雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

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第六十八話 いつからそこに

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(ゴウエルさんに連絡して、良かった)


少し熱を持ってしまったスマホを、嬉しい気持ちと共に握り締める。

するとその時、背後から声が響いてきた。


「セイラ?」


「え……あっ、シグレさ……」


いつからそこに居たのか、全然気づいていなかったので慌てて振り返ろうとすると、少し強引に抱き締められ、僕は目をパチパチさせた。

というか、さっきからそこに居たのだとしたら、今の会話は全部聞かれていたかもしれない。

だとしたら、恥ずかし過ぎる!

先程、ゴウエルさんには今の僕の気持ちを結構色々と打ち明けていた。

担当さんの事が気になるだとか、嫉妬してしまうとか、シグレさんの一番好きな人は僕なのかとか……。


(あああああああ、もうだめだ……っ)


こんなみっともない僕を、シグレさんに知られるのは避けたかった。

けれど、この反応はおそらく……聞かれていたのだろう。

半ば観念して黙っていると、耳元で静かに囁かれる。


「……セイラ。いつからそんなに、気になってたの?」


「……っやっぱり、聞いてたんですね」


「うん、ごめん。さっきの通話、あの後すぐに終わったからセイラに声をかけようと思ってキッチンに来たんだ。そしたら……ごめん、俺の事を話してるみたいだったし、気になってつい」


「そう、だったんですか……」


どうやら、先ほどの担当さんとの通話は、僕が部屋を出た後にすぐ終了したらしく、シグレさんは僕に終わった旨伝えようとしていたようだ。

しかし、キッチンでは僕が誰かと熱心に話していて、声をかけるタイミングを見失い、そのまま会話を聞くという流れになってしまったのだろう。


(会話に自分の名前が出てきたら、誰だって気になるよね)


仕方ない、と、僕は小さく息を吐いた。


「すみません……あの、僕……以前にキッチンで、見ちゃったんです。その、メモ用紙に書いてある内容を……」


「メモ用紙?……ああ、あれか!」


少し考え、シグレさんはすぐにピンときたようで、ポンと手を打った。

そして小さく「ふふっ」と笑うと、僕の頭をよしよしと撫でる。


「あれは確かに、ちょっと意味深に見えるよね。ごめん、あのメモをした時、ちょうど原稿の事で頭が一杯になってたんだ。キッチンでコーヒーを注ぎながら、今度担当さんに相談しようと思った事をメモしたんだよ。そしたら、偶然そのタイミングで携帯を変えたからって担当さんが連絡してきてね。で、電話番号をメモしたんだ。急いでたし、うっかりキッチンに置きっぱなしにしちゃったんだよな」


……なるほど、そういうことだったのか。

あのメモはやはり、シグレさん本人が書いたものだった。

まずはそれだけでも安心する。

それに、今の説明で、ようやく色々な事がクリアになった。

一気に気が抜けて、僕はシグレさんの腰元に手を回してぎゅうっと抱き着いた。
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