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本編
①
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世界有数の教育機関エジャートン学院に入学して、二度目の夏を迎えた。
もうすぐで長期休暇ということもあってか、学院内はどこか浮足立っている。
僕、アルフォンズ・ハドルストンは浮足立つ彼らを一瞥し、小さくため息をついた。
(僕だって、できれば帰りたいんだがな)
しかし、帰ったならばお金がかかるし、幼い弟妹たちもいるので勉学に集中できるとは思えない。
去年の夏も、僕は学院に残った。いつもは賑わう寮内もどこか静かで、心地いいと思ったのは内緒だ。
(まぁ、ちょっとした悩みの種と顔を合わせないで済むのは純粋にありがたいが)
どうせ『アイツ』は実家に帰るのだろう。ここ三週間ほど付きまとわれていて、うんざりしているのだ。僕にとって、『アイツ』に付きまとわれない時間というものは、今一番欲しいもの。
「あれ、ハドルストン先輩じゃん」
そして、前から歩いてきた男子学生を見て、僕は踵を返そうとした。
(どうして毎日会うんだ!)
懐かれているわけではない。好かれているわけでもない。
彼にとって、僕はいわば――敵なのだろう。
(学内の風紀を取り締まるのが寮長の役目なんだがな!)
僕だって好きでアイツの邪魔をしているわけじゃない。本音は放っておきたいくらいなんだから。
――ネヴァダ・グランディエ。
それが最近僕に付きまとってくる後輩の名前だ。
騎士科の一年生。へらへらとした軽薄な態度と、大層モテるであろう甘いルックス。
この寮内の風紀を乱す一番の原因。
(あのとき、あんなものを見なかったら――!)
僕がグランディエに付きまとわれることになったきっかけは、今から三週間前のこと。
――こいつの情事を見てしまったのが、原因だった。
◇◇◇
エジャートン学院には男しかいない。教師も生徒も用務員も。みなもれなく男である。
なんらかの間違いが起きないように――ということで、女性はこの学院に入れない。逆に『エジャートン女学院』には男は入ることが出来ない。完全にすみわけが決まっているのだ。
だからといって、なにも起きないわけではない。
大体在籍するのが十八歳から二十歳という男盛りばかり。そして、女性がいないのならばこの際男で我慢しようという輩がとにかく多い。学院にいる間だけ、性欲を我慢するということが出来ない輩の多いこと多いこと。
僕は寮長であるがゆえに、見回りも仕事。つまり僕は見たくもない男同士の情交を見てしまうという、とんでも貧乏くじを引てしまっているというわけ。
まだ隠れて行為に及ぶならばいい。問題は――公共の場でスリルを求めるように行為に及ぶクソどもだ。
その日、僕はいつも通り夜の見回りをしていた。
消灯後は基本私室から出てはならないという決まりだが、そんなものを律儀に守る生徒は半分くらい。友人の部屋に入り浸ったり、廊下をふらついていたり。前者はともかく、後者は本当にろくでもないと思う。
そいつらを私室に戻すのが僕の役割。
「ほら、さっさと戻れ」
共有スペースでカードゲームに熱中する後輩たちに注意を飛ばせば、彼らはカードを回収して一目散にかけて行った。
「廊下は走るな!」
あまり大声を出すわけにもいかず、僕は小さく告げる。聞こえたか聞こえていないかは、知らない。僕は一応言ったからな。
(はぁ、新入生たちには本当に困ったものだ)
きっと、先輩たちもこの時期はこんな風に思っていたんだろうな――なんて感傷に浸りつつ、僕は階段の近くに向かった。
すると、非常口のほうから物音が聞こえた。さらに、人の声らしきものも聞こえる。
(どうしてこんなところにいるんだ)
隠れてろくでもないことをしているんじゃないだろうな――?
僕は半ば乱暴に歩いて、非常口のほうに近づいて扉を開けた。
生温い風が頬を撫でる。僕は目を真ん丸にすることしか出来なかった。
「――ひっ!」
そこには全裸の男が一人と、半裸の男が一人いたのだ。
もうすぐで長期休暇ということもあってか、学院内はどこか浮足立っている。
僕、アルフォンズ・ハドルストンは浮足立つ彼らを一瞥し、小さくため息をついた。
(僕だって、できれば帰りたいんだがな)
しかし、帰ったならばお金がかかるし、幼い弟妹たちもいるので勉学に集中できるとは思えない。
去年の夏も、僕は学院に残った。いつもは賑わう寮内もどこか静かで、心地いいと思ったのは内緒だ。
(まぁ、ちょっとした悩みの種と顔を合わせないで済むのは純粋にありがたいが)
どうせ『アイツ』は実家に帰るのだろう。ここ三週間ほど付きまとわれていて、うんざりしているのだ。僕にとって、『アイツ』に付きまとわれない時間というものは、今一番欲しいもの。
「あれ、ハドルストン先輩じゃん」
そして、前から歩いてきた男子学生を見て、僕は踵を返そうとした。
(どうして毎日会うんだ!)
懐かれているわけではない。好かれているわけでもない。
彼にとって、僕はいわば――敵なのだろう。
(学内の風紀を取り締まるのが寮長の役目なんだがな!)
僕だって好きでアイツの邪魔をしているわけじゃない。本音は放っておきたいくらいなんだから。
――ネヴァダ・グランディエ。
それが最近僕に付きまとってくる後輩の名前だ。
騎士科の一年生。へらへらとした軽薄な態度と、大層モテるであろう甘いルックス。
この寮内の風紀を乱す一番の原因。
(あのとき、あんなものを見なかったら――!)
僕がグランディエに付きまとわれることになったきっかけは、今から三週間前のこと。
――こいつの情事を見てしまったのが、原因だった。
◇◇◇
エジャートン学院には男しかいない。教師も生徒も用務員も。みなもれなく男である。
なんらかの間違いが起きないように――ということで、女性はこの学院に入れない。逆に『エジャートン女学院』には男は入ることが出来ない。完全にすみわけが決まっているのだ。
だからといって、なにも起きないわけではない。
大体在籍するのが十八歳から二十歳という男盛りばかり。そして、女性がいないのならばこの際男で我慢しようという輩がとにかく多い。学院にいる間だけ、性欲を我慢するということが出来ない輩の多いこと多いこと。
僕は寮長であるがゆえに、見回りも仕事。つまり僕は見たくもない男同士の情交を見てしまうという、とんでも貧乏くじを引てしまっているというわけ。
まだ隠れて行為に及ぶならばいい。問題は――公共の場でスリルを求めるように行為に及ぶクソどもだ。
その日、僕はいつも通り夜の見回りをしていた。
消灯後は基本私室から出てはならないという決まりだが、そんなものを律儀に守る生徒は半分くらい。友人の部屋に入り浸ったり、廊下をふらついていたり。前者はともかく、後者は本当にろくでもないと思う。
そいつらを私室に戻すのが僕の役割。
「ほら、さっさと戻れ」
共有スペースでカードゲームに熱中する後輩たちに注意を飛ばせば、彼らはカードを回収して一目散にかけて行った。
「廊下は走るな!」
あまり大声を出すわけにもいかず、僕は小さく告げる。聞こえたか聞こえていないかは、知らない。僕は一応言ったからな。
(はぁ、新入生たちには本当に困ったものだ)
きっと、先輩たちもこの時期はこんな風に思っていたんだろうな――なんて感傷に浸りつつ、僕は階段の近くに向かった。
すると、非常口のほうから物音が聞こえた。さらに、人の声らしきものも聞こえる。
(どうしてこんなところにいるんだ)
隠れてろくでもないことをしているんじゃないだろうな――?
僕は半ば乱暴に歩いて、非常口のほうに近づいて扉を開けた。
生温い風が頬を撫でる。僕は目を真ん丸にすることしか出来なかった。
「――ひっ!」
そこには全裸の男が一人と、半裸の男が一人いたのだ。
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