雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

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第八十七話 出会ってくれてありがとう

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「……セイラ?」


「……っすみません。ちょっと、色々と思い出して……あ、シグレさん、あっちも見に行きましょう!」


楽しい旅行中なのに暗い顔を見せたくなくて、僕は誤魔化すように言って歩き始める。

すると、ぐいっと腕を掴んで引き止められた。


「待って、セイラ……ごめん。なんか、余計な事を聞いてしまったかな。あまり気にしないで……」


「……っ」


自分でも、どうしてか分からなかった。

気付けば頬に涙が伝っていて、僕は慌てて手の甲で拭う。


「ごめ……っなさ……」


「……こっち、おいで」


「……?」


ふいに手を引かれ、どこへ行くのやら分からないままついていく。

水中トンネルを越え、クラゲのエリアを越え……着いた先は、小さな休憩スペースだった。

そこではちょっとした飲食が出来るようになっており、椅子とテーブルが用意されていた。

シグレさんは空いている席を見つけて僕をそこに座らせると、ペットボトルに入った冷たいお茶と、小さな箱に入ったクッキーを買ってきてくれた。


「ありがとうございます。あの……気を使わせてしまって、すみません」


「いや、全然気にしなくていいよ。それより……そうだな。もし良かったら、聞かせてくれる?セイラの、ご両親の事」


「……」


やはり、シグレさんはよく分かってくれているのだろう。

両親の事を話すのは少々辛いけれど、シグレさんにはいずれ話す時が来るだろうし、それならば今ここで話しても良いかもしれない。

少し考え、僕はこくりと頷き、ぽつりぽつりと話し始めた。


・・・


「……そうか」


僕が一通り話し終えるまで、シグレさんは黙って聞いていてくれた。

母親の病気について話す時に少し泣いてしまったのだけれど、シグレさんは優しく僕の背中を撫でてくれた。

そのお陰で、僕はちゃんと最後まで話すことができた。

シグレさんは暫く黙ってお茶を啜っていたけれど、テーブルにペットボトルを置いて短く息を吐くと、ゆっくりとした口調で話し始めた。


「そうだな……セイラのお父さんには、もしかしたら会えないかもしれないけど、お母さんには早く会いに行かないといけないね」


そう言って少し間を置き、シグレさんは続けた。


「セイラの事、教えてくれてありがとう。それと……俺と出会ってくれて、ありがとう」


「シグレさん……」


優しい眼差しに、また涙腺が緩む。

僕の方こそ、出会ってくれた事にお礼を言いたい。

フルフルと首を横に振り、僕はシグレさんの肩に顔を埋めた。



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