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55 【最終回】いじわるな黒髪貴公子に食べられそうです

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「颯太」


「な、なに?」


ドキドキしながら答えると、蒼井は小さく笑っておでこをコツンとくっつけた。


「俺、 ”大人の飲み会″ 辞めよっかな」


「え……なんで?」


「だって、もう悩み解決したし、SSはここにいるし?」


おでこを離し、蒼井はちょっとわざとらしく言って微笑んだ。

確かに、それはそうだ。

俺だって、もう蒼井を好きだと分かったし、女嫌いを克服する必要も無くなった。

″大人の飲み会″ に入会した理由を考えれば、もう入会している意味がない。


「……俺も」


「ん?」


「お前が辞めるなら、俺も辞める。Kがいないんじゃ、つまんないだろうし」


恋愛話を通じて仲良くなったメンバーもいるからそれはそれで寂しいけれど、みんないずれは別れることになるだろう。

少しだけ名残惜しく思いながら、今までの事を思い返す。

 ″大人の飲み会″  は偶然見つけて入ったオンライン・サロンだけれど、想像を遥かに超える経験をすることが出来たと思う。

オンラインの王様ゲームも楽しかったし、桜さんとの事も良い教訓になった。

短い期間だったけれど、退会する事を考えると卒業式のような気分になる。


(……そういえば)


思い出に浸っていた俺は、ふとある事が気になって視線を上げた。

そういえば、蒼井はなんで ″大人の飲み会″ に入ったのだろう。

聞いてはいけないという事もないだろうし、俺は蒼井に尋ねた。


「てかさ……蒼井は、なんでサロンに入ったの?」


「え? ああ……そうだな、まぁ……」


暫し、蒼井は言い辛そうにしていたけれど、観念したように口を開いた。


「あの時は結構、ヤケになってたっていうか、もう女遊びしてやるー、的な感じ?」


「ええ、女遊びって、なんでそんな……あ」


言いかけて、俺は顔を赤くした。

もしかしてそれって、俺が原因なんじゃないのか。

察しがついてしまい口篭っていると、蒼井がクスッと笑みを浮かべた。


「ふふん、察した感じ? ま、あえて正解を言ってやるよ。サロンに入ったのは、誰かさんとの恋はもう実らないって思って落ち込んでたから、だよ」


「……っ」


「あーあ、 ″誰かさん″ のせいで珍しく課金しちまったなぁー」


蒼井はワザと ″誰かさん″ の部分を強調して言う。


「あ、人のせいにすんなよっ!」


「いーや、颯太のせいだ。颯太が連絡取れなくなるから……てか、今まで溜まってた分、覚悟しとけよ?」


「なっ……んんっ!」


突如、身体が引き寄せられたかと思うと、強引に唇を塞がれた。

心臓がまたドキドキと激しく鳴り始める。

けれど、俺にとってこれはご褒美でもあり、ついうっとりしながらキスを受け止めた。


(もう……)


後ろ頭を抑えられ、愛情たっぷりに唇を塞がれる。

強引にされて、今までなら抵抗していただろうが、今の俺は大人しくキスを受け止めた。

目を閉じて幸福感に浸る……と、ある事が脳裏に蘇ってきた。

そういえば、少し前に来たKからのメッセージに、返信するのをすっかり忘れてた。

あの日、Kは用事が出来たからまた改めて相談に乗って欲しいと連絡してきていた。

俺はその時、蒼井と一緒に居たので後で返事をしようと思っていたのに、今の今まで頭の中からすっかり消え去っていた。

けど……


(蒼井のやつ、用事って俺との事だったのかよ)


そう、Kは蒼井だ。

正体が分かった今、もう返信する必要もない。

蒼井は今はこうして目の前に居る。

そして、俺と熱いキスを交わしているのかと思うと、胸の奥がキュンと甘い音を立てた。

蒼井を独り占めしている感覚が嬉しくて、俺は自らキスを深める。

すると蒼井もそれに応えるようにキスを深めてきて、チュッ、チュッと濡れた音が部屋に響いた。


(蒼井の事、こんなに好きになるなんて……高校生の俺が聞いたらビックリだよな)


そう、かつてのいじめっ子は、もういない。

というか、高校生の頃の蒼井も、本当に俺の事を虐めていた訳ではなかった。

むしろ、手芸が好きとか言ってる地味な俺の事を、誰よりも理解してくれていたのだ。

ただ、蒼井も不器用なやつだから伝わらなくて、俺からはいじめっ子と認定されてしまった。


(時間はかかったけど、蒼井の事が分かって良かった)


これからも、俺はもっと蒼井の事を知っていきたいと思う。

そう、それは勿論……エロい事も含めて。


(そういえば、蒼井がお尻の穴触ってたけど、あれって……?)


男同士の恋愛なんて初めてだし、あれがどういう事に繋がるのかわからない。


″今まで溜まってた分、覚悟しとけよ?″


(……)


先ほどの蒼井のセリフが脳内で再生され、背中がヒヤリとする。


(ま、まさか……これからは別の意味でいじめられるんじゃ……!?)


あらぬ妄想が広がりそうになり、俺は蒼井の胸を押してキスを中断した。


「ん? どした?」


「い、いや、なんでも……っ」


「……なぁ、颯太。今夜なんだけど……」


「え?」


ふいに耳元に唇が寄せられ、小声で囁かれる。

その言葉に、俺は僅かに目を見開いた。


「い、挿れ……って、え!?」


「ん、挿れんの。今日は泊まってくだろ? 本当はもう少し時間をおいてからとか思ってたんだけど、やっぱ無理。颯太の顔見てたら、我慢出来なくなってきた」


そう言ってニヤリと意味深な笑みを浮かべると、蒼井は俺の腰元をぐいっと抱き寄せた。

そして手を尻に這わせ、指先でゆっくり谷間をなぞる。


「ひぁっ……!? あ、蒼井、それなに……!?」


「んー、後でのお楽しみ。ね?」


「……っ」


やっぱり、蒼井は立派ないじめっ子だ。

今夜、俺は未知の体験をするのかもしれないと思うと、途端に緊張してくる。

ドキドキする胸を両手で押さえて肩を竦めていると、それを宥めるように再び耳元で囁かれた。


「大丈夫、優しくするから」


「ばっ……あっ、やぁあ……っ!」


ついでに耳の縁をカプリと喰まれ、たまらず声を上げる。

今夜、俺はこの黒髪イケメン貴公子ヤローに食われてしまうのだろうか。

今日は泊まる約束だし、逃げることは許されないだろう。

しかしこのままでは、一晩中イジメ抜かれるなんて事も……あるのかも……?


(そ、そんな……蒼井のやつ、一体なにする気なんだよ……!?)


ドキドキ半分、不安半分で、俺はそっと蒼井を見上げた。

すると蒼井はまるで王子様のような完璧な微笑みを讃えつつ、俺の手を取って甲にキスを落とす。

それから冗談混じりに言った。


「てことで、覚悟してくださいね、姫?」


「~~~~っ!」


誰が姫だ。

ていうか、もうだめだ。

尻の意味も分からないまま、時間は無情にも進んでいく。


(蒼井のばか……)


でもきっと、今夜のイジメは蕩けるぐらい甘くて、俺は満たされてしまうんだろうな。

甘過ぎる夜を想像しながら、俺は小さく頷いたのだった。


……END.
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