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37 本当の気持ち
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「え……」
(や、やばい……)
桜さんの目に僅かな怒りすら感じて、俺はもう観念するしかなくなった。
それと同時に、自分が本当にしようとしている事にようやく気付かされる。
(俺、自分の事しか考えてなかった……)
サロンで最初に、桜さんと確認したはずだ……お互い、今は恋人募集中だと。
勿論、俺だってそれは嘘じゃない。
でもその前に、俺には女嫌いを克服するという課題があった。
だから本来、恋人募集中のくせに女嫌いというのは思いきり矛盾しているし、まだ恋人を募集する段階ではない。
なのに俺は桜さんに会うことで女嫌いを克服し、同時に恋人同士になれるだろうという、なんとも浅はかな考え方をしてしまっていた。
桜さんに会うなら、その前に女嫌いを克服しておくべきだったのだ。
それか、桜さんに正直に話して ″女嫌いを治す″ という名目で会うべきだった。
(俺、サイテーだな)
俺はガタンと椅子から立ち上がると、桜さんに向かって思い切り頭を下げた。
「すみませんでした……っ! 俺、自分の事ばっかり考えてて……桜さんの事、ちゃんと見てなかった、です……」
「ふん……やっぱりね」
冷たい声に、顔も上げられない。
それに、他の客席からの視線も感じて、恥ずかしくて堪らない。
けど、今はちゃんと桜さんに本当の気持ちを伝えなくては。
でも、いきなり ″実は女嫌いでした″ なんて言ったら、それこそ気分を悪くさせてしまうだろうし、どうすれば良いだろうか。
俺はチラリと桜さんの顔色を伺った。
すると、思ったよりも穏やかな表情をしており、俺は恐る恐る声をかけた。
「あの……」
「まぁ、もういいから座って? めちゃくちゃ目立って恥ずかしい」
「す、すみません……っ」
謝る以外出来ず、俺はゆっくりと椅子に腰を下ろした。
そして目が合い、あまりの気まずさにそらすと、ぷっと笑い声が聞こえてきた。
「……桜さん?」
「 っはは! ごめん、ちょっともう、颯太君……っ」
「……?」
笑い転げる桜さんを、俺はひたすらポカンと見つめる。
一体何がどうしたというのか。
すると、ひとしきり笑い終えた桜さんが、ようやく顔を上げて口を開いた。
「はぁ、笑いすぎた。でも、これは颯太君への罰だからね。ていうか……」
桜さんはバックからハンドタオルを取り出すと、笑いすぎて滲み出てた涙を拭いつつ、話を続ける。
「実はね、途中からなんとなく気付いてたの。颯太君、結構分かりやすいよね」
「え、え……!? 途中って、いつから!?」
聞けば、道を一緒に歩いている時には勘付いていたという。
まぁ、あれだけ会話も弾まなければ、気付かれて当然かもしれないけれど、なんだか恥ずかしい。
桜さんは頬を赤くする俺を見てフッと笑うと、テーブルに肘を付き、絡めた指に顎を乗せてずいっと前に身を乗り出してきた。
「ま、こんな事もあるわよねぇ。で、どうする? ここの店バカみたいに高いし、今日はこの店出たら解散ってとこかしら?」
「う……」
年上女性、恐るべし。
おそらく、俺が金額の事を気にしているのもお見通しなのだろう。
でも確かに、この店を出て解散ならば、出費的には大助かりだ。
それに、高い額を支払ってデートをするなら、本当に好きな相手とするべきだろう。
色々な反省点を思い浮かべながら、俺はゆっくりと頷いたのだった。
・・・
そんなこんなで、俺は美味しくフレンチのコースを頂き、会場を出て桜さんと別れた。
食事代は割り勘というか、各々が自分の食べた分を支払うかたちで解決した。
「あーあ……」
結局、ドリンク一杯は付き合わされたのでお金はちょっとしか残っていない。
自宅へ向かって歩きながら、俺は小さくため息をついた。
今日は夜遅くまで帰らない予定だったのに、夕方前に帰宅する羽目になるなんて思っていなかった。
「俺、何やってんだろ……はぁ」
せっかくの女性とのデートだったのに、こんな風に終わってしまったのは残念でならない。
けれど、今回の出来事は今後の教訓になったので、それでよしとする。
って、結局女嫌いは治ってないし、また振り出しに戻っただけかもしれないが。
(はぁ、コンビニでも寄ってくかー)
今日はもう大きな出費をしてしまったので、カフェに寄ってまったりも出来ない。
コンビニならちょっとしたものを買えるし安く済むので、いつものところに寄ってから帰る事にしよう。
俺は心を癒す為にも、好きなスイーツを買って帰ることにした。
(や、やばい……)
桜さんの目に僅かな怒りすら感じて、俺はもう観念するしかなくなった。
それと同時に、自分が本当にしようとしている事にようやく気付かされる。
(俺、自分の事しか考えてなかった……)
サロンで最初に、桜さんと確認したはずだ……お互い、今は恋人募集中だと。
勿論、俺だってそれは嘘じゃない。
でもその前に、俺には女嫌いを克服するという課題があった。
だから本来、恋人募集中のくせに女嫌いというのは思いきり矛盾しているし、まだ恋人を募集する段階ではない。
なのに俺は桜さんに会うことで女嫌いを克服し、同時に恋人同士になれるだろうという、なんとも浅はかな考え方をしてしまっていた。
桜さんに会うなら、その前に女嫌いを克服しておくべきだったのだ。
それか、桜さんに正直に話して ″女嫌いを治す″ という名目で会うべきだった。
(俺、サイテーだな)
俺はガタンと椅子から立ち上がると、桜さんに向かって思い切り頭を下げた。
「すみませんでした……っ! 俺、自分の事ばっかり考えてて……桜さんの事、ちゃんと見てなかった、です……」
「ふん……やっぱりね」
冷たい声に、顔も上げられない。
それに、他の客席からの視線も感じて、恥ずかしくて堪らない。
けど、今はちゃんと桜さんに本当の気持ちを伝えなくては。
でも、いきなり ″実は女嫌いでした″ なんて言ったら、それこそ気分を悪くさせてしまうだろうし、どうすれば良いだろうか。
俺はチラリと桜さんの顔色を伺った。
すると、思ったよりも穏やかな表情をしており、俺は恐る恐る声をかけた。
「あの……」
「まぁ、もういいから座って? めちゃくちゃ目立って恥ずかしい」
「す、すみません……っ」
謝る以外出来ず、俺はゆっくりと椅子に腰を下ろした。
そして目が合い、あまりの気まずさにそらすと、ぷっと笑い声が聞こえてきた。
「……桜さん?」
「 っはは! ごめん、ちょっともう、颯太君……っ」
「……?」
笑い転げる桜さんを、俺はひたすらポカンと見つめる。
一体何がどうしたというのか。
すると、ひとしきり笑い終えた桜さんが、ようやく顔を上げて口を開いた。
「はぁ、笑いすぎた。でも、これは颯太君への罰だからね。ていうか……」
桜さんはバックからハンドタオルを取り出すと、笑いすぎて滲み出てた涙を拭いつつ、話を続ける。
「実はね、途中からなんとなく気付いてたの。颯太君、結構分かりやすいよね」
「え、え……!? 途中って、いつから!?」
聞けば、道を一緒に歩いている時には勘付いていたという。
まぁ、あれだけ会話も弾まなければ、気付かれて当然かもしれないけれど、なんだか恥ずかしい。
桜さんは頬を赤くする俺を見てフッと笑うと、テーブルに肘を付き、絡めた指に顎を乗せてずいっと前に身を乗り出してきた。
「ま、こんな事もあるわよねぇ。で、どうする? ここの店バカみたいに高いし、今日はこの店出たら解散ってとこかしら?」
「う……」
年上女性、恐るべし。
おそらく、俺が金額の事を気にしているのもお見通しなのだろう。
でも確かに、この店を出て解散ならば、出費的には大助かりだ。
それに、高い額を支払ってデートをするなら、本当に好きな相手とするべきだろう。
色々な反省点を思い浮かべながら、俺はゆっくりと頷いたのだった。
・・・
そんなこんなで、俺は美味しくフレンチのコースを頂き、会場を出て桜さんと別れた。
食事代は割り勘というか、各々が自分の食べた分を支払うかたちで解決した。
「あーあ……」
結局、ドリンク一杯は付き合わされたのでお金はちょっとしか残っていない。
自宅へ向かって歩きながら、俺は小さくため息をついた。
今日は夜遅くまで帰らない予定だったのに、夕方前に帰宅する羽目になるなんて思っていなかった。
「俺、何やってんだろ……はぁ」
せっかくの女性とのデートだったのに、こんな風に終わってしまったのは残念でならない。
けれど、今回の出来事は今後の教訓になったので、それでよしとする。
って、結局女嫌いは治ってないし、また振り出しに戻っただけかもしれないが。
(はぁ、コンビニでも寄ってくかー)
今日はもう大きな出費をしてしまったので、カフェに寄ってまったりも出来ない。
コンビニならちょっとしたものを買えるし安く済むので、いつものところに寄ってから帰る事にしよう。
俺は心を癒す為にも、好きなスイーツを買って帰ることにした。
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