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※イラストあり

「あの、さ……俺、名前……」

「え、名前?」

突然、なんの事か分からないといった様子で、東条は更に首を傾げる。

頭の上には、大量のはてなマークが浮かんでいそうだ。

俺は震える拳を膝の上に押し付け、続ける。

「お前のこと、その……っ」

「……」

「名前、で……呼ぶから……っ!ほら、呼んで欲しいって、言ってただろ?」

そう、下の名前で……”優真”と。

東条本人からもリクエストされていたわけだし、俺、変じゃないよな?……うん。

って、そんな事で他の奴より特別な存在になれるかっていうと、疑問ではあるけれど。

(でも、今は少しでも距離が縮められれば、それでいい)

たったそれだけの事でも、多分俺の気持ちは一旦落ち着くだろう。

そう思い、俺は小さく息を吸い込むと、口を開いた。

「えと……あの、優……真……っ」

……言った。

呼んだからな、俺は。

優真って。

多分、顔は真っ赤だけど。

恥ずかしすぎて、俺は思い切り顔を俯けた。

(ていうか!こんなの半分告白みたいなもんじゃね……!?東条……どんな反応すんのかな……)

内心、ちょっとだけ期待しつつ、反応を待つ。

そうして暫くすると、頭上に東条の声が降ってきた。

「そんなに、無理しなくてもいい」

「え……?」

少し冷ややかな声音に、俺は焦って顔を上げる。

と、東条は表情を曇らせ、テーブルに肘を付いて目を伏せていた。






「陽斗君、君は凄く照れ屋で、不器用で、でも根は優しくて……その、なんというか、無理しないで欲しいんだ。確かに僕は、下の名前で呼んで欲しいと君に言ったけど……すまない、僕のワガママに付き合わせてしまったね」

「そ……れは……」

予想していなかった東条の反応に、俺は言葉を失う。

ていうか俺、何気に突き放された?

(なんだよ……なんで、そんな顔するんだよ……)

もっと嬉しがると思ったのに。

いまだ難しい表情の東条を見ていると、心が押しつぶされそうになる。

俺は拳をぎゅっと握りしめ、感情のままに椅子から立ち上がった。

「……っだよ!俺はただ、お前のことが……って、あ、ち、違……っそうじゃ、なくて……っ」

「……陽斗君?」

うっかり本音を言いそうになるわ、何から話したら良いのか分からないわで。

もどかしさや恥ずかしさが相まって、泣きそうになる。

「……っ」

俺は息を詰まらせ、東条に背を向けた。

東条はというと、俺を心配そうに見つめて少し焦っているようだ。

(くそ……っ)

俺は呼吸をどうにか整え、東条に背を向けたまま声を絞り出した。



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