雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

文字の大きさ
上 下
75 / 98

第七十六話 過去のあなたにさよならを

しおりを挟む
(シグレさん……)


ドキドキしつつ広い背中に手を回すと、より一層強く抱きしめられて、胸の奥がキュウっと音を立てる。


「ああ、セイラ……早く君の項を噛みたい」


「……っシグレさん、僕も、噛んで欲しい、です……っ」


今まで抑えていた本音が漏れる。

もうシグレさんの原稿も一段落したし、思い切り甘えるなら今がタイミングだ。

今なら、項を噛んで番になった後、また暫く二人の時間を満喫出来るだろう。


(シグレさんと番になって、沢山イチャイチャしたい…………)


想像するだけで、身体が熱くなってくる。

早く一つになりたくて、僕はぎゅうっとシグレさんの身体を抱き締めた。

すると、ふとあのN校の彼のイメージが、まるで引き止めるかのように脳裏に浮かんでくる。


(……っ)


もし、シグレさんと番になった後に彼に再会したら……?


ふと、そんな事が頭に浮かぶ。

あの当時の感覚があまりにも特別なものだったせいで、どうしても彼には執着があるのだ。

けれど、今はこうしてシグレさんと結ばれようとしていて、それは僕にとってこの上ない幸せで……。


(いつまでも過去の人に囚われてちゃ、ダメだよね)


そう思い、僕はもう一度シグレさんの身体をぎゅうっと抱きしめた。

すると、ゆっくりと身体が引き離される。


「シグレさん?」


「セイラ、その鍵は旅行中も大切に持ってて。帰ってきたら、その鍵でこの部屋のドアを開けるから、ね」


「ーーはい!もちろんです。大切に持ち歩きます」


「うん、俺もそうする」


お互い頷き合い、コツンとおでこをくっつけて、また唇を重ねる。


(旅行、楽しみだな。どこへ行くんだろう)


相変わらず、旅行の行き先は聞いていない。

聞いているのは、旅行の帰りに水族館に寄る事や、美味しいスイーツを食べに行く事だ。

どれも楽しみで仕方がない。


(シグレさん……大好き)


今はまだ気になる事もあるけれど、きっとそのうち消えてしまうだろう。

それに、シグレさんへの気持ちは本物だし、たとえこの先あの彼に再会したとしても、この気持ちは揺るがないと思う。


(これから僕は、この人と人生を歩みます……)


心の中で、過去の存在にそっと別れを告げると、僕は熱いキスに応えていった。

・・・


それから数日後、玄関の鍵の工事が終わり、その後すぐに旅行へ出発となった。

場所はここからやや離れたところだけれど、車で行ける距離とのこと。

僕はワクワクしながら助手席に乗り込んだ。

シートベルトを装着すると、シグレさんが爽かな笑みでこちらを向く。


「まずは、ホテルにチェックインしなきゃならないから、先にホテルへ向かうよ」


「はい、わかりました」


僕も笑顔で頷くと、いよいよ車が発進した。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照
BL
*表紙* 題字&イラスト:niia 様 ※ 表紙の持ち出しはご遠慮ください (拡大版は1ページ目に挿入させていただいております!) アルファだから評価され、アルファだから期待される世界。 先天性のアルファとして生まれた松葉瀬陸真(まつばせ りくま)は、根っからのアルファ嫌いだった。 そんな陸真の怒りを鎮めるのは、いつだって自分よりも可哀想な存在……オメガという人種だ。 しかし、その考えはある日突然……一変した。 『四月から入社しました、矢車菊臣(やぐるま きくおみ)です。一応……先に言っておきますけど、ボクはオメガ性でぇす。……あっ。だからって、襲ったりしないでくださいねぇ?』 自分よりも楽観的に生き、オメガであることをまるで長所のように語る後輩……菊臣との出会い。 『職場のセンパイとして、人生のセンパイとして。後輩オメガに、松葉瀬センパイが知ってる悪いこと……全部、教えてください』 挑発的に笑う菊臣との出会いが、陸真の人生を変えていく。 周りからの身勝手な評価にうんざりし、ひねくれてしまった青年アルファが、自分より弱い存在である筈の後輩オメガによって変わっていくお話です。 可哀想なのはオメガだけじゃないのかもしれない。そんな、他のオメガバース作品とは少し違うかもしれないお話です。 自分勝手で俺様なアルファ嫌いの先輩アルファ×飄々としているあざと可愛い毒舌後輩オメガ でございます!! ※ アダルト表現のあるページにはタイトルの後ろに * と表記しておりますので、読む時はお気を付けください!! ※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

たしかなこと

大波小波
BL
 白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。  ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。  彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。  そんな彼が言うことには。 「すでに私たちは、恋人同士なのだから」  僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...