雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

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第七十六話 過去のあなたにさよならを

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(シグレさん……)


ドキドキしつつ広い背中に手を回すと、より一層強く抱きしめられて、胸の奥がキュウっと音を立てる。


「ああ、セイラ……早く君の項を噛みたい」


「……っシグレさん、僕も、噛んで欲しい、です……っ」


今まで抑えていた本音が漏れる。

もうシグレさんの原稿も一段落したし、思い切り甘えるなら今がタイミングだ。

今なら、項を噛んで番になった後、また暫く二人の時間を満喫出来るだろう。


(シグレさんと番になって、沢山イチャイチャしたい…………)


想像するだけで、身体が熱くなってくる。

早く一つになりたくて、僕はぎゅうっとシグレさんの身体を抱き締めた。

すると、ふとあのN校の彼のイメージが、まるで引き止めるかのように脳裏に浮かんでくる。


(……っ)


もし、シグレさんと番になった後に彼に再会したら……?


ふと、そんな事が頭に浮かぶ。

あの当時の感覚があまりにも特別なものだったせいで、どうしても彼には執着があるのだ。

けれど、今はこうしてシグレさんと結ばれようとしていて、それは僕にとってこの上ない幸せで……。


(いつまでも過去の人に囚われてちゃ、ダメだよね)


そう思い、僕はもう一度シグレさんの身体をぎゅうっと抱きしめた。

すると、ゆっくりと身体が引き離される。


「シグレさん?」


「セイラ、その鍵は旅行中も大切に持ってて。帰ってきたら、その鍵でこの部屋のドアを開けるから、ね」


「ーーはい!もちろんです。大切に持ち歩きます」


「うん、俺もそうする」


お互い頷き合い、コツンとおでこをくっつけて、また唇を重ねる。


(旅行、楽しみだな。どこへ行くんだろう)


相変わらず、旅行の行き先は聞いていない。

聞いているのは、旅行の帰りに水族館に寄る事や、美味しいスイーツを食べに行く事だ。

どれも楽しみで仕方がない。


(シグレさん……大好き)


今はまだ気になる事もあるけれど、きっとそのうち消えてしまうだろう。

それに、シグレさんへの気持ちは本物だし、たとえこの先あの彼に再会したとしても、この気持ちは揺るがないと思う。


(これから僕は、この人と人生を歩みます……)


心の中で、過去の存在にそっと別れを告げると、僕は熱いキスに応えていった。

・・・


それから数日後、玄関の鍵の工事が終わり、その後すぐに旅行へ出発となった。

場所はここからやや離れたところだけれど、車で行ける距離とのこと。

僕はワクワクしながら助手席に乗り込んだ。

シートベルトを装着すると、シグレさんが爽かな笑みでこちらを向く。


「まずは、ホテルにチェックインしなきゃならないから、先にホテルへ向かうよ」


「はい、わかりました」


僕も笑顔で頷くと、いよいよ車が発進した。



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