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春の三 鹿群
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公道沿いの雪がすっかり融け、気候もすっかりと春らしくなってきた、涼平は独り稚内を目指し車をとばす、あれから暫く玲子とも連絡は取っていなかった、田中一味からの襲撃も無く平穏な日々が続いていた、彼女も連絡してこないということは、田中からの酷い侮辱行為もなく、また田中の不在などもあり同様に、何事もなく彼女の時間を過ごしているようであった…
その日は、雲一つない晴天で北へと車を走らせる、何キロ続いている海岸線であろうか……左側に延々と続く日本海の大海原、春の和かな陽光を受け煌めいている、波は絶えずしぶきをあげながら寄せては還す、ハンドルを片手で支えながら、もう一方の手でシガーに火をつける、サングラスに光が一瞬屈折する、太陽へ吸い寄せられるように、甘い煙が宙へ舞い上がる、車はある丘陵地帯へ入ってきた、左側は煌々と輝く日本海の海原に面して、右側は広大な牧場と森林が交差する丘の最も盛り上がった風景であった、まだ全体的に夏の様な濃緑な世界ではないが、数キロその風景の中を走っていると、目の前数百メートル先にエゾ鹿の群れが行方を阻むように国道を我物顔で席巻し始めた、その中の数匹大型のがこちらの様子を伺っている、涼平はハザードランプを着け車をその百メートル先の道脇に停車させようとしたその時であった、
ドォォォォォォォォォォッ………
危険を察知し車を完全に道脇に急停車させ、頭を完全に伏せた、
稲妻が落ちた後の様な、あの重低音の響き、空気が瞬時に膨張してそして戻ってゆく、その轟くような余韻が碧い空と鮮明なコントラストを成す、その銃弾は群れのうちのある雄を仕留めた、群れはちりじりに去っていく、涼平は下げた頭をゆっくりと上げながらサイドミラーから車の後方、銃声のした方向を窺う、ハザードランプの点滅音が無機質に鳴り続ける、片手に猟銃を持ちそれを肩にもたれたある女性がゆっくりと歩いて来た、彼はカチャっとゆっくりとドアーを空け下車する、気付けにケースからシガーを出し一本ふかす、片手でネクタイを少し解いた、潮の香りを愉しみながら天を仰ぐ、濃厚な煙が潮風に舞って消えてゆく、その女性は近くに歩み寄ってきた、彼は彼女の方を見る、
「死ぬかと思いましたよ………」
涼平は微笑しながら冗談じみて言う、彼女は猟銃を降ろしその長い前髪を後ろへかきあげた、
「ごめんなさい…………」
その丸くてやや大きな眼がこちらへ微笑みかける、歳はぱっと見30くらいであろうか、革のしっかりとした長いブーツを履いて長いズボン、よくなめしてある革のジャケット、帽子を被っている、まさにハンティングの服装である、
「よかったらうちで…少し遅いですが、お昼でもどうです……お詫びに……」
「ありがたいけど…稚内へ急いでるんだ…」
彼女はその時、涼平を暫し見つめる、彼もなぜかその申し出に応えてしまう、
涼平の車で彼女の近くにある家に向かう、丘陵地帯の高台に牧場が広がっている、乳牛たちが日向ぼっこにいそしんでいる、牛も人がソファーにごろ寝をするように、牧草の上で寝転んでいる、何とも微笑ましい光景が広がっている、ある牛はもぐもぐと口を絶えず咀嚼させ牧草を愉しんでいる、西日本の乳業にこのような最良の環境があるであろうか、このような環境で育った牛の牛乳はさぞや美味しいであろう、彼女は家の方向を指さす、平屋のがっしりとしたレンガ造り、その横には穀物を蓄える大きなサイロが一つそそり立っている、大きな庭が広がり牧場の仕切りが目の前まで広がっている、牛たちが数頭こちらの様子を窺っている、大きな敷地である、まさか彼女独りで住んでいるのであろうか、サイドブレーキをかけ二人は車から降りる。
「こっちよ」
彼女は屋内へ涼平を案内する、旧式の暖炉に薪がパチパチと鳴りながら少し炎にくべてある、春先の北海道の日本海側、海風もありまだだいぶ寒い、厚い二重ガラス窓から室内へ和かな陽光が差し込んでいる、程よい広さの屋内、木造の温かみがある、彼女は奥へ入り着替えをしに行ったようである、木造の食卓の椅子へ軽く腰をかけた、コートのポケットからスマホを出す、ショートメッセージが一つ新着であった、
― お世話になります、明日のオペは午後からになりました。工藤
業者担当者からのオペ立会の件であった、返信を済ませ、コートのポケットへ戻す、暖炉の熱が伝わってきたのか背中に汗が滲むのを感じ、コートを脱いだ、その時奥から彼女が出て来た、ジーンズをはき、セミロングの艶やかな黒髪が良い香りを醸していた、白のシャツの肩のあたりにかかっている、やや童顔で丸みを帯びている、その大きな眼が少し潤んでいる様でもある、彼も彼女の方を見る、あの血腥い狩人が一人の女性へ戻った、彼女はその横のキッチンへ行き冷蔵庫を開ける、
「何か飲みますか?」
涼平は少し考える、緊張して喉も乾いたことだし、と単刀直入に伺う、
「ビールあります?」
彼女は涼平の方を振り向き微笑する、
「わたしも丁度ビールを取ろうと……」
彼女はサッポロの大瓶を出してきた、棚からグラスを二つだし栓を抜く、程よい大きさのグラスにゆっくりと注ぐ、窓の外には煌めく日本海が見える、昼過ぎそして夕方に近いこの黄昏をただ煌々と美しく演出していた、その陽光が微妙に斜光してグラスの中のビールをシャンパンよりも遥かに透き通ったゴールドの甘美なグラデーションを成している、涼平と彼女は軽い乾杯をする、彼は一気に飲み干す、彼女はビールを注ぎながら、
「さっきはごめんなさい…この時期、鹿が出できて色々荒らすの…偶に銃で威嚇しないといけないのよ」
「俺も撃たれるかと思ったよ…」
彼は苦笑とも言えない表情で言った、グラスのビールが綺麗な泡を放っている、
「ところで…名前は? 俺は斉藤涼平と申します…」
「近藤歩美と申します…」
二人はなぜか畏まり堅苦しさと恥ずかしさを覚える、
「こんな大きな牧場に独りで?あなた以外に人がいる感じじゃなさそうだけど…」
歩美の表情が一瞬翳る、コップのビールを一気に空ける、
「去年、両親が事故で……それ以来独りでここを……スタッフもまだ二人働いているの…」
「ごめん、余計な事聞きました……」
「いいのよ…それよりもお詫びに…一昨日、漬けた鹿肉があるけど、いかが?」
「美味しそう、是非頂きます……」
二人はキッチンに立ち、彼は彼女が料理をする様子を傍らから見ている、十分に熱したステーキ用の厚い鉄板のフライパンに鹿の脂身をひく、白い煙をほのかに立てながら脂の焼ける香ばしい風味がキッチンの辺り一面に漂う、そして主役の肉の塊を焼く、ゆっくりと焼くため少し時間がかかる、外はすでに遥か西に面した海岸線へ太陽が斜光していた、紅色というのか、碧い大洋とのコントラストが何とも哀愁を誘う、沖には漁船やタンカーの光が見える、牧場の牛たちは牛舎へ戻ったのか、一面がしんと静寂に包まれている、彼女はサラダを作り始めていた、グラスのビールも無くなった…
「時間かかってごめんなさい、お腹空いたでしょ…朝、ふかしたジャガイモがあるわ、何か付けます?」
「じゃ遠慮なしで、塩辛あります?」
彼女は冷蔵庫の中をみる、瓶を一つ出してきた、
「これしかないわ…」
ニシンの切り身が花麹と共に漬けてあるのが瓶の外から透けて見えた、
「うまそう、これニシンの切込みだね……」
「そうよ、近くの港で漁師さんが作っているのよ、そこによく魚を買いに行ったりしてるわ」
早速、箸で少しとり皮をむいたジャガイモの上にのせて一口頬張る、ニシンの旨味と肉感、花麹の絶妙な甘み、そして程よい塩気、それらが北海道の日本海側の肥沃な大地で育った、濃厚なジャガイモのコクを引き立てる、鹿肉も程よく焼けて来た、彼はすでに出来上がった料理を食卓へ運んであげる、意外にも、彼女は冷蔵庫横の棚の下から日本酒の一升瓶を出した、
「お酒、飲めます?」
北国の女性は飲める口の方が多いようである、先程のグラスに一升瓶を持ち涼平から彼女へ注いであげる、彼も自身へなみなみに注ぐ、
「喜んで、俺の一番好きな酒です……」
「増毛町はここからそんなに遠くないわ、この辺の人はみんなこれよ…」
鹿肉が良い具合に焼き上がる様相を呈している、彼女と軽くグラスを合わせ国稀を軽く口に含む、歩美も美酒を一口味わう表情をみせる、二人はお互いを見て微笑を浮かべる、
「さぁ焼けたわ、食べましょう」
大きなお皿に程よく色づいた鹿肉の塊がのる、多少見た目は粗野であるが、その鹿独特の香りが何とも食欲を誘う、涼平は食卓へ両手で担ぐようにして持ってゆく、白樺か何かの木目調が綺麗な机で、爽やかな樹の香りがする、二人は互いの横顔が見える様に、机の角を隔て隣り合うように座る、
「あなたに弾が当たらなくてよかったわ……」
程よく酔いが回ってきたのであろうか、少し冗談じみたことも言うようになった、自分からそそくさと肉を適度な大きさにカットし始めた、
「死ぬかと思ったよ…」
多少大げさに涼平は微笑を込めて冗談で返した、彼女は男勝りに逞しい手つきでカットした肉を盛り分ける、一瞬二人は目線が合う、外はすでに暗い、まだ夕方だというのに、緯度が高いせいでもあろうか、二人は酒の入ったグラスを軽く合わせる、涼平も少し酔いが回ってきた、肉にナイフを入れ一口大でゆっくりと堪能する、少し癖が有るが脂肪分の少ない淡白な肉質、そして彼女独自の漬け込みダレも抜群にその底味を引き立てている、
咀嚼を続けるうちに鹿肉の旨味が口いっぱいに、じわじわと広がってゆく、彼女も自身の傑作に舌鼓を打っていた、暫くの晩餐が続いたのち、その薄暗い食卓の傍ら、
「歩美さんって呼んでいいかな………立ち入ったことを聞くけれども、ずっと独りでここを切り盛りしているんだね……」
歩美のグラスを持つ眼差しが微かに翳りを見せる、そして一口酒を口に含み虚ろな横顔で続ける、
「人生なんて解らないわ……いつどうなるかなんて……」
彼女のその表情が深淵な哀愁を帯び始めたその時、
「ごめん…また余計なこと聞いたね……」
涼平は少し申し訳なくなった、
「いいのよ、すべては過ぎたこと……お父さんはとても力強くて逞しくて……ジョークの上手な、いいお父さんだった、お母さんは優しくて…いつも料理が上手で……………」
歩美は目に涙を滲ませる、酔いが回ってきたのか…だが偽りのない心の声である、
「歩美さん…いい言葉があるよ……諸行無常………すべては常に変化していてるっていう意味だと……俺は理解してるよ……」
彼はもう一口グラスの酒を呷った、彼女の目を見ながら……話を続ける、
「過去のすべては……今という瞬間を代表しない、いや…昨日起きたことは今日という瞬間、今という瞬間のすべてではない…ちょっと訳わからないよね……」
涼平は少し哲学よりな話になりすぎてしまったと自身に警鐘を鳴らす、
彼女はグラスを片手に持ちながら、
「そうね……何か少しわかる感じがする……」
そしてゆっくりと続ける、
「あれは去年の夏が始まる前だった……お父さんとお母さんはいつもの様にタンクローリーに新鮮な牛乳を積んで出荷に行く途中だった……ある不良が煽り運転をしていた…その男がお父さんの車を追い越して……何に腹を立てたのかわからないけど……ブレーキをかけて急停車を迫ったの………びっくりしたお父さんはそのままガードレールを突き破って国道沿いの浜へ突っ込んで行った……全身強打で即死だったわ……お母さんも……」
涼平は自分で片手で一升瓶をゆっくりとグラスへ傾ける、
「ごめんなさいね……初対面のあなたに……涼平さん…」
彼女は苦笑にも似た表情、そのやり場のない気持ちで途方に暮れていた、彼の動物、猟奇的な何かが突然動き出したのか、歩美の唇を突然奪った、涙ぐむ彼女の横顔は目を閉じて少し夢見心地な表情へ和らいでいった、何も言わないで欲しかった、苦しみに満ちているのも、また事実であった。
暖炉の近くのソファーへ二人は倒れ込んでいった、深くキスをしながら………
パチパチと心地よい和かな音を立てながら薪たちが静かに二人を見守っている、彼女はシャツを涼平の上になりながらゆっくりと脱ぐ、彼もシャツを脱ぐ、彼女は落ち着いた表情で両手で滑らかにブラを外す、美しい乳房が露わになる、彼はその美しいところへ手を添える、二人は再び深くキスをする、互いの舌が絡み合う、そしてゆっくりと行為に熱中し始める、彼はズボンを脱ぎ、下着を取る、彼女はジーンズを脱ぎ、大胆にも下着も脱ぎ何一つ纏わない姿となった、ソファーには毛布が一枚あって、それを上半身と下半身の間に被せた、彼は片手を彼女の一番美しい処に伸ばした、十分に潤っている、彼女は少し喘ぎ始める、彼はその美しい処で愛撫を始める、彼女の熱い何かが手に滴ってきた、
「ずっと欲しくって………」
歩美は涼平の上半身を両腕できつく回し抱くようにして言う…彼はそのまま自身のものをゆっくりと彼女の中へ入れていった、表情を一瞬歪めてたが、また心地の良い表情へ徐々に戻って行った、彼が下で、彼女が上のままであった、少しご無沙汰だったのか、彼女は激しく求めてくる、彼女の激情を前に、涼平は食卓から持ってきてあった彼女のグラスの酒を一口呷る、仏の三千世界と言えば少し荘厳であるが、肉欲と対峙する人間のこの世の中で、肉親を失いながらも女盛りの歳月を尼僧の様に過ごし続けるというのは些か酷いことの様に思える、まるで狩人のように涼平の肉を貪る、無理もない、ずっと両親の仏前で禁欲が唯一の弔う方法だと頑なに信じていたのであろうか……ソファーがギシギシときしむ、彼女は目を閉じたまま天を仰ぐように腰を上下に少し激しく動かす、彼は彼女の深い恍惚を前に、何も為すすべのない、まるで尼僧との密会の果てに深い情事に陥ってしまった訪問者のようであった、彼女の熱い何かで、彼の太もものあたり全面が湿潤を帯びていた、暫くして彼女は涼平の脚の方へ上体をのけぞる、腰の動きはそのままであった、彼の額に汗が滲み、暖炉の火で薄暗く光っている、彼女の胸に汗が垂れている、昔ある人がこう言っていたのを忽然と思い出す…
女は魔物……
どれだけ経ったであろうか……
歩美は果てていった……涼平も気が変になってしまいそうだった………
彼女は彼の胸へ伏せるように頬を寄せる、その指で彼の唇を優しくなぞる…
「よかった………ずっとしてなかったのよ……」
彼女はまだ冷めやらぬ呼吸で言う、
「ずっと我慢するなんて…男には無理だよ………」
「女にはそれができるのよ………」
彼女へ深くキスをする……
「あなたの…下…私ので…ごめんなさい…」
二人は笑う、
「両親を失うという経験はまだしたことがない……だから、あなたの気持ちを理解してあげることができない………」
「いいのよ……過ぎたことよ……」
「女は男よりも強い……それは確かだね……」
二人は毛布を被りなおす、汗で毛布が少し肌に張り付く、暖炉の熱が心地よい……彼女は隣の机にあるコーヒーカップの水を飲む、彼ものどが渇いたので少しもらう、外はしんとしていて時折海風が吹き、窓に打ちつける、月明かりの冷光が和かく窓を透かして室内にささやかに入っている、涼平は腕時計を見た、まだ八時過ぎであった、鹿肉の効能なのか、不意に体が熱く元気がみなぎる、
「私は強くなんかないわ……ただ今日、あなたを見た時に、抱いて欲しかった……」
「ありがとう……だから…サイドミラーをわざと外したんだね……」
二人は微笑する、
「そうよ、そういう事にしておいて………」
涼平は思う、男と女の不確定さを、両親の死を通り過ぎても尚、肉欲に翻弄される歩美、玲子を深く愛しながらも、本能の従うままに女性に翻弄される自身の本性、鹿の角は古来より強精剤として漢方薬にて珍重されている、この度も鹿肉の助勢作用もあったかは不確実であるが、彼と彼女は見つめあう、歩美は毛布のかかっている彼のものを弄び始める、
「ねぇ、欲しいわ……」
「もうちょっと休ませてよ…」
ただ毎日という何気なく過行く日常の中で、逢瀬という一瞬はどれだけ確実に存在しうる時間であろうか、ただ過ぎ去った苦痛を完全に忘却することは不可能であるが、歩美は自身の生を、性を以て体現しているのであろうか、人は確実に滅亡と隣り合わせに刹那的に、紙一重の境地で生きている、それは誰一人にも左右し難い宿命というものである、涼平は何か熱い眼差しで彼女を見つめていた。
その日は、雲一つない晴天で北へと車を走らせる、何キロ続いている海岸線であろうか……左側に延々と続く日本海の大海原、春の和かな陽光を受け煌めいている、波は絶えずしぶきをあげながら寄せては還す、ハンドルを片手で支えながら、もう一方の手でシガーに火をつける、サングラスに光が一瞬屈折する、太陽へ吸い寄せられるように、甘い煙が宙へ舞い上がる、車はある丘陵地帯へ入ってきた、左側は煌々と輝く日本海の海原に面して、右側は広大な牧場と森林が交差する丘の最も盛り上がった風景であった、まだ全体的に夏の様な濃緑な世界ではないが、数キロその風景の中を走っていると、目の前数百メートル先にエゾ鹿の群れが行方を阻むように国道を我物顔で席巻し始めた、その中の数匹大型のがこちらの様子を伺っている、涼平はハザードランプを着け車をその百メートル先の道脇に停車させようとしたその時であった、
ドォォォォォォォォォォッ………
危険を察知し車を完全に道脇に急停車させ、頭を完全に伏せた、
稲妻が落ちた後の様な、あの重低音の響き、空気が瞬時に膨張してそして戻ってゆく、その轟くような余韻が碧い空と鮮明なコントラストを成す、その銃弾は群れのうちのある雄を仕留めた、群れはちりじりに去っていく、涼平は下げた頭をゆっくりと上げながらサイドミラーから車の後方、銃声のした方向を窺う、ハザードランプの点滅音が無機質に鳴り続ける、片手に猟銃を持ちそれを肩にもたれたある女性がゆっくりと歩いて来た、彼はカチャっとゆっくりとドアーを空け下車する、気付けにケースからシガーを出し一本ふかす、片手でネクタイを少し解いた、潮の香りを愉しみながら天を仰ぐ、濃厚な煙が潮風に舞って消えてゆく、その女性は近くに歩み寄ってきた、彼は彼女の方を見る、
「死ぬかと思いましたよ………」
涼平は微笑しながら冗談じみて言う、彼女は猟銃を降ろしその長い前髪を後ろへかきあげた、
「ごめんなさい…………」
その丸くてやや大きな眼がこちらへ微笑みかける、歳はぱっと見30くらいであろうか、革のしっかりとした長いブーツを履いて長いズボン、よくなめしてある革のジャケット、帽子を被っている、まさにハンティングの服装である、
「よかったらうちで…少し遅いですが、お昼でもどうです……お詫びに……」
「ありがたいけど…稚内へ急いでるんだ…」
彼女はその時、涼平を暫し見つめる、彼もなぜかその申し出に応えてしまう、
涼平の車で彼女の近くにある家に向かう、丘陵地帯の高台に牧場が広がっている、乳牛たちが日向ぼっこにいそしんでいる、牛も人がソファーにごろ寝をするように、牧草の上で寝転んでいる、何とも微笑ましい光景が広がっている、ある牛はもぐもぐと口を絶えず咀嚼させ牧草を愉しんでいる、西日本の乳業にこのような最良の環境があるであろうか、このような環境で育った牛の牛乳はさぞや美味しいであろう、彼女は家の方向を指さす、平屋のがっしりとしたレンガ造り、その横には穀物を蓄える大きなサイロが一つそそり立っている、大きな庭が広がり牧場の仕切りが目の前まで広がっている、牛たちが数頭こちらの様子を窺っている、大きな敷地である、まさか彼女独りで住んでいるのであろうか、サイドブレーキをかけ二人は車から降りる。
「こっちよ」
彼女は屋内へ涼平を案内する、旧式の暖炉に薪がパチパチと鳴りながら少し炎にくべてある、春先の北海道の日本海側、海風もありまだだいぶ寒い、厚い二重ガラス窓から室内へ和かな陽光が差し込んでいる、程よい広さの屋内、木造の温かみがある、彼女は奥へ入り着替えをしに行ったようである、木造の食卓の椅子へ軽く腰をかけた、コートのポケットからスマホを出す、ショートメッセージが一つ新着であった、
― お世話になります、明日のオペは午後からになりました。工藤
業者担当者からのオペ立会の件であった、返信を済ませ、コートのポケットへ戻す、暖炉の熱が伝わってきたのか背中に汗が滲むのを感じ、コートを脱いだ、その時奥から彼女が出て来た、ジーンズをはき、セミロングの艶やかな黒髪が良い香りを醸していた、白のシャツの肩のあたりにかかっている、やや童顔で丸みを帯びている、その大きな眼が少し潤んでいる様でもある、彼も彼女の方を見る、あの血腥い狩人が一人の女性へ戻った、彼女はその横のキッチンへ行き冷蔵庫を開ける、
「何か飲みますか?」
涼平は少し考える、緊張して喉も乾いたことだし、と単刀直入に伺う、
「ビールあります?」
彼女は涼平の方を振り向き微笑する、
「わたしも丁度ビールを取ろうと……」
彼女はサッポロの大瓶を出してきた、棚からグラスを二つだし栓を抜く、程よい大きさのグラスにゆっくりと注ぐ、窓の外には煌めく日本海が見える、昼過ぎそして夕方に近いこの黄昏をただ煌々と美しく演出していた、その陽光が微妙に斜光してグラスの中のビールをシャンパンよりも遥かに透き通ったゴールドの甘美なグラデーションを成している、涼平と彼女は軽い乾杯をする、彼は一気に飲み干す、彼女はビールを注ぎながら、
「さっきはごめんなさい…この時期、鹿が出できて色々荒らすの…偶に銃で威嚇しないといけないのよ」
「俺も撃たれるかと思ったよ…」
彼は苦笑とも言えない表情で言った、グラスのビールが綺麗な泡を放っている、
「ところで…名前は? 俺は斉藤涼平と申します…」
「近藤歩美と申します…」
二人はなぜか畏まり堅苦しさと恥ずかしさを覚える、
「こんな大きな牧場に独りで?あなた以外に人がいる感じじゃなさそうだけど…」
歩美の表情が一瞬翳る、コップのビールを一気に空ける、
「去年、両親が事故で……それ以来独りでここを……スタッフもまだ二人働いているの…」
「ごめん、余計な事聞きました……」
「いいのよ…それよりもお詫びに…一昨日、漬けた鹿肉があるけど、いかが?」
「美味しそう、是非頂きます……」
二人はキッチンに立ち、彼は彼女が料理をする様子を傍らから見ている、十分に熱したステーキ用の厚い鉄板のフライパンに鹿の脂身をひく、白い煙をほのかに立てながら脂の焼ける香ばしい風味がキッチンの辺り一面に漂う、そして主役の肉の塊を焼く、ゆっくりと焼くため少し時間がかかる、外はすでに遥か西に面した海岸線へ太陽が斜光していた、紅色というのか、碧い大洋とのコントラストが何とも哀愁を誘う、沖には漁船やタンカーの光が見える、牧場の牛たちは牛舎へ戻ったのか、一面がしんと静寂に包まれている、彼女はサラダを作り始めていた、グラスのビールも無くなった…
「時間かかってごめんなさい、お腹空いたでしょ…朝、ふかしたジャガイモがあるわ、何か付けます?」
「じゃ遠慮なしで、塩辛あります?」
彼女は冷蔵庫の中をみる、瓶を一つ出してきた、
「これしかないわ…」
ニシンの切り身が花麹と共に漬けてあるのが瓶の外から透けて見えた、
「うまそう、これニシンの切込みだね……」
「そうよ、近くの港で漁師さんが作っているのよ、そこによく魚を買いに行ったりしてるわ」
早速、箸で少しとり皮をむいたジャガイモの上にのせて一口頬張る、ニシンの旨味と肉感、花麹の絶妙な甘み、そして程よい塩気、それらが北海道の日本海側の肥沃な大地で育った、濃厚なジャガイモのコクを引き立てる、鹿肉も程よく焼けて来た、彼はすでに出来上がった料理を食卓へ運んであげる、意外にも、彼女は冷蔵庫横の棚の下から日本酒の一升瓶を出した、
「お酒、飲めます?」
北国の女性は飲める口の方が多いようである、先程のグラスに一升瓶を持ち涼平から彼女へ注いであげる、彼も自身へなみなみに注ぐ、
「喜んで、俺の一番好きな酒です……」
「増毛町はここからそんなに遠くないわ、この辺の人はみんなこれよ…」
鹿肉が良い具合に焼き上がる様相を呈している、彼女と軽くグラスを合わせ国稀を軽く口に含む、歩美も美酒を一口味わう表情をみせる、二人はお互いを見て微笑を浮かべる、
「さぁ焼けたわ、食べましょう」
大きなお皿に程よく色づいた鹿肉の塊がのる、多少見た目は粗野であるが、その鹿独特の香りが何とも食欲を誘う、涼平は食卓へ両手で担ぐようにして持ってゆく、白樺か何かの木目調が綺麗な机で、爽やかな樹の香りがする、二人は互いの横顔が見える様に、机の角を隔て隣り合うように座る、
「あなたに弾が当たらなくてよかったわ……」
程よく酔いが回ってきたのであろうか、少し冗談じみたことも言うようになった、自分からそそくさと肉を適度な大きさにカットし始めた、
「死ぬかと思ったよ…」
多少大げさに涼平は微笑を込めて冗談で返した、彼女は男勝りに逞しい手つきでカットした肉を盛り分ける、一瞬二人は目線が合う、外はすでに暗い、まだ夕方だというのに、緯度が高いせいでもあろうか、二人は酒の入ったグラスを軽く合わせる、涼平も少し酔いが回ってきた、肉にナイフを入れ一口大でゆっくりと堪能する、少し癖が有るが脂肪分の少ない淡白な肉質、そして彼女独自の漬け込みダレも抜群にその底味を引き立てている、
咀嚼を続けるうちに鹿肉の旨味が口いっぱいに、じわじわと広がってゆく、彼女も自身の傑作に舌鼓を打っていた、暫くの晩餐が続いたのち、その薄暗い食卓の傍ら、
「歩美さんって呼んでいいかな………立ち入ったことを聞くけれども、ずっと独りでここを切り盛りしているんだね……」
歩美のグラスを持つ眼差しが微かに翳りを見せる、そして一口酒を口に含み虚ろな横顔で続ける、
「人生なんて解らないわ……いつどうなるかなんて……」
彼女のその表情が深淵な哀愁を帯び始めたその時、
「ごめん…また余計なこと聞いたね……」
涼平は少し申し訳なくなった、
「いいのよ、すべては過ぎたこと……お父さんはとても力強くて逞しくて……ジョークの上手な、いいお父さんだった、お母さんは優しくて…いつも料理が上手で……………」
歩美は目に涙を滲ませる、酔いが回ってきたのか…だが偽りのない心の声である、
「歩美さん…いい言葉があるよ……諸行無常………すべては常に変化していてるっていう意味だと……俺は理解してるよ……」
彼はもう一口グラスの酒を呷った、彼女の目を見ながら……話を続ける、
「過去のすべては……今という瞬間を代表しない、いや…昨日起きたことは今日という瞬間、今という瞬間のすべてではない…ちょっと訳わからないよね……」
涼平は少し哲学よりな話になりすぎてしまったと自身に警鐘を鳴らす、
彼女はグラスを片手に持ちながら、
「そうね……何か少しわかる感じがする……」
そしてゆっくりと続ける、
「あれは去年の夏が始まる前だった……お父さんとお母さんはいつもの様にタンクローリーに新鮮な牛乳を積んで出荷に行く途中だった……ある不良が煽り運転をしていた…その男がお父さんの車を追い越して……何に腹を立てたのかわからないけど……ブレーキをかけて急停車を迫ったの………びっくりしたお父さんはそのままガードレールを突き破って国道沿いの浜へ突っ込んで行った……全身強打で即死だったわ……お母さんも……」
涼平は自分で片手で一升瓶をゆっくりとグラスへ傾ける、
「ごめんなさいね……初対面のあなたに……涼平さん…」
彼女は苦笑にも似た表情、そのやり場のない気持ちで途方に暮れていた、彼の動物、猟奇的な何かが突然動き出したのか、歩美の唇を突然奪った、涙ぐむ彼女の横顔は目を閉じて少し夢見心地な表情へ和らいでいった、何も言わないで欲しかった、苦しみに満ちているのも、また事実であった。
暖炉の近くのソファーへ二人は倒れ込んでいった、深くキスをしながら………
パチパチと心地よい和かな音を立てながら薪たちが静かに二人を見守っている、彼女はシャツを涼平の上になりながらゆっくりと脱ぐ、彼もシャツを脱ぐ、彼女は落ち着いた表情で両手で滑らかにブラを外す、美しい乳房が露わになる、彼はその美しいところへ手を添える、二人は再び深くキスをする、互いの舌が絡み合う、そしてゆっくりと行為に熱中し始める、彼はズボンを脱ぎ、下着を取る、彼女はジーンズを脱ぎ、大胆にも下着も脱ぎ何一つ纏わない姿となった、ソファーには毛布が一枚あって、それを上半身と下半身の間に被せた、彼は片手を彼女の一番美しい処に伸ばした、十分に潤っている、彼女は少し喘ぎ始める、彼はその美しい処で愛撫を始める、彼女の熱い何かが手に滴ってきた、
「ずっと欲しくって………」
歩美は涼平の上半身を両腕できつく回し抱くようにして言う…彼はそのまま自身のものをゆっくりと彼女の中へ入れていった、表情を一瞬歪めてたが、また心地の良い表情へ徐々に戻って行った、彼が下で、彼女が上のままであった、少しご無沙汰だったのか、彼女は激しく求めてくる、彼女の激情を前に、涼平は食卓から持ってきてあった彼女のグラスの酒を一口呷る、仏の三千世界と言えば少し荘厳であるが、肉欲と対峙する人間のこの世の中で、肉親を失いながらも女盛りの歳月を尼僧の様に過ごし続けるというのは些か酷いことの様に思える、まるで狩人のように涼平の肉を貪る、無理もない、ずっと両親の仏前で禁欲が唯一の弔う方法だと頑なに信じていたのであろうか……ソファーがギシギシときしむ、彼女は目を閉じたまま天を仰ぐように腰を上下に少し激しく動かす、彼は彼女の深い恍惚を前に、何も為すすべのない、まるで尼僧との密会の果てに深い情事に陥ってしまった訪問者のようであった、彼女の熱い何かで、彼の太もものあたり全面が湿潤を帯びていた、暫くして彼女は涼平の脚の方へ上体をのけぞる、腰の動きはそのままであった、彼の額に汗が滲み、暖炉の火で薄暗く光っている、彼女の胸に汗が垂れている、昔ある人がこう言っていたのを忽然と思い出す…
女は魔物……
どれだけ経ったであろうか……
歩美は果てていった……涼平も気が変になってしまいそうだった………
彼女は彼の胸へ伏せるように頬を寄せる、その指で彼の唇を優しくなぞる…
「よかった………ずっとしてなかったのよ……」
彼女はまだ冷めやらぬ呼吸で言う、
「ずっと我慢するなんて…男には無理だよ………」
「女にはそれができるのよ………」
彼女へ深くキスをする……
「あなたの…下…私ので…ごめんなさい…」
二人は笑う、
「両親を失うという経験はまだしたことがない……だから、あなたの気持ちを理解してあげることができない………」
「いいのよ……過ぎたことよ……」
「女は男よりも強い……それは確かだね……」
二人は毛布を被りなおす、汗で毛布が少し肌に張り付く、暖炉の熱が心地よい……彼女は隣の机にあるコーヒーカップの水を飲む、彼ものどが渇いたので少しもらう、外はしんとしていて時折海風が吹き、窓に打ちつける、月明かりの冷光が和かく窓を透かして室内にささやかに入っている、涼平は腕時計を見た、まだ八時過ぎであった、鹿肉の効能なのか、不意に体が熱く元気がみなぎる、
「私は強くなんかないわ……ただ今日、あなたを見た時に、抱いて欲しかった……」
「ありがとう……だから…サイドミラーをわざと外したんだね……」
二人は微笑する、
「そうよ、そういう事にしておいて………」
涼平は思う、男と女の不確定さを、両親の死を通り過ぎても尚、肉欲に翻弄される歩美、玲子を深く愛しながらも、本能の従うままに女性に翻弄される自身の本性、鹿の角は古来より強精剤として漢方薬にて珍重されている、この度も鹿肉の助勢作用もあったかは不確実であるが、彼と彼女は見つめあう、歩美は毛布のかかっている彼のものを弄び始める、
「ねぇ、欲しいわ……」
「もうちょっと休ませてよ…」
ただ毎日という何気なく過行く日常の中で、逢瀬という一瞬はどれだけ確実に存在しうる時間であろうか、ただ過ぎ去った苦痛を完全に忘却することは不可能であるが、歩美は自身の生を、性を以て体現しているのであろうか、人は確実に滅亡と隣り合わせに刹那的に、紙一重の境地で生きている、それは誰一人にも左右し難い宿命というものである、涼平は何か熱い眼差しで彼女を見つめていた。
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