【BL】いじわるな黒髪貴公子に食べられそうです

3 オンライン・サロン″大人の飲み会″

（何だこれ……″大人の飲み会″？）


気になって再生ボタンを押すと、ジャズ調の心地よい音楽と共に動画が再生された。

どうやら、″大人の飲み会″というオンラインサロンの宣伝動画らしい。

男性の声のナレーションと、バーの雰囲気を醸し出すような画像で構成されており、オンラインサロン　″大人の飲み会″ の良さをピックアップしていく。

聞いているうちに、なんだかとても魅力的に思えてきて、俺は食事の手を止め、動画に集中した。

ナレーションの声は、ゆっくりとした口調で語り続ける。


『大人の飲み会は、成人の方であれば基本的に参加できます。ですが、そう言われても基準が分からないと逆に参加し辛いですよね。それでは、今から当サロンを楽しんで頂ける方の特徴を、例としていくつか挙げていきますので参考にしてみてください。当サロンと相性が良いのは……』


ナレーションはサロンの特性を交えつつ、サロン内のルールや、楽しく参加できそうな人の特徴を挙げていく。

その次に、サロンがどのようにして出来上がったのかが語られていく。

聞けば、大手のブライダル企業が協力し合って出来た、大規模なサロンなのだそう。

サロン内にはゲームや個室が用意されており、動画の中でその紹介がされていく。


『サロンでは、主に恋愛の話題が盛り上がります。オンラインで出来る王様ゲームやビリヤードは大好評。他にも、一対一でお話が出来る個室もご用意しておりますので、是非お試しくださいね。あ、ルールはちゃんと守ってくださいね。安全なサロン体験を、みんなで楽しみましょう！』


「へぇ……」


ゲームは楽しそうだし、個室は恋愛目的のユーザーには魅力的だろう。

しかも、サロン内で気の合う人を見つけた場合、身分証確認等を済ませた上で、サロンが提携している店でのみ会う事が可能とされている。

俺には実際会うまでの勇気はないけれど、聞けば聞くほどこの　″大人の飲み会″ は面白そうだ。

どこまでついていけるかは分からないが、恋人募集中の身としては、ちょっと惹かれるものがある。


（気の合う人、いるかなぁ……）


淡い期待を抱きつつ、サロンのURLをクリックしてみる。

サイトが開き内容を確認すると、会費もそんなにかからないようだ。

フリーターの俺にはありがたい。

というわけで、すっかり魅了された俺はちょっとだけ試すつもりで　″大人の飲み会″ の会員になったのだった。


・・・


「やべ、そろそろ作業に戻らないと」


会員登録は簡単なものだったけれど、クレジットカード決済の登録にやや手間どい、その後もルール説明やメンバー達の投稿記事なんかを眺めていたら、思ったよりも時間が経ってしまっていた。

俺は急いで手付かずのままになっていた朝食を平らげ、作業に戻った。

作業用デスクの上に置いておいた帽子を手に取り、最終段階の作業に取り掛かる。


（あともう少し……）


そう思いながら針に糸を通したその時、スマホの着信音が鳴った。

作業の手を止めてスマホを確認すると、早速　″大人の飲み会″ からのお知らせが届いていた。


（なんだろう…… ″気の合う人を見つけて飲み会に参加しよう！″ か）


お知らせ画面に書かれているメッセージに、つい手が止まってしまう。

作業も進めたいのだけれど、今はやはりオンラインサロンにどうしても興味がいってしまうので、俺は一旦諦めて再びスマホを手に取った。

そして通知をタップすると、サロンの煌びやかな画面が現れる。

そこには、サロンメンバーのプロフィールや投稿記事が掲載されており、アイコンに顔写真を載せている人もいればイラストの人もいて、それぞれの個性が輝いていた。

飲み会も様々なエリアに分けられていて、悟った大人の話題を語るエリアからおふざけ系のエリアまで、各種様々だ。


（うわー、なんか幅広すぎて分かんない……あ、これは？）


魅力的なタイトルが多数ある中、探していたタイトルを見つけた。

それは　″恋愛について語る飲み会・1″ だった。

一番シンプルだけれど、やはり恋愛関連は人気らしく、1から20に分けられたエリアはどこも満席状態だ。

そして、今俺が入ろうとしている1のエリアは初心者専用エリアのうちの一つなので、現在の参加人数は10名ほど。

他の部屋に比べると断然少ないが、初心者にとってはこれぐらいの人数の方がありがたい。


（大人数は苦手だし、これなら話にも入っていけるかも……？）


コミュニケーションはそこまで苦手じゃないけれど、オンライン上でこういうのは初めてだし、ちょっと緊張してしまう。

でも、まずは一歩踏み出さなければ。


（よし、いざ……！）


腹を決め、俺はアイコンをクリックした。