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第三章 美女だらけのアシャンティ村

女兵士とドッジボール対決!

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友徳と正道は麗子を夜ご飯の後に呼び出して、正直にマニア・ネットのことを話した。話しているうち、彼女の大きい切れ長の目や直線的な顎のラインがどんどん引き攣るのを見てとった友徳は、怖気ついたものの、最後まで話した。

麗子は話を聞き終えたのち、いくつか質問をしてきたので、友徳と正道は目配せした後正直に話した。もうそのサイトを見ないことを麗子は、きつく言い渡した。

友徳は麗子から、ライオンのメスが獲物の首根っこを抑えていきり立つような迫力を皮膚の下から感じ取れ怯え切ってしまった。

「そういえば、あなたたちに教えておかなければいけないことがあるの」と麗子は怯える友徳と正道を上からじっとり観察するような目つきで見つめながら話した。

「どんなことですか?」と友徳。

「実は最近、グレイ・シャドウがこの村の近くを彷徨いているらしくて……目撃者が出ているの。多分、森か林のどこかに小さめのダンジョンがあるんだと思う。そこであなた達にも注意喚起したくてね。ダンジョンは見つかり次第、私が攻略しておくから、あなた達は変な洞窟を見つけても入っちゃダメだよ?いい?こういうのは大人に任せて」

「はい……」と友徳と正道。

「外に出ているシャドウと出会って、戦いを避けられない時は、戦っていいよ。でも、なるべく逃げるようにして」

「どうしてですか?」と正道は麗子を見上げながらいった。

「子供が戦っているところを見るのは見ていられないからだよ!先生として心配です。わかった?」

「はい」

その場で麗子から友徳達は解放され、自室に戻っていった。怒りの表情を作る麗子の怖い印象はしばらく友徳の脳裏に焼きついた。風呂に順番に入り、歯を磨いた後、三人は自分の分の布団を引っ張り出した。布団を敷き終わると飛鳥が枕を投げつけたが、友徳はさっき怒られたこともあり、身を縮ませていたので、それに加わらなかった。

消灯するまでの間、飛鳥は杏奈の話に花を咲かせた。彼女の趣味はスポーツ。なんでもできるスポーツウーマンらしい……バレーボールにバスケットボール、そしてバドミントン。

へぇぇ、と友徳は聞き流した。

「なぁ、飛鳥。ダンジョンについては聞いた?」と正道は飛鳥の方に身を返していった。

「え?ああ、聞いたよ。ついさっき!」

友徳は寝たふりをしながら聞き耳を立てた。

「ねぇ、僕たちがそのダンジョンとやらを……攻略してみないか?」ち正道は神妙な声色で話す。
「でも先生は危ないっていってたよ」と飛鳥は正道に絆されて声を低めた。

「うん。でも僕は、実力がどれくらいか試したいんだ。僕たちは大人になった後、ずっと戦っていくアーティファクトたちでしょ?」

「やめとこうよ……危ないよ。先生に任せておこうよ」とさらに飛鳥は声を低めて。

「友徳は、どう思う?」

狸寝入りの友徳であったが、ダンジョンについては興味津々であった。グレイ・シャドウを破った時の高揚が再び胸を熱く弛緩させた。

「流石に、洞窟に入るのはまずいね。経験がないんだし……あ、でも外に出てきたシャドウは積極的に攻撃しようぜ!」

「うーん。あ、あと恵さん達も参加させよう」

「え、どうして?」と友徳は虚をつかれて声を漏らした。

「あの人たちも自分の実力がどれくらいか知りたいんじゃないかな?祝福術でかなり強くなったと思うよ、あの人たち。それに……」と、それにで正道は言い淀んだ。

友徳は言葉を待った。

「それにさ、デブの松永が来るわけじゃないか。その時、恵さん達が対抗できるかよく分からない……今のうちに強くならないとやばいことになるかもしれないよ……」

「あ、そうか」と友徳は松永らの悪辣さを思い出して震える声を出した。

「よくわかんないけど、明日恵さん達と話そうか」と飛鳥が仕切ると、子供達は同意して、天井に顔を向けた。

三人の子供達はほぼ同時に熟睡に入った。

次の日、農作業を終えて一息ついた友徳は、飛鳥と正道と共にいつもの訓練場である雑木林のいり口に向かった。活気を増してきた田んぼの青い苗と、少しずつ伸び始めた雑草を見やりながら、彼らは水路があるとわざとアクションゲームのようにひょいひょいと跳躍して遊んだ。

ちょうど雑木林の、高さが様々で、枝葉の広がりも乱雑な樹木が鳥居のような門を作っている入り口に差し掛かると、すでに恵達が準備体操をしていた。香織はツヤツヤのクリームパンみたいな平たい顔に満面の笑みを浮かべて、友徳達に手を振った。子供達も笑顔で振り返す。

「ヤッホー、みんなー。早く準備体操して!」と香織は、グングンとしなやかで細い腕や足腰をキビキビと動かしながらいった。

友徳達も負けじと準備体操に精を出した。別にメニューを考えているわけでもないので、一つの体操が終わると、タイミングよく次の動作を始めた子の動きに合わせて子供達は適当に体操を進めていく。

誰が体操を仕切るかをお互いタイミングを測って仕掛けていく遊びをしているようで、三人ともどこか遠慮がちに友達の動作に合わせながら、彼らは準備体操を遊びに変えていく。身体中に空気と熱が循環し始めたことが明確だと感じた時、友徳が終わりっ!と仕切ると、正道も飛鳥もそれに従った。

体操が終わり座っていた友徳がふと前を見据えると、香織が腕を組み仁王立ちして影ををこちらに伸ばしていた。横にムッとした顔の恵と聡美を従わせて。

少年じみた香織の顔には不適な挑発的な笑みが浮かぶ。

「練習の前に私から一つ言っておきます!」と香織は友徳と正道に目を配りながらいう。

「え、なんですか」

「お姫様抱っこは……禁止!レスリングや格闘技以外の技を使わないで!OK?」

友徳がふと恵に目を向けると、彼女は顔を少し赤らめ大きくアーモンド型の目を少し細めてから「わかった?ああいうのはまじでムカつくから、禁止!」

友徳には、なんとなく理由は察せられていた。多分、真面目な調子を乱されたりするのが嫌なんだろう……自分だって恵を抱っこする時、真面目さが消えてふざけた変な気分になるし。

申し訳ないという弱い罪悪感が胸に広がった友徳は正道と目配せしてから「はい……ごめんなさい」と自分でもびっくりするほど萎んだ声でいった。正道も続いて謝った。

友徳が見上げると香織も子供達の顔から何かを汲み取ろうとしている様子で顔を斜めにしている。それから彼女は光にキラキラに照らし出されるいつもの笑顔で「オッケー。じゃあ練習しようか!今日は何する?」

正道は手を挙げてからみんなを見回してから「あ、話しておくことがあります。多分、麗子先生もまだ言ってなかったから。あの、特別少年隊のことと……」

「ああ、聞いてるよ。エロガキがうちの村に来るんでしょ」と聡美は皮膚の下に黒い憎しみの炎を翳らせる様子で、吐き捨てるようにいった。

「うん。知ってるし、麗子さんから聞いてるよ。変な子たちが来るって。うちら、舐められてるよねー。子供なんかに負けると思われてんだよ。むかつくー」と恵は軽く身体を揺らしながらいった。

香織はキラキラな笑顔を何かの暗い感情が内部から浮き上がることで曇らせてから、一呼吸置いた後「そのことは大丈夫。私たちを舐めちゃいけないよ。普通のガキンチョに負けるほどやわじゃないから。それに君たちにも訓練してもらってるしね!」

「僕たちも、大変だったら助けるよ!」と飛鳥。

「うん!ありがとー。頼りにしてるからねー」と恵。

聡美は飛鳥に近づくと彼の頭をひと撫で。友徳はいつのまに飛鳥がここまで女性達と溶け込んでいたんだと驚く。

「後もう一つ。ダンジョンのことなんですけど。ああ、ダンジョンっていうのは……」と正道は手短に手振りを交えながらシャドウやダンジョンのことをところどころつっかえながらも要点を外さずに説明した。背筋をピンと伸ばして顎を引く三人の女性陣は友徳には、遠くを見据えるミーアキャットのように集中して言葉に耳を傾けているように見えた。

「だから、その。一緒にシャドウと戦えば、経験になると思うんです。少年特別隊が来る前に実践経験を積めればすごくいいことだと思います。一緒にやってみませんか?」と正道は少しずつ声色を弾ませながら言葉を続けた。

「香織、どう思う?」と聡美。

「うーん……」

「うちは参加したい……友徳くんの話聞くと、そんな恐ろしい存在にこの村を闊歩して欲しくないと思う。それに悪い奴が作り出したんでしょ?この村にはおじいちゃんおばあちゃんとか、障害者の人もいるから、尚更うちらが頑張らなくちゃ!」と恵。

「私もそう思うよ、香織。どうする?」と聡美は再び香織を見上げた。

香織はパッと目をまんまるに口角をクイッとあげて「OK!でも、この子達のいうことをよく聞いて、色々教えてもらいながら……ね?特に友徳くんには」

話し合いの後、すぐに練習となった。今日は練習と称してのドッジボールで基礎体力づくり。六人はいくつかの田んぼとジャガイモ畑を超えてから、川筋に沿って移動して、四囲が友徳の膝ほどの高さがある雑草の水々しい緑に圧迫されてむさ苦しい公園にたどり着いた。

正道と友徳が靴を引き摺りながら湿った灰色の土を削りながら歩いていく。飛鳥、女性陣も加わりあっという間にドッジボールコートが出来上がる。

高い位置から灯火を照らし出すように周囲を見据える香織が号令するとみんなは1ヶ所に集まる。

「じゃあ今日はドッジだけど……どういうルールでする?」と香織は片手でボールを掲げてから友徳達を見下ろしていった。

「恵さん達弱いからさ普通にしたら面白くないよねぇ」と友徳は揶揄うわけではなく本気で一言。

「うっざー。聡美、今日こそこのチビ達を懲らしめちゃおう」

「てか私たちが通力使えないこと知っててそういうこと言うのマジでないわ」と聡美は腕を組んで本気で怒っている風にいった。

「うーん、でもさ。恵さんと聡美さんが鍛えられなきゃダメでしょ?3対3じゃ、練習になんないじゃん。ここはさ、僕たちは一人ずつ、女の子達は祝福術込みで三人いっぺんでいいじゃん。一応練習になると思うよ」と飛鳥。

「さすが飛鳥くんは優しいね」

「いい子だわー」

友徳は飛鳥も自分とほぼ同じことを言っているのに何故だか反発を招いていないのに驚愕。

「じゃ、飛鳥くんのやり方で行こっか!」と香織が簡潔に判断すると、女性陣は自陣にゆっくりと引っ込んでいった。

三人の男子はじゃんけんで先発を決めた。友徳が先発に決まる。正道と飛鳥は祝福術のために、外野まで下がる。

香織がボールを投げ込み、恵がキャッチ。試合はすぐに始まった。

友徳は夏の叢の水々しく生々しい匂いを嗅ぎながら悶々としていたが、いざ身体の熱に集中すると、無駄な思考が放たれてもそれに執着することはなかった。熱が空気を膨張させる感覚が全身に行き渡る。

彼は、しなやかで柔らかい身体で大きく腕を振りかぶる恵に集中する。

恵の伸びた腕から放たれたボールは素早く友徳の顔面に迫った。すかさず友徳はボクシングの技のような腰を屈めて首を動かす動作でそれを避ける。

弾んで雑草群に向かうボールは軌道を変えて飛鳥の手のひらに、未確認飛行物体じみたゆらゆらした動きで向かっていって収まる。かれはボールを女性陣達にパスする。

聡美はそれを受け取ると、女性らしくおっとりとしているが、正確で美しいフォームでボールを友徳に投げつける。友徳は振りかぶる聡美の腕が彼女のくの字に曲がったときに、大きくバックステップをして距離を取る。

ボールは徐々に加速するが、友徳は胸の前で的確に掴む。

友徳は自分がボールを掴んで女性陣を人睨みした時、彼女達の皮膚の下に一斉に緊張の電撃が走ったのを見取り、ちょっと気の毒になってしまった。これは練習。練習にならなければ意味はない……そう思った彼は本気を出すか迷った。

しかしお互い本気じゃなければ楽しめないんじゃないかと思った友徳は片足で大きく踏み込んでから、上半身が捩れるような的確な暴投を繰り出した。振り翳して低くなった彼の目に、ボールに怯えて目を逸らした恵が「きゃっ!」と小さい悲鳴をあげてアウトになるのが見えた。

ボールはそのままバウンドして、香織と聡美は足元のボールを取り損ねまいとアワアワしている。聡美はやっとボールを掴むが、香織を見上げてから頼るように彼女にそれを渡した。

受け取った香織は、友徳には底意が掴みにくい、子供が悪巧みする時みたいな笑みを浮かべてから、手足の長さを存分に活用した大振りでボールを構えると一閃。次の瞬間、目の前が真っ青になりばこーん!という音でなんとか外界を認識した友徳は自分が水っぽい地面に跪いていることに気づいた。

「あ、あれ?」

まだふわふわしている意識の中、友徳の目の前に香織が現れた。彼女は友徳に目線の高さを合わせるように座り込んでいる。

「ちょっと、大丈夫?」

「あ、はい……」

首を傾げて覗き込む香織の、年齢や体格よりもはるかにイタズラっぽい童子顔をやっと認識した友徳は同時に自分が負けたことを知った。

「すっごい、香織さんマジでボール、早かったよ!」と飛鳥は友徳が大丈夫だと気がつくと香織を見上げていった。

「うわぁー負けちゃった」と友徳は言ってから、軽く地面の土を掴んだ。

「友徳くん、大丈夫?ちょっと休憩しとく?」と恵は遠くから少し身を屈めて心配している様子。

「全然、大丈夫……ていうか」

友徳は悔しくなかったし恥ずかしくもなかった。女性陣が祝福術を受けながらもここまで強くなっていることが逆に嬉しいくらい。

友徳の無事がようやく周りで教諭され始めたことで女性陣も声に張りが戻ってきている。

「よーし、初戦はうちらの勝ちだね。次どの子にする?」と恵はなんの活躍もしていないのに腰に手をつけてのポーズともう片手でボールを掴んで声を上げた。

友徳がゆっくりとコート外に出るとついてきた香織は小声で本当に大丈夫?と声をかけてからわしゃわしゃと小さく頭を撫でてきた。

正道の番、飛鳥の番と対戦したが女性達の成長は明らかで、なんと女性陣の全勝だった。正道戦では、飛鳥の水の祝福術による持久力向上で、正道の怪力と俊敏さに食いつき、聡美と恵がアウトになる中、香織は長期戦に打ち勝った。

飛鳥戦では、風と火の相乗効果で女性陣が圧倒し、飛鳥はほぼワンパンKO。試合は男子一人につき、三試合行われたものの、友徳達は全敗。

試合終了後、男女グループで別れて、水筒に口をつけての休憩に入った。比較的乾いている砂利道に陣取って座る男子陣に、意気揚々とした香織を先頭とした女性陣が近づき、覗き込んでくる。

「ふう、今日もありがとうね!すごく楽しかったし、自分の強さがどれくらいかわかったし!」
と香織は友徳達の輪に座り込んで加わりながら溌剌としていった。

「ふう。僕たちも、香織さん達が強くなってて嬉しいよ!これでシャドウとか松永とかもやっつけられるね!」と飛鳥は、横に座って頭をなでなでしている聡美に目配せしながらいつものニコニコ顔で一言。

活躍したのは香織だけ、恵と聡美はすぐやられたじゃんと批判精神が脳裏をよぎった友徳であったが、汗と手のうちわで涼みながら晴れやかで柔らかい笑みを浮かべる恵や聡美に親しみが湧いたので口にしなかった。

「ふむ。強くなったのはいいとして、もっと効率的に強化しなきゃだね。ドッジボールや鈴取りより筋トレ、基礎訓練を畳み込まなくちゃ」と正道は顎に手を当てていう。

「えぇー。もう筋トレはうちら無理!だって正道くん厳しすぎるんだもん!」と恵は普段胸の内に隠している不満の血を急に頬に浮かび上がらせたかのようにいった。

「そうだよ。あれは女で通力のない私たちには無理だって」と聡美。

「え、ごめんなさい」

「でも、私たち強くなったってことはわかったから今までの訓練に意味があったってことでしょ?これからもこの子達に色々助けてもらおうよ!」と香織は今度は正道を覗き込んでいった。

その後、訓練のメニューを女性陣と考える正道は残って、友徳と飛鳥は蔵屋敷への道を戻っていった。川から田んぼ、田んぼから畑に移るとさっきまでのむさ苦しさは嘘のよう。

友徳は田んぼの隅に咲いている草花の群に飛鳥を押し込んで座らせてから、半分本気で走り込んだ。振り返ると飛鳥は破顔しながらキャピキャピした声を響かせて追いかけてくる。

友徳は今度はわざと飛鳥に捕まり、飛鳥は水の通力で鏡のような水田に友徳を突き落とす。彼らは汗と泥まみれでお互い組み合ったりじゃれ合いながら帰り道を満喫した。
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