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ーーあれは、高校二年の春。
俺は当時、クラスでイジメの対象にされていた。
いや、イジメと言っても暴力や仲間外れみたいに、あからさまなものではなかったのだけれど。
じゃあどんなだったかというと……。
・
・
・
突然だけど、俺の趣味は裁縫だ。
元々ファッションにすごく興味があるというわけでもないのだが、なんとなく物作りが楽しくて中学の時から続けている。
が、腕前はなかなか上がらなくて、高校生の頃は誰にも言わず陰でコソコソとやっていた。
それなのに。
高校二年の春、教室でうっかり出した手縫いのポーチを見た女子生徒達が、どっと集まってきた。
(やベ……!)
慌ててカバンに仕舞おうとすると、女子生徒の一人がそのユニークな形をしたポーチをひょいと取り上げて目を丸くする。
「え、これって手作り? 佐久間君って、手芸とかするんだ!?」
その声を皮切りに、女子達は次々に言葉を発していく。
「えーマジ!? 一年の時同じクラスだったけど、全然気付かなかった!」
それはそうだろう、隠してたんだから。
俺としては、卒業まで隠し通すつもりだった。
″男が手芸なんて″ という目で見られるのが嫌だったのもあるけれど、単純に、まだ下手くそで人様に見せられるような物を作れていなかったから、誰にも見せずに陰で練習していたのだ。
しかし、そんな気も知らず女子達はポーチを物珍しそうに眺めながら騒ぎ立てる。
「チャックとかどうやって付けんの? 私やった事なぁい」
「ていうか、こういうデザインってなかなか思いつかなくない!?」
口々に言いながら、女子達は興味津々といった様子でポーチのチャックを開けた。
そして、中を覗き込む。
(あっ、こら……!)
俺は止めようと手を伸ばすけれど、その手は届かない。
ポーチの中からは、作りかけの帽子が取り出された。
「これ……うっそ帽子!? てかキャップじゃん。うわ、デザインかっわ」
「ほんとだー! しかもほら……」
今度は、帽子を手にした女子がこちらへ近付いてくる。
(やめろ、来るな……っ)
そいつは、俺に帽子を被らせて目を輝かせた。
「佐久間君、似合うー! めちゃ可愛い!」
そう言って、俺の姿を他の女子達に見せる。
すると、集まっていた女子達は益々盛り上がり、スマホのカメラをこちらに向けてきた。
(やめろ……)
「ほんとほんと! 可愛いよ。何で今まで隠してたのー?」
「そうだよ、こんなに可愛いのに」
「写メ撮らせてー! あ、動画も!」
(うるさい……)
「ほらみて! こんな風にかぶると少年ぽくて超可愛いかも! えー、てか、ネットで販売とかすれば売れるんじゃね!?」
「うんうん! ていうかぁ、佐久間君顔出しでSNSやったら絶対バズるって!」
(……っ勝手に騒ぎ立てるんじゃねぇよ! でもって、男に ″可愛い″ とか別に嬉しくねーわっ)
俺はどうにか女子達に言い返そうと、キッと顔を上げた。
しかし、そんな事はお構いなしに話は盛り上がっていき、帽子の鍔を掴んで後ろに持っていかれ、また写メを撮られる。
本当に、人形じゃないんだから勘弁してほしい。
すると、ジリジリと耐えている俺の前にある人物が近付いてきた。
(あ、あいつは……)
その人物の名は、蒼井響(あおい きょう)。
学内では、超イケメン・黒髪の貴公子ともてはやされており、俺とは同じクラスだ。
ちょっとヤンキーっぽいところもあるけれど、それがまたカッコ良くて、女子には大人気。
おまけに運動神経は抜群だし、成績は優秀、芸術系も得意ときていて、何をやらせても完璧な羨ましい存在なのだ。
しかし、俺はこの蒼井響が大嫌いだった。
なぜなら、蒼井はいつも俺の事をからかいにやってくるから。
だからなるべく近付いてこないでほしいのに、蒼井は俺の目の前までやってきて、口の端を釣り上げた。
「ほんと、かぁわいい。でもお前ら、勝手に写メとか動画撮るのは禁止なー?」
そう言って、蒼井は女子達をしっしっと追い払った。
まぁ、こういうところはすごく助かるし良いのだけれど、こいつの場合、この後が問題だ。
蒼井は文句を言う女子達を尻目に、俺の頭から帽子を取り上げ、ニィッと笑った。
「くっ、佐久間君てさ、やっぱり女の子なんじゃねぇの? まつ毛長いし、髪もサラサラでマジ可愛いわ。うらやましー」
「……っ」
棘のある口調に、ムカついて言葉が出てこない。
なにが ″うらやましー″ だ。
まつ毛なんか蒼井の方がよっぽど長いし、髪だって俺よりずっとサラサラじゃないか。
イラつきながら蒼井を睨んでいると、他の女子達がまた騒ぎ出した。
「佐久間君、こっち向いてー! ああん、かーわいー!」
「ねぇねぇ、蒼井君とのツーショット撮らせてよ! イケメン男子と可愛い系男子のコンビ、やばい!」
(やめろ……こんなやつとのツーショットなんて撮りたくねぇよ……!)
『はい、寄って寄ってー!』
『かわいー……かわいー……』
(う……)
・・・
「うるっせぇええええええ!」
……チュン、チュン。
(あ……夢か)
「はぁ……」
朝、目が覚めて鳥の鳴き声とか聞こえてくると、本当に癒される。
特に、今みたいなトラウマ級の夢を見た時は。
(……歯、磨こ)
時計を見れば、今はまだ朝の五時。
起きるには少々早い時間だけれど、俺の現在の仕事を考えると、この時間から活動開始しておいた方が余裕も出来るというもの。
(さて、今日も作るぞー)
鏡の前で歯磨きをしつつ、俺は適当に気合いを入れた。
俺は当時、クラスでイジメの対象にされていた。
いや、イジメと言っても暴力や仲間外れみたいに、あからさまなものではなかったのだけれど。
じゃあどんなだったかというと……。
・
・
・
突然だけど、俺の趣味は裁縫だ。
元々ファッションにすごく興味があるというわけでもないのだが、なんとなく物作りが楽しくて中学の時から続けている。
が、腕前はなかなか上がらなくて、高校生の頃は誰にも言わず陰でコソコソとやっていた。
それなのに。
高校二年の春、教室でうっかり出した手縫いのポーチを見た女子生徒達が、どっと集まってきた。
(やベ……!)
慌ててカバンに仕舞おうとすると、女子生徒の一人がそのユニークな形をしたポーチをひょいと取り上げて目を丸くする。
「え、これって手作り? 佐久間君って、手芸とかするんだ!?」
その声を皮切りに、女子達は次々に言葉を発していく。
「えーマジ!? 一年の時同じクラスだったけど、全然気付かなかった!」
それはそうだろう、隠してたんだから。
俺としては、卒業まで隠し通すつもりだった。
″男が手芸なんて″ という目で見られるのが嫌だったのもあるけれど、単純に、まだ下手くそで人様に見せられるような物を作れていなかったから、誰にも見せずに陰で練習していたのだ。
しかし、そんな気も知らず女子達はポーチを物珍しそうに眺めながら騒ぎ立てる。
「チャックとかどうやって付けんの? 私やった事なぁい」
「ていうか、こういうデザインってなかなか思いつかなくない!?」
口々に言いながら、女子達は興味津々といった様子でポーチのチャックを開けた。
そして、中を覗き込む。
(あっ、こら……!)
俺は止めようと手を伸ばすけれど、その手は届かない。
ポーチの中からは、作りかけの帽子が取り出された。
「これ……うっそ帽子!? てかキャップじゃん。うわ、デザインかっわ」
「ほんとだー! しかもほら……」
今度は、帽子を手にした女子がこちらへ近付いてくる。
(やめろ、来るな……っ)
そいつは、俺に帽子を被らせて目を輝かせた。
「佐久間君、似合うー! めちゃ可愛い!」
そう言って、俺の姿を他の女子達に見せる。
すると、集まっていた女子達は益々盛り上がり、スマホのカメラをこちらに向けてきた。
(やめろ……)
「ほんとほんと! 可愛いよ。何で今まで隠してたのー?」
「そうだよ、こんなに可愛いのに」
「写メ撮らせてー! あ、動画も!」
(うるさい……)
「ほらみて! こんな風にかぶると少年ぽくて超可愛いかも! えー、てか、ネットで販売とかすれば売れるんじゃね!?」
「うんうん! ていうかぁ、佐久間君顔出しでSNSやったら絶対バズるって!」
(……っ勝手に騒ぎ立てるんじゃねぇよ! でもって、男に ″可愛い″ とか別に嬉しくねーわっ)
俺はどうにか女子達に言い返そうと、キッと顔を上げた。
しかし、そんな事はお構いなしに話は盛り上がっていき、帽子の鍔を掴んで後ろに持っていかれ、また写メを撮られる。
本当に、人形じゃないんだから勘弁してほしい。
すると、ジリジリと耐えている俺の前にある人物が近付いてきた。
(あ、あいつは……)
その人物の名は、蒼井響(あおい きょう)。
学内では、超イケメン・黒髪の貴公子ともてはやされており、俺とは同じクラスだ。
ちょっとヤンキーっぽいところもあるけれど、それがまたカッコ良くて、女子には大人気。
おまけに運動神経は抜群だし、成績は優秀、芸術系も得意ときていて、何をやらせても完璧な羨ましい存在なのだ。
しかし、俺はこの蒼井響が大嫌いだった。
なぜなら、蒼井はいつも俺の事をからかいにやってくるから。
だからなるべく近付いてこないでほしいのに、蒼井は俺の目の前までやってきて、口の端を釣り上げた。
「ほんと、かぁわいい。でもお前ら、勝手に写メとか動画撮るのは禁止なー?」
そう言って、蒼井は女子達をしっしっと追い払った。
まぁ、こういうところはすごく助かるし良いのだけれど、こいつの場合、この後が問題だ。
蒼井は文句を言う女子達を尻目に、俺の頭から帽子を取り上げ、ニィッと笑った。
「くっ、佐久間君てさ、やっぱり女の子なんじゃねぇの? まつ毛長いし、髪もサラサラでマジ可愛いわ。うらやましー」
「……っ」
棘のある口調に、ムカついて言葉が出てこない。
なにが ″うらやましー″ だ。
まつ毛なんか蒼井の方がよっぽど長いし、髪だって俺よりずっとサラサラじゃないか。
イラつきながら蒼井を睨んでいると、他の女子達がまた騒ぎ出した。
「佐久間君、こっち向いてー! ああん、かーわいー!」
「ねぇねぇ、蒼井君とのツーショット撮らせてよ! イケメン男子と可愛い系男子のコンビ、やばい!」
(やめろ……こんなやつとのツーショットなんて撮りたくねぇよ……!)
『はい、寄って寄ってー!』
『かわいー……かわいー……』
(う……)
・・・
「うるっせぇええええええ!」
……チュン、チュン。
(あ……夢か)
「はぁ……」
朝、目が覚めて鳥の鳴き声とか聞こえてくると、本当に癒される。
特に、今みたいなトラウマ級の夢を見た時は。
(……歯、磨こ)
時計を見れば、今はまだ朝の五時。
起きるには少々早い時間だけれど、俺の現在の仕事を考えると、この時間から活動開始しておいた方が余裕も出来るというもの。
(さて、今日も作るぞー)
鏡の前で歯磨きをしつつ、俺は適当に気合いを入れた。
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