【BL】いじわるな黒髪貴公子に食べられそうです

筍とるぞう

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『俺は、程良い距離感を保てる相手、かな』


ちょっとカッコつけた答えかもしれないが、これは割と俺の正直な気持ちだったりする。

とにかく、高校時代のような目に遭うのだけは避けたいので、そうはならない、大人な対応の出来る相手が好ましい。


(お互いを尊重しあえる関係とか、理想だよなー)


チラリと、そんな恋人が出来た事を想像してみる。

相手はもちろん女性と想定。

だがしかし……


(……うーん)


やはり、なんとなく気分が上がらない。

彼女と一緒に歩いているところや、イチャイチャしているところをなるべく鮮明に想像しているのだけれど、どうしてもときめかない、というか、ときめけない。

まぁ、妄想だから当たり前かもしれないけれど、これってもしかして、俺やばいかも?


あまりの無反応さに、もはや不安になってくる。

と、その時。

チャットに参加していた女性二名が、用事があると言って落ちてしまった。

残されたのは俺とKの二人と、あまり会話に参加していないメンバー達。


(ど、どうしよう。何を話せば……って、そっか、恋愛ネタでいいのか)


一瞬焦って混乱しそうになったけれど、ここは恋愛について語るエリアなのだから、恋愛の事をなんでも書いていけばいい。

けれど、メインメンバーが二人も抜けてしまったし、すぐに良いネタが思いつくほど俺は機転が利くわけじゃないし、どうしたものか。


(うぅ、どうしよう……)


俺はすっかり手が止まってしまい、自分も落ちようかと考え始める。

すると、そんな俺の思考を遮るようにKが次のネタを投稿してきた。


『SSは今、恋人いる?』


(え……!?)


何故だろう、そう聞かれただけなのに胸の奥がちょっとキュンとした。

なんだろう、この反応は……。

もしかしたら、さっきKが俺の好みとかに興味を持ってくれたから、親近感が湧いての ″キュン″ かもしれない。


……とは思うものの。


ふと、また蒼井響の顔が思い浮かんできて、俺はフルフルと頭を横に振った。


(違うっ! あんなやつ関係ないし!)


確かに、いじめっ子が急に優しくしてきたりするとキュンとしてしまう事はありそうだけれど、蒼井は男だし、このKは別に蒼井じゃない。

Kが蒼井に似ているかも、なんて思った自分に腹が立つ。


(あーもー! 落ち着け俺っ)


つい取り乱してしまい、俺は慌てて気持ちを切り替え、Kに返事を返した。


『いないよ。Kは?』


すると、すぐにKから返事が返ってきた。


『いない。少し前まで居たけど、結局みんな上手くいかなくて別れた』


(ふぅん……って、 ″みんな″ !? そんなに何人も居たのかよ!?)


Kは何気なく言ったつもりかもしれないけれど、そのニュアンスだと複数人いたということになる。

しかも少し前まで居たとか、ふつうにリア充じゃないか。


(男同士仲良くとかちょっと思ったけど、これはいずれ話が合わなくなるパターンじゃね……?)


悔しいけれど、Kと俺とじゃ男としてのレベルが違い過ぎる。

しかもあの蒼井に似ている時点で、完全にアウトだ。


というかそもそも、嫌いな奴と似ている人間と仲良しこよしをしている場合じゃなかった。

俺は一刻も早く、女嫌いを克服しなければ。

そして近いうちに念願の彼女を作る。

その目的もあってこのサロンに入ったのだから、ちゃんとその目的に集中していないと、ただ遊んで終わってしまう。

俺は気を取り直し、Kに『そっかー』とだけ返事をして、別の話題を振った。


『ところで、ちょっと話は変わるけどさ。Kはデートでどんな場所に行く?』


やはり、恋愛といえばデート、デートといえば場所が重要だろう。

しかも、Kみたいにモテる男がどういう場所へ行くのか、聞いておいて損はない。

俺はちょっとワクワクしながら返事を待つ。

あ、ちなみに、他のメンバーは相変わらずあまり会話に入ってこない。

けど、たまに『へー』とか打ってくるので、見てはいるのだろう。

とまぁ、それはさておき。

Kから返信がきた。


『特にここっていうのはない。けど、正直にいうなら……自分の部屋かな』


「ぐはっ……!」


いや、自分の部屋って。


(ヤル気満々じゃねぇかぁああああ!)


Kのあまりにもストレートな回答に、内心ツッコミを入れまくる。

いや、ここは突っ込んだ方がいいのだろうか!?

俺は考え、プルプルしながらKに返事を返した。


『いや待って、部屋って……笑。ちなみに、前の彼女とはどこか行ったの? 部屋以外で!w』


一応、冗談混じりに聞いてみる。

まさか、無理矢理部屋に連れ込んで……とかじゃないよな?

やや心配していると、Kからは思ったより普通の答えが返ってきた。


『ああ、デートは大体カフェとか水族館とか、そんなとこ? というか、全部付き合わされたって感じだけど』


(付き合わされた……)


なんだか、聞いているうちにKの人格が顕になってきて、俺は顔を引き攣らせた。

要するに、Kとしては早くセックスしたかったのに、彼女はお出かけデート派で、Kは欲求不満だったという事だろうか。

まぁ、お互い好きなら早くイチャつきたいのもわかるけど。


(ていうか……)


ふと、俺はKが今いくつなのか気になった。

ここまでチャラそうなのだから多分まだ若いのだろうが、これでどこぞのおっさんだったら……俺は静かに退出する事にする。

いや、むしろおっさんだったらそれはそれで面白いかもしれないが……まぁ、それはいいとして。


(えーと……あった、これか?)


別画面でKの公開プロフィール画面を開き、パパッとチェックする。

するとそこには、Kの性別の下に年齢が記載されており、現在二十一歳と書かれていた。


(お、同い年かよ!)


しかも出身地が同じだ。

俺は知り合いの可能性を考慮し、プロフィール欄を隈なくチェックしていく。

しかし、出身校等の情報は全て非公開となっており、分からず終いだった。


(まぁ、そうだよな……)


今は特に、ネット上での個人情報の取り扱いは規制が厳しいし、こういった大人向けのオンラインサロンでも、それは同じだろう。

俺はそっとプロフィール蘭を閉じ、チャットに戻ったのだった。



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