雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

文字の大きさ
上 下
83 / 98

第八十四話 日記に書いた事

しおりを挟む
「日記……あ、施設に送った報告日記ですか?」


聞くと、シグレさんはコクリと頷いた。


「あの日記の内容、セイラはゴウエルさんから一部、聞いてるだろ?その……あの時、俺が焦った理由とか、何が書いてあったのかっていうの、今なら話せると思って」


「あ……」


そういえば、あの時……僕がゴウエルさんから日記の内容を聞いた時、シグレさんは僕が何を聞いたのか気にして、慌てていた。

確か ”セイラにとって悪い事が書いてある訳ではないけれど、今は説明が難しい” とシグレさんは言っていた。

僕も、内容を無理に聞き出したりはしなかったのだけれど……。

食事の手を止め、僕はシグレさんをじっと見つめた。

シグレさんは少し考えるように俯き、ポツリと話し始めた。


「……あの日記には、N高校でのセイラとの出会いを書いたページがあったんだ。もちろん、施設に提出する物だし、他人には分からない程度に、だけど」


そう言って、シグレさんは天井を見上げ、小さくため息をつく。

その横顔は、少し切なげに見えた。


「セイラをうちに迎える前……ネット上でセイラを見つけて、あの時の子だって確信はあったんだけど……セイラが俺の事を覚えているのか、そして、好きになって貰えるかどうかっていうのは、また別問題だろ? だから……実は、結構悩んだりもしてたんだ。もしフラれたらってどうしよう、とかね。で、セイラと過ごしながら悩んだりするうちに不安になって、原稿の合間に日記に書いたんだ。”セイラと俺の出会いは運命的だった。だからきっと大丈夫。旅行ではN校に一緒に行く” ってね」


鼻の頭を掻きながら、シグレさんは恥ずかしそうに苦笑する。


「シグレさん……」


そうやって、一人で不安な気持ちを紛らわしていたのかと思うと、胸がきゅうっと締め付けられる。

僕は胸元に手を当て、今にも抱きつきたい気持ちをぐっと抑え込んだ。

シグレさんは、少し照れ臭そうに咳払いをすると、話を続ける。


「まぁそんなわけで、あの日記にはそんなような事が書いてあったんだ。だから、そうだな……あの時点でセイラに聞かれちゃっても、原稿は片付いていたし問題なかったかもしれないけど、俺は……セイラと一緒にN校へ行って、一緒に思い出したかったんだ。N校へ行けば、もしセイラが忘れていたとしても思い出しやすいだろうとも思ったし、なにより、俺たちが初めて出会った場所で、伝えたかった」


(……そういう、ことだったんだ……)


真剣な眼差しを受け止め、僕は嬉しさで瞳を潤ませ、頬を赤く染めてコクリと頷いた。

シグレさんはクスリと小さく笑みを零し、僕の頭をポンとすると、更に話を続けた。


「しかしまぁ……今はまだ夢を見ているみたいだ。こうして、恋焦がれた人と結ばれたんだから……運命の番の印は現れなかったけど、俺たちは間違いなく運命の相手だよ。分からないけど、それだけは自信があるんだ」


そう言って、シグレさんは僕の頬に手を添えると、スリ、と優しく撫でた。


(それは、僕も……)


運命の番の印はなくても、僕たちはきっと運命の相手だ。

そう思い見つめると、まっすぐな瞳に捉えられる。

その瞳を見つめ返していると、やはり強い運命や絆を感じて、それが確信に変わっていく。


もし、他に運命の相手だという人物がこの先現れたとしても、僕の心は動かないだろう。


(僕はシグレさんが、好き)


気付けば、心臓はドキドキと高鳴っており、僕は求めるようにシグレさんの方へ手を伸ばした。

すると、斜め向かいに座っていたシグレさんは僕の手を取り、隣に移動してきて腰を下ろした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照
BL
*表紙* 題字&イラスト:niia 様 ※ 表紙の持ち出しはご遠慮ください (拡大版は1ページ目に挿入させていただいております!) アルファだから評価され、アルファだから期待される世界。 先天性のアルファとして生まれた松葉瀬陸真(まつばせ りくま)は、根っからのアルファ嫌いだった。 そんな陸真の怒りを鎮めるのは、いつだって自分よりも可哀想な存在……オメガという人種だ。 しかし、その考えはある日突然……一変した。 『四月から入社しました、矢車菊臣(やぐるま きくおみ)です。一応……先に言っておきますけど、ボクはオメガ性でぇす。……あっ。だからって、襲ったりしないでくださいねぇ?』 自分よりも楽観的に生き、オメガであることをまるで長所のように語る後輩……菊臣との出会い。 『職場のセンパイとして、人生のセンパイとして。後輩オメガに、松葉瀬センパイが知ってる悪いこと……全部、教えてください』 挑発的に笑う菊臣との出会いが、陸真の人生を変えていく。 周りからの身勝手な評価にうんざりし、ひねくれてしまった青年アルファが、自分より弱い存在である筈の後輩オメガによって変わっていくお話です。 可哀想なのはオメガだけじゃないのかもしれない。そんな、他のオメガバース作品とは少し違うかもしれないお話です。 自分勝手で俺様なアルファ嫌いの先輩アルファ×飄々としているあざと可愛い毒舌後輩オメガ でございます!! ※ アダルト表現のあるページにはタイトルの後ろに * と表記しておりますので、読む時はお気を付けください!! ※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

たしかなこと

大波小波
BL
 白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。  ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。  彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。  そんな彼が言うことには。 「すでに私たちは、恋人同士なのだから」  僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

上司と俺のSM関係

雫@更新予定なし
BL
タイトルの通りです。

処理中です...