上 下
1 / 56

1 ⭐︎イラストあり

しおりを挟む
ーーあれは、高校二年の春。


俺は当時、クラスでイジメの対象にされていた。

いや、イジメと言っても暴力や仲間外れみたいに、あからさまなものではなかったのだけれど。

じゃあどんなだったかというと……。





突然だけど、俺の趣味は裁縫だ。

元々ファッションにすごく興味があるというわけでもないのだが、なんとなく物作りが楽しくて中学の時から続けている。

が、腕前はなかなか上がらなくて、高校生の頃は誰にも言わず陰でコソコソとやっていた。



それなのに。

   

高校二年の春、教室でうっかり出した手縫いのポーチを見た女子生徒達が、どっと集まってきた。


(やベ……!)


慌ててカバンに仕舞おうとすると、女子生徒の一人がそのユニークな形をしたポーチをひょいと取り上げて目を丸くする。


「え、これって手作り? 佐久間君って、手芸とかするんだ!?」


その声を皮切りに、女子達は次々に言葉を発していく。


「えーマジ!? 一年の時同じクラスだったけど、全然気付かなかった!」


それはそうだろう、隠してたんだから。

俺としては、卒業まで隠し通すつもりだった。

″男が手芸なんて″ という目で見られるのが嫌だったのもあるけれど、単純に、まだ下手くそで人様に見せられるような物を作れていなかったから、誰にも見せずに陰で練習していたのだ。

しかし、そんな気も知らず女子達はポーチを物珍しそうに眺めながら騒ぎ立てる。


「チャックとかどうやって付けんの? 私やった事なぁい」


「ていうか、こういうデザインってなかなか思いつかなくない!?」


口々に言いながら、女子達は興味津々といった様子でポーチのチャックを開けた。

そして、中を覗き込む。


(あっ、こら……!)


俺は止めようと手を伸ばすけれど、その手は届かない。

ポーチの中からは、作りかけの帽子が取り出された。


「これ……うっそ帽子!? てかキャップじゃん。うわ、デザインかっわ」


「ほんとだー! しかもほら……」


今度は、帽子を手にした女子がこちらへ近付いてくる。


(やめろ、来るな……っ)


そいつは、俺に帽子を被らせて目を輝かせた。


「佐久間君、似合うー! めちゃ可愛い!」


そう言って、俺の姿を他の女子達に見せる。





すると、集まっていた女子達は益々盛り上がり、スマホのカメラをこちらに向けてきた。


(やめろ……)


「ほんとほんと! 可愛いよ。何で今まで隠してたのー?」


「そうだよ、こんなに可愛いのに」


「写メ撮らせてー! あ、動画も!」


(うるさい……)


「ほらみて! こんな風にかぶると少年ぽくて超可愛いかも! えー、てか、ネットで販売とかすれば売れるんじゃね!?」


「うんうん! ていうかぁ、佐久間君顔出しでSNSやったら絶対バズるって!」


(……っ勝手に騒ぎ立てるんじゃねぇよ! でもって、男に ″可愛い″ とか別に嬉しくねーわっ)


俺はどうにか女子達に言い返そうと、キッと顔を上げた。





しかし、そんな事はお構いなしに話は盛り上がっていき、帽子の鍔を掴んで後ろに持っていかれ、また写メを撮られる。

本当に、人形じゃないんだから勘弁してほしい。

すると、ジリジリと耐えている俺の前にある人物が近付いてきた。


(あ、あいつは……)


その人物の名は、蒼井響(あおい きょう)。

学内では、超イケメン・黒髪の貴公子ともてはやされており、俺とは同じクラスだ。

ちょっとヤンキーっぽいところもあるけれど、それがまたカッコ良くて、女子には大人気。

おまけに運動神経は抜群だし、成績は優秀、芸術系も得意ときていて、何をやらせても完璧な羨ましい存在なのだ。


しかし、俺はこの蒼井響が大嫌いだった。

なぜなら、蒼井はいつも俺の事をからかいにやってくるから。


だからなるべく近付いてこないでほしいのに、蒼井は俺の目の前までやってきて、口の端を釣り上げた。


「ほんと、かぁわいい。でもお前ら、勝手に写メとか動画撮るのは禁止なー?」


そう言って、蒼井は女子達をしっしっと追い払った。

まぁ、こういうところはすごく助かるし良いのだけれど、こいつの場合、この後が問題だ。

蒼井は文句を言う女子達を尻目に、俺の頭から帽子を取り上げ、ニィッと笑った。


「くっ、佐久間君てさ、やっぱり女の子なんじゃねぇの? まつ毛長いし、髪もサラサラでマジ可愛いわ。うらやましー」


「……っ」


棘のある口調に、ムカついて言葉が出てこない。

なにが ″うらやましー″ だ。

まつ毛なんか蒼井の方がよっぽど長いし、髪だって俺よりずっとサラサラじゃないか。

イラつきながら蒼井を睨んでいると、他の女子達がまた騒ぎ出した。


「佐久間君、こっち向いてー! ああん、かーわいー!」


「ねぇねぇ、蒼井君とのツーショット撮らせてよ! イケメン男子と可愛い系男子のコンビ、やばい!」


(やめろ……こんなやつとのツーショットなんて撮りたくねぇよ……!)


『はい、寄って寄ってー!』


『かわいー……かわいー……』


(う……)


・・・


「うるっせぇええええええ!」


……チュン、チュン。


(あ……夢か)


「はぁ……」


朝、目が覚めて鳥の鳴き声とか聞こえてくると、本当に癒される。

特に、今みたいなトラウマ級の夢を見た時は。


(……歯、磨こ)


時計を見れば、今はまだ朝の五時。

起きるには少々早い時間だけれど、俺の現在の仕事を考えると、この時間から活動開始しておいた方が余裕も出来るというもの。


(さて、今日も作るぞー)


鏡の前で歯磨きをしつつ、俺は適当に気合いを入れた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

出産は一番の快楽

及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。 とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。 【注意事項】 *受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。 *寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め *倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意 *軽く出産シーン有り *ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り 続編) *近親相姦・母子相姦要素有り *奇形発言注意 *カニバリズム発言有り

SODOM7日間─異世界性奴隷快楽調教─

槇木 五泉(Maki Izumi)
BL
冴えないサラリーマンが、異世界最高の愛玩奴隷として幸せを掴む話。 第11回BL小説大賞51位を頂きました!! お礼の「番外編」スタートいたしました。今しばらくお付き合いくださいませ。(本編シナリオは完結済みです) 上司に無視され、後輩たちにいじめられながら、毎日終電までのブラック労働に明け暮れる気弱な会社員・真治32歳。とある寒い夜、思い余ってプラットホームから回送電車に飛び込んだ真治は、大昔に人間界から切り離された堕落と退廃の街、ソドムへと転送されてしまう。 魔族が支配し、全ての人間は魔族に管理される奴隷であるというソドムの街で偶然にも真治を拾ったのは、絶世の美貌を持つ淫魔の青年・ザラキアだった。 異世界からの貴重な迷い人(ワンダラー)である真治は、最高位性奴隷調教師のザラキアに淫乱の素質を見出され、ソドム最高の『最高級愛玩奴隷・シンジ』になるため、調教されることになる。 7日間で性感帯の全てを開発され、立派な性奴隷(セクシズ)として生まれ変わることになった冴えないサラリーマンは、果たしてこの退廃した異世界で、最高の地位と愛と幸福を掴めるのか…? 美貌攻め×平凡受け。調教・異種姦・前立腺責め・尿道責め・ドライオーガズム多イキ等で最後は溺愛イチャラブ含むハピエン。(ラストにほんの軽度の流血描写あり。) 【キャラ設定】 ●シンジ 165/56/32 人間。お人好しで出世コースから外れ、童顔と気弱な性格から、後輩からも「新人さん」と陰口を叩かれている。押し付けられた仕事を断れないせいで社畜労働に明け暮れ、思い余って回送電車に身を投げたところソドムに異世界転移した。彼女ナシ童貞。 ●ザラキア 195/80/外見年齢25才程度 淫魔。褐色肌で、横に突き出た15センチ位の長い耳と、山羊のようゆるくにカーブした象牙色の角を持ち、藍色の眼に藍色の長髪を後ろで一つに縛っている。絶世の美貌の持ち主。ソドムの街で一番の奴隷調教師。飴と鞭を使い分ける、陽気な性格。

年上が敷かれるタイプの短編集

あかさたな!
BL
年下が責める系のお話が多めです。 予告なくr18な内容に入ってしまうので、取扱注意です! 全話独立したお話です! 【開放的なところでされるがままな先輩】【弟の寝込みを襲うが返り討ちにあう兄】【浮気を疑われ恋人にタジタジにされる先輩】【幼い主人に狩られるピュアな執事】【サービスが良すぎるエステティシャン】【部室で思い出づくり】【No.1の女王様を屈服させる】【吸血鬼を拾ったら】【人間とヴァンパイアの逆転主従関係】【幼馴染の力関係って決まっている】【拗ねている弟を甘やかす兄】【ドSな執着系執事】【やはり天才には勝てない秀才】 ------------------ 新しい短編集を出しました。 詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。

【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ
BL
 部活に出かけてケーキを作る予定が、高校に着いた途端に大地震?揺れと共に気がついたら異世界で、いきなり巨大な魔獣に襲われた。助けてくれたのは金髪に碧の瞳のイケメン騎士。王宮に保護された後、騎士が昼食のたびに俺のところにやってくる!  砂糖のない異世界で、得意なスイーツを作ってなんとか自立しようと頑張る高校生、ユウの物語。魔獣退治専門の騎士団に所属するジードとのじれじれ溺愛です。 🌟第10回BL小説大賞、応援していただきありがとうございました。 ◇他サイト掲載中、アルファ版は一部設定変更あり。R18は※回。 🌟素敵な表紙はimoooさんが描いてくださいました。ありがとうございました!

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

unfair lover

東間ゆき
BL
あらすじ 高校二年生の佐渡紅はクラスを支配するアルファ性の右京美樹によるいじめを受けていた。 性行為まではいかないが、性的な嫌がらせを中心としたそれに耐え続けていたある日右京美樹が家に押しかけて来て…ー 不快な表現が含まれます。苦手な方は読まないでください。 あくまで創作ですので現実とは関係ございません。 犯罪を助長させる意図もございませんので区別できない方は読まれないことをお勧めします。 拗らせ攻めです。 他サイトで掲載しています。

男とラブホに入ろうとしてるのがわんこ属性の親友に見つかった件

水瀬かずか
BL
一夜限りの相手とホテルに入ろうとしていたら、後からきた男女がケンカを始め、その場でその男はふられた。 殴られてこっち向いた男と、うっかりそれをじっと見ていた俺の目が合った。 それは、ずっと好きだけど、忘れなきゃと思っていた親友だった。 俺は親友に、ゲイだと、バレてしまった。 イラストは、すぎちよさまからいただきました。

処理中です...