煙の向こうは

李智明

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シガーの香り

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椰子の葉が真夏の陽光を色鮮やかにグラデーションを成していた、午後の応接室の窓際、いつもの様にニック・藤堂 Nick Todoはシガーをふかしながら微睡んだ眼差しで外を眺めていた。
午後三時の取引の始まりだ、ニックが共同経営のSunrise Trade Inc.は武器弾薬など多少危ないブツを扱っている。
今日はコロンビア系の御客が来る、USD500万規模の案件である。会社はここ数年景気が良く急成長中である、ニックは窓の外にラテン系のハットを被り白い麻のスーツでシガーをふかす数人の男を見た、取引の始まりだ。
今日で三度目だが、互いをよく知っていた、相手のカシラはフェルナンド・プーゾという男だ、アタッシュケース一つ分の米ドルを置きブツを持ってそそくさと帰っていった。
「手付だ…………………アディオス、アミーゴ、ニック……」コヒーバをふかしながら、甘い香りが潮風に乗って漂った。

太陽がニックのコンバーチブルのサイドミラーを斜めに照らしはじめた頃、車をウエストショアへ走らせた、ペネロペが電話をくれた、甘美な気分を胸にアクセルを踏む。
体のラインに張り付くような白いドレス、その茶褐色の綺麗な肌、よく似合っている、彼女のニックへ好意はすでにその眼差がグラマラスに表している、ニックも彼女を見て幾ばくかの安らぎを覚えた、ニックはスペイン語こそできないもの、英語でいつも話す、ペネロペのスペイン語訛りの言い方も少しかわいいものであった。可愛い眼差しがニックを射抜く時、
「今日は何かあったの…………無口だから………」とシャンパンを一口飲んで彼女はそう囁いた、
レストランは海岸に面していてカリブの海が一望できる、
「ここのロブスターのグリルは最高だ」ニックは一口頬張る、シャンパンと魚介は最高である。
クリアブルーの波が寄せては帰しそしてまた寄せる、夕陽が波をオレンジ色に染めた。
「君を抱きたくなった………」ニックは彼女を見詰めながら言った。
ペネロペははにかむように微笑む、とても愛らしい仕草だった、カリブの柔らかな夕陽が二人を包み込みながらゆっくりと暮れて行った。

♪マイルス・デイヴィスの緩く甘いメロディがニックのコテージに流れるペネロペは彼のシャツのボタンを解き、ニックは強く彼女を抱き寄せる、ねっとりとした接吻がカリブの蒸暑く長い夜にとても似合う、時化たカンクンの青い海しぶきが寄せては返しそして繰り返す。
終わった後でニックはブランデーを注いだ彼女を抱き寄せ口にブランデーを含み接吻をした、彼女は恍惚の微笑みを漂わせていた。
「ねぇ、私のこと好き………」
「あぁ……」コヒーバに火をつける。
「私のために今の仕事辞めて……見ていられないわ…」
沈黙がしばし続いた。
「一度足を入れると二度と抜けられないんだ、今さら足を洗えなんて………」
♪サックスの低音メロディが続き、ウッドベースが響く……
「寝ましょう、眠いわ……」
シガーの火をけし、横になった、だが目は険しく何かを見ていた、波の音が聞こえる。
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