ジュクジュク。

「光輝さん。この鳥なんですか?」

「これはシジュウカラです」と光輝は急に穏やかにリラックした様子で一言。

もう一度何かの鳥が鳴く。チュルチュルチュル。

「これは?」と智咲は楽しそうに聞く。

「これはメジロです!」と光輝は智咲の声色に釣られて温かい笑みで応えた。

そんな会話が続いていくと智咲も光輝もどんどん楽しそうになっていく。友徳も同じく。休憩15分のうちに、鳥は四羽きた。

「メジロとシジュウカラどっちが可愛い?」と智咲。

「メジロさんもシジュウカラさんも一生懸命生きています!」

会話を打ち切った智咲は、もう一度光輝にペットボトルを渡した。光輝はまるで適量を知っているような知的な面持ちでグイグイっと飲むと、素早く蓋を回して、再び智咲に返した。

帰り道も光輝が先導した。さっきより歩幅とスピードが衰えていたが相変わらずキビキビカクカクと礫や茂みを彼は乗り越えていく。行きでは上りだった岩が少し入り組んだ場所を通った光輝は子供達をその場で待った。

「お待たせ!待ってくれてありがとう」

「そこは危険ですから大変でした!」

次の難所、左手も右手も急斜面の小道に入った時、光輝は振り向いてからズカズカと友徳に近づいて彼の手を握った。友徳は後ずさったがされるがままになった。

湿った大きい力強い手のひらを感じながら友徳は光輝の後を追った。小道を渡り終わっても手のひらは離されなかった。

結局村と雑木林の境界までそのままだった。

「光輝さん、友徳くんを守ってくれたんだね?ありがと」

「初めての人は体力がありませんから、大変でした!」

「友徳くん、ありがとうは?」

「え?あ、ありがとうございます」

「いえいえ、すごいことではありません!」

三人はそのままイキミタマの館に戻った。雑木林は思ったよりも深い林らしく、とうの昔に昼休みは終わっていた。

どっと疲れた友徳は詰所のデスクにうつ伏せになった。そこにミルクコーヒーを注いだカップを二つ持って恵が現れる。

「お疲れー。今日は助かったよー」

「うん。てか今日はこれで終わり?」

「うん。子供達はね」

次の瞬間、一階のどこかのガラスが割れる音が響いた。友徳は恵と一緒に音がした方向へ行く。

詰所のを出て右手の診療所側に向かう廊下の窓が粉々に割れて、床には大きめな石が落ちている。友徳が割れた窓越しに外を見るとあの慎吾とその友達二人がいた。

彼らは友徳を見つけると指を指して笑い始めた。

「ひっどーい、あの子達、この前もここに来て色々悪さしたんだよ!」という恵の声で友徳は振り返ると眉間に皺を寄せて軽蔑するかのような彼女がそこにいた。

自動ドアが開く音が知ると、ニヤニヤした慎吾とその友達が入ってきた。彼らはそのまま詰所の方に行く。

彼らはチェアに座り、デスクに乗った書類を床にばら撒くとその様子をスマホで撮影している。

「ちょっとなにすんの!」と恵は声を張り上げてズカズカ詰所の中に入っていく。友徳も続いた。

恵に気づいた慎吾はスマホを彼女に向けて「恵キター!!!達也!そっち回って!亮介は俺の後ろ!」とチェアにふんぞり返っている。達也少年のスマホが恵のサイドからシャッター音を鳴らすと恵はひと睨みして「え、なに!」と威嚇。

「おい!ばばあ!早くこの施設やめろや!みんなの前で説明しろや!」と慎吾はいい、彼の構えるスマホは恵を放さない。どうやら生配信のようだ。

声変わり前の彼の声が少し滑稽だと友徳には感じたが、言葉遣いの容赦のなさに怖さを感じたのも事実。

「なんで?」

「おい!恵!今は戦争中なんだぞ!ジジイやババアとかガイジの世話してんじゃねー!みんなのためになることをしろや!」

恵は両手を腰に当てがって「困っている人を助けるのは当然でしょ?」

慎吾も続ける。「もっと国や社会のためになることを考えろや!ジジイババアもガイジも生産性がないんだよ!恵、お前可愛いけど女だから馬鹿だろ?もっとさぁ、若者に投資するとか、奉仕するとかいう発想はないわけ?」

「うちらの仕事は、そういうのじゃないの。それは他の人がやればいいの。てか写真撮んないで!」と恵は途中でフラッシュを焚く達也のスマホの方を怯えたように睨んでいった。

「聞きましたか?みなさん。やっぱ恵も聡美と同じで反日ですよ!やばいですよねぇ」と慎吾はネットで繋がる人々にアジテーション。

「お!先生からコメントきた!……どれどれ!おーい恵答えろよぉ?お前らの活動が、どう世の中の役に立っているか、どこが合理的か説明してみ?お前らのガイジの世話をする活力が若者に使われた時より、どう優れてるか……オラァ!説明しろや!」慎吾は先生なる人物のコメントを棒読みで読み上げ始めたが、自分でも先生の真意が分かり始めたようで最後はオラついた。

「な、なんでそんなこと……ほら、帰った!帰った!」

恵は慎吾の肩を掴み揺さぶった。それから持ち前の筋力で引っ張る。流石に慎吾は力では勝てない様子で「うわっ!痛い!やっぱ言葉で勝てないと暴力振るうんだぁー。女は馬鹿だなぁ」

友徳も恵に加勢した。慎吾は「助けて~!ここには反日のクソガキもいまーす!」と喜色ばんだ声を上げた。

その時、友徳の体がふわっと浮いた。達也に羽交い締めにされたようだ。

それを解こうと必死になるが、力が出ない。身体の熱にアクセスしようとしても集中力が表れない。その時友徳は自分が慎吾の言葉に相当怒り心頭になっていることに気づいた。

怒りが集中力を大きく削っている。

友徳が足で床を思い切り蹴り、拘束を外そうとしても、達也は力強くホールド。ふと恵の方に目を向けると、慎吾と亮介が徐々に形成を逆転。

恵は壁に押し込まれると壁を背に転んでしまった。彼女はまだ、亮介の片腕と組み合っているが、もう片方の手で頭を壁に家畜がされるような乱暴さで押さえ込まれている。

衝突するかのように慎吾が恵に覆い被さった。

「ねぇ、無理!やだ!」

恵の悲鳴。二人の小学生は壁際に恵をめり込ませるかの如く覆い、彼らの細い体の下敷きになっている恵に、腕を強欲さを表す素早く力強く刹那的な手つきで伸ばしている。

慎吾は片手のスマホだけはしっかりと恵に向けている。

恵が大きな吐息で啜り泣き始めると、慎吾は満足げに大笑いした後、スマホの聴衆と恵に向けて「今度、もう一回質問に来まーす!その時答えられなかったら……もっともっとでぇーす!」と宣言して帰って行った。慎吾、亮介が詰所から出ると、友徳は達也から解放され、床に手をつくと、背中を強く蹴り飛ばされた。

その後、友徳は壁を背に胸を押さえて縮こまっている恵に手を差し伸べた。伏せ目がちな恵は手を受け取って立ち上がる。

「大丈夫ですか?」

「うん」と言いながらも恵は涙を拭った。

励ましたのも束の間、大きな怒りと悔しさが友徳の胸を鋭利な刃物のように突き刺した。そしてコントロール不能な野良犬の伝染病じみた身体を鈍らせる熱が頭や胸に広がり、冷静さがなくなる。

「ごめんなさい……」と友徳は申し訳なさから謝った。

「……なにが?」

友徳は嗚咽した。水没寸前の下水道から逃れるネズミのように、涙と鼻水が一気に出る。彼はもう一度恵を見上げるが言葉が出ない。

「もう、鼻水出てる」と恵は近場のティッシュを出してから友徳に渡した。

その後、友徳が泣いている間、彼は恵に頭を撫でられて慰められていた。やっと声で助けられなくてごめんなさい、というと恵は急に顔を明るくして「今度は助けてよ?」と言いながら頭を強くわしゃわしゃしてきた。

友徳はやっと元気を少しずつ取り戻した。

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