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(う……)

懇願するように言われると、断り辛い。

かといって、一緒に帰ってアパートの場所を知られても困る。

(けど……)

そっと見上げると、なんとも切なげな瞳が俺を見下ろしている。

(くそ……その目、ズルい……)

これでは、断るに断れない。

結局、俺は「途中まで」という条件つきで、一緒に帰ることを許可したのだった。


で、帰り道。

アバートまでそう遠くない為、二、三分テキトーに会話を交わして、俺は別れを切り出した。

「じゃあ、俺はこっちなんで」

「え、僕もそっちだよ……困ったな。どうやら同じ方向みたいだね。ねぇ、もういっそ、一緒に帰らない?」

「う……っそれは……」

困る――とは、流石に言えず。

俺は俯いて無言になってしまった。

気まづい空気が2人の間を流れていく。

少しして、東条が静かに言った。

「……あのさ、今日はごめん。僕は突っ走るタイプなんだ。夢中になると、周りが見えなくなる。もちろん、ワザとじゃないし、悪気もない」

「……」

どう答えていいか分からず、俺は買い物袋を持つ自分の手元を見つめた。

東条は続ける。

「その、君の事はなんていうか……気になるんだ。どうしてなのかは、分からない。僕はそういった事に本当、鈍感みたいでね。友情とか、恋愛とか、普通の人と比べると、なんだか少々ズレている気がするんだよ……だから、自分の学びの為にも恋愛サークルを立ち上げたんだけどね。なんなら、友情サークルも必要かもしれない」

そう言って、東条は顎に手をあてて考え込む。

(へぇ……って、いや、友情サークルはともかく……そういう理由があったのか)

内心、俺は少し驚いていた。

恋愛サークルがまさか、そんな理由で立ち上げられたのだとは。

″恋愛サークル”というからには、もっとこう「出会い系」みたいな、ノリノリなイメージだったのだが。

(だからチラシに『一緒に学ぼう』とか書いてあったのか……)

東条の話が本当なら、あの謳い文句も納得できる。

そう思っていると、東条がパッと顔を上げて言った。

「……そうだ!せめて、君の名前を知りたいな。僕は東条優真(とうじょう ゆうま)。大学2年。君は?」
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