雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

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第九十二話 発情期…?

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・・・

リビングにて。

ソファーに座り、紙袋からリボンの掛かった箱を取り出し、丁寧に開ける。

中から鍵用の綺麗なチェーンが姿を現すと、シグレさんは目を輝かせた。


「すごく綺麗だ……これに、あの鍵を付けられるんだね」


「そうなんです。付けてみますか?」


「ああ、もちろん」


そう言って、シグレさんはいそいそとカバンから鍵を取り出す。

そして器用な手先で鍵をチェーンに取り付けると、満足そうに頷いた。


「うん、色も合ってるし、すごいな。ぴったりだよ」


「ほんとですね。ほら、僕のもいい感じですよ」


「ほんとだ」


お互いに、チェーンの着いた鍵を見せ合い、微笑み合う。


(しあわせだな……)


僕は鍵をぎゅっと握り、今の幸福感を味わった。

するとその瞬間、目の前がぐらりと揺れ、僕は思わずソファーに手をついて自分の身体を支えた。


「……っ」


「セイラ!? どうした、大丈夫か?」


「は、はい……大丈夫、です」


そうは言うものの、なんだか体が熱い。

発情期がきてしまったのだろうか。

息が上がり、クラクラする意識をどうにか取り戻そうと耐えていると、額に大きな手が当てがわれた。


「……熱がある。セイラ、とりあえずベッドへ行こう。発情期がズレて来てしまったのかもしれない」


「シグレさん……すみませ……」


申し訳なくて謝ろうとすると、その前に身体を抱き上げられた。


(あ……)


お姫様抱っこをされ、運ばれる。

いつもなら恥ずかしさを感じて少し抵抗したりもするのだけれど、今はそれすらも出来そうにない。

体温はどんどん上昇しているようで、身体がだるくなってきた。


(なんで急に……なんか、発情期とも少し違うような……?)


確かに、Ωの発情期は稀にずれることもあるのだけれど、それにしても早すぎる。

かといって風邪かと言われれば、それも少し違うような。

予測がつかず、僕は不安なままベッドに寝かされた。


「すみません、せっかくプレゼントを見ていたのに……」


「いや、いいよ。鍵とチェーンは、あとでちゃんと片付けておくから安心して。今はとにかく、安静にしていた方がいい」


「シグレさん……」


か細い声で呼ぶと、シグレさんは優しく微笑み、スマホを手に立ち上がった。


「今、体温計を持ってくるよ。あと、抑制剤と風邪薬と……ああ、医者に連絡した方がいいかな」


「ま、待って下さい」


急いでいるシグレさんのシャツの裾をきゅっと掴み、引き止める。

すると、シグレさんはハッとしたように僕の方を見た。


「ああ、ごめん。俺、少し慌て過ぎだよな。えっと、何かある?」


シグレさんはすまなそうな顔でベッドサイドに跪く。

握られた手を握り返しながら、僕はシグレさんに言った。


「あの、大丈夫ですから……たぶん、少し疲れただけで、ただの風邪だと思います」


体感としては風邪でもなさそうなのだが、あまり大事にしてもいけないので、一旦風邪という事にしておくのが良いだろう。

あまり心配をかけたくないのもあってそう言うと、シグレさんは俯き、深いため息をついた。




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