雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

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第九十一話

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・・・


「お待たせしました……!」


「ああ、セイラ」


病院から出ると、駐車場近辺でシグレさんが待っていた。

近くへ駆け寄ると、するりと手を取られ、心臓がドキンと音を立てる。


「行こうか」


「はい……っ」


手を繋ぎ、車を停めてある場所へ向かう。

こんなひとときすら幸せで、僕は手に力を込めてぎゅうっと握り返した。

そして駐車してある位置に辿り着き車に乗り込むと、二人同時にため息が漏れた。


「あ……」


「ふふ、同時だったね」


そう言って、シグレさんは車のエンジンをかける。


(あ、これ……)


母さんからのプレゼントの事は家に着いてからでも良いだろうけれど、一応、今伝えておくことにする。

僕は手にしていた紙袋を前に差し出し、シグレさんに見せた。


「あの、これなんですけど……母さんが、僕とシグレさんにって。その、番になったお祝いって言ってました」


「え……」


ハンドルに手を置いていたシグレさんは、その手を下ろし、こちらを向いた。


「セイラのお母さんから、俺達に?」


「はい。いつもお世話になっている看護師さんにお願いして、買ってきて貰ったんだそうです」


「……そうか」


紙袋を見つめ、シグレさんは僅かに俯く。

その表情が曇っているように見え、僕は不安になって声をかけた。


「あの……シグレさん?」


「え……? ああ、ごめん、大丈夫だよ。プレゼント、嬉しいよ。帰ったら開けようか」


「はい! 僕のはさっき開けちゃったんですけど……帰ったら、シグレさんと一緒にもう一回開けます」


「うん、そうしよう。じゃあ、出発するからシートベルト、してね」


「はい」


またしても、シグレさんの表情が曇ってい見えたのは気のせいだったのだろうか。

少々気になりつつも、僕はシートベルトを締めると、プレゼントの入った紙袋をしっかりと抱えた。


・・・


ーーそして無事に帰宅すると、シグレさんは新しい鍵穴に、イニシャルの彫られた新しい鍵を差し込む。


回すと、耳に心地よい音が響いて、ドアが開いた。


「ふふ、やっぱり新しい鍵はいいね。新生活って感じがする」


「そうですね、僕も今、同じこと思ってました」


「そっか。セイラ……ただいま」


「……っ」


見上げると、同時に唇を奪われる。

そのままグッと押されて壁際に追い詰められると、手に持っていた紙袋を取り落としそうになり、僕達は慌てて身を離した。


「っと、いけない。先にプレゼントを開けようか」


「は、はい……っ」


キスで蕩けかけた意識をシャキッと戻し、僕はあわあわとリビングへ向かった。


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