【BL】キス魔の先輩に困ってます

筍とるぞう

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・・・

バイトが終わり外に出ると、額を拭って大きく息を吐き出した。

(なんとか誤魔化せた……よな)

バイト中、俺はキスマークを見られないように、なるべく他のバイトや店長と目を合わせないようにしていた。

お陰で、なんとかバレずに済んだようで一安心。

(さて……ここからが悩ましいよな)

今日もこの後は、優真の部屋に行く事になっている。

けれど、優真にこのキスマークがバレないわけがないだろう。

(はぁ、マジで困った……今日は我慢して、自分の部屋で寝るか……)

しかし、明日も消えなかったら、明日も自分の部屋で一晩、一人で過ごすのかと思うと切ない。

(……とりあえず帰ろ)

悩んでいても埒があかず、俺は駅に向かって歩き出した。

・・・

そして、考えながら電車に乗り、道を進んでいるうちに、あっという間にアパートの前まで来てしまった。

(うぅ、着いちゃった)

とりあえず、無言で部屋に行かないのも嫌なので、優真の部屋に顔だけ出すことにする。

俺は首元をなるべく隠すようにしながら、インターホンを鳴らした。

すると、すぐにドアが開いて優真が飛び出してくる。

「うぉっ!?」

「おかえり♡エンジェル♡さぁ、中に入って。疲れただろう?今日はグラタンにコンソメスープと、デザートには洋梨のジェラーt」

「あ、あの……っ」

腰元に手が回され、強引に部屋へ連れ込まれそうになり、俺は慌てて身を引いた。

「ち、ちょっと待って……!あのさ……俺、今日は自分の部屋で、寝るから」

「え……どうしてだい?何か不都合な事でも……ああ、グラタンは苦手だったかな?」

「いや、むしろ好き」

「ふむ、じゃあ一体……ま、まさか、エンジェル……っ」

優真は何か思いついたらしく、俺の腕を掴むと、グイッと引き寄せた。

そして、おでこにそっと触れられる。

(……っ)

こんな時にも、優真の端正な顔が間近に迫るとドキッとしてしまう。

と、それはさておき、優真は真剣な顔で俺の顔を覗き込む。

「まさか、また熱でも……?」

「あ、いや……そういうわけじゃ、ないんだけど……」

どうやら優真は、俺が風邪をぶり返して遠慮しているのだと思っているらしい。

まぁ、そう思わせておいて、キスマークが消えるのを待つという手もあるだろうけれど、無駄に心配をかけるのはよろしくないだろう。

(でも、この場合は嘘つくのもありなのかな……)

キスマークがバレれば、結局、優真を傷付けてしまう。

俺は優真の手の感触を暫し堪能してから、そっと胸を押し返した。

「陽斗?」

「ごめん、俺……今日は調子悪いから、もう部屋に行く。ああでも、心配すんなよ。明日には良くなってると思うし」

なるべく軽い調子で言って、俺はサッと優真から離れると、自分の部屋のドアの前へ向かう。

そしてバッグの中から鍵を取り出そうとすると、そっと肩を掴まれた。

「……待って」

「……」

「なんか……様子が変だよ、陽斗?何かあった?」

「べ、別に……っ」

見透かされそうになり、俺は焦って自室の鍵を開けようとして……見事に手を滑らせた。

「あっ……!」

チャリン。

幸い、変な隙間に入って取れなくなるという事態にはならなかった。

ならなかったが、

「か、返せよ」

「ダメ。陽斗、何か隠してるよね?言ってくれるまで、鍵は返せないな」

鍵を優真に没収されてしまった。

バカな俺は、首元を隠すのも忘れて、鍵を取り返そうと優真に飛びつく。

「ずりぃっ……!つーか、調子悪いって言ってんだろっ」

「ホントに調子悪い?なんか……元気そうだなぁ」

「そんなこと……わっ!?」

「ふふ、つーかまえた♡」

あー……何やってんだ俺。

近付いたせいで、俺はまんまと優真の腕に捕らえられてしまった。



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