【BL】いじわるな黒髪貴公子に食べられそうです

12 雨の中を移動

結構な土砂降りだというのに、蒼井は構わず俺を引っ張って歩いて行く。

向かった先は……


「あそこ、俺んちだから。寄ってけよ」


「ええっ！？」


蒼井が指差す方を見れば、上品な白いマンションが。

見たところ、スマート且つお洒落な一人暮らし用のマンションで、家賃はそこそこ高そうに見える。


（うわー……俺の住んでるマンションとは、ちょっと格が違うかも……）


正面の玄関はオートロック式になっており、エントランスの床はピカピカに磨かれていた。

強引に腕を引かれながらも、俺はついうっとり見惚れてしまう。


「蒼井……すげーとこに住んでんだな」


「まぁな。これでも、まじめに仕事してるから」


「ふぅん……なんの仕事？」


気になったので聞くと、蒼井は振り返らずに答えた。


「家庭教師。しかも、オンラインのみ」


「え……！？　家庭教師！？　蒼井が！？」


こんなイジワルな性格のやつが家庭教師とか、信じられない。

俺は驚き過ぎて、つい大きい声で騒いでしまった。

すると、蒼井はじろりとこちらを睨んでため息を一つ。


「あーうるさい、静かにしろよ。響き渡ってんぞ？」


「う、ごめん……って、ちょっと待って。普通について来ちゃったけど、俺帰るから！」


気付けば、もう蒼井の部屋の前まで辿り着いてしまったようで、俺は慌てて腕を振り解こうとした。

けれど、それぐらいで振り解けるような相手ではなかった。


「だぁめ。ったく、何回も言わせんなよ」


蒼井はイラついたように後ろ頭をワシャワシャとかき乱すと、いきなり俺の手首を掴んだ。


「ちょっ……！？」


瞬間、蒼井の影が迫り、目の前が暗くなる。

体が反転してドアの方に追いやられ、トン、と壁に手を付かれて身体を囲われた。

そして耳元に唇が寄せられ、俺は反射的に肩をビクッと震わせる。


「いいから……寄ってけよ」


「……っ」


甘い声に身体の奥が疼き、蕩けそうな感覚に陥る。

けれど、ここで飲まれてはダメだ。

俺は手のひらをぎゅっと握りしめ、蒼井を睨んだ。


「な、にすんだよっ！？　どけっ」


「やだ。なぁ、せっかく再会出来たんだし、少しぐらい話そうぜ？　いいだろ？」


「……っ離せよ……！」


「ヤダってば。それに……」


蒼井は抵抗する俺の手首を更に強く掴むと、グッと壁に押し付けた。

そして今度は、耳の縁に触れそうなぐらい唇を寄せ、色っぽい声で囁く。


「こんなに濡れて……風邪ひいちゃうよ？」


「んやっ……！　な、んだよ……やめ……っ」


゛こんなに濡れて゛というセリフが妙にいやらしく聞こえて、俺は顔を真っ赤に染め上げた。

もちろん、蒼井が言っているのは゛こんなに雨に濡れて゛という意味だろう。

けれど、俺の脳内では勝手にエロい意味に変換されていく。


「蒼井……っはな、せ……って」


「大丈夫、佐久間が嫌がる事はしないから」


「や……っあ！」


いつの間に用意していたのか、蒼井の手には鍵が握られており、背後でガチャリと音がする。

そしてドアが開くと、今度は身体がふわりと浮かび上がった。


「へ……！？」


「はい、佐久間君ゲットー」


「ちょっ、降ろせ！！」


なんと、俺の身体はいとも簡単に蒼井に持ち上げられ、肩に担がれていた。


「おーろーせー！！」


「はいはい、部屋に着いたらな」


こうして、俺は蒼井の部屋に連れ込まれてしまったのだった。