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と、あるワンシーンが脳裏に蘇り、俺はポンと手を打った。

「……ああ、そうだ!あと……っ!主人公が連れ去られるシーンが緊張感あって面白かったな」

うん、よし。

さっきよりはマシな事が言えた気がする。

この調子で、あともう少し何か言えればバッチリだと思う。

俺は更に記憶を探り、言葉を続けようとした。

「それから……」

(それから……)

……ああ、なぜだ。

どうしても脳裏に浮かぶのは、あのキスシーン。

他のシーンを思い浮かべようとしても、それを遮るかのようにあの胸キュンなキスシーンが浮かんでくる。

それぐらい、あのシーンは印象的で良かったと思う。

様々な困難を乗り越えた末に二人が結ばれる、大事な一場面。

ベタな展開かもしれないけれど、だからこそ、俺みたいにザックリと観ていたとしても理解出来るし、感動出来る。

まぁ俺は、そのシーンを見て優真との妄想を繰り広げていた訳だけれど。

ちなみに、その妄想はこうだ。

恋愛について何かと疎い優真が、恋心を学び、理解を深め、今までよりももっと俺の事を好きになって、深い部分で繋がった俺たちは愛に溢れるキスを交わす……。

(はは、我なら小っ恥ずかしい)

だから、”キスシーンが印象的だった”なんて優真に言うのは、まるでキスを強請っているように思えて恥ずかしくなってしまう。

(でも……)

他にとりわけ面白かったとか、何か感じたシーンがすぐに思い浮かばず、焦りだけが募っていく。

(早く言わないと、映画をちゃんと見てなかったってバレる……!)

背後からは、優真の視線を感じる。

(うぅ、仕方ない……)

これ以上オドオドしていても埒が明かない。

俺は観念して、頬を赤らめながらも正直に述べることにした。

「あの……キスシーンが、良かったと思う……」

ドキドキしながら遠慮がちに言うと、優真はとても共感したようで、大きく頷いた。

「ああ、確かに。あそこは良かったよね。僕も感動しながら観ていたよ。それに、ちょっとキュンとしたな」

言いながら、優真はうんうんと首を縦に振っている。

(良かった……)

無事に感想を言い合えて、俺は内心ホッと胸を撫で下ろした。

あとはこのまま話題を逸らして、通常モードに戻していければいいだろう。

それと、今回の反省は次回に活かそうと思う。

と、そんな事を思いながら、俺は次の話題に移ろうとした。

が、しかし、それは甘かったようだ。

振り返ろうとすると、いつの間にか近付いてきていた優真に後ろから抱きしめられた。

「っな……!?」

「つかまえた、陽斗。さてと……映画鑑賞中に、本当は何を考えていたのか、教えてもらおうかな?」

「……っ」

……詰んだ。
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