雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

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第六十七話 愛の日記

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なんだろうと思いつつ暫く待っていると、ゴウエルさんは『ああ、あった』と言って、何かを見つけたようだった。

そして、話を再開した。


『すまんな、ちょっと探し物をしてたんだが……あったぞ。これ、シグレさんから毎週郵送してもらっている、セイラの報告書だ』


「え……僕の、ですか?」


言いながら、そういえばと思い出す。

そういえば、ここへ来る前にシグレさんが「暫くは施設に君の事を報告しなければならない義務が俺にはあるんだ」と言っていた。

しかし、それがまさか毎週だとは知らなかった。

僕は目を見開いたまま、ゴウエルさんに食いつくように聞く。


「そ、それ……っなんて書いてあるんですか?」


『ははっ、そりゃあ気になるよな。というか、そうか。日記の事はセイラに話してないって事だな。んー……まぁ、話してマズいような事は書いてないから、少しだけなら教えても問題ないか』


「……っ」


知りたい気持ちと、シグレさんに申し訳ない気持ちが交錯する。

知りたいけれど、僕はまた勝手にシグレさんのものを覗いてしまうようで、気分は全然良いものではない。

けれど問題ない内容ならば、内容は僕自身の事だろうし、許されるのではないだろうか。

考え、僕は小さく口を開いた。


「ゴウエルさん、教えて下さい。言える範囲だけで構いません」


『ふぅむ……よし、分かった。いや、そんな大層な事は書いてないんだが、なんというか……』


ゴウエルさんは少し口籠ってから、日記に書いてあるおおまかな内容を口にした。


『この日記を初めに読んだのは、セイラがそっちへ行ってから一週間後の事だ。拝見して、すぐに思った。ああ、シグレさんはセイラの事を大好きなんだろうなぁ、とね』


「え……っ」


 ”セイラの事が大好き” と聞いて、嬉しくてたまらなくなる。

僕は飛び上がりたい気持ちを押さえつつ、話の先を待った。

ゴウエルさんはスマホの向こうで、日記のページを捲りながら悩ましげな声を漏らす。

おそらく、どの日記を読もうか検討しているのだろう。


『んー……まぁ、そうだな……もうなんか、子猫でも飼ったんじゃないかって思ったよ。これじゃあペットの飼育日記だ。例えば ”今日はセイラがソファーで寝てしまって、寝顔が最高に可愛かった” とか、 ”セイラが好きな飲み物はオレンジジュース” とか ”セイラのサラサラヘアを維持する為にも、高品質のシャンプーとコンディショナーをネットで調達” とか……ああ、こんなのもあるぞ? ”今日はセイラがティーカップを割ってしまった。破片は一緒に片付けたけれど、セイラは一人でやると言って頑張っていた。本当に健気で良い子だから、今度なにかご褒美を買ってこようと思う” とか、な』


(た、たしかに……飼育日記!)


聞いていて、僕の顔は真っ赤に染まっていった。

報告日記というものをちゃんと見たことはないけれど、大抵は雇ったΩがちゃんと働いているかとか、問題なく過ごしているとか、そういう事を施設に報告するのだと思う。

少なくとも、こんな風にやれ可愛いだのご褒美は何を用意するだのと、書く必要はないだろう。

シグレさんが僕を好いてくれているのはもちろん知っているけれど、まさかこんな愛情たっぷり日記が施設に送られていたとは思いもよらず、僕はすっかり拍子抜けしてしまった。

と同時に、落ち込んでいた気持ちが、少し前向きに立ち直ってきた。


「ゴウエルさん……あの、ありがとうございます。僕、気にし過ぎていたのかもしれません」


そう言うと、ゴウエルさんは気さくに笑った。


『ま、好きな人の事なら、そう思ってしまっても仕方がないんじゃないか。なにせ、相手は美人の担当さんなんだろ?セイラが気にするのも分からんでもない』


「ゴウエルさん……」


気持ちを理解してもらえて、安堵感が沸いてくる。

考えてみれば、どのカップルにだってこういった事は起こりうるのかもしれない。

みんなそういった試練を乗り越えて、更に絆を深めたりもするのだろう。


(僕も、シグレさんと絆を深められたら……いいな)


さっきまでやさぐれていた気持ちが晴れ、僕はゴウエルさんにお礼を言った。


「ゴウエルさん、ありがとうございました。僕……シグレさんを信じて、これからも頑張ります」


『ああ、そうだな。応援しているよ。それに、何かあったらまた施設に来たっていいんだ。いつでも待ってるからな』


「っはい!本当に、相談に乗ってくれて、ありがとうございました」


『はは、元気になって良かったよ。じゃあ、またな。先生にもよろしく伝えておいて』


「はい!」


精一杯、元気な返事をすると、少しして通話が終了した。

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