雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

文字の大きさ
上 下
54 / 98

第五十四話 君の前では・2

しおりを挟む
・・・

「えーと、スポーツドリンクと、白湯は……このコップがいいかな」


キッチンにて、僕はシグレさんに出す飲み物と一緒に、先日スーパーで買っておいたゼリーもトレーに乗せた。

ゼリーは二種類で、一つはイチゴ味、もう一つはオレンジ味だ。

果汁100%だから、身体にも良さそうだ。


「スプーンは……」


引き出しを開け、フォークやナイフの中からスプーンを探す。

そして、銀色のスプーンをトレーに乗せてキッチンを出ようとすると、突如、滅多に鳴らない僕のスマホが音を立てた。


(え、誰だろう……あっ、ゴウエルさん!)


ゴウエルさんは、僕がここへ来る前に施設でお世話になっていたあの指導員だ。

僕は急いでテーブルにトレーを置くと、通話ボタンを押した。


「もしもし、ゴウエルさん?」


『お、セイラか?久しぶりだな。どうだ、その後は。小説家先生と上手くやってるか?』


ゴウエルさんの声は相変わらず元気そうで安心する。

僕は大きく頷きながら答えた。


「はい、すごく優しい雇い主様で、良くしてもらってます」


『ははっ、そうだろうなぁ。なにせ……おっと、すまん!他の電話が入った』


スマホ越しに施設の電話が鳴る音が聞こえてきて、懐かしさを感じる。

ゴウエルさんは慌てた様子で続けた。


『今日はちょっとばかり人手が足りなくてな。またかけ直すから、先生にもよろしく言っといてくれな』


「はい、分かりました。ゴウエルさんもお体に気を付けて」


『ああ、ありがとう。じゃ、またな』


……プツ、ツー、ツー……。


(切れちゃった……)


シグレさんと契約して施設を出てから、もう約二カ月。

きっと、僕の様子を気にしてかけてきてくれたのだろう。


(またこっちからもかけようかな)


もう少し話したかったという想いを残しつつ、僕はスマホを元の場所へ置いた。

さて、早くシグレさんの所へ行かなければ。

気持ちを切り替え、僕は再びトレーを持ってシグレさんの元へと急いだ。


・・・


――コンコン。

部屋のドアをノックしてから顔を覗かせると、シグレさんは静かな寝息を立てて眠ってしまっていた。


(寝ちゃったんだ……喉、乾いてるよね)


とりあえず、トレーをサイドテーブルの上に置き、僕はそっとシグレさんの髪に触れた。


「ん……セイラ……」


「えっ……!?」


「…………」


(ね、寝言……?)


一瞬、名前を呼ばれてドキッとしたけれど、どうやら寝言だったらしく、僕はドキドキと高鳴り始めてしまった胸にそっと手を当てた。


「はぁ……ビックリした」


暫し、僕はドキドキを抑えようとゆっくり呼吸をする。

それから改めてシグレさんの髪に触れてみる。

相変わらずサラサラとしたブラウンの髪に指先を通すと、愛おしさが込み上げてくる。


(なんか……シグレさん、ちょっと可愛いかも)


いつもは僕よりずっと大人で、王子様みたいにカッコよくて、優しく包み込んでくれるような理想のご主人様。

でも今は、無防備な寝顔に髪も少し乱れていて、なんだかいつもとは違った魅力を放っている。


(キス、したいかも……)


不謹慎だと分かりつつも、そんな想いを抱き、僕はそっと身をかがめた。

そしてゆっくりと、薄いピンクの唇に自分のそれを近付けていく。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照
BL
*表紙* 題字&イラスト:niia 様 ※ 表紙の持ち出しはご遠慮ください (拡大版は1ページ目に挿入させていただいております!) アルファだから評価され、アルファだから期待される世界。 先天性のアルファとして生まれた松葉瀬陸真(まつばせ りくま)は、根っからのアルファ嫌いだった。 そんな陸真の怒りを鎮めるのは、いつだって自分よりも可哀想な存在……オメガという人種だ。 しかし、その考えはある日突然……一変した。 『四月から入社しました、矢車菊臣(やぐるま きくおみ)です。一応……先に言っておきますけど、ボクはオメガ性でぇす。……あっ。だからって、襲ったりしないでくださいねぇ?』 自分よりも楽観的に生き、オメガであることをまるで長所のように語る後輩……菊臣との出会い。 『職場のセンパイとして、人生のセンパイとして。後輩オメガに、松葉瀬センパイが知ってる悪いこと……全部、教えてください』 挑発的に笑う菊臣との出会いが、陸真の人生を変えていく。 周りからの身勝手な評価にうんざりし、ひねくれてしまった青年アルファが、自分より弱い存在である筈の後輩オメガによって変わっていくお話です。 可哀想なのはオメガだけじゃないのかもしれない。そんな、他のオメガバース作品とは少し違うかもしれないお話です。 自分勝手で俺様なアルファ嫌いの先輩アルファ×飄々としているあざと可愛い毒舌後輩オメガ でございます!! ※ アダルト表現のあるページにはタイトルの後ろに * と表記しておりますので、読む時はお気を付けください!! ※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

たしかなこと

大波小波
BL
 白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。  ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。  彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。  そんな彼が言うことには。 「すでに私たちは、恋人同士なのだから」  僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

上司と俺のSM関係

雫@更新予定なし
BL
タイトルの通りです。

処理中です...