36 / 56
36 デートの理由
しおりを挟む
しかし、ここで落ち込んでいる訳にもいかず、気合いを入れてもう一度メニューと睨めっこする。
ちなみに、この店のメニューの表紙はやたら高級そうな素材で作られており、中も触った感じ明らかに上質な紙で出来ているので、プレッシャーが半端ない。
そんな物を手にしていると再認識し、俺は再び青ざめた。
(あぁあ、どうしよう……!? やっぱ俺はサイドメニューで済ませるか!? でも、それってどう考えてもカッコ悪いよな!?)
メニューからチラリと視線を上げ、桜さんの様子を伺う。
すると目が合い、桜さんが微笑んだ。
「もう決まった? 私は決まったよ」
「あっ……そ、そか。俺も……いいよ、決まった。店員さん呼ぼうか」
うそだ、全然決まってない。
出来る事なら、ここで注文する事自体キャンセルして店を出てファーストフード店にでも逃げ込みたい。
でも、もう桜さんは注文する気満々でニコニコだし、どうする事も出来ない。
ぐるぐる考えた挙げ句、俺は無理だと悟り、軽く手を上げて店員を呼んだ。
もう、どうにでもなれだ。
店員はすぐに気付き、俺達の席へやってきた。
「お決まりですか」
「はい、えっと……」
まさか食い逃げする訳にもいかないので、俺はカッコ悪いと思いつつも、コース料理の中で一番安い六千円のものを注文した。
というか、もう桜さんに奢ってあげることは出来ない。
ドリンクなんてもっての外なので、俺は無料で出された水で耐えると決め、ドリンクの注文は控えた。
すると、続いて桜さんも同じコース料理を注文し、ドリンクは頼まないで注文を終わらせる。
(あ……気を遣ってくれてるのかな)
とりあえず、今のところはアウトの中でもセーフだ。
奢りさえしなければ支払いは出来るし、なんとか良い方向にいってくれ。
合計金額を予想して、俺は手に汗を握り締める。
本当に情けない話だけれど、この後も油断は出来ない。
もし追加でアルコールでも注文されたら、流石に俺もドリンクを頼むだろうし、例え割り勘だとしてもギリギリだ。
一応、今日のデートコースとして、この後は軽く散歩して着いた先でお茶もしようとか考えていたのだけれど、この店でどれぐらい使うかによってその未来は左右される。
というか、散歩とお茶が叶ったとしても俺の精神面はもはやボロボロ。
マジで最悪だ。
なんて、一人悶々としていると、桜さんが声をかけてきた。
「……ねぇ、颯太君。さっきからなんだか上の空みたいだけど……大丈夫?」
「えっ……!?」
上の空という言葉に、ついドキリとする。
確かに、俺はずっとお金の心配ばかりしていた。
それに、女嫌いを克服することにも気を取られていたし、肝心な桜さんとのコミュニケーションを疎かにしてしまっていた。
このままでは、桜さんに嫌われてしまう。
内心焦り、俺は急いで話を続けた。
「そ、そんなことないですよ! ここの店、すごく落ち着いた雰囲気で、いいなって思ってたんです。……そうだ! 桜さんてフレンチのが好きなんですね。ここの、美味しそうだし楽しみですよね!」
やや苦しい話題かもしれないが、今はこれが限界だ。
すると、桜さんは苦笑を浮かべ、答えた。
「そうね、イタリアンよりはフレンチかなぁ。あと、洋食は大体どれも好きかな。和食も好きだけど、朝食もパン派だし」
「へぇ、そうなんですね。あ、俺も朝はよくパン食べますよ」
「そうなのね」
「……」
……会話が続かない。
美人を前にして、思ったより緊張してしまっているのだろうか。
俺は僅かに俯き、膝の上で手のひらを握りしめた。
(やっぱり、女嫌いな性格って治らないのかな……)
そう思うと、ちょっと泣きそうになる。
別に桜さんは意地悪な人でもないし、高校時代のクラスの女子みたいに落ち着きがない訳でもない。
それどころか、美人で落ち着いてて俺より年上で、俺の意見も聞いてくれる、しっかりしたお姉さんという感じだ。
こんな素敵な人と素敵なレストランで、素敵な時間を過ごしているはずなのに、何かが違う。
でも、何が違うのだろう。
(どうしよう……蒼井……)
なぜかふと、その名が浮かんできて、俺はハッと顔を上げた。
すると桜さんが不思議そうに俺の顔を見つめている
「大丈夫? やっぱりなんか、顔色が良くないわ」
「あ、いえ……あの、俺……」
もう、ダメかもしれない。
これ以上、自分の気持ちに嘘をつくのも、桜さんに嘘をつくのも、耐えられる気がしない。
俺はとうとう根を上げて桜さんを見つめた。
「あの、俺……っ実は……」
すると、それ以上話す前に桜さんが口を開いた。
「颯太君、聞いてもいい? 今日、私と会うことにしたのって、本当に恋人が欲しかったから?」
ちなみに、この店のメニューの表紙はやたら高級そうな素材で作られており、中も触った感じ明らかに上質な紙で出来ているので、プレッシャーが半端ない。
そんな物を手にしていると再認識し、俺は再び青ざめた。
(あぁあ、どうしよう……!? やっぱ俺はサイドメニューで済ませるか!? でも、それってどう考えてもカッコ悪いよな!?)
メニューからチラリと視線を上げ、桜さんの様子を伺う。
すると目が合い、桜さんが微笑んだ。
「もう決まった? 私は決まったよ」
「あっ……そ、そか。俺も……いいよ、決まった。店員さん呼ぼうか」
うそだ、全然決まってない。
出来る事なら、ここで注文する事自体キャンセルして店を出てファーストフード店にでも逃げ込みたい。
でも、もう桜さんは注文する気満々でニコニコだし、どうする事も出来ない。
ぐるぐる考えた挙げ句、俺は無理だと悟り、軽く手を上げて店員を呼んだ。
もう、どうにでもなれだ。
店員はすぐに気付き、俺達の席へやってきた。
「お決まりですか」
「はい、えっと……」
まさか食い逃げする訳にもいかないので、俺はカッコ悪いと思いつつも、コース料理の中で一番安い六千円のものを注文した。
というか、もう桜さんに奢ってあげることは出来ない。
ドリンクなんてもっての外なので、俺は無料で出された水で耐えると決め、ドリンクの注文は控えた。
すると、続いて桜さんも同じコース料理を注文し、ドリンクは頼まないで注文を終わらせる。
(あ……気を遣ってくれてるのかな)
とりあえず、今のところはアウトの中でもセーフだ。
奢りさえしなければ支払いは出来るし、なんとか良い方向にいってくれ。
合計金額を予想して、俺は手に汗を握り締める。
本当に情けない話だけれど、この後も油断は出来ない。
もし追加でアルコールでも注文されたら、流石に俺もドリンクを頼むだろうし、例え割り勘だとしてもギリギリだ。
一応、今日のデートコースとして、この後は軽く散歩して着いた先でお茶もしようとか考えていたのだけれど、この店でどれぐらい使うかによってその未来は左右される。
というか、散歩とお茶が叶ったとしても俺の精神面はもはやボロボロ。
マジで最悪だ。
なんて、一人悶々としていると、桜さんが声をかけてきた。
「……ねぇ、颯太君。さっきからなんだか上の空みたいだけど……大丈夫?」
「えっ……!?」
上の空という言葉に、ついドキリとする。
確かに、俺はずっとお金の心配ばかりしていた。
それに、女嫌いを克服することにも気を取られていたし、肝心な桜さんとのコミュニケーションを疎かにしてしまっていた。
このままでは、桜さんに嫌われてしまう。
内心焦り、俺は急いで話を続けた。
「そ、そんなことないですよ! ここの店、すごく落ち着いた雰囲気で、いいなって思ってたんです。……そうだ! 桜さんてフレンチのが好きなんですね。ここの、美味しそうだし楽しみですよね!」
やや苦しい話題かもしれないが、今はこれが限界だ。
すると、桜さんは苦笑を浮かべ、答えた。
「そうね、イタリアンよりはフレンチかなぁ。あと、洋食は大体どれも好きかな。和食も好きだけど、朝食もパン派だし」
「へぇ、そうなんですね。あ、俺も朝はよくパン食べますよ」
「そうなのね」
「……」
……会話が続かない。
美人を前にして、思ったより緊張してしまっているのだろうか。
俺は僅かに俯き、膝の上で手のひらを握りしめた。
(やっぱり、女嫌いな性格って治らないのかな……)
そう思うと、ちょっと泣きそうになる。
別に桜さんは意地悪な人でもないし、高校時代のクラスの女子みたいに落ち着きがない訳でもない。
それどころか、美人で落ち着いてて俺より年上で、俺の意見も聞いてくれる、しっかりしたお姉さんという感じだ。
こんな素敵な人と素敵なレストランで、素敵な時間を過ごしているはずなのに、何かが違う。
でも、何が違うのだろう。
(どうしよう……蒼井……)
なぜかふと、その名が浮かんできて、俺はハッと顔を上げた。
すると桜さんが不思議そうに俺の顔を見つめている
「大丈夫? やっぱりなんか、顔色が良くないわ」
「あ、いえ……あの、俺……」
もう、ダメかもしれない。
これ以上、自分の気持ちに嘘をつくのも、桜さんに嘘をつくのも、耐えられる気がしない。
俺はとうとう根を上げて桜さんを見つめた。
「あの、俺……っ実は……」
すると、それ以上話す前に桜さんが口を開いた。
「颯太君、聞いてもいい? 今日、私と会うことにしたのって、本当に恋人が欲しかったから?」
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
執着男に勤務先を特定された上に、なんなら後輩として入社して来られちゃった
パイ生地製作委員会
BL
【登場人物】
陰原 月夜(カゲハラ ツキヤ):受け
社会人として気丈に頑張っているが、恋愛面に関しては後ろ暗い過去を持つ。晴陽とは過去に高校で出会い、恋に落ちて付き合っていた。しかし、晴陽からの度重なる縛り付けが苦しくなり、大学入学を機に逃げ、遠距離を理由に自然消滅で晴陽と別れた。
太陽 晴陽(タイヨウ ハルヒ):攻め
明るく元気な性格で、周囲からの人気が高い。しかしその実、月夜との関係を大切にするあまり、執着してしまう面もある。大学卒業後、月夜と同じ会社に入社した。
【あらすじ】
晴陽と月夜は、高校時代に出会い、互いに深い愛情を育んだ。しかし、海が大学進学のため遠くに引っ越すことになり、二人の間には別れが訪れた。遠距離恋愛は困難を伴い、やがて二人は別れることを決断した。
それから数年後、月夜は大学を卒業し、有名企業に就職した。ある日、偶然の再会があった。晴陽が新入社員として月夜の勤務先を訪れ、再び二人の心は交わる。時間が経ち、お互いが成長し変わったことを認識しながらも、彼らの愛は再燃する。しかし、遠距離恋愛の過去の痛みが未だに彼らの心に影を落としていた。
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl
制作秘話ブログ: https://piedough.fanbox.cc/
メッセージもらえると泣いて喜びます:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ド天然アルファの執着はちょっとおかしい
のは
BL
一嶌はそれまで、オメガに興味が持てなかった。彼らには托卵の習慣があり、いつでも男を探しているからだ。だが澄也と名乗るオメガに出会い一嶌は恋に落ちた。その瞬間から一嶌の暴走が始まる。
【アルファ→なんかエリート。ベータ→一般人。オメガ→男女問わず子供産む(この世界では産卵)くらいのゆるいオメガバースなので優しい気持ちで読んでください】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる